著者
徳岡 辰雄
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.210-218, 1980

力学の公理化というHilbertの問題は着々と現実のものとなりつつある. 1957年のNollの研究に始まる有理連続体力学, および, 1963年のColemanとNollの研究に始まる有理連続体熱力学がそれである. この分野はアメリカを中心として世界各地で研究が進められている新分野であり, 日本においても高く評価されている領域である. しかし物理学の専攻者には比較的知られていないようである. ここでは, その公理系の概要について触れてみよう.
著者
古澤 明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.957-959, 2005-12-05
参考文献数
7
被引用文献数
1

近年, 「量子テレポーテーション」という言葉を聞いたことがある人は多いと思う.ただ, 「テレポーテーション」という言葉のSF的な響きが影響して, あまり物理の話とは思っていなかった人が多いと思う.本稿では, できるだけ多くの人に, 量子テレポーテーションがどのようなものであるか認識してもらうことを目指している.特に量子テレポーテーションの検証である量子エンタングルメントのテレポーテーションについて詳しく述べる.
著者
大野 克嗣
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.501-507, 1997-07-05
参考文献数
11

我々の世界に満ち満ちている非線形性は, 我々が知りたい(時空)スケールをそれから懸け離れた我々には知り得ないスケールと結合してしまう(1節). だが, それにしては我々の世界はそんなに無法則的には見えない. ある現象が「よく変わる部分」と「そうでない部分」からなるなら, 後者に目をつけることで現象がわかった気になれるようだ(2節). 「くりこみ」は「そうでない部分」を浮き彫りにしてくれる. そこでまず, 簡単な例でくりこみの処方を説明しよう(3節). 「くりこみ」で世界の細部によらない構造を抽出できるなら, それは系の長時間挙動の理解にも使えるだろう. より一般に, くりこみは(非線形系の)「漸近解析」の指針たりうるであろう(4節). くりこみはこのような技術的問題に有効なだけでなく, もっと大きな文脈の中でも意味を持っているのではないだろうか(5節).
著者
青木 秀夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-26, 2006-01-05
参考文献数
78

量子ホール効果において最近, 様々な発展が見られる.これを, 分数量子ホール系が強相関系として独自の面白さをもつことから始めて, さらにスピンや層などの内部自由度をもつ場合の特異な現象, 非平衡・光物性, 他の系への波及(回転するボース凝縮体など)という観点から解説する.
著者
仙場 浩一 齊藤 志郎 角柳 孝輔 中ノ 勇人
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.37-41, 2009-01-05

物質と光の相互作用を光子1個レベルで操る共振器量子電磁力学いわゆるcavity-QEDは,人工原子の一種超伝導量子ビットを使えば,超伝導回路のみで実験可能なことが近年実証された.巨視的量子系である超伝導量子ビットとマイクロ波光子の相互作用は,原子と光子の相互作用に比べ何桁も強く設計可能であり,実験に必須な強結合条件が容易に実現できる.さらに,様々な物理パラメータが電気回路的に可変な魅力的な系であることも判ってきた.
著者
荒木田 英禎 福島 登志夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.517-523, 2008-07-05

1960年代に登場したレーダーやレーザーによる距離計測技術によって,地球から他の惑星までの距離が非常に精密に測定出来るようになった。近年これらの技術はさらに高精度化されているが,それにより新たな問題が持ち上がって来た.惑星レーダーと惑星探査機の軌道追跡データの精密解析から,天文学で用いられる長さの単位,天文単位AUがメートルに対して15±4[m/世紀]程度で増加している,というのである.だが,惑星間の距離ではなく天文単位の増加とはどういうことだろうか?本稿では,天文単位の意味と決定方法について述べた後,太陽系内の精密位置天文学が新たに直面したこの問題を詳しく解説する.
著者
田中 豊一
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.542-552, 1986-07-05
被引用文献数
3

高分子ゲルのまわりの温度や, 溶媒組成などを変えていくと, あるところでその体積が1000倍にも不連続に膨潤したり収縮する. この現象が相転移であり, 気体-液体の間の相転移のように普遍的で, あらゆるゲルに起こり得ることが明らかになってきた. この相転移現象の中に, ゲルを構成している高分子のミクロな個性と特徴が, 増幅されてくっきりと浮かび上がる. さらに, この現象を利用して, ゲルを人工筋肉やロボットの記憶素子, 表示素子, エネルギー変換素子, 選択的吸収体などとして応用する可能性が開けた.
著者
小川 修三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.90-94, 1996-02-05
参考文献数
14
著者
藤垣 裕子
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.172-180, 2010-03-05
被引用文献数
1

本稿では,現代における科学者の社会的責任について考える.責任を呼応可能性,応答可能性という意味で捉え直して再整理すると,現代の科学者の社会的責任は,(1)科学者共同体内部を律する責任(Responsible Conduct of Research),(2)知的生産物に対する責任(Responsible Products),(3)市民からの問いへの呼応責任(Response-ability to Public Inquiries)の3つに大きく分けられることが示唆される.この3つの区分を,ジャーナル共同体(専門誌共同体)との関係を用いながら考察し,最後にカテゴリー間の葛藤について考える.