著者
岸根 順一郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.294-295, 2016-05-05 (Released:2016-07-12)
参考文献数
6
被引用文献数
1
著者
川田 和正 大西 宗博 佐古 崇志 瀧田 正人
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.155-160, 2022-03-04 (Released:2022-04-05)
参考文献数
29

宇宙線は宇宙から等方的にやって来る陽子を主成分とする高エネルギーの原子核である.1912年の宇宙線発見以来,そのエネルギースペクトルは10桁以上にわたり観測されてきたが,その起源,加速機構や伝播など多くの謎が残されている.宇宙線スペクトルは冪関数で表されるが,最も顕著な特徴は4 PeV(=4,000 TeV)付近の折れ曲がりであり,そのエネルギー以上で宇宙線フラックスの減少割合が高くなる.この観測結果から,少なくともPeV付近までの宇宙線は銀河系内の天体,例えば超新星残骸で加速されていると考えられてきた.しかし,宇宙線をPeV付近に加速できる「ペバトロン」と名付けられた天体の探索が長年続けられてきたが,そのような天体の正体はいまだ不明である.荷電粒子である宇宙線は銀河磁場によって曲げられ到来方向を失うため起源の特定は難しいが,直進するガンマ線はそれを可能にする.PeV宇宙線は起源天体近くの分子雲と衝突すると,宇宙線エネルギーの約10%(=100 TeV)をもつガンマ線を放射するため,100 TeV以上のガンマ線観測はペバトロン特定の強力な手段となる.しかし,これまでに実験的に知られている銀河系内天体における宇宙線の加速限界は,超新星残骸のガンマ線観測から0.01 PeV程度であり,ペバトロンの加速エネルギーには全く達していない.Tibet ASγ実験は,中国チベット自治区の高原(標高4,300 m)に設置された空気シャワー観測装置により広視野で宇宙線・ガンマ線の観測を行っている.高エネルギーガンマ線(または宇宙線)は,大気中で「空気シャワー」と呼ばれる粒子カスケードを起こし,シャワー状に粒子が地上に降り注ぐ.この空気シャワー中の粒子を,多数の粒子検出器からなる空気シャワー観測装置で捉え,元のガンマ線のエネルギーと到来方向を決定する.また,ガンマ線信号に対して雑音となる宇宙線を排除するために,空気シャワーに含まれるミューオンを利用する.空気シャワー中に含まれるミューオン数を測定するために,ミューオン以外の粒子が十分吸収される地下に,約3,400 m2の水チェレンコフ型ミューオン観測装置が建設された.ガンマ線起源の空気シャワー中のミューオン数は,宇宙線起源のそれと比べて極端に少ないため,ガンマ線と宇宙線の選別が高精度で可能になった.これにより,100 TeV以上で宇宙線雑音を1,000分の1に減らすことに成功し,超新星残骸/パルサー星雲である「かに星雲」から世界で初めて100 TeVを超えるガンマ線を統計的有意に観測した.ガンマ線の最高エネルギーは450 TeVにも達し,当時観測史上最も高いエネルギーのガンマ線の検出に成功した.これは,PeV近くまで加速された電子が低エネルギーの光子を叩き上げる逆コンプトン散乱によってガンマ線が放射されていると考えて矛盾がなく,宇宙線の起源とは言えなかった.しかしその後,超新星残骸「G106.3+2.7」と分子雲の方向が重なる場所からも100 TeVを超えるガンマ線の観測に成功した.これは,PeV宇宙線が分子雲と衝突して発生した中性パイ中間子の崩壊を通してガンマ線が発生したと考えるのが自然であり,ペバトロンの有力な候補の発見となった.
著者
内藤 智也 萩野 浩一 小林 良彦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.99-102, 2022-02-05 (Released:2022-02-05)
参考文献数
51

話題アイソスピンの符号の慣習をめぐって
著者
日本物理學會
出版者
日本物理學會
巻号頁・発行日
1947
著者
中川 大也 辻 直人 川上 則雄 上田 正仁
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.88-92, 2022-02-05 (Released:2022-02-05)
参考文献数
28

外部環境と相互作用し,エネルギーや粒子をやり取りする量子系を開放量子系という.環境との結合はデコヒーレンスなどの散逸を引き起こすため,開放量子系の物理は量子論の基礎的な問題に留まらず,環境との結合から望みの量子状態を保護しながら量子操作や量子情報処理をいかに行うかという実際的な問題にも深く関わっている.このような開放量子系においては,多くの場合,系と環境との結合は複雑で一般に制御不可能なものだと考えられる.しかし,冷却原子気体をはじめとした大規模量子シミュレーターの発展に伴い,開放量子系に対する新たなアプローチが可能になった.これらの系は非常に制御性の高い量子多体系であり,原子は超高真空中にトラップされているため通常は環境との結合が無視できるほど小さい.このことを逆手に取り,原子にレーザーを照射することなどによって人工的に散逸過程を引き起こすことで,量子多体系に制御された散逸を導入することができる.これらは「制御可能な開放量子系」という新しいクラスの物理系であり,量子系への散逸の効果を系統的に調べる理想的な舞台となる.さらに,散逸による非ユニタリな時間発展によって量子多体系の状態を制御し,熱平衡系では実現不可能な興味深い状態を作り出すことにも繋がる.我々は,冷却原子気体で実現されるHubbard模型や近藤模型に代表される強相関量子多体系について,散逸による非ユニタリ性が多体物理にいかに影響を及ぼすかを理論的に調べた.その結果,通常の熱平衡系や孤立系では現れない秩序や転移が起こることが明らかとなった.例えば,開放系の定常状態は熱平衡系のようにエネルギーの大小ではなく状態の寿命によって特徴づけられる.そのため,非弾性衝突による粒子の散逸があるようなHubbard模型において,その磁性が散逸によって反強磁性から強磁性に反転するという特異な現象が起こる.さらに,近藤模型においては,量子多体物理からユニタリ性という制約が外れることにより,ユニタリな量子系では禁止されていたタイプのくりこみ群フローが出現する.散逸はデコヒーレンスや緩和を引き起こすため,従来は多くの場合避けられるべきものとして扱われてきた.しかし,これらの系では,散逸による非ユニタリ性が熱平衡系・孤立系では現れない新たな量子多体効果の源泉となる.開放量子系の時間発展は非ユニタリであるため,ハミルトニアンとは異なる非エルミートな演算子で生成される.このことは,熱平衡系・孤立系の多体物理がエルミート演算子であるハミルトニアンの性質に基づいていることに対し,開放量子系では非エルミートな多体演算子の性質が重要な役割を果たすことを意味している.我々は,Hubbard模型や近藤模型について,Bethe仮設法を非エルミート領域に拡張することにより開放量子多体系に対する厳密解を得た.冷却原子気体をはじめとした量子シミュレーターによる開放量子多体系の研究を契機として,従来の量子多体物理の枠組みを超え,非エルミート演算子を中心に据えた多体理論の発展が期待される.
著者
段下 一平 手塚 真樹 花田 政範
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.8, pp.569-574, 2018-08-05 (Released:2019-03-12)
参考文献数
24
被引用文献数
1

超弦理論は重力の量子論の有力な候補として長年研究され続けている.究極の目標は自然界のあらゆる相互作用を統一する万物の理論の構築だが,副産物として数学や物理学の様々な分野との繋がりが見出されてきた.特に,この2,3年で物性理論,量子情報理論と超弦理論の意外な関係が明らかになってきた.超弦理論を非摂動的にどう定義したらよいかというのは長年の問題だが,重力を含まないある種の量子場の理論が超弦理論,あるいはより一般的な量子重力理論の定義になっているのではないかというホログラフィー原理という考えがここ20年ほど有力視されている.対応が最もよく理解されているのは極大超対称ゲージ理論と呼ばれる一見特殊な理論の場合だが,最近,SYK模型という物性分野から出てきた理論が重力理論の少なくともある種の特徴をとらえていることがわかってきた.SYK模型は,N個のフェルミオンが非局所的にランダムに相互作用している模型である.元々は1990年代初頭にサチデフ(Sachdev)と叶(Ye)が銅酸化物高温超伝導体の関連物質の実験に関係して非フェルミ液体状態を記述するために提案したSY模型というものがあったが,SYK模型はこれを簡単化してキタエフ(Kitaev)が2015年に提案した模型である.サチデフはもともと物性理論への応用という立場からホログラフィー原理に興味を持っていたようだが,途中から,SY模型を使って量子重力理論を定義するという方向性も追求し始めた.2015年にキタエフがSYK模型が「カオスの上限」を実現することを示し,量子重力の観点からの研究に火が付いた.現在では,SYK模型と対応する重力理論が何かはまだわかっていないものの,量子重力や量子カオスの研究の舞台として積極的に研究され,また,関連する模型も多々提案されている.著者らは,光格子中の冷却気体を用いてSYK模型を実現する方法を提案した.この方法では,深い光格子の1サイトに複数のフェルミ原子を捕獲し,光会合レーザーにより,任意の2準位から分子状態への遷移を可能とする.形成された分子が別の2準位の原子へと速やかに光解離する状況で,分子の内部自由度を活用することにより,必要な相互作用のランダムさを実現できるという提案である.SYK模型や超対称ゲージ理論のような量子重力理論の定義となると目されている理論を実験的に実現することができたとすると,量子重力系の様々な性質,たとえばブラックホールの生成や蒸発などを実験的に調べることができると期待される.そのような意味で,物性理論や冷却気体実験の専門家が,量子重力の研究に貢献できる可能性が拓かれつつある.
著者
佐藤 譲
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.274-278, 2020-05-05 (Released:2020-10-14)
参考文献数
29

ノイズと決定論ダイナミクスの相互作用によって生じる雑音誘起現象は,非線形物理学では古くから研究されてきた問題である.よく知られた例としては「ノイズ同期」,「確率共鳴」,「雑音誘起カオス」があげられる.とくに決定論ダイナミクスがカオス解,あるいは不安定カオス解を持つ場合は,非自明な雑音誘起現象が生じることが知られている.こういった雑音誘起現象は,力学系の自然測度がノイズの影響で極端に変化し,決定論極限で観測されなかった不安定解の一部がノイズ存在下で観測されるようになる現象である.非線形確率現象はランダム力学系理論で扱うことができる.例えば上述の雑音誘起現象のいくつかはランダム力学系の確率分岐現象として理解される.ランダム力学系理論では主に確率微分方程式,ランダム写像などで記述される確率的ダイナミクス,あるいは一般に時間発展する不定外力によって駆動される力学系のダイナミクスを扱う.ランダム力学系のアトラクターはランダムアトラクターとよばれる.ランダム力学系においても,決定論力学系と同様に不変分布,リアプノフ指数,コルモゴロフ–シナイエントロピーといった系を特徴付ける不変量が定義され,性質のよい系ではこれらの不変量は一意に定まる.ランダム力学系にアトラクターと不変分布が存在し,最大リアプノフ指数が正であるとき,そのアトラクターはランダムストレンジアトラクターとよばれ,観測される現象は確率カオスとよばれる.いま系の最大リアプノフ指数をλとすると,「ノイズ同期」はλ<0のランダム点アトラクター,「確率共鳴」はλ<0のランダム周期アトラクター,「雑音誘起カオス」はλ>0のランダムストレンジアトラクターに従う.確率カオスは流体乱流でも観測される.円柱容器中の流体をプロペラで撹拌したときに生じる旋回流である「カルマン旋回流」において,レイノルズ数が非常に大きな発達した乱流状態では,ある旋渦が支配的な準定常状態と,別の旋渦が支配的な準定常状態の間を遷移する現象が観察される.この遷移運動は系の対称性を変化させると,ある領域で不規則運動に変化する.この不規則遷移運動は円柱容器の上下で流れを駆動しているプロペラの回転数の変動を測定すれば直接観測できる.カルマン旋回流の実験時系列データに埋め込み法を適用してアトラクターを再構成し,確率ダフィング方程式でモデル化した.実験時系列データから見積もられたダイナミクスの有効次元は10次元程度であり,これは確率ダフィング方程式のランダムアトラクターの有効次元と概ね一致する.実験系を対称な境界条件から非対称な境界条件へ変化させると,実験時系列データから計算される最大リアプノフ指数が負から正へ変化し,不規則運動への転移が観測される.この分岐現象もモデル解析と実験で定性的に一致した.このように確率ダフィング方程式はカルマン旋回流にみられる不規則遷移運動のよいモデルとなっている.初期の乱流遷移は決定論力学系のストレンジアトラクターへの分岐として解析されてきたが,形式的に無限次元であるランダム力学系とランダムアトラクターの概念を導入することにより,発達した乱流運動についてもランダム力学系理論による解析が可能かもしれない.一般に大自由度の力学系や不定外力で駆動される力学系でみられる様々な非線形現象をランダム力学系理論によって理解することができる.
著者
佐野 幸恵 高安 秀樹 高安 美佐子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.7, pp.458-463, 2022-07-05 (Released:2022-07-05)
参考文献数
16

ウェブサービスの一つであるSNSが国内外問わず広く普及している.SNSの代表例であるFacebookは,世界中で登録者数が28億人ともいわれている.SNSの中では,実社会と同様に地震情報などのニュース速報が瞬時に広まったり,誹謗中傷による告発があったりと,様々な現象が起きている.特に近年,SNSで問題視されているのが,多くの人に誤情報があたかも正情報として伝わり,社会的な混乱を引き起こす現象,デマの拡散である.SNSにおける情報伝播は,とらえどころがなく,研究対象として,ましてや物理の問題として扱うことができるのか議論が分かれるところであろう.実際に,SNSを構成する人間には個性があり,その間にやり取りされる情報も多種多様な文脈があり,統一的に扱うことは到底困難にも感じる.さらにSNSを運営するのは,特定の営利企業であり,その性質は自然現象とは大きく異なる.しかし,一歩引いて観察すると,SNSは構成している人をノード,その間を流れている情報をリンクとするネットワークとして表現することができる.しかも,そのやりとりは電子的に精緻に記録されているため,大規模に分析することができる.そのため,SNSに関する研究は特にコンピュータサイエンスや情報処理の分野において活発に行われている.一方で,情報が伝播していくネットワーク構造のみに着目した研究は,実はあまり多くはない.そこで,われわれは現象をなるべく単純化した形で,正誤情報が伝播していくネットワーク構造の違いを比較した.具体的には,日本でも広く使われているSNSの一つであるTwitterにおいて,アカウントをノード,その間をつなぐリツイートとよばれる情報の転送関係をリンクとしたネットワークを正情報と誤情報の両方で構築し比較した.そして,これらを比較した結果,誤情報の方が複雑なネットワーク構造をしている点に着目した.特に,正情報の場合,発信源を中心とした星型で伝播するのに対し,誤情報の場合,発信源は必ずしもネットワークの中心とはなっていない.誤情報では,目にした情報を,発信源まで遡ることなく,そのまま身近な人へと転送することがしばしば起こっていることを表している.このような伝播ネットワークの違いを数値化することにより,伝播している情報の文脈や,情報を発信・転送する人の属性などを考慮することなく,SNSで広まっている情報が正誤どちらに近いのかを評価できるようになる.さらに,数値化においては,ネットワークのローカルな情報である,リンク数の平均,および二乗平均だけを用いている点は,重要である.例えばノードの重要度を表す代表的な指標である媒介中心性を計算するには,ネットワーク中のすべてのノードペア間の最短経路を計算する必要がある.一方,リンク数の平均,および二乗平均であれば,注目するノードのローカルな情報のみで計算ができる.今後もSNSによる情報流通が増えていくと考えられる.透明性が高く,計算量も軽い指標で新たな「情報生態系」を捉え,明らかにし,さらに社会へも還元するような取り組みは,重要性を増していくのではないだろうか.
著者
小布施 秀明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.14-24, 2015-01-05 (Released:2019-08-21)

金属を極低温まで冷やすと,電子が不純物などにより散乱され,その散乱波同士が量子干渉を起こすことにより,電子が空間的に局在し,絶縁体となる.アンダーソン局在として知られるこの現象の研究は,1958年のP. W. Andersonによる理論予測から幕を開けた.それから半世紀が経った現在,物性物理学におけるアンダーソン局在,そしてアンダーソン転移の重要性は一段と増している.このことは,近年,その存在が明らかとなった新規物質であるグラフェンやトポロジカル絶縁体における不純物効果に関する数多くの理論・実験研究が行われていることからも明らかである.特にトポロジカル絶縁体・超伝導体を分類する10種類のクラスは,アンダーソン転移の対称性クラスそのものであるなど,トポロジカル絶縁体の研究発展に対してアンダーソン転移の研究が果たした役割は大きい.さらに,アンダーソン局在の本質は干渉効果であるため,物質中の電子に限らず,近年,冷却原子,光,弾性波などの新たな系における実験も行われるようになった.これらの新しい実験では,従来,困難であったアンダーソン転移における臨界指数の実験的評価も可能である.このように,アンダーソン局在・転移の研究分野は,今なお拡大し続けている.本解説では,アンダーソン局在・転移のこれまでの研究発展を振り返ると共に,最近の実験・理論研究の新たな展開について紹介する.アンダーソン転移に関する過去の研究を振り返ると,この転移が2次相転移として理解できることを提示した,1979年のスケーリング理論に触れないわけにはいかない.スケーリング理論は,空間次元が2以下では,電子は温度ゼロの極限で必ずアンダーソン局在するという重要な結論も導く.しかし,この結論は全ての2次元不規則電子系に対して成立するわけではない.スケーリング理論に反し,2次元でアンダーソン転移が起こる系として,スピン軌道相互作用の強い系や量子ホール効果を示す系が挙げられる.これらの系に対して,スケーリング理論で見落とされている点を考えると,系の持つ対称性やトポロジカル項など,今日の物性物理において重要なコンセプトが現れてくるのは興味深い歴史的事実である.アンダーソン転移の臨界現象に関する包括的な理解は,この研究分野に残された大きな問題の一つである.アンダーソン転移で重要となる臨界指数として,臨界点近傍における局在長の発散を特徴付ける臨界指数と,臨界点におけるスケール不変な波動関数を特徴付けるマルチフラクタル指数がある.従来,これらの指数の定量的な議論は,数値計算を中心に行われたが,近年の実験技術の進展により,これらの指数を実験的に求めることも可能となった.また,理論研究の進展により,共形場理論を用いて,臨界指数を解析的に導出することが可能となりつつある.アンダーソン転移に対して共形場理論を適用する際に,鍵となるのが,臨界波動関数のマルチフラクタル性である.対数的共形場理論により,アンダーソン転移の臨界現象を理解する試みが現在進行中である.