著者
杉山 幸丸 三谷 雅純 丸橋 珠樹 五百部 裕 ハフマン マイケル A 小清水 弘一 大東 肇 山越 言 小川 秀司 揚妻 直樹 中川 尚史 岩本 俊孝 室山 泰之 大沢 秀行 田中 伊知郎 横田 直人 井上(村山) 美穂 松村 秀一 森 明雄 山極 寿一 岡本 暁子 佐倉 統
出版者
京都大学学術出版会
巻号頁・発行日
2000-09

食う-食われる,エネルギー収支,どうやって子孫を残すか……サルたちはさまざまな生物的・非生物的環境とどのように関わりながら暮らしているのだろうか.本書によって,霊長類社会の研究者はその社会の生物学的背景をより深く理解でき,他の生物の生態研究者は霊長類における生態学的研究の最前線に触れられる.
著者
西田 伸 川原 一之 安河内 彦輝 江田 真毅 小池 裕子 岩本 俊孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.3-10, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
22

宮崎県西臼杵郡高千穂町上村の藤野家と,同じく高千穂町土呂久・佐藤家に保管されていた「熊の手足」の資料についてDNA解析を行い,情報の少ないツキノワグマ(Ursus thibetanus)九州個体群の遺伝的特徴について調査した.聞き取り調査から,明治中期~大正初期に祖母山系で捕獲されたと推測された佐藤家資料において,ミトコンドリアDNA コントロール領域648bp(ハプロタイプ:KU01)の解析に成功した.KU01は西日本系群に含まれる新しいタイプであった.先行研究の結果と合わせて考えると,絶滅したとされる九州個体群は他国内集団とは遺伝的に分化した独自の地域集団を形成していた可能性がある.
著者
河合 雅雄 ベケレ A. ワンジー C. 大沢 秀行 宮藤 浩子 岩本 俊孝 庄武 孝義 森 明雄 WANZIE Chris S. BEKELE Afework
出版者
(財)日本モンキーセンター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1990

初年度は、エチオピア南部ワビシェベリ河流域で調査を行った。ワビシェベリ河に沿った地域でも雑種化が起こっている。雑種は、クラインをなしている。2種の境界域のマントヒヒ側では、はっきりした雑種(=両種が半々の雑種)域は狭いが、低い雑種化の程度で、広範囲に雑種化が起きている。それは、オトナのアヌビスヒヒ、あるいはアヌビスヒヒに近い雑種ヒヒが、ソリタリ-として非常に遠くまで移動しているためである。以上、アヌビスヒヒが、マントヒヒのオスのワン・メイル・ユニットを越えて、交雑するのは、困難だが、不可能ではないようだ。バレ地方のマントヒヒは、これまでのどの報告よりも高度の高い乾燥地帯(2400m)に生息しており、その高度はゲラダヒヒの生息域である。マントヒヒのアクティヴィティや食性を調べ、社会的適応過程に対する基礎的資料を得た。彼らは低地川辺林に棲む他のマントヒヒに比べ、遊動に長時間を費やしている。これは、高度が高く果実のなる木が少ないためで、それを求める移動である。これ以上の移動時間の増加は、社会行動を犠牲にすることであり、その意味でこの地は、彼らの社会の維持の限界である。今後、彼らの系統、生息環境への適応過程、あるいは、同所的に棲むゲラダヒヒとの棲み分けの問題を検討する上で、貴重な観察結果である。マントヒヒの群れの動きは、大きなまとまったグル-プを作って広範な地域を移動しており、ユニット単位に分解して、別々の地域へ出現することは非常に少なかった。しかし、一つの地域内で見れば、崖の下側、あるいは、崖の中腹での群れの広がりには、ワン・メイル・ユニットを含め、いろいろなサイズのグル-プの下部単位を見ることができた。さらに、マントヒヒの群れでの音声の分析から、社会構造を調べ、複雑な重層社会の様相を明らかにしつつある。平成3年度は、エチオピア南部の治安が悪く、調査が困難だった。そのため、マントヒヒと同じく重層社会をつくるゲラダヒヒをエチオピア北部で調査した。これは、我々が、エチオピア南部で発見したゲラダヒヒの新しいポピュレ-ションと北部のポピュレ-ションの比較するための基礎資料を得ることを目的としている。アジスアベバの北140kmの高地平原の東の端アボリアゲル村の崖に棲むゲラダヒヒの群れ(ショワ州)を調査した。群れは、1カ月半かけて人付けし、個体から5mの距離で観察できるようになった。158頭からなる群れで、これまで調べられたセミエン国立公園と較べ、オトナのオスの割合が著しく低かった。そのためワン・メイル・ユニット当たりのオトナのメスは、8頭程度で、これまでの2倍だった。これまでの観察とは異なり雄グル-プには、オトナのオスが含まれず、ワン・メイル・ユニットには、セカンド・オスもいなかった。さらに、1つのユニットは、オトナのオスを含まず、メスとこどもたちだけで構成され、オスなしユニットとして持続した。以上から、グラダヒヒのワン・メイル・ユニットを成立させている機構のうち、オス間の競合を取り去った場合を検討でき、その条件下での群れの社会構造の特徴を検討した。庄武孝義は、これまで血液サンプルが全く得られていなかった、アジスアベバの北800kmセミエン国立公園で、グラダヒヒの捕獲を行った。53頭の捕獲を行ったが、そのうち、43頭の血液サンプルを得ることができた。血液サンプルは、直ちにアジスアベバ大学の生物学教室に運び、赤血球、白血球、血漿に分離し、-20度Cで帰国時まで保存した後、凍結状態で日本に持ち帰った。ショワ州のゲラダヒヒとセミエンのものとは亜種が違うとされるが、今回得られたサンプルと、以前ショワ州のフィッチェで庄武が得た血液タンパク質の遺伝的変異の結果とを比較することで、ゲラダヒヒの地域集団の遺伝学的違いを検討する。大沢秀行は、カメル-ン国、サハラ南縁地域で、パタスモンキ-の社会行動、繁殖行動の研究を行った。群れ外オスによる盗み交尾およびその直後に加えられるハレム・オスによる精子混入、それに対する盗み交尾オスによる妨害など、繁殖をめぐるオス間の競争の実態を見た。以上、乾燥地帯でのワン・メイル・ユニット成立の基盤を明らかにした。
著者
岩本 俊孝 ツルハ アデフリス テフェリ ゲメチュ 星野 次郎 庄武 孝義 森 明雄 河合 雅雄 TURGA Adefris ラフェリ ゲメチュ
出版者
宮崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本研究の主たる目的は、エチオピア南部高原に生息するゲラダヒヒ、マントヒヒ、アヌビスヒヒ3種の生態的地位の重なり、社会構造、遺伝的距離を明らかにすることにより、3種の種分化過程を分析・復元することであった。さらに、アヌビスヒヒとマントヒヒとの間で生じている雑種個体群の分布域の広がり、雑種化を可能とした社会的機構、雑種ヒヒの遺伝的組成等を研究することにより、霊長類の種の競合及び新種形成のメカニズムに迫ろうとした。まず、アヌビスヒヒとマントヒヒの雑種形成過程についてであるが、南部高原のアルシ、バレ州においてこれまで分布上問題のあった2カ所について、より広範で詳細な分布調査を行った。森(1991)が雑種の存在を指摘していたアルシ州のセル高原地方では、近くにアヌビスヒヒの個体群は発見されていなかった。そのため、オスのアヌビスヒヒの長距離分散、あるいは低地乾燥地帯に生息するアヌビスヒヒ群の存在が予見されていた。しかし、今回の踏査でもアヌビスの個体群の存在は確認されず、逆に低地河床付近に生息するマントヒヒがアヌビスヒヒに似て体毛及び皮膚が暗色化する変異を持つことが発見された。そのため、この高地で先に雑種と認定された個体群は雑種ではなく、低地から遊動してきたマントヒヒの可能性が高くなった。これにより、マントヒヒ群の移動性の高さと形態的変異の大きさが改めて認識されるとともに、アヌビスヒヒの低地乾燥地帯での分布の可能性が否定された。他の1カ所の分布調査地はバレ州のセバジャ付近であり、前の調査で典型的な両種間の雑種が発見されていた地点よりアヌビス側に位置する。この地より東のマントヒヒ側では、東に行くほどアヌビス的特徴が急速に減少していたが、アヌビス側ではアヌビス、マント、雑種ヒヒ3個体群がモザイク状に入り組んで混在していることが明らかになった。すなわち、両種の雑種域の形成はマントヒヒの移動力の高さと、侵略性によるものである可能性が高いと結論できた。なお、初年度、政情不安のためこの地に入ることができなかったため、雑種ヒヒの捕獲作業が予定通り進まず、血液採取による遺伝学的分析は、行えなかった。しかし、平成5年度には、次期研究のための捕獲可能個体群の探索と、人付けの作業が行われた。アルシ州では、ゲラダヒヒとマントヒヒが同所的に生活している。両種の共存を可能にしているメカニズムを生態学的に把握するため、群れ構成、土地利用、食性分析、活動リズム、両種の出会い時の相互干渉などを観察した。その結果、両種はとまり場として同じ崖を共用しているだけで、食性、土地利用の仕方において全く異なった生態的特徴を持っており、その違いが共存を可能にしていると結論された。両者は出会うと比較的容易に融合するが、群れとしてはゲラダヒヒの方が劣位である。出会いの頻度が高いことを考えれば、両種の雑種化の可能性もある。遺伝学的分析が今後の重要な研究課題となる。平成4年度、南部高原での調査が政情不安のため実現できなかったので、北部高原のショワ州のゴシメダとゴンダール州のセミエン国立公園で、ゲラダヒヒの社会・生態学的研究を行った。その研究結果を、平成5年度に行った南部高原のアルシ州でのゲラダヒヒの資料と比較した。アルシ州のゲラダヒヒは、これまで知られている内では最も乾燥した厳しい環境下に生息しており、従来の常識を破る適応力を示していた。すなわち、食性において高い果実食の割合を示し、移動に長時間を費やしていた。また、社会行動でも、単オス群間の親和性が低く、遠距離を伝えるために音声が発達している等特殊な面が見られ、この土地のゲラダヒヒ個体群の、北部個体群からの遺伝的独自性(亜種の可能性)を十分予測させる観察結果を得ることができた。また、この南部高原で標高約1600mという極めて低標高の乾燥地帯に生息する群れを発見することができ、ゲラダヒヒの適応放散過程を知る上での貴重な生態資料を得た。また、今回の調査では、ゲラダヒヒの捕獲は不可能であったが、これまで北部高原で収集していた血液サンプルを分析し、ゲラダヒヒの個体群の起源は分布北限(セミエン国立公園)あたりにあるのではないかということ推測させる結果を得た。このデータは南部で今後得られる血液サンプルと比較のため利用される。以上、予知不可能な政情不安による調査地の限定という障害はあったが、エチオピア高原におけるヒヒ類の適応放散及び雑種化の過程では、マントヒヒの分散力・適応力の高さと、それを可能にする崖環境、すなわち峡谷系の発達が重要な鍵であったことが本研究で明らかになった。
著者
小野 勇一 伊澤 雅子 岩本 俊孝 土肥 昭夫 NEWSOME Alan KIKKAWA Jiro
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

代表者らのグル-プは,森林に起源を持つといわれている食肉目の社会進化を明らかにするために、これまでネコ科、特に小型種について研究を進めてきた。特に小型ネコ科の社会形態とその維持機構を、様々な環境で野生化したイエネコの研究によって明らかにしてきた。すなわち、小型ネコ科の社会の適応性は生息環境の資源量と強い関連性を持つことが示唆された。この適応性についての試論は国内では野生種の小型ネコ、イリオモテヤマネコとツシマヤマネコの調査によって、すでに検討を始めている。ネコ科の社会進化を論ずる上で、イエネコの人間社会と完全に隔離された自然状態での社会形態と、その起源種である野生種の小型ネコの社会形態と比較することは重要なポイントとなる。しかしながら、わが国において野生化したイエネコの生息域とその中の資源量は、ほとんどの地域で人間生活との関連が深く、完全に自然状態で野生化したイエネコの生息域はない。本研究では、オ-ストラリア大陸内部に人間社会の影響がほとんどない地域で野生化したイエネコを対象にして、その社会生態と環境資源利用の調査を実施した。オ-ストラリアには西洋人の入植以来200年間にイエネコが野生化し、現在では大陸のほとんどの地域に分布している。人間生活の影響をまったく受けない森林地帯・半乾燥地帯・砂漠などに生息している野生化したイエネコは、その始原種であるヤマネコと同様に、ハンティング(狩り)によって生活をしている。一方、この野生化したイエネコは、オ-ストラリア固有の貴重な動物相に重要な影響を及ぼしている。これらの固有種の保護のために、野生化したイエネコの生態学的調査も本研究の重要な課題のひとつである。調査は、ニュ-サウスウェルズ州のヤソン自然保護区で行った。この保護区内に調査地を設け、1988年と1989年の2年間に約12ヶ月間滞在して資料を収集した。調査地内のネコの大部分を補獲し、発信機あるいは耳環を装着して個体識別し、テレメトリ-法と直接観察によって行動が追跡された。この地域の野生化したイエネコは、年中ほとんどの餌を野生化したアナウサギに依存していることが明らかになった。このことから、2年目にはアナウサギの生態学的調査も行った。調査の結果は、完全な自然条件のもとで野生化したイエネコの社会形態の基本型は、小型ネコの野生種とほとんど変わらないこと、また生息地の資源量がその基本型の変異に強い影響を持つことが明らかとなり、研究グル-プの試論が証明される大きな成果が得られた。2年間に渡る継続した資料が得られたことから、調査地内のネコの定住性と分散過程の資料が得られ、哺乳類に頻繁に見られる「雄に偏よった分散」を実証でき、またその分散の要因が、定住雄の繁殖活動によることが観察によって明らかにされた。さらに分散が確められた個体の分散過程の資料も得られた。これらの結果は、ネコ科の社会形態の維持機構解明に重要な手がかりを与えるものである。次にこの地域の野生化したイエネコは年間の餌の大部分をアナウサギに依存していることから、単純な食う=食われる関係のもとに成り立っていた。このことからネコのホ-ムレンジの大きさは、餌資源の季節的な変化に対応して決定されること、またネコの繁殖も餌の利用しやすい時期と同調していることを用いて、食う=食われる関係のシュミレ-ションモデルが導かれた。また、保護区の鳥類相の調査も平行して行い、ネコによる被食の程度は、主な餌であるアナウサギの個体数が最も少なくなる厳冬季にはかなりの程度補食されていることが明かとなった。このことから、小型哺乳類の生息が少ない地域や季節には、野生化したネコのオ-ストラリア固有動相への影響は大きいことが示唆された。本研究で得られた研究結果は各分担者ごとにサブテ-マごとに論文として公表され、また全体的には報告書の形でまとめられた。この研究成果は、特にオ-ストラリアでこれまで大きな問題となっていた野生化したイエネコについて多くの新しい知見を与えるもので野生動物保護管理のうえで貢献するものと期待される。
著者
岩本 俊孝 坂田 拓司 中園 敏之 歌岡 宏信 池田 浩一 西下 勇樹 常田 邦彦 土肥 昭夫
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-17, 2000-06-30
被引用文献数
10

The pellet count method proposed by Morishita et al. (1979) has been widely used in Japan to estimate sika deer population density. However, it is limited in that its usage is only for year-based regular pellet samplings. It cannot be used for irregular sampling periods. This study reveals this limitation through experimental findings that pellets do not decay at a constant rate throughout a year. This study also proposes a modified method applicable to any seasonal/regional sampling by taking into consideration seasonally variable decay rates of pellets. In order to estimate month-specific decay rates of pellets from meteorological data, linear regression and fractional equations were established. Then, employing one of the equations, a computer program was written to estimate sika deer density. This modified method is useful for periodic sampling in which pellets are regularly removed after counting, as well as for one-time sampling made in any region and any month. Discrepancies between the results of density estimations from this modified method and those from the conventional one are also discussed.糞粒消失率を年中一定と仮定した糞粒法によるシカの個体群密度推定式は、1年を単位にした調査以外では使えないことが明らかになった。それは、季節的に糞の消失率が大きく異なるからである。この研究では、季節的に異なる消失率をあらかじめ推定することによって、どのような時期や土地で調査をおこなっても、また任意の調査ルーチンを作ってもシカの密度が推定できる計算方法を提唱する。そのために、土地の気象条件により糞粒の消失率を求めるための推定式を考案した。また、その式により得られた各月の連続消失率を使ってシカの密度推定ができるコンピュータプログラムを開発した。本研究の中で明らかになった糞粒の消失率は、従来使われてきた率に比べ数倍高いものであった。今後は、この違いを生んだ原因を探る研究が必要である。
著者
坂田 拓司 岩本 俊孝 馬場 稔
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;特別天然記念物であるカモシカ <i>Capricornis crispus</i>の生息状況を把握するために,文化庁は 1980年代から調査を実施している.九州においては大分・熊本・宮崎 3県にまたがる九州山地を中心に生息しており,3県合同の特別調査がこれまでに 4回実施されている.特別調査では糞塊法による生息密度の推定に加え,死亡要因の把握や植生調査等を実施し,カモシカの生息状況と生息環境の総合的な把握に努めている.1988・89年の第 1回特別調査よって九州における本種の生息状況が初めて明らかになり,分布の中心となるコアエリアとそれらを結ぶブリッジエリアが連続していることが明らかになった.1994・95年の第 2回では九州全体で約 2000頭と推定され,いくつかの課題はあるものの増加傾向にあると評価された.ところが2002・03年の第 3回で大幅に生息密度が減少し,推定頭数は約600頭と激減した.さらに分布域が低標高化した.2011・12年の第 4回では低密度化と低標高化に変化は見られず,絶滅の危機は継続していると評価された.本報告では過去 4回の結果を概観し,九州におけるカモシカ個体群の変遷とその要因,併せて絶滅危機回避に向けた展望について述べる.<br>&nbsp;カモシカ分布域が人里に近い低標高地に散在することが明らかになった現在,これまでどおりの保護政策では対応できなくなっている.カモシカ個体群は,近年のシカ個体群の増大による様々な間接的影響を受けており,シカ個体群のコントロールが急務である.しかしながら特定種の対策に限るのではなく,国有林における潜在植生への更新を進めるなど,生態系全体を見渡した保護管理が求められている.
著者
杉山 幸丸 岩本 俊孝 小野 勇一
出版者
Primate Society of Japan
雑誌
霊長類研究 = Primate research (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.197-207, 1995-12-01
被引用文献数
1 7

The number of Japanese macaques (<i>Macaca fuscata</i>) has rapidly increased under artificially provisioned conditions. At Takasakiyama it increased by 6.9 times during 22 years from 1953 to 1975 when food was given at 618kcal/day/head on average. To control the population growth, provisioning was decreased to 334kcal/day/head from 1975, after which, it increased only by 1.2 times for 19 years until 1994. Destruction of the forest from the increased number of monkeys has continued, however, through eating fruits, shoots and young leaves of the main food trees. Yearly consumption effeciency of monkeys in the forest for 1990 was calculated as 8.7%, which is near to the African elephant. As a result, the vegetation type is changing from that of natural forest. Computer simulation revealed if the population decreases to 60% of its current size and 282kcal/day/head of artificial food is given, consumption efficiency will decrease to 5.8% and the population can be kept almost stable. Further manipulation of the monkey population is necessary at present by altering mortality, natality or both. Supply of many free-ranging monkeys to biomedical experiments should not be recommended from the stance of animal welfare and the quality of experimental animals. On the other hand, temporary birth-control of each cycling female is to be considered. The principle of population control is to keep population parameters at about the level of the natural condition.