著者
十倉 好紀
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.621-627, 1994-08-05

遷移金属酸化物が物性科学的に興味深い対象であることは,古くから認識されてはいたが,理論的な取扱が困難な強い電子間相互作用-電子相関効果-をあらわに考慮しなければならないこともあって,その電子物性の研究は半ば冬眠状態にあった.しかし,銅酸化物系高温超伝導の熱病を契機として,強相関電子系の物理の理解が進みはじめ,いまや「強相関電子」は物質科学のみならず,次々世代電子材料の可能性を語るうえでの,不可欠なキーワードとなりつつある.そのプロトタイプとしての3d遷移金属酸化物を例にとり,価数(電子数)制御によって出現するモット転移近傍の異常金属相の物性とその材料物理としての展開の可能性を探りたい.
著者
小林 [テツ]郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.684-688, 2011-09-05

旧制東京文理科大学において8名という少数の学部学生の一人として,戸田盛和先生から受け熱学・統計力学の名講義と物理学研究の魅力に眼を開かれたことへの感謝を述べる.他の先生には休講にして頂いて,戸田先生と御一緒に大島や下田へ週余の旅をしたことが忘れられない.ユーモアに富む温かなお人柄を併せて回想する.
著者
嶽山 正二郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.170-178, 2012-03-05
参考文献数
29

物性研究所での超強磁場プロジェクトは,5MJ(メガジュール)大型コンデンサバンクを用いた電磁濃縮法によるパルス超強磁場発生とその物性応用を目指して1980年から本格的に開始された.現在,最高発生磁場は700T(テスラ)を超え,600Tにおける極低温と組み合わせた高精度の物性測定が可能となった.室内実験としては世界最高の値である.磁場発生最高値の引き上げだけでなく再現性の格段の向上がなされた.500T以上での信頼性ある物性計測ができるのは物性研究所が世界唯一となっている.最近の磁場発生の技術開発の状況と物性計測への応用例,これから新たに始めようとしている1,000T達成を睨んだ計画について述べる.
著者
木下 紀正 野田 二次男
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.496-504, 1981-07-05

高エネルギーでの素粒子実験の進歩はめざましく, ハドロン・ハドロン及びレプトン・ハドロン衝突と共に重心系エネルギー35GeVに達する電子・陽電子衝突のデータも得られつつある. これらの高エネルギー反応における主要な現象は沢山のハドロンの生成であり, それらはいくつかの向きに束になったジェット構造をなして放出される. これらの現象の研究から, ハドロンの内部構造や, ハドロン相互作用の基礎理論と考えられる量子色力学の量子であるクォークとグルーオンの生態と行動を読みとる事が進められている.
著者
伊藤 伸泰 尾関 之康 野々村 禎彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.336-347, 1999-05-05
被引用文献数
1

非平衡状態から熱平衡状態への緩和の様子から系の熱力学的性質を解析する方法が提唱され, さまざまな問題へと応用が広がっている. 簡便かつ効率的で信頼性も高い「非平衡緩和法」と呼ばれるこの方法の特徴と実例とを計算物理の視点から紹介する.
著者
今村 勤
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, 1999-02-05
著者
北野 正雄 中西 俊博
出版者
日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.758-765, 2006-10-05
参考文献数
20
被引用文献数
2

最近の実験技術の進展によって, 光パルスの伝搬速度(群速度)を光速cより大きくしたり, 逆に自転車なみの速度に減速させ, さらには停止させることすら可能になってきた. このような異常光伝搬は応用面から強い関心が寄せられているのみならず, 波動伝搬の物理を再検討する契機にもなっている. 本稿では電気回路による光の伝搬のシミュレーションを通して, 超光速群速度の物理的意味や光パルス凍結の原理に迫る.
著者
小口 武彦
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.95-102, 1989-02-05

スピン1/2の反強磁性ハイゼンベルグ(Heisenberg)モデルの基底状態に対し, 1973年に P.W. Anderson が新しい概念を盛りこんだ Resonating Valence Bond (RVB)の理論を提案した. 筆者はこの論文に非常に魅せられたが, RVB理論を勝手に解釈して研究を進めた結果は芳しいものではなかった. そのため, その後はRVB理論に対し疑念を持っていた. しかし, ごく最近になって, 再びRVBを考え直してみたところ, その素晴らしい本当の姿が見え始めてきた.
著者
池田 隆介
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.598-605, 2010-08-05
参考文献数
63

銅酸化物高温超伝導体(HTC)の発見以来,電子相関の強い超伝導物質が続々と見出され,基礎研究の対象となる磁場下の超伝導現象も多岐にわたるようになってきた.HTCの現象を通して磁場下の超伝導相図の理解が一新されたのに加え,近年対象となる系では常磁性効果や磁気的揺らぎ等の強い電子相関に起因する側面が重要な役割を果たし,磁場下の超伝導状態,つまり渦糸状態の現象のバラエティーは豊富になりつつある.しかし一方で,超伝導理論の基礎が変更をうけるわけではない.本稿では,磁場下の超伝導渦糸状態に関する理解の現状を概説する.