著者
宮下 富夫
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.97-101, 2004 (Released:2008-04-09)
参考文献数
11
被引用文献数
1
著者
大井 徹 中下 留美子 藤田 昌弘 菅井 強司 藤井 猛
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-13, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
38
被引用文献数
4

これまで明らかではなかった西中国山地のツキノワグマの食性について,山中で採取した糞と人里周辺で有害捕獲された個体の胃内容物を基に,食物品目毎に出現率,偏在度指数,相対重要度を算出し,季節変化と年変化を分析した.その結果,春には植物の栄養器官中心,夏にはしょう果中心,秋には堅果中心へと季節変化するという本州中部以北のツキノワグマの食性と類似の傾向がみられた.ツキノワグマが越冬するために重要な秋の食物においては,コナラ属果実,ミズキ属果実が,相対重要度が他のものより顕著に高く,かつその年変動の程度が小さいため,通常,ツキノワグマが安定的に依存している食物と考えられた.一方,ツキノワグマの大量出没時には,この二種類の果実の相対重要度が顕著に低くなるという特徴が見られ,これらの樹種の結実程度がクマの人里への出没に大きく影響している可能性が示唆された.また,人里に出没したクマの食物では,これまで指摘されてきたカキ,クリの果実,農畜産物以外に,草本の葉など植物の栄養器官の相対重要度が高いことが特徴的であった.
著者
中島 福男
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.75-80, 1997-10-08
参考文献数
20
被引用文献数
1
著者
中本 敦 佐藤 亜希子 金城 和三 伊澤 雅子
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.53-60, 2009-06-30
被引用文献数
3

沖縄諸島におけるオリイオオコウモリ<i>Pteropus dasymallus inopinatus</i>の分布と生息数に関する調査を2005年8月から11月と2006年4月から5月に行った.調査した25島のうち,新たに8島[伊是名島,屋我地島,奥武島(名護市),瀬底島,藪地島,奥武島(南城市),瀬長島,阿嘉島]でオオコウモリの生息を確認し,これまで生息が記録された島と合わせて19島となった.沖縄島の周辺各島で見られる個体群は,沖縄島の個体群サイズに対して,数頭から数十頭と非常に小さいものであった.また,その個体数は沖縄島から遠い距離にある島ほど小さくなる傾向が認められ,50 km以上離れた島では生息が確認できなかった.このような分布パターンから沖縄諸島で見られる個体は沖縄島からランダム分散した個体であると思われた.<br>
著者
上田 浩一 安田 雅俊
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.151-157, 2016

<p>九州の西に位置する長崎県の五島列島における,絶滅種カワウソ<i>Lutra lutra</i>の過去の分布を明らかにするために,公立図書館等における文献調査と年配の地域住民への聞き取り調査を行った.カワウソに関する9件の文献資料と8例の証言から,かつて五島列島にカワウソが広く分布したことが強く示唆された.本地域におけるカワウソの生息記録は,文献では1950年代まで,目撃情報では1981年まであった.本地域個体群の絶滅には,かつての乱獲と1928年の禁猟以降の密猟が大きく寄与したと考えられるが,生息地の消失も付加的に影響した可能性がある.今後,さらなる調査によって,本地域におけるカワウソの記録が蓄積されるとともに,写真や毛皮といった物的証拠が発見されることを期待する.</p>
著者
阿部 豪 青柳 正英 的場 洋平 佐鹿 万里子 車田 利夫 高野 恭子 池田 透 立澤 史郎
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.169-175, 2006-12-30
被引用文献数
1

箱ワナによる外来アライグマ捕獲における諸問題である 1)他動物の錯誤捕獲,2)小動物による餌の持ち逃げや誤作動,3)トラップシャイ個体の存在,4)捕獲個体によるワナの破壊と逃亡,5)ワナの購入・運搬・管理に係るコスト高などの改善を図るため,アライグマ捕獲用に開発されたエッグトラップ7個を用いて試用捕獲(200 trap nights)を行った.その結果,野生個体としては高齢のアライグマ2頭(5歳オス,6歳メス)をいずれも無傷で捕獲した.捕獲期間中に錯誤捕獲は1例もなく,また誤作動は本体内部が破損した1例だけだった.さらに,鉄杭にワナを吊るす設置法では,他動物による餌の持ち逃げも確認されなかった.今回の結果から,エッグトラップは一般的な箱ワナに比べて小型軽量,安価で,メンテナンスも容易であるため,箱ワナに代わるか,もしくは箱ワナとの併用によって,より捕獲効率を高めうる捕獲用具になる可能性が示唆された.
著者
亘 悠哉
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.27-38, 2011-06-30

外来種の侵入による生物多様性・生態系機能の低下,および経済被害はきわめて甚大で,各地域特有の自然や暮らしを脅かす切実な問題となっている.こうした問題を解決するために,各地で外来種駆除が実施されており,近年では根絶成功例や在来種の回復など,駆除による対策の有効性が成果として現れてきている.一方で,たとえ外来種を減少させることができたとしても,インパクトを受けていた生態系が必ずしも回復するとは限らず,時には状況がさらに悪化してしまう場合もある.このような知見は個々の論文で報告されてきたものの,全体像が整理され示されたことはこれまでになかった.本総説では,このような知見を整理し,外来哺乳類の影響の環境依存性や非線形性,ヒステリシス,外来種間の相互作用などを,意図しない現象の理由として挙げ,そこには,食性のスイッチングやアリー効果,外来種の侵入と生息地改変の複合効果,メソプレデターリリースなどのプロセスが関わりうることを紹介した.また,それぞれのプロセスに応じた対処法として,在来種の回復の評価プロセスの導入や生息地管理,他の生物の管理などをリストアップした.以上のような対処法が取り入れられた総合的な外来種対策の実践例は,近年報告が増えはじめてきた段階である.このような個々の実践例を積み重ね,対処法の有効性を検証していくことは,個々の地域の問題を解決するだけでなく,さらなる実践例を生み出す上でも重要な役割を果たしていくであろう.<br>
著者
曽根 啓子 子安 和弘 小林 秀司 田中 愼 織田 銑一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.151-159, 2006 (Released:2007-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
2

日本で野生化し,農業害獣として問題となっているヌートリアMyocastor coypusによる農業被害の実態を把握することを目的として,農業被害多発地域の一つである愛知県において,被害の発生状況,とくに被害作物の種類とその発生時期,ならびに被害が発生しやすい時間帯と場所についての聞き取り調査を行った.また,穿坑被害を含む農業被害以外の被害の有無についても併せて調査した.ヌートリアによる農業被害の対象となっていたのは稲(水稲)および23品目の野菜であった.稲の被害(食害および倒害)は,被害経験のある34市町村のうちほぼ総て(32市町村/94.1%)の市町村で認められ,最も加害されやすい作物であると考えられた.とくに,育苗期(5-6月)から生育期(7-9月)にかけて被害が発生しやすいことが示唆された.一方,野菜の被害(食害および糞尿の被害)は収穫期にあたる夏期(6-9月)もしくは冬期(12-2月)に集中して認められた.夏期には瓜類(16市町村/47.1%),芋類(11市町村/32.4%),根菜類(8市町村/23.5%),葉菜類(3市町村/8.8%),豆類(3市町村/8.8%)など,冬期には葉菜類(17市町村/50.0%)ならびに根菜類(10市町村/29.4%)でそれぞれ被害が認められた.個別訪問した農家(18件)への聞き取りおよび現地確認の結果,主たる被害の発生時間帯は,日没後から翌朝の日の出前までの間であると推察された.農業被害が多く発生していた場所は,河川や農業用水路に隣接する農地であり,とくに護岸されていないヌートリアの生息に適した場所では被害が顕著であった.また,農業被害の他にも,生活環境被害(人家の庭先への侵入)および漁業被害(魚網の破壊)が1例ずつ認められたが,農業被害とは異なり,偶発的なものと推察された.今後は,被害量の推定を目指した基礎データの蓄積,ならびに捕殺以外の防除法の開発が重要な課題であると考えられた.
著者
南 正人 菊地 哲也 福江 佑子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.189-196, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
30

ニホンジカ(Cervus nippon)の増加に伴ってくくりわなの設置が全国的に増えている.くくりわなは,捕獲対象を限定できないために錯誤捕獲が発生し,アニマルウエルフェア上も問題が多く,くくりわなの使用の是非や設置法の改善などの検討が行われている.浅間山南麓の長野県軽井沢町で,くくりわなで捕獲されたニホンジカをツキノワグマ(Ursus thibetanus)が摂食する例が多く見つかった.ニホンジカの死体の残渣に執着し攻撃的になるツキノワグマも見られ,ニホンジカの捕獲従事者や山林利用者などにも危険な状態となっている.くくりわなの新たな問題として,その実態を報告する.2017年4月から2019年6月までに,ニホンジカ178頭(雄40頭,雌と幼獣138頭)とイノシシ(Sus scrofa)66頭(雄26頭,雌39頭,幼獣1頭)がくくりわなで捕獲された.そのうち,イノシシの幼獣1頭,ニホンジカの雌と幼獣64頭が,ツキノワグマによって摂食された.ニホンジカの雄やイノシシの成獣は全く摂食されなかった.さらに,摂食された動物のうち,イノシシの幼獣1頭とニホンジカの雌と幼獣39頭については土をかけられた土饅頭となっていた.2019年にはニホンジカを食べているツキノワグマが人間の接近にもかかわらず摂食を続け,時には威嚇することがみられるようになった.ツキノワグマがいる地域でくくりわなを設置する場合は,このような危険性があることを周知するとともに,このような危険性を考慮に入れてくくりわなの使用を検討する必要がある.
著者
千藤 咲 森阪 匡通 若林 郁夫 村上 勝志 吉岡 基
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.169-177, 2021 (Released:2021-08-26)
参考文献数
28

動物の社会構造解明のためには,個体識別を行い,個体間の相互作用を観察することが必要である.しかし,背びれも体色パターンもない野生下のスナメリでそれを行うことは困難である.そこで,飼育個体を対象に行動観察を行い,個体間関係とその頑強性を明らかにすることを目的とした.鳥羽水族館と南知多ビーチランドで飼育されているオス5個体,メス6個体を対象に,個体同士の社会行動を目視とビデオ録画により,計54日間,437時間観察・記録した.観察された社会行動のうち,背擦り行動についてバウト構造が認められたため,バウト分析を行い,2分以内の背擦り行動を同一バウトとした.水槽内の同居個体の構成が変化することを社会的撹乱とし,撹乱の有無や前後で個体間関係の変化を比較したところ,撹乱がない時に社会行動を行った8ペアのうち3ペアは,長期的に安定した親和的な関係性を示し,この関係性と性別や年齢などの組み合わせには明確な関連はみられなかった.また,これら3ペアには,撹乱の前後で関係性が変化しなかったペア,いったん敵対的に変化しても撹乱翌日には元の関係性に戻ったペアがいた.以上の結果から,飼育下のスナメリには社会的撹乱に対して頑強な,安定した個体間関係を持つペアが存在する可能性が示唆された.
著者
永田 純子 亘 悠哉 高木 俊人 立澤 史郎 兼子 伸吾
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.109-117, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
57
被引用文献数
1

鹿児島県奄美群島の喜界島には,2002年ごろに鹿児島県本土の養鹿場から人が持ち込んだ15頭ほどのニホンジカ(Cervus nippon)に由来する個体群が国内外来種として野外に定着している.本研究では,これまで不明であった喜界島に定着するニホンジカの起源を明らかにするため,喜界島の野外で採集した糞と駆除個体の肉片サンプルを利用し,ミトコンドリアDNAのコントロール領域における塩基配列998 bpを決定した.そして,他地域のニホンジカの遺伝情報も整理し,遺伝的データに基づいて起源を推定した.一連のデータセットから19ハプロタイプが判別され,喜界島産のハプロタイプは馬毛島産固有のHap1と同一であった.本研究の結果と先行研究の情報なども考慮すると,喜界島のニホンジカは馬毛島を起源とする可能性が高い.喜界島へのニホンジカの移入の問題は,シカの移入と飼育個体の逸出が近年になっても繰り返されていることを示している.シカの移動および逸出が外来生物問題を引き起こすリスクを有することを踏まえた,飼育シカ類の移動と飼育に関する厳格な管理制度の構築が求められる.また,喜界島では,定着したシカによる自然植生への影響も懸念される.できる限り早い段階で,適切な個体群管理を遂行できる体制の構築が望まれる.
著者
吉川 琴子 谷地森 秀二 加藤 元海
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.329-336, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
12

ニホンカワウソは1979年に高知県須崎市の新荘川で目撃された個体を最後に,現在では絶滅種とされている.これまでの報告では,目撃日時や場所に関する情報の蓄積が乏しかったため,1979年に目撃されたニホンカワウソに関する行動範囲や個体数などの詳細はわかってない.本研究では,須崎市教育委員会生涯学習課に保管されていたニホンカワウソの資料を電子化して保存するとともに,可能な限り目撃情報の日時と場所を特定し情報を整理した.新荘川周辺で時間や場所を特定できた目撃情報は276件あり,そのうち1979年の情報が111件であった.1979年は,短期間に首に身体的な特徴をもった個体ともたない個体が局所的に同時に見られた.加えて,同時期に人慣れしている個体としていない個体が局所的に見られたことから,この時期に目撃されたニホンカワウソは行動的にも特徴が異なっていた.1974年にはメスの個体,1975年にはオスの個体が新荘川周辺で生存していたことがわかっている.ニホンカワウソの寿命は10–15年と推定されていることから,1979年の新荘川周辺には複数個体生存していた可能性が示唆される.
著者
中村 玄 加藤 秀弘
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.73-88, 2014-06-30 (Released:2014-06-30)
参考文献数
25

コククジラEschrichtius robustusは北太平洋に分布し,日本を含むアジア周辺海域に生息する西部系群と北米側に生息する東部系群の二系群に分けられている.しかし近年,衛星標識を用いた研究などから夏季に西部系群の摂餌海域と考えられているサハリン沖に出現した個体が,冬期に東部系群の繁殖海域と考えられているオレゴン近海に回遊した例などから,従来の系群構造について再考が迫られている.本研究は1990–2005年にかけて,ストランディングや混獲などにより日本の太平洋沿岸域から得られたコククジラ5個体を対象に,頭骨を中心とした全身骨格の計測値および骨学的特徴の記載をおこなうとともに,既報データをもとに蔚山(n=1),中国(n=2),カリフォルニア産(n=1)の個体との骨格形態を比較した.頭頂部を中心に各海域に特徴的な形質が認められ,日本産個体では前上顎骨が鼻骨を包むように緩やかにカーブしており,前上顎骨後端が尖っておらず,上顎骨の後端より後方に位置していた.また,鼻骨の前縁部が央付近でやや前方に突出し,性成熟個体では左右の鼻骨が後方で癒合していた.頭頂部に加え,胸骨と骨盤痕跡の形状においても海域間に明瞭な違いが認められ,いずれの形質も日本産個体はカリフォルニア産の個体に類似した形状を示していた.本研究結果は東部系群が近年,日本沿岸域へ分布域を拡張している可能性を示唆している.
著者
高中 健一郎 安藤 元一 小川 博 土屋 公幸 吉行 瑞子 天野 卓
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-9, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
37
被引用文献数
1

小型哺乳類の側溝への落下状況を明らかにすることを目的とし,静岡県富士宮市にある水が常時流れている約1.5 kmの側溝(深さ45 cm × 幅45 cm,水深10~25 cm,流速約1.3~1.6 m/s)において,2001年6月から2004年9月の間に落下個体調査を131日行った.その結果,食虫目6種,齧歯目7種,合計2目3科13種152個体の落下・死亡個体が確認でき,側溝への落下は1日あたり平均1.16個体の頻度で起きていることが明らかになった.落下していた種は周辺に生息する小型哺乳類種の種数81%に及び,その中にはミズラモグラ(Euroscaptor mizura)などの準絶滅危惧種も含まれていた.また,ハタネズミ(Microtus montebelli)の落下が植林地より牧草地において顕著に多くみられ,落下する種は側溝周辺の小型哺乳類相を反映していると思われた.側溝への落下には季節性がみられ,それぞれの種の繁殖期と関連している可能性が示唆された.以上のことから,このような側溝を開放状態のまま放置しておくのは小動物にとって危険であり,側溝への落下防止策および脱出対策を講じる必要があると考える.