著者
本堂 毅 坂田 泰啓 小林 泰三
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.537-541, 2008-07-05

本堂は2002年,初等的な理論計算で,日常環境中のマイクロ波被曝レベルが現行の推定に比べ数桁高くなりうることを示し,受動被曝の問題を指摘した.今回,実験と数値シミュレーションでその理論計算を確認し,空間的に局在した強い曝露領域(ホットスポット)が存在することを明らかにした.本稿では,研究の背景と実験結果,数値新算上の課題を記し,環境科学と基礎物理学の関係および物理学の社会的役割について考えてみたい.
著者
中畑 雅行 鈴木 洋一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.337-342, 2003-05-05
被引用文献数
4

The deficit of the solar neutrino event rate (so called "solar neutrino problem") was initially presented by Davis since 1960s. It was established as a deficit of the solar neutrino flux by Kamiokande led by Koshiba. In the recent two years, it was found that the solar neutrino problem is due to neutrino oscillations by the results from Super-Kamiokande and SNO experiments. Combining with other solar neutrino experiments, most probable solution of the neutrino oscillation parameters was the Large Mixing Angle (LMA) solution. In December 2002, the reactor long baseline experiment. KamLAND, confirmed that the LMA is the correct solution.
著者
上田 良二
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.345-349, 1961-05-05
著者
長島 順清
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.171-179, 2005-03-05
参考文献数
10
被引用文献数
1

素粒子物理学の100年を日本の著名な科学者の業績と思考に重点を置いて述べる.1935年からの最初の四半世紀は, 先駆者仁科および理論の3巨頭湯川・朝永・坂田が日本を先導した.標準理論が形成される1960-70年代には, 随所に南部のアイデアが光る.次に日本が高エネルギー実験分野で世界の3極になるまでの経過を追い, 最後に, KEKB/Belleグループによる小林・益川理論の検証と, 小柴に始まるニュートリノ物理学の興隆で締めくくる.
著者
高見 頴郎 桑原 邦郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.899-904, 1976-11-05

差分法-もっと一般に数値解法-というと, 解析的な方法ではがたのつかない場合の切札としての実用面だけがともすれば強調されがちである. しかし, 差分法を使って考えることは, 単なる実用とは別に, 偏微分方程式あるいはそれが記述している物理現象の本質を理解する上で大きな助けになる. また, 差分法は, 素朴なるがゆえに "人見知りしない" 性格によって, 線形問題, 非線形問題を問わずきわめて広い活躍の舞台をもっている. このような点に注意しながら, 差分法の手順, 適用する際の問題点とその処理法, 理論的な裏づけなどについて, 簡単な数値実験の例を挙げて説明していく.
著者
山口 哲
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.822-826, 2006-11-05

AdS/CFT対応は重力理論と場の量子論の対応である.これを1/2BPSセクターに限った場合,非常に深い解析が可能である.この場合,場の理論はフェルミ粒子の系に帰着され,その状態は相平面上の「液滴」で表される.これに対し,AdS側の重力理論の解として,この液滴と1対1に対応する解がLin,Lunin,Maldacenaにより構成された.これにより,超重力理論の1/2BPSセクターがフェルミ粒子の系で記述されることが非常に確からしくなってきた.
著者
堀内 昶 池田 清美
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.38, no.11, pp.836-844, 1983-11-05

原子核のクラスター模型は, はじめは殻模型を補完するものとして, 最近では広い質量数及びエネルギー領域に適用しうるものとして用いられ, 軽い核の構造とその動的性質を記述するに不可欠な模型の一つとなっている. クラスター模型は"原子核内で核子が局所的に強く相関しあう部分的小集団"であるクラスターを単位とし, そのクラスターの集合体で取扱う模型である. それ故クラスター相関が強く現れる際には, クラスター間相対運動が原子核の運動様式の基本となるとする立場の模型である. この意味で, 殻模型とは立脚点が質的に異なる模型である. この解説は, 原子核の分子的 (クラスター) 構造の我国を中心とする研究について概説し, 近年活発となって来ている周辺研究分野との結びつきについて紹介するものである.
著者
村井 忠之 祖父江 義明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.35, no.11, pp.886-895, 1980-11-05

銀河系の回りを大・小マジェラン雲という双子の小銀河が公転している. 公転しながら二つのマジェラン雲は中性水素ガスの長い尾(マジェラニック・ストリーム)を引きずっている. 銀河系の強い重力摂動に耐えて, この双子銀河がはなればなれにならず生きのてきたのはなぜだろうか. 観測される両雲の運動データをもとに, 銀河系と大・小マジェラン雲の三体問題とダイナミックスを考慮し, さらにマジェラニック・ストリームを再現するような数値シミュレーションを通して, 過去100億年にわたるマジェラン雲の軌道を推定する. このダイナミックスは, 銀河系をとりまく巨大質量ハロー(光学的に見える銀河のまわりを球状にとりまく暗黒の物質で, 普通に考えられている銀河の質量より一桁大きい)の存否, 宇宙のミッシング・マス(missing mass; 観測にどうしてもかからないが, 確かにある筈の謎の質量)の問題に鍵を与えてくれるかも知れない.
著者
赤池 弘次
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.608-614, 1980-07-05
被引用文献数
2

L. Boltzmannによって導入されたエントロピーを統計的分布の確率の対数とする解釈は, 統計と確率との本質的な関係を明らかにする歴史的な貢献である. 数理統計学の発展は, このBoltzmannの業績に対する認識を欠いたままにすすめられたが, 最も著しい成果とみなされるものは常にこの確率論的エントロピーの概念に密接した研究によって得られている. 予測の視点と確率論的エントロピー概念との結合によって, 統計的方法の展開に有効な統一的視点が得られるとするのが筆者の主張である. これによって尤度概念の役割とその重要性に客観的な説明が与えられ, 従来問題視されたベイズ(Bayes)理論の実際的利用への道が開かれる.
著者
田中 宏幸
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.70-79, 2010-02-05
被引用文献数
1

省電力・分割可搬型宇宙線ミュオンテレスコープ(PEAM:Power Effective Assemblable Muon telescope)による火山体の観測が可能になったことにより,活動中の火山の火道内部の詳細を測定できるという新たな進展の機会が得られた.宇宙線ミュオンラジオグラフィー(CMRG)では地震波などを用いた従来の地球物理学的観測に比べて,かつて無い高い空間分解能で山体内部の密度測定が可能である.結果は,世界で初めて可能となったマグマの脱ガス過程の直接的観測の結果から,新たな未解決の問題が提起されている.ここではCMRGの原理,及び火道内でのマグマ対流・マグマ脱ガス現象の物理の基本と宇宙線ミュオンによる火山体内部測定の現状を紹介する.
著者
小林 〓郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.896-905, 2006-12-05
被引用文献数
2

旧制東京文理科大学における朝永先生の極めて少数のクラスの学部学生の一人として,先生から受けた教育および卒業後,所謂「金曜コロキウム」において経験した厳しい研究指導を具体例に即して述べる.併せて先生の品格あって温く,ユーモアのセンス豊かなお人柄を紹介する.
著者
松本 重貴 瀬波 大土
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.265-272, 2008-04-05

近年における宇宙論観測の飛躍的な発展のおかげで,我々の宇宙には確かに暗黒物質が存在することが明らかになった.しかしながらその正体については全く不明であり,物理学における最も興味深いミステリーの一つとなっている.一方,素粒子および宇宙論の分野において,理論的な観点から,数多くの暗黒物質の候補が提案されている.その中の一つに,TeVスケールに余剰次元を持つ高次元理論の予言する暗黒物質がある.本稿では,この暗黒物質に焦点を当て,この物質がどのような性質を持つか,また近い将来の観測や実験においてどのように検出され得るかについて,最近の話題を含め紹介する.
著者
常田 貴夫 佐藤 健
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.291-296, 2009-04-05
被引用文献数
1

近年,ナノ材料科学における自己集合や生命科学における機能的構造形成など,ファンデルワールス力にもとづくマクロな現象が,広範な研究分野で注目を集めている.ファンデルワールス力は電子相関にもとづく純粋に量子論的な効果であり,なおかつ系のスケールに応じて重要性を増す.したがって,その理論的な解明には電子相関を考慮に入れた高速計算が可能な第一原理計算法が必要である.本稿では,密度汎関数法にもとづく第一原理ファンデルワールス力計算法に着目し,長距離補正法をはじめとする最新の計算法を紹介する.また,それらの手法の特長と問題点を比較し,ファンデルワールス力計算法開発において今後考えるべき指針を示す.