著者
郡 隆之 田嶋 公平
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.283-288, 2018-12-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

呼吸器外科領域では肺の手術を行うため術後に呼吸機能が低下することが多く,リハビリテーションでは運動療法と呼吸理学療法が併用される.周術期の理学療法に関するエビデンスは近年整いつつある. 肺癌患者における開胸術前からの呼吸リハビリテーション介入は術後呼吸器合併症の発症率を低下させる.COPD合併肺癌患者の術前からの呼吸リハビリテーション介入では,術後入院期間の歩行はできるだけ早く開始するべきであるとしている.また,早期離床は筋骨格系の廃用予防だけでなく,呼吸器系の機能低下の予防にも結び付く.周術期リハビリテーションは,術前患者の状態把握やオリエンテーション,低肺機能患者に対する術前リハビリテーション,術後リハビリテーションを包括的に行うことに加えて,各種スタッフが情報共有できる体制を整えることも重要である.また,術後疼痛は離床や咳嗽の妨げになるので,術後の鎮痛や胸腔ドレーンの挿入本数や留置期間にも留意する必要がある.
著者
立石 渉 村田 誠 安達 仁
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.275-281, 2018-12-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
24

心臓血管外科領域における運動療法は入院中の早期介入による効果として,術後の早期歩行獲得(運動耐用能改善)・呼吸機能改善(酸素化改善)による自覚症状の改善,回復や退院へ向けての意欲の増進が得られ,退院後の維持期での介入を継続することで,遠隔期における疾病再発や二次予防(冠危険因子の是正や運動耐用能改善),自律神経活性の改善,グラフト開存率の改善,QOLの改善,再入院率の減少および予後の改善などが得られる.よって,適切な手術・投薬・食事指導などに加え,運動療法が心臓血管外科術後において重要な役割を果たすと考える.
著者
長 晴彦 吉川 貴己 大島 貴
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.295-300, 2018-12-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
31

胃外科領域では,術前の肥満やサルコペニアなどの身体的特徴が,術後合併症などの短期成績や,生存期間にも影響することが判明している.さらに,術前化学療法に伴う筋肉量・心肺機能の低下や,術後の体重減少・QOL低下,高度体重減少に伴う術後補助化学療法のコンプライアンス低下など,治療に伴う身体機能の低下が及ぼす影響も報告されている.こうしたデータを背景に,身体的特徴や治療中の身体機能の変化は,特に集学的治療の観点からは,後続治療に影響を及ぼし,最終的に治療成績を低下させうる要因と認識されつつある.最近になり,術前リスク低減による短期・長期成績の改善や,術後のQOL低下の抑制効果などを目的とした運動療法の試みも始まってはいるが,標準的プログラムが確立していないこと,医療機関での設備や人員不足など,実臨床への導入にはまだ課題も多い.
著者
佐藤 弘 宮脇 豊 藤原 直人 桜本 信一 岡本 光順 山口 茂樹 小山 勇 牧田 茂
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.289-293, 2018-12-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
10

生体が手術侵襲で受けたダメージから,より早い回復を目指すことは,術後管理の最大の目標である.術後のより早期に回復を目指す体系的なプログラムにEnhanced Recovery after Surgery(ERAS®)という概念がある.このなかで早期離床を軸とした運動療法は重要な役割を担う.高度侵襲手術の1つに分類される食道癌の運動療法においても,早期離床が重要となる. 胸部食道癌手術の運動療法を早期に施行することは,従来困難と考えられていた.多職種チーム医療による周術期管理により術後第1病日から離床が施行されるようになりその安全性と効果も報告されるようになってきた.しかしながら入院中だけの介入では不十分であり,外来リハビリテーションの確立が急務である.食道癌の運動療法の実際と課題を概説する.
著者
土井 卓子 岡橋 優子 井上 謙一 三角 みその 水野 香世 萬谷 睦美 長嶺 美樹 山口 ひとみ
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.307-315, 2018-12-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
5

運動は閉経後の乳がん発症を減らし,術後のQOLと生命予後を改善することが報告されている.運動を勧め,検診受診を勧奨する「乳がん啓発運動指導師」というスタッフを育成しており,活動の現状と意義について述べる.術後にグループエクササイズを行い,運動の身体面,精神面におよぼす影響を検討した.運動しない群と比較して身体面の回復は優位によかったが,精神面ではやや劣っていた.グループでの運動は他人と比較して落ち込む,同病者と話すことで抑えてきた感情が表出するなどの影響がある.一時的な混乱があっても,長期的には,よりよい安定が期待できる.身体面と精神面の改善の関係は,シャツを着る,高く腕を伸ばすなど家事や身の回りの日常動作が楽にできると抑うつ,落ち込みが改善していた.グループエクササイズは利点も欠点もあり,そのことを理解した指導者の育成が大切である.
著者
松井 康輔 宮内 拓史 木村 穣 海堀 昌樹
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.301-305, 2018-12-15 (Released:2019-02-01)
参考文献数
10

外科手術後における身体活動性の早期回復を目指すには,運動療法のみならず運動直後の栄養摂取を含めた栄養管理を併用するリハビリテーション栄養の取り組みが重要である.当院では肝癌患者に対し,健康運動指導士が個々にあった運動プログラムを提供し,積極的に身体を動かすことにより,術後の体力回復をより早期に改善することで体力維持を可能とさせる研究を行ってきた.そこで,障害肝を併存している肝癌患者を対象にBCAA製剤投与運動療法群(n=25),および術前後運動療法および栄養指導運動群(n=25),術前後栄養指導のみの対照群(n=26)の3群に分類し運動療法の有効性を検討したところ,障害肝合併の肝細胞癌患者に対して術前術後6ヵ月間の運動療法およびBCAA製剤投与により脂肪量の減少による体重の減少,またインスリン抵抗の改善効果を認めたものの,骨格筋量には影響を示さなかった.肝臓疾患患者に対しては日常安静重視ではなく,逆に積極的な運動療法を推奨するべきであると考える.
著者
丸山 道生
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.63-72, 2017 (Released:2018-02-22)
参考文献数
27

わが国では,静注用脂肪乳剤として大豆油100%製剤のみしかないが,世界では,大豆油以外に,中鎖脂肪酸(MCT)やオリーブ油,魚油などを原料とした脂肪乳剤が臨床的に使用されている.大豆油はその脂肪酸組成においてn-6 系多価不飽和脂肪酸のリノール酸が大半を占めており,その代謝産物のエイコサノイドは生体の炎症を惹起させる作用があるため,理論的には大豆油由来の脂肪乳剤は長期投与や重症患者への投与には慎重を要する.この大豆油由来の脂肪乳剤の欠点を緩和するために,生物活性の少ないMCT やオリーブオイルを混合した製剤が開発されてきた.また,違ったアプローチとしてn-3 系多価不飽和脂肪酸を豊富に含む魚油を使用することで,炎症反応を抑えるというn-6 系にない有用な作用をもつ脂肪乳剤も開発されてきた.各種脂肪乳剤の原料の油脂の特徴と現在,世界で使用されている各種脂肪乳剤の特徴を解説し,脂肪乳剤の代謝に関しても記載する.
著者
郡 隆之
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.79-84, 2018 (Released:2018-08-23)
参考文献数
11

Enhanced recovery after surgery(ERAS©)は「周術期管理の質」を高め手術患者が早期に回復するために開発されたプロトコルである.ERAS© を実践することはチーム内の各職種の役割を明確化することにつながるため,当科ではERAS© をベースとしたチーム医療を実践している.現在当科では,医師,看護師,薬剤師,リハビリテーション部門,歯科衛生士,栄養士,手術室,入退院調整部門,病棟クラーク,栄養療法チーム,感染対策チームで入院患者管理のチームを構成して術後回復強化を行っている.チーム医療を機能させるためのシステムとして,1)各職種の役割分担の明確化と権限委譲,2)入退院センターによる事前準備,3)多職種病棟カンファランスによる情報共有と戦略立案,4)多職種による病棟回診を構築している.周術期管理は医師と看護師だけではなり立たなくなっており,チームを編成し密な連携のもと役割分担することで効率よく周術期管理ができるものと思われる.
著者
仙頭 佳起 星加 麻衣子 祖父江 和哉
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.117-123, 2018 (Released:2018-08-23)
参考文献数
18

現代の周術期管理においては,効率化のなかでも安全性に加えて患者満足度の向上が求められている.術後悪心嘔吐(postoperative nausea and vomiting:PONV)は,周術期の患者満足度を下げる大きな要因の一つであり,対策が求められている.シームレスな(=途切れない)周術期管理を展開するチーム医療は,PONV 対策においても効率的かつ効果的に機能し,患者満足度を向上させる可能性があり,今後はその効果検証が必要である.当院の『周術期ケアチーム』が実践しているPONV 対策の体制や成果を,周術期の流れ(術前評価,術中管理,術直後のPostanesthesia Care Unit 管理,術後回診)に沿って紹介しながら,PONV 対策における周術期管理チームの意義と役割について述べた.
著者
葛谷 雅文
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-6, 2016 (Released:2016-04-05)
参考文献数
20

サルコペニアには本来,加齢に伴う四肢骨格筋量の減少が存在し,筋力・身体機能の低下が惹起されている状態をさす(原発性).しかし,骨格筋減少を伴う病態は広範に存在し,いずれも対象者の身体機能低下に直結しており,サルコペニアは原発性以外に二次性サルコペニアとして多くの臨床領域で使用されるタームとなった.それに伴い,サルコペニアの臨床的重要度はさらに高まり,サルコペニアの研究に参入する研究者も増加しており,大変な盛り上がりをみせている.しかし,なおそのメカニズムは十分解明されたとは言えず,早急なその解明ならびに,介入方法の確立が期待されるところである.本総説は,そのメカニズム,介入法の一つとして,栄養を取り上げた.本総説が少しでもサルコペニアの臨床,研究の一助になれば幸いである.
著者
村越 智 深柄 和彦 安原 洋
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.339-346, 2017 (Released:2018-05-22)
参考文献数
50

微量元素やビタミンは,代謝経路の要所において補助因子や補酵素として作用し,代謝全体を調節することで生命維持に寄与している.重症患者においては,その病態から酸化ストレスの増加が明らかになっているが,一連の炎症反応の引き金となる酸化ストレスを制御し得る抗酸化物質として微量元素やビタミンは注目をあつめている.このPharmaconutrition をいかに重症患者治療へと結びつけるかが基礎・臨床研究の両方面から模索されており,重症患者への投与は“是”とする意見が多い.しかし少なからず“非”とする意見もあり,今後の研究の展開が待たれる.
著者
守屋 智之
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.331-338, 2017 (Released:2018-05-22)
参考文献数
30