著者
田村 陽介
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.30-33, 2011-01-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
7

水素自動車の一部の安全対策を取り混ぜながら,(財)日本自動車研究所で実施した水素自動車の火災時の振る舞いやガソリン車火災との比較および水素漏洩着火試験の結果を紹介し,危険なガスとイメージされる水素ガスを見直してみる。たとえば,水素火炎は視認できないため,消火活動に支障を来すとされるが,実際の火災時には水素火炎を視認することができる。また,水素は少量でも漏れたら危険だというイメージがあるが,実験の結果,自動車の構造上,容易に水素を溜めることができないことや,エンジンルームコンパートメント内では,濃度20%程度で着火させても一瞬燃えるだけで,損傷がないことなどを紹介し,水素の安全性について見直してみる。
著者
金子 静知
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.272-273, 2009-06-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
3

中学・高校・大学などで実験に必要な純水・超純水はどのような水質なのか,どのように精製されているのか,基本となる部分を知ることで正しい結果(再現性のある結果)が得やすくなる。ここでは,一般的な精製技術(蒸留,膜ろ過,イオン交換,連続イオン交換,活性炭,紫外線)について取り上げる。また単一の精製技術だけでは十分な水質は得られないことから,実験に最適な純水・超純水が得られる組合せについても記述する。
著者
永田 和宏
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.382-385, 2007-08-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
2

製鉄の歴史は4000年の昔に遡る。長い間,鉄は高さ約1.2mの炉を用いて人力で送風しながら木炭を燃焼し,発生する一酸化炭素ガスを還元剤として鉄鉱石から造られた。塊鉄鉱石を用いた西洋では低炭素濃度の軟鉄を製造し浸炭によって硬くした。アジアに伝わった製鉄法は粉鉄鉱石を用いて初期の頃から高炭素濃度の鋼や銑鉄(せんてつ)を製造し,6世紀後半に我国に伝わって「たたら製鉄」に発展した。一方,14世紀後期に西洋で高炉が発明されそれまでとは異なった方法で銑鉄が製造され現代に至っている。これらの製鉄原理を述べ,「たたら」による最も簡単な鋼造りの方法を紹介する。
著者
藤村 弘行
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.560-563, 2016-11-20 (Released:2017-05-01)
参考文献数
9

造礁サンゴには褐虫藻と呼ばれる数十マイクロメートルの単細胞の藻類が共生しており,この褐虫藻の光合成で作られた光合成産物をエネルギー源としてサンゴの軟組織下部にある骨格との隙間(石灰化部位)にカルシウムイオンを送り込む。一方でミトコンドリアでの有機物分解で生じた二酸化炭素は炭酸水素イオンや炭酸イオンとなって,石灰化部位に運ばれ炭酸カルシウムが生成する。サンゴの白化現象は,強い光で破壊された褐虫藻の光合成系が高水温により修復されなくなり,サンゴと褐虫藻とのこのような物質のやり取りを通した共生関係が崩れることによって生じる。最近では海洋酸性化がサンゴ礁への新たな脅威となり,サンゴ礁は衰退の一途をたどっている。
著者
増田 泰大 今野 貴幸 井上 正之
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.434-437, 2020-10-20 (Released:2021-10-01)
参考文献数
21

高等学校「化学」の教科書に記述されているフェーリング液の還元とベネジクト反応について,モデル化合物および単糖を用いて還元性の原因となる構造を調べた。その結果,グルコース,マンノースおよびフルクトースにおいてα-ヒドロ-α-ヒドロキシカルボニル構造-CH(OH)CO-がこれらの試薬との反応の原因となる構造であることを示す結果が得られた。
著者
飯塚 英昭 矢島 毅彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.208-211, 2007-05-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

アミノ酸の吸収および代謝は,他のアミノ酸や生体成分に影響される。トリプトファンも例外ではない。トリプトファンは,血液中でアルブミンと結合して存在するアミノ酸で多くの代謝産物を生じる。これらの多くが生理的に重要であり,疾病の原因物質と考えられているものもある。ここでは,主にトリプトファンとセロトニン経路の代謝産物について述べ,疾病などとの関連についても述べる。
著者
伊藤 美千穂
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.616-619, 2016

<p>日本古来の奥ゆかしい伝統に,沈香<sup>*1</sup>などの香木を穏やかに暖めて立ち上がる芳香を"聞く"香道がある。また,西洋でアロマセラピーが提唱されるより以前に,北宋の詩人である黄庭堅により香の精神的・身体的効能を謳った漢詩「香十徳」<sup>*2</sup>が書かれており,日本でも広く知られていた経緯がある。しかし,現代の薬学分野では,主に再現性や定量性の問題からにおい自体やにおい成分の薬理効果などは研究対象になりにくいものとされ,これらについての研究は精力的には進められてこなかった。</p><p>他方,においの効果に興味を持った著者らはマウスを使ったにおい成分の経鼻吸収モデルを構築し,香道で用いられる沈香の芳香成分に強い鎮静作用があることを明らかにした。さらに沈香等の薫香生薬類やハーブ類の精油等からのにおい成分の摂取がマウスの行動に与える効果を行動薬理的に解析することにより,これらのにおいの中の活性成分の詳細な検討や,薬としての応用の可能性について研究を行っている。</p>
著者
栗原 良枝
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.69-71, 1997-02-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
3

味覚は生活の中では, 食物のおいしさに関係する大切な感覚である。ここでは, 甘味を中心にして, 味覚を化学の目で眺めることにする。甘味に関しては, 昔から数多くの研究がなされてきたが, 甘味のメカニズムは甘味受容体の実体を含めて依然として不明な点が多い。ここで紹介するミラクリンやクルクリンは味を変えるという特異な作用をもっているタンパク質である。これらの物質は新しい甘味物質として期待されるばかりでなく, その活性部位が解明できれば, 新しい甘味剤をデザインすることも可能になるかもしれない。
著者
中村 順
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.514-517, 1996-08-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
4

爆弾事件や銃器使用の犯罪において, 使用された火薬類や銃器等を明らかにするために, 多くの検査が行われる。その中で, 現場の残留物の分析を, 火薬類を中心にまとめた。はじめに火薬類の基礎的事項について説明し, 実際の分析法について実験及び分析例を含めて解説した。また, 爆薬の探知についても紹介した。こうした爆弾事件, 銃器犯罪及び爆薬の探知等については, それぞれ目的, 試料の状態等異なるが, いずれも極微量の火薬類の分析が重要な課題である。
著者
阿部 修治
出版者
社団法人日本化学会
雑誌
化学教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.325-329, 1966-09-20
著者
山本 陽介
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.216-219, 2006

5本の結合をもつ炭素化合物について,CH_5^+のような3中心2電子結合系化合物とS_N2反応の遷移状態にあたる超原子価3中心4電子系炭素化合物の違いについて解説した。我々が合成に成功した超原子価3中心4電子系5配位炭素化合物の構築の考え方について解説し,その構造についても述べた。また,研究の結果,同じ配位子系を用いても置換基の違いなどにより,5配位構造をとる系と4配位構造を好む系に分かれることがわかったが,今後の展開へのステップとして,その原因についても考察した。
著者
中垣 良一 福吉 修一
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.206-207, 2011-04-20 (Released:2017-06-30)
参考文献数
4

すべての生き物は,食べることにより生命を維持している。生体を構成する諸元素中に微量ながら含まれる安定重同位体(^<13>C,^<15>N,^<18>O)を通して生体成分を眺めると,食物の生産地や動物の食生態などが見えてくる。安定重同位体がどれくらい生体成分中に含まれているかは,生き物の生活歴を反映している。微量の安定同位体の含有量を調べることにより,食品生産地の偽装などを見破ることができる。
著者
忍久保 洋
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.268-269, 2020-06-20 (Released:2021-06-01)
参考文献数
6

反芳香族化合物は不安定な化合物であるが,それを上下に接近させて重ねると芳香族化合物になり,安定化することが分かってきた。これまで,芳香族性の起源は二次元的なπ電子の広がりであると考えられてきた。しかし最新の研究により,2つの分子の間の三次元的なπ電子の広がりによっても芳香族性が生じることが示された。また,反芳香族化合物が芳香族化合物よりも互いに接近しやすいことも分かってきた。分子が近づいて電荷が移動しやすくなるため,有機半導体などへの応用が期待される。
著者
阿部 幸紀
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.448-451, 2013-09-20 (Released:2017-06-30)

本編では,全世界的なリチウムの資源とその採掘法,および炭酸リチウムへの変換法とその需要について述べる。リチウムの埋蔵量(リチウム金属換算,以下同)はおおよそ1,300万tから3,472万t,そのうち鉱石とかん水の比率は3:7程度と見積もられている。鉱石を用いる場合,製品化までの期間が1ヵ月程度と短いものの,採鉱・選鉱等でコストがかかる。一方,かん水からは自然界の天日濃縮などで製品化まで1年ほどかかるものの,生産コストは安い。国内で生産ないし消費されるリチウム金属とリチウム化合物は,出発原料,製品の全量を輸入に依存している。輸入品の主体は炭酸リチウムで,そのままで使われるほかに,臭化リチウム,酸化リチウム,塩化リチウムなどの二次加工製品の原料としても用いられる。近年,リチウムイオン二次電池の正極材および電解液中の電解質材料として急速に需要が拡大しているほか,添加剤としてさまざまな用途に使用されている。
著者
鈴本 勉
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.402-405, 2003-07-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
4

ヒトはそれぞれ顔や体型が異なるように個性を持っている。このような個性はしばしば親から子へ遺伝することを,我々は経験的に知っている。これは,各個人のDNAに書き込まれた情報が微妙に異なることに由来している。最近では,体質や性格までもがDNAの仕業であることがわかってきており,ゲノム配列の解読が終了した今,これまで以上に遺伝子とヒトの個性の関係について,関心が高まっている。また,そのような遺伝子の違い(遺伝子多型)はしばしば病気のなりやすさや,治療薬に対する副作用の強弱に関わることが知られ,遺伝子多型の研究は病気の発症原因の探求と治療法の開発にも大きな貢献をしている。