著者
水野 俊太郎 小山 和哉
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.698-701, 2008-09-05

宇宙の構造の起源となっているスケール不変の密度揺らぎをどのように生成するかは初期宇宙における大きな謎である.現状では,この原始密度揺らぎはインフレーションで生成されたとする考え方が有力である.しかし,インフレーションがどのような機構で起きるかはまだ判然としておらず,他の可能性も提案されている.本稿では,代替シナリオの1つであるブレーン衝突宇宙シナリオと,これらを識別する観測手段について説明したい.
著者
船木 一幸 山川 宏 藤田 和央 野中 聡
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.266-269, 2003-04-05
被引用文献数
3

「面白い宇宙推進システムがあるらしい.」宇宙工学に携わる若手メンバーで初めて磁気プラズマセイルの話をしたのは,M-Vロケットの認定試験中,宇宙科学研究所能代ロケット試験場でのことだった.長い開発期間の末のH-IIAロケットの完成もあり,日本でも木星以遠の科学探査が視野に入ってきた.しかし,外惑星は遠く,軌道遷移に必要な増速量(ΔV)は膨大である.ΔVを大きく取ると探査機に占める推進剤重量の割合が大きくなるため,数トンに及ぶ巨大な探査機でもほんの僅かな観測機器(ペイロード)しか搭載できない.重厚長大な旧来型のミッションが喜ばれるご時世でないのは,誰の目にも明らかであろう.しかしながら,こうした現状を打ち破るコンパクトな探査機が実現可能かもしれない.そして,ひょっとしたら太陽系の外にさえも,たった数年で探査機を送り出すことができるかもしれない.そんな革新的な宇宙推進システムの可能性を探るため,自称「磁気プラズマセイル研究会」を結成.半年にわたって検討を進めてきた.
著者
久保 亮五
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.9, pp.(i)-(ii), 1985-09-05
著者
郷田 直輝
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.775-782, 2005-10-05
参考文献数
24
被引用文献数
1

夜空に輝く星の位置とその変動を観測する位置天文観測は, いにしえから人類が新たな自然の法則を見出すことを目指して続けてきた営みである.20世紀の末になり, 大気に邪魔されず精度良く観測できる宇宙空間での観測が初めて行われた.21世紀になり, さらに高精度な観測の計画が進行中である.本文では, 位置天文観測の歴史と意義, 観測精度の現状と今後に関して, また, 天の川銀河という自己重力多体系の力学構造の解明など今後の位置天文学の発展によって期待される科学的成果の具体例, さらにいくつかの高精度位置天文観測計画の紹介, 最後に日本独自で検討開発を進めている赤外線位置天文観測衛星(JASMINE: ジャスミン)計画の紹介を行う.
著者
三田 一郎
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.84-88, 2009-02-05

この度,南部陽一郎氏,小林誠氏,益川敏英氏がノーベル物理学賞を受賞されたことは日本物理学会にとって大変おめでたいことである.この約半世紀の歴史を振り返れば,日本人が素粒子論における自発的対称性の破れ,およびCPの破れの理論を提唱し,日本国民の血税で世界に類のない加速器が建設され,そして日本でその正しさが証明されたという偉大な歩みが見えてくる.まさに我が国が誇るべき研究成果であろう.この機会に私が見てきたCPの破れの歴史を綴って見たい.
著者
柳田 勉
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.276-282, 1988-04-05

ニュートリノ(中性微子)に質量があるだろうか? もしニュートリノにわずかでも質量があれば, 宇宙・天体物理学はもとより素粒子物理学にも重大な影響を及ぼす. 最近, ニュートリノが0.001〜0.01eV程度の質量を持てば, 天体物理学の長年の謎になっている「太陽ニュートリノの問題」が巧妙な方法により解かれることが発見され, 話題になっている. このニュートリノの質量こそ素粒子の大統一理論の予言していたものである. 現在, 我が国をはじめとして世界各地で太陽ニュートリノの測定が計画されている. この仮説が検証されれば, 素粒子物理学も新たな局面をむかえることになろう.
著者
芝内 孝禎 松田 祐司
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.592-601, 2013-09-05

最近発見された鉄原子とヒ素原子で構成される2次元ネットワークを含む新しい超伝導物質は,銅酸化物が唯一の高温超伝導体ではないことを明らかにした.これらの物質に共通した高い超伝導転移温度は結晶格子の振動を媒介とした従来型の超伝導発現機構では説明できない.一方で,転移温度は低いが非従来型発現機構を持つ超伝導体の代表例としては,f電子を含む重い電子系と呼ばれる物質があるが,新しい鉄系超伝導体の電子状態相図はこの重い電子系の相図とも共通している点も多い.このように鉄系高温超伝導体は,新しい非従来型超伝導研究の舞台となる物質群を提供したと言える.これらの非従来型超伝導体は,電子相関,量子相転移,非フェルミ液体,新奇秩序状態といった凝縮系物理学における主要テーマを含んでいる.鉄系高温超伝導体が発見され約5年が経過したが,最近では高品質な単結晶を用いた精密測定が可能となり,この系の磁気状態,電子状態,超伝導状態の詳細が明らかになってきた.
著者
小沢 顕 鈴木 健 谷畑 勇夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.90-100, 2002-02-05
被引用文献数
1

相互作用断面積は,原子核の陽子数あるいは中性子数が反応で変化する過程に対する断面積であり,原子核の大きさに敏感な量である.相互作用断面積の測定は,不安定核ビーム(RIビーム)を用いた最初の実験として1980年代に行われ,以来,系統的な測定が行われている.相互作用断面積は比較的弱いビームでも測定が可能であり,近年のRIビーム生成分離技術の発展に伴い,酸素までの軽い原子核では,その測定は原子核の存在限界であるドリップ線に到達した.グラウバー模型により,相互作用断面積から平均自乗根核半径,核子密度分布が導出でき,さらには,最近の模型の発展により不安定核の殻構造に関する情報すら得られるようになった.ここでは,最近の相互作用断面積の測定の発展を振り返るとともに,測定結果が明らかにした不安定核の核構造について解説する.
著者
渡辺 悠樹 村山 斉
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.200-208, 2013
参考文献数
19

自発的対称性の破れは素粒子物理から原子核,物性,冷却原子,天体,更には初期宇宙論,化学,生物まで幅広く適用される重要な考え方である.特に連続的な対称性の場合はギャップのない励起,南部・ゴールドストーンボソンが現れ,長波長・低エネルギーの現象を決めている.しかし,何種類の南部・ゴールドストーンボソンがあるのか,エネルギーが運動量の何次で振る舞うか,という非常に基本的な問題に対して今まではケースバイケースで調べられていて,一般論がなかった.最近筆者らは南部・ゴールドストーンボソンを統一的に理解する一般論を提唱した.これはローレンツ不変な系で知られていた南部・ゴールドストーン定理を拡張したものになっている.今まで何がはっきりしていなかったのか,これで何が分かったのかを,磁性体,結晶等を例にできるだけ具体的に解説する.
著者
Yang Chen Ning 服部 哲弥 向後 久美子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.214-220, 1982-03-05 (Released:2008-04-14)

今世紀の前半に物理学的世界像に関する人類の認識に三つの大きな革命的進歩がありました. それは特殊相対性理論, 一般相対性理論, および量子力学です. 最初の二つはEinsteinが提唱したものであり, また彼は量子力学にも大きく貢献しています. しかし今日はこれらのことについてお話するのではありません. (皆さんよくご存知でしょうから.)私がお話したいのは, 理論物理学とは何であるかの理解に対してEinsteinのなした貢献についててす. それは今日の物理学の発展に大きな影響を及ぼしました. 私の話の構成は次の通りです. 1. 「対称性が相互作用を規定する」という原理 2. 場の理論の統一の必要性 3. 物理学の幾何学化 4. 「理論物理学の方法」に対するコメント
著者
井田 大輔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.238-244, 2007-04-05
被引用文献数
1

膜宇宙と呼ばれる時空モデルの出現とともに,プランクスケールよりずっと大きな余剰次元の存在可能性が指摘された.そのような巨視的な余剰次元をもつ時空においては,古典論的な高次元ブラックホールが登場人物として現れる.ブラックホールを通して,高次元の時空の理論のさまざまな側面が見えてくるであろう.しかし一方では,ブラックホールは時空の次元によってずいぶん性質が異なることがしだいに認識されるようになつた.このような高次元時空のブラックホールに関する最近の研究とその周辺の話題を紹介する.