著者
牧野 友耶
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.9, pp.587-589, 2020-09-05 (Released:2020-11-18)

ラ・トッカータ南極点の研究を支えるウィンターオーバー
著者
木村 太郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.6, pp.391-392, 2022-06-05 (Released:2022-06-05)

ラ・トッカータフランス研究教育よもやま話――地方都市の現場から
著者
内山 龍雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.20, no.11, pp.720-725, 1965-11-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
11
著者
小川 直毅 五月女 真人 中村 優男 森本 高裕
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.154-159, 2020-03-05 (Released:2020-09-14)
参考文献数
24
被引用文献数
1

光起電力は現代社会に欠かすことのできない応用物性であり,太陽電池から各種光センサーまで広く利用されている.その歴史は長く,半導体p–n接合やショットキー接合に代表される“界面”の光起電力は180年ほど前から知られている.一方,1960年前後に空間反転対称性の破れた“バルク結晶”における光起電力が見出され,古典描像では説明できない巨大な起電力と特異な励起波長/偏光依存性を示すことから「異常光起電力効果」と呼ばれてきた.近年,我々の理解が進み,この異常光起電力の起因が,光励起に際した電子雲の実空間変位(シフト)であることが明らかとなったため,「シフト電流」へと改称されつつある.物質中の電子による誘電分極は,現代的な観点では,波動関数の量子力学的位相(ベリー位相)により表現される.シフト電流はその光学遷移前後の変化に対応し,始状態(価電子帯)と終状態(伝導帯)のベリー位相の差によって発生していると捉えることができる.このベリー位相差は,理論的に電子雲重心の実空間シフトと同義であり,光学遷移の時間スケールで光電流が駆動されることになる.最近私たちは,各種強誘電体で観測される光電流が,主にシフト電流に起因していることを,分光実験と理論計算の比較により明らかにした.通常,光起電力や光電流は試料に金属の電極を用意して配線を行い,増幅器等の電子回路を介して,オシロスコープや電圧/電流計で計測されている.しかし,シフト電流の本質的な高速性により,そのダイナミクスを明らかにするためには別の実験手法が必要となる.反転対称性の破れた試料にパルス光を照射した際には,パルス状のシフト電流が発生し,この短時間の電荷運動は電磁波を放射する.この電磁波を定量的に検出することにより,電極や測定回路に依存しない,非接触での超高速光電流測定が可能となる.これはテラヘルツ放射分光と呼ばれる計測法の一種である.また近年では,バンド構造の第一原理計算からシフト電流の励起スぺクトルが定量的に予測できるようになっている.これら実験と計算を比較することにより,シフト電流の励起ダイナミクス,またベリー位相への依存性が理解できるようになってきた.シフト電流は一種の分極電流であり,指向性を持ち,ボルツマン輸送理論で記述される通常の散逸電流とは質的に異なった性質を示す.量子力学的位相が観測値に現れるという点も興味深い.シフト電流は電流源とみなすことも可能であり,発生する起電力の大きさは試料の内部抵抗の関数となるため,物質のバンドギャップには制限されない.その超高速性,さらには赤外波長域での高効率光検出法としてなど,シフト電流は基礎/応用両面から大きな注目を集めている.
著者
岡本 祐幸
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.388-389, 2019-06-05 (Released:2019-10-25)
参考文献数
9
被引用文献数
1

特別企画「平成の飛跡」 Part 2. 物理学の新展開生体分子シミュレーションに関する発展
著者
吉田 滋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.215-221, 2019-04-05 (Released:2019-09-05)
参考文献数
20
被引用文献数
2

2017年はまさにマルチメッセンジャー天文学元年ともいうべき年であった.LIGO実験による重力波観測と電磁波対応天体の同定に続いて,ニュートリノ観測でもブレークスルーが起きたのである.我々IceCube実験が検出した高エネルギー宇宙ニュートリノ事象の到来方向を世界中の望遠鏡・宇宙観測衛星が直ちに追観測して,初めて対応天体候補が同定された.宇宙線放射天体がどこにあるのかさえ不明であった状況を一変させたのである.ニュートリノは弱相互作用にしか関与しない素粒子である.ある種の不安定な粒子がより安定な粒子に崩壊するときに伴って放出される.ベータ崩壊が良い例だ.このような「特殊な」素粒子であるニュートリノがなぜ高エネルギー宇宙の理解に本質的な役割を果たし得るのであろうか.高エネルギー現象を引き起こす動力源のエネルギー輸送の一端は陽子や原子核から構成されるハドロン粒子,すなわち宇宙線が担っている.その最高エネルギーは1020 eVにも達するのだ.こうした極限の環境下では超高エネルギー陽子は周囲のガスや光と衝突し,π中間子やK中間子といった不安定粒子を生み出す.これらの中間子が電子やミューオンに崩壊する際にニュートリノも生成されるのだ.いわば宇宙には天然の加速器が存在し,極めて高いエネルギーに加速された陽子や原子核ビームが光子やガスの海に注入され素粒子反応を引き起こしている.素粒子実験で人工的に作り出している状況が宇宙ではより巨大なスケールで実現していると考えられている.この「宇宙加速器」の加速能力は桁違いである.地上最大の粒子加速器であるLHCは陽子を1013 eVまで加速する.しかし宇宙線の最大エネルギーは1020 eVだ.宇宙といえど,これほどの加速能力を簡単には実現できそうにない.この機構を理解する有力な手段は,加速器の「現場」で起きる粒子衝突から生じる産物を直接測定することだ.この産物の中でも,ニュートリノは電荷を持たず,したがって磁場によって軌道が曲げられることもなく,光も通過できないような厚い雲をも突き抜けて,地球まで直進してくる優れたメッセンジャーである.しかもニュートリノは中間子を生成できる宇宙線ハドロン粒子がなければ生まれない.ニュートリノ放射天体イコール宇宙線加速器でもあるのだ.2013年にIceCube実験は初めてこの高エネルギー宇宙ニュートリノを発見し,宇宙加速器の現場でニュートリノが作られていることを実証した.観測データから,加速器天体が満たすべき条件が明らかになっている.しかし具体的な候補天体同定にはこれまで至っていなかった.マルチメッセンジャー観測手法を2016年に導入し観測を継続した結果,2017年9月,ついに候補天体の同定に成功したのである.同定された天体TXS 0506+056はブレーザーと呼ばれる特殊な銀河で,中心にある巨大ブラックホールの重力を動力源とするプラズマのジェットが我々の銀河方向に吹き出している活動銀河核(AGN)である.高エネルギーγ線天体の多数を占め,高エネルギー宇宙の主役の一角を占める.検出した宇宙ニュートリノのエネルギーは約2.9×1014 eVであり,この天体で陽子が少なくとも1015 eV以上に加速されたことを物語る.電波からγ線にいたる広大なエネルギー帯で取得された電磁波観測データから1014 eVを超えるニュートリノ放射を説明するには,幾つかの自明でない仮説が必要なことが明らかになった.これを手がかりに宇宙加速器天体の駆動機構を理解するデータを積み上げることが次のステップである.
著者
外村 彰
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.3-11, 2005-01-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
10

量子力学は,1920年代に建設された.しかし,我々の常識とはかけ離れた内容を含んでいたために,アインシュタインをはじめとする数多くの研究者の議論を招いた.だが,量子力学の予測は全て適中し,素粒子,原子核,化学,バイオなど,あらゆるミクロな理論の基礎となるに至っている.かつての議論は未解決のまま取り残され,今では,教科書で取り上げられることも少なくなり,量子力学はブラックボックスとして取り扱われることも多くなってきた.ところが,ここ30年の先端技術の急速な進展に伴い,思考実験と考えられてきた量子力学の基礎実験も可能になり,実験によって光があてられた量子力学の基礎に,再び関心が集まってきた.この歩みを日本の寄与という観点から振り返ってみたい.
著者
井元 信之
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.845-851, 2014-12-05 (Released:2018-09-30)

量子もつれの基本的概念を2体の2準位系から多体の多準位系を例にとり解説する.量子もつれと切り離せない量子テレポーテーション,量子もつれの強度,生成法,弱い量子もつれから強いもつれへの濃縮法,情報や物性等各方面との関係について述べる.
著者
大出 義仁
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.892-898, 1996-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
27

気体の圧力の下限は零であるが, 液体ではその圧力は負となりうる. 液体分子が分子間力の及ぶ距離で運動しており, 分子間相互作用ポテンシャルに引力部分があるからである. 負圧下の液体は熱力学的には準安定で容易に気相を核生成するため, その'引っ張り強さ'以外の物性はこれまで殆ど測定されていない. そこで, 熱力学的な負圧発生法であるBerthelot法を使って高負圧発生技術の可能性を調べた. 容器壁との界面でおきる気相の核生成確率を低下させるよう, 予め脱ガスしておいた金属容器に抜気した液体を密封し, 多数回温度サイクルを施すことにより, 水および有機物について-20MPaを発生させた. 気相の核生成理論から予測されるそれぞれの引っ張り強さの約1/7および1/2を越す負圧である. 容器表面の微細な孔状欠陥に保持されていたガスが負圧により液中に抜き出されるとき気相の核生成が起きるが, これらの表面欠陥への容器材内部からの不純物ガス供給率がこのレベルの負圧を制限していることが解ってきた. さらに高負圧が液体に発生維持できれば, これまで見逃されてきた極端環境となりうる.
著者
坂本 遼太 前多 裕介 宮﨑 牧人
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, pp.595-600, 2021-09-05 (Released:2021-09-05)
参考文献数
15

生命現象において,対称性とその破れは生命機能の制御に重要な役割を担う.鳥の翼は左右対称だが,ヒラメやカレイは左右非対称という特有の形態を示すことで知られる.よりミクロなレベルでは,球形の細胞は同じ大きさの二つの細胞に対称分裂を行うが,発生過程では非対称な分裂を行うことで,腹や背,頭や足などの体軸形成が行われる.このように細胞は,対称性とその破れをうまく活用している.特に,細胞内における核配置の対称性に注目すると,哺乳類の卵母細胞(卵子の基になる細胞)では,球形の細胞内で細胞核が中心または端(辺縁)のいずれかに配置されている.配置対称性の制御に関わる分子系は,力生成を担うモータータンパク質のミオシン分子と,その力を伝える網目状のアクチン線維から成る「アクトミオシン細胞骨格」である.アクトミオシンは化学エネルギーを消費して収縮力を発生する非平衡状態にあり,「アクティブ・ゲル」とよばれる.アクトミオシンという一つの分子セットを用いて,細胞核を中心もしくは端という異なる配置に選り分ける物理的メカニズムとは何であろうか?細胞内では数万種ものタンパク質がひしめき合い,分子活性が時空間的に制御された複雑なシステムである.この生きた細胞の複雑さが,細胞核配置の力学的な理解の妨げになっていた.そこで我々は,細胞から細胞核配置に必要と考えられる分子群を取り出すことで単純化した,人工細胞を開発した.人工細胞は,細胞サイズや界面の物理的性質の制御を可能にし,細胞核配置のメカニズムの理解に適している.本研究では,アクトミオシンを含む細胞抽出液を油の中に分散することで,円柱形の油中液滴(本研究の人工細胞)をつくり,この液滴の内部でのアクトミオシンの収縮現象を解析した.液滴内ではアクトミオシンが収縮力で凝集した球形のクラスター構造が形成され,大きい液滴ではクラスターが中心に位置し,小さい液滴ではクラスターが端に位置する,「配置対称性の破れ」を見出した.このクラスターを細胞核のモデルと見立て,配置現象のメカニズムを探求した.生きた細胞では,アクトミオシンは細胞膜直下では殻のような頑強な裏打ち構造をつくる一方,細胞内では網目状のネットワークを形成している.我々の人工細胞においても同様に,液滴界面におけるアクチン線維の重合と,液滴内部でのアクチン線維ネットワークが形成された.このとき,液滴界面で形成されたアクトミオシンの波が中心へ向けて収縮し,クラスターが中心へ運ばれた.他方,液滴内部ではクラスターと液滴界面を繋ぐブリッジ状のアクチン線維が形成され,クラスターが端に運ばれた.このことから,対称性を維持しようとするアクトミオシン波と,対称性を破ろうとするアクチン線維のブリッジが競合し,綱引きのようなバランスで対称性が決まると考えられる.配置現象に物理的理解を与えるため,アクトミオシンの収縮を記述するアクティブ・ゲル理論と,アクチン線維の確率的な結合を記述するパーコレーション理論を組み合わせた「綱引きモデル」を構築した.その結果,アクトミオシン波の発生周期と,アクチン線維のブリッジ形成に要する時間,これらの特徴的時間の大小関係でクラスターの配置対称性が決まることを説明でき,対称性を破る液滴の特徴サイズも定量的に予言された.以上の結果は,細胞核のような構造物を中心または端に配置するメカニズムとして,細胞内の対称性の制御原理に力学的な理解を与えるものである.
著者
北川 俊作
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.53-54, 2022-01-05 (Released:2022-01-05)

ラ・トッカータ物理学系VTuberの表話,裏話
著者
佐藤 昌利
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.297-306, 2014-05-05 (Released:2019-08-22)

1937年,Majorana(マヨラナ)によって,電気的に中性な素粒子を記述する新しいフェルミオンが導入された.のちにマヨラナフェルミオンと命名されたそのフェルミオンは,複素数の場で表される通常のディラックフェルミオンと異なり,実数の場で表すことができ,そのため自分自身が反粒子であるという特徴をもつ.ニュートリノがマヨラナフェルミオンであると期待されているが現時点では直接的な実験的証拠は見つかっていない.ところが,最近,超伝導体の励起状態としてマヨラナフェルミオンが実現される可能性が議論され,実際に実験によってその証拠が報告されはじめている.この記事では,素粒子の世界でなく,超伝導体という通常の電子の世界で何故マヨラナフェルミオンが実現されるのかということを解説する.まず,最初にマヨラナフェルミオンが実現される舞台であるトポロジカル超伝導体について説明する.トポロジカル超伝導体とは,基底状態の波動関数から計算されるトポロジカル数がゼロでない値をとるトポロジカル相の一種である.トポロジカル相には,バルク・エッジ対応と呼ばれる数学的構造よりその表面に質量ゼロのディラックフェルミオンに類似の集団励起が存在する.更に,超伝導体では,クーパー対の存在によって,電子とその反粒子である正孔とが同一視され,そのため,超伝導体中のフェルミオン励起は自分自身が反粒子となる.この2つの条件が重なることで,自分自身が反粒子であるディラックフェルミオン,すなわちマヨラナフェルミオンがトポロジカル超伝導体表面で実現されることになる.マヨラナフェルミオンがトポロジカル超伝導体で実現されることは,2000年にReadとGreenによって分数量子ホール状態とスピン三重項超伝導体の類似性を用いて初めて示された.トポロジカル超伝導体内の超伝導渦にマヨラナゼロモードが存在すると,渦自体の統計性がボーズ統計から非可換統計(粒子の交換によって新しい状態が作れる統計)へと変化することが示され,量子コンピュータなど新しいデバイスへの応用の期待から,注目を集めることとなった.しかしながら,スピン三重項超伝導を実現する物質が非常に少ないこともあり,実際にマヨラナフェルミオンが実現されたという報告はなかった.ところが,2003年の筆者の研究に続いて,2008年にFuとKaneがディラックフェルミオンのs波超伝導状態でマヨラナゼロモードを実現する可能性を示したことを発端とし,非可換エニオンを実験室で実現する機運が高まってきた.更に,2009年に筆者と藤本氏によって,通常の電子のs波超伝導状態もスピン軌道相互作用とゼーマン磁場によって,トポロジカル超伝導体へ相転移することが示され,冷却原子系からナノワイヤー系まで様々な系でマヨラナフェルミオンが実現可能であることが明らかになった.
著者
三宅 芙沙 増田 公明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.93-97, 2014

放射性同位体の存在量測定による年代推定は,自然科学や考古学などの様々な場面で応用されている.測定対象となる同位体には^<14>Cや^<10>Beなどがあり,これらは地球に飛来して大気に突入した宇宙線が,大気中の原子核と相互作用することによって作られる.同位体の半減期と平均的な生成量がわかっているので,その濃度を調べることによって生成からの経過年数を知ることができる.逆に,年代がわかっている試料,例えば樹木の年輪や極地方の氷床中の同位体濃度を調べれば,当時の宇宙線の強度を知ることができる.宇宙線によって生成された^<14>Cは,二酸化炭素^<14>CO_2となり,さらに樹木へと取り込まれて年輪内で固定されるため,年輪中の^<14>C濃度は過去の宇宙線強度を「記録」しているのである.したがって太陽フレア,超新星爆発,ガンマ線バーストといった突発的高エネルギー宇宙現象も,^<14>C濃度の急激な増加として,その痕跡が記録されている可能性がある.このような背景のもと,我々は6-12世紀における屋久杉年輪中の^<14>C濃度を1-2年分解能で測定してきた.その結果,西暦774-775年,993-994年にかけての2つの^<14>C急増イベントを発見した.これらは1年程度の時間で急激な^<14>C濃度の上昇を示した後,10年のオーダーで減衰していく様子がきわめて似ており,同じ原因によって引き起こされたことが示唆される.さらにこの2イベントについては,ヨーロッパ産の年輪中の^<14>Cと南極の氷床中の^<10>Beにおいても全く同時期に濃度の異常上昇があったことがわかり,屋久島付近における局所的な現象ではなく,地球規模で何らかの大きな変動を与えた突発的宇宙現象がその原因であることが決定的となった.すぐさま,その宇宙現象が何であったかについての活発な議論が始まった.先に述べた太陽フレアやガンマ線バーストなどの現象について,その発生頻度や放出されるエネルギー,地球に与える影響などについて定量的評価が行われた.現在のところ最も有力と見られているのは,太陽表面の爆発によって地球に大量の放射線が降り注ぐSolar Proton Event(SPE)という現象である.また,見つかった2イベントにおける^<14>C濃度の上昇量を説明するためには,その規模は現在知られている最大の太陽フレアの10倍から数10倍であることも明らかになった.これまでに多くの研究者によって年輪中^<14>Cの1-2年分解能の測定が行われてきた期間は,合計すると約1,600年分になる.そしてその期間中,このような大規模なイベントが少なくとも2度起こっているというのは注目すべきことである.^<14>C濃度の上昇はきわめて短い時間で起こっており,本研究のような1-2年の分解能による測定で初めて発見することができるものであるが,この分解能による測定がなされていない期間に,このようなイベントがまだ過去に多く隠されている可能性は高いのである.過去の大規模フレア現象の頻度を正確に把握することで,太陽活動メカニズムの新しい知見を得るとともに,将来における「宇宙気象」の予測へとつながることなどが期待される.また観測史上最大のキャリントンフレア(1859)でも世界的に大きな影響があったことが知られており,その数10倍の規模のフレアが「珍しくない」とすれば,現代社会活動への諸影響を考えることも大変に重要である.
著者
沙川 貴大 上田 正仁
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.828-831, 2011-11-05 (Released:2019-10-22)
参考文献数
11

「デーモンのパラドックス」がマクスウェルにより提起されて以来,情報処理を含む物理過程に熱力学第二法則をそのままの形では適用できないことが知られてきた.我々は,情報処理を含む形に一般化された熱力学第二法則や非平衡関係式を導き,それらは実験で検証された.我々の結果は,熱力学量と情報量を対等に扱う「情報熱力学」の基本原理を提供する.