著者
矢竹 一穂 阿部 學
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.265-277, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
37

From February, 1984, to June, 1986, twenty-one Japanese squirrels (Sciurus lis; 11 males, 10 females) were reintroduced into Shinjuku Gyoen (58 ha) in central Tokyo. However, squirrels were not observed since December 1987. This report summarizes the issues related to the reintroduction of squirrels based on the results of this project and the ecological knowledge on squirrels produced by subsequent research. Approximately 36 ha of the forest were used by squirrels. The main foods were walnut and Lithocarpus edulis acorn from feeding stands, seeds of Pinus thunbergii, P. densiflora, exotic conifer trees, and Castnopsis cuspidata var. sieboldii acorn. Three carcasses of squirrels predated by Felis catus were confirmed, and Corvus spp. chased the squirrels. The squirrels did not settle because the forest area of the site was not sufficient considering the home range of squirrels; there was no habitat to move to close by, and dependence on acorns as forage was overestimated. Issues: 1) forest area of the site corresponding to the home range size of squirrels, 2) conservation of forests with diverse tree species, and 3) management of feral cats and crows as predators.
著者
篠原 明男 山田 文雄 樫村 敦 阿部 愼太郎 坂本 信介 森田 哲夫 越本 知大
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.335-344, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
38
被引用文献数
2

アマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)は奄美大島に生息し,性染色体がXO/XO型(2n=25)という特異的な生物学的特性を持っているが,絶滅に瀕している.そこで本研究ではアマミトゲネズミの保全および将来的な実験動物化を目的として,その長期飼育を試みた.鹿児島県奄美大島で捕獲されたアマミトゲネズミ7個体(雌6個体,雄1個体)を,一般的な実験動物と同様の飼育環境(環境温度23±2°C,湿度50±10%,光周期L:D=12h:12h)に導入し,実験動物用の飼育ケージ,給水瓶,床敷きを用いて飼育した.飼料はスダジイ(Castanopsis sieboldii)の堅果,リンゴおよび実験動物用飼料を給与した.導入した7個体のうち6個体は937~2,234日間生存し,平均して4年以上(1,495.8±434.3日)の長期飼育に成功した.体重変動,飼料摂取量,摂水量および見かけの消化率の結果から,本研究に用いた実験動物用飼料はアマミトゲネズミの長期飼育に適していると考えられた.また,中性温域は26°C以上である可能性が示唆された.さらに,本種は飼育下においても完全な夜行性を示すことが明らかとなった.本研究によりアマミトゲネズミの終生飼育には成功したものの,飼育室下における繁殖の兆候は一切観察されなかった.今後,アマミトゲネズミの保全および実験動物化を目的とした飼育下繁殖には,飼育温度条件の見直しが必要であると考えられる.
著者
安藤 元一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.165-176, 2005 (Released:2006-12-27)
参考文献数
36
被引用文献数
6

環境影響評価や環境教育の場における巣箱調査の効率向上に資するため, 樹上性齧歯類の巣箱利用を東京都, 神奈川県, 山梨県, 石川県および滋賀県の天然針葉樹林, 落葉樹林, スギ造林地および寺社境内の16カ所において延べ2,664個の巣箱を用いて調査した. ニホンモモンガは天然針葉樹林で最高27%の宿泊率を記録し, 落葉樹林では調査地毎の差が大きかった. ヤマネは落葉樹林を好んだが, 利用率は他種より低かった. ヒメネズミは造林地を含め最も普遍的な巣箱利用者であった. 各調査地の8~11月における平均巣箱痕跡率は, ニホンモモンガで5%, ヤマネで2%およびヒメネズミで10%であった. モモンガとヒメネズミは巣材によって生息を確認できるが, ヤマネについては宿泊個体の現認による慎重な調査が望まれる. 各調査地における最初の巣箱利用痕跡は, 概ね設置1年以内に確認可能であり, 利用度の経年変化は見られなかった. 巣箱は夏季に多く利用され, 巣箱サイズは利用率に影響しなかった. 春に巣箱を設置し, 鳥類繁殖期をさけて夏~秋の数カ月間に延べ300個程度の巣箱を点検すれば, 複数年の調査をしないでも調査地の樹上性齧歯類相はおおむね把握できるといえる.
著者
西田 伸 川原 一之 安河内 彦輝 江田 真毅 小池 裕子 岩本 俊孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
22

宮崎県西臼杵郡高千穂町上村の藤野家と,同じく高千穂町土呂久・佐藤家に保管されていた「熊の手足」の資料についてDNA解析を行い,情報の少ないツキノワグマ(Ursus thibetanus)九州個体群の遺伝的特徴について調査した.聞き取り調査から,明治中期~大正初期に祖母山系で捕獲されたと推測された佐藤家資料において,ミトコンドリアDNA コントロール領域648bp(ハプロタイプ:KU01)の解析に成功した.KU01は西日本系群に含まれる新しいタイプであった.先行研究の結果と合わせて考えると,絶滅したとされる九州個体群は他国内集団とは遺伝的に分化した独自の地域集団を形成していた可能性がある.
著者
横畑 泰志
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.127-134, 2003-12-30
被引用文献数
1

これまで批判の多かった「文部省式カタカナ目名」の問題に対処し,同時に最近新たに提唱されている哺乳類の高次分類群および分類階級の国内での使用上の混乱を防ぐ目的で,それらに推奨できる日本語名称を提案する.検討対象として McKenna and Bell(1997)の分類体系を用い,和訳にあたってはラテン語学名の本来の意味を尊重することなどを原則とした.
著者
高橋 裕史 梶 光一 吉田 光男 釣賀 一二三 車田 利夫 鈴木 正嗣 大沼 学
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.45-51, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
8

洞爺湖中島において移動式シカ用囲いワナの一種であるアルパインキャプチャーシステム(Alpine Deer Group Ltd., Dunedin, New Zealand)を用いたエゾシカ Cervus nippon yesoensis の生体捕獲を行った.1992年3月から2000年2月までに,59日間,49回の捕獲試行において143頭を捕獲した.この間,アルパインキャプチャーの作動を,1ヶ所のトリガーに直接結びつけたワイヤーを操作者が引く方法から,電動式のトリガーを2ヶ所に増設して遠隔操作する方法に改造した.その結果,シカの警戒心の低減およびワナの作動時間の短縮によってシカの逃走を防止し,捕獲効率(捕獲数/試行数)を約1.1頭/回から3.5頭/回に向上させることができた.
著者
田村 典子 岡野 美佐夫 星野 莉紗
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.367-377, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
20

狭山丘陵の緑地に,2000年に特定外来生物キタリスの野生化が報告された.その後も引き続き本種の生息が確認されたため,2013年11月に,日本哺乳類学会からキタリスの早期対策の要望書が提出された.これを受けて,2014年4月から環境省事業として生息調査および捕獲対策が開始された.目撃情報,食痕,自動撮影による生息調査の結果,17地点でキタリスの生息が認められた.1地点をのぞく16地点は丘陵西側に位置する狭山湖周辺の緑地であった.2014年10月から2017年3月までに,この17地点で捕獲作業を行った結果,このうちの12地点で合計32個体のキタリスと1個体のニホンリスが捕獲された.3年間で,目撃情報数,食痕確認地点数,撮影件数いずれも著しく減少した.今後は,キタリスが狭山丘陵内に残存しているかどうかモニタリングを継続するとともに,周囲の山林へ逸出していないかどうか,広域の調査が必要となる.
著者
金子 之史
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.129-160, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
99

1910(明治43)年に渡瀨庄三郞は「外来種」であるフイリマングースHerpestes auropunctatusを沖縄本島と渡名喜島に導入した.本稿では関係史料を検討して以下の7点を得た.第1に,中川(1900)は現在でいう外来種に関する米国農務省年報を抄訳しジャマイカ島へのフイリマングース導入経過と影響を紹介した最初であったが,書誌情報は不十分であった.第2に,渡瀨と中川の経歴により両者は既知の関係と推測されたが,渡瀨(1910a,b)には中川(1900)の明示的な影響はなかった.第3に,従来不明であった中川(1900)の出典はPalmer(1899)であると判明した.ただしPalmer(1899)にある数種の外来種,立法行為の必要性,および要約は中川(1900)には訳出されていない.第4に,複数の史料間で1910年の「渡瀨講話」の内容を検討し,渡瀨のマングース導入の論理過程を明らかにした.第5に,渡瀨(1910a)は出典を明示しない講話記録であるが,渡瀨がジャマイカ島へのフイリマングース導入に関するEspeut(1882),Duerden(1896),およびPalmer(1899)を読んでいた可能性を指摘し,国立臺灣大学図書館の渡瀨文庫にPalmer(1899)の抜刷が保管されていること,またその表紙上に“S. WATASE”,“3 SEP. 1907”,および“IMPERIAL UNIVERSITY, TOKIO”のスタンプ押印を確認した.第6に,1907~1910年における渡瀨のフイリマングース導入の出来事を時系列の表にまとめた.第7に,ジャマイカ島,沖縄,他地域のマングース導入に関する当時唯一の日本語文献であった岸田(1924,1927,1931)と従来入手不能であった1910年出版の3文献の復刻版との詳細な比較によって,岸田の記述文には出典のないものがあり,また渡瀨(1910a)には地名や頭数に引用の誤りがあることを明らかにした.
著者
ムラノ 千恵 東 信行
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.99-102, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
32

青森県弘前市のりんご果樹園地内において,2016年4月に小型哺乳類の捕獲調査を行い,ハタネズミMicrotus montebelliのアルビノ個体を捕獲した.捕獲時の体重は23.0 gで性別はオス,後足の蹠球数は5,全身が白色毛で眼球は赤色であった.4月の捕獲調査で獲数したハタネズミ12個体のうちアルビノ個体は1個体のみで,本個体が捕獲された坑道の周辺には捕獲日以降もトラップを2晩設置したが,小型哺乳類は捕獲されなかった.野生下でハタネズミのアルビノ個体が捕獲されたのはこれが3例目となる.
著者
池田 透
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.95-97, 2006-06-30
被引用文献数
1
著者
安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.195-206, 2007-12-30
参考文献数
62
被引用文献数
5

九州において絶滅のおそれのある樹上性リス類(ニホンリス,ニホンモモンガ,およびムササビ)3種について,江戸時代中期以降の各種資料(論文や報告,鳥獣関係統計,毛皮取引の記録等)をとりまとめ,生息記録と利用の変遷,および現在おかれている状況を種ごとに記述した.また,国,九州本土7県,および日本哺乳類学会のレッドデータブックにおける3種の取り扱いを比較した.九州において,(1)ニホンリスは狩猟による捕獲等の記録はあるものの,過去100年間以上,標本を伴った確実な生息情報がないこと,(2)ニホンモモンガは過去50年間の生息情報が極めて限られていること,および(3)近年ムササビの分布域が縮小してきていることが明らかとなった.これらの種の分布域の縮小に関連してきたと推察される要因として,戦後の拡大造林による天然林ハビタットの減少,樹洞や餌資源の減少,先史時代から続いてきた狩猟圧等を列挙した.今後の課題は,第一にニホンリスとニホンモモンガの残された個体群の探索であり,第二にそれぞれの種の分布域の縮小に,どの要因が,いつ,どれほど寄与したのかを解明することである.九州の絶滅のおそれのある樹上性リス類の保全は,県単位で対処できる課題ではなく,地方レベルで対処すべき課題であり,九州地方版のレッドデータブックの作成が考慮されるべきである.信頼性のある生息情報の収集に努め,残された個体群ごとに適切な保全策を講じるために,国の行政機関による強いイニシアチブの発揮が望まれる.<br>