著者
丸山 道生
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.761-767, 2009 (Released:2009-06-11)
参考文献数
26
被引用文献数
1

経腸栄養剤には推定平均必要量以上のNaが含まれてはいるが、一般的にその含有量は少ない。経腸栄養管理下では、Naの摂取量が少ないことに加え、以下の危険因子が作用し、経腸栄養管理患者の低Na血症を顕在化させる。(1)高齢者、脳血管障害などの患者因子 (腎機能低下や抗利尿ホルモン、アルドステロンなどのホルモンバランス異常などを引き起こし易い)、(2)症状・疾患因子(下痢嘔吐や心不全、肝硬変など)、(3)薬剤因子(利尿剤、抗てんかん薬、NSAIDs、降圧剤など)、などである。最近の食品扱いの栄養剤はNaが強化されている。Na含有量の範囲は50-240mg/100kcalで、栄養剤により4―5倍違うので、投与には注意を要する。経腸栄養時の低Na血症の基本的な対処法は食塩の補給だが、スポット尿のNa値の測定によりその病態を把握し、よりふさわしい治療を心がける必要がある。
著者
丸山 道生
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.191-198, 2015 (Released:2016-02-25)
参考文献数
10
被引用文献数
5 2

「術後の食事」に関して,「手術後,消化管運動が回復してから,流動食から開始し,徐々に通常の食事にステップアップして行く」と考え方は全世界共通であった.これまで,世界各国には,それぞれの国や地域の食文化を反映した独自の術後食があり,術後食は流動食から常食までのステップアップがある段階食が一般的であった.近年,NST活動や入院期間の短縮の必要性とクリニカルパスの普及の影響などで,術後食の改革の必要性が増していた.それに加え,術後早期回復を目的としたERAS が普及することで,本邦でも術後早期の経口摂取の開始,段階食の見直しが進んでいる.これには手術が安全に行われ,かつ低侵襲化されたことが前提となっている.今後,術後栄養管理は経口栄養が主流となっていくと予想され,術後食の科学的検討が望まれる.
著者
淺見 貞晴 高瀬 麻以 工藤 正美 田中 美江子 ザーリッチ 陽子 徳丸 剛 伊藤 敬市 土屋 輝幸 飯島 勝矢 菊谷 武 丸山 道生
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.17-23, 2022-04-30 (Released:2022-08-31)
参考文献数
19

【目的】インフォグラフィックの手法を用いた資料を製作することで,嚥下調整食学会分類を西東京市内の在宅ケアスタッフに普及する.【方法】インフォグラフィックの製作は,東京大学高齢社会総合研究機構(以下,IOG)の「多職種協働による食支援プロジェクト」の一環として,西東京市で2019 年4 月に開始された.プロジェクトチームは,市内の医療系専門職,市役所職員,IOG 特任研究員により構成された.制作にあたっては,ステークホルダーである在宅ケアスタッフに嚥下調整食学会分類普及のためのニーズや課題をヒアリングし,それをもとに,インフォグラフィックの内容を決定した.インフォグラフィックを印刷する媒体は,移動の多い在宅ケアスタッフがいつでも手に取って見られるよう,クリアファイルを選択した.クリアファイルの使い方を伝えるため,西東京市のYouTube チャンネルに解説動画をアップロードした.その後,西東京市内6 施設104 名の在宅ケアスタッフに,クリアファイルの有用性についてアンケート調査を行った.【結果】インフォグラフィックには,1)問題提起と背景,2)嚥下調整食学会分類の使用が推奨される理由,3)嚥下調整食学会分類の説明を内容として含めた.アンケートでは,86 名の食支援に携わる在宅ケアスタッフのうち,85.5% が当資料を今の業務で使う機会があると回答し,92.8% が今後の業務の中で使いたいと回答した.【結論】インフォグラフィックを用いた資料は,在宅ケアスタッフへの嚥下調整食学会分類普及に有用である可能性が示唆された.
著者
丸山 道生
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第42回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.266, 2008 (Released:2008-05-27)

流動食は最も重症な病人が食する食事で、それぞれの民族や地域での健康を祈願し、生命の再生を願う儀礼的な食事である。世界20カ国の50病院を訪問し、流動食を中心とした病院食を検討した。東洋(アジア)の流動食は穀物の煮汁が主体で、西洋(ヨーロッパ、オセアニア、南北アメリカ)ではブイヨン、ブロスに代表される肉の煮汁である。東洋ではさらに、北方は雑穀(粟)、日本を含む中間では米、南では大麦の煮汁が流動食の代表であることがわかった。
著者
御子神 由紀子 丸山 道生 橋本 直子 中島 明子
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.25, no.5, pp.1089-1093, 2010 (Released:2010-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2

【目的】摂食・嚥下障害を有する高齢者の栄養状態の分析とリハビリの効果を明らかにするため調査を行った。【対象及び方法】入院後経口摂取困難となった高齢者66例を対象とし、ADLで分類し、改善している者を改善群、退院時も変化がない者を不良群、死亡退院した者を死亡群とした。カルテより入院時疾患、既往、Alb、栄養経路、転帰などを調査した。【結果】経口摂取能力、Albの改善は改善群では不良群より良好であった。転帰先は改善群では不良群より自宅退院が多かった。不良群で転院の者は全て経口摂取能力を獲得していなかった。【考察】摂食・嚥下障害とADLの改善は相関し、予後の因子の一つとして低栄養が推測される。転院の原因は胃瘻など栄養管理が困難な場合、低栄養によるADLの低下であった。医療経済効果のため栄養管理を地域医療に推進させる必要があり、今後このような高齢者を支えるためにシステムの構築が重要である。
著者
丸山 道生
出版者
日本静脈経腸栄養学会
雑誌
静脈経腸栄養 (ISSN:13444980)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.819-824, 2014 (Released:2014-06-23)
参考文献数
15

摂食・嚥下障害患者にとって、人工的水分・栄養補給(AHN)を行う場合、その多くはPEGが第一選択となる。特に適応上議論のある認知症に関して、欧米では医学的観点からもPEGの効果は認められないとされ、合理的にPEGの適応はないことが導き出されている。しかし、本邦ではPEGは生存も効果も良好であるゆえに、AHNをすると意思決定した場合は、PEGをして長く生きることを、一方、AHNを選択しない場合はPEGを施行せず、早く死ぬことを意味する。その意思決定はより哲学的な問題で、PEGによるQOLの考慮は副次的なものでしかない。医療者・介護者の役割は、患者と家族のPEG選択への苦悩を軽減させること、そして、患者がPEGとそれに続く胃瘻栄養を行った時に、患者と家族のQOLを向上させ、患者の人生の物語を豊かにするのを応援することである。
著者
丸山 道生
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.57-61, 2021-04-15 (Released:2021-05-15)
参考文献数
11

世界各国には, それぞれの国や地域の食文化を反映した独自の病院給食と術後食のシステムがある. 最近まで術後食に関して「手術後, 消化管運動が回復してから, 流動食から開始し, 段階的に普通食にステップアップしていく」というのが世界共通の考え方であった. 近年, 手術の安全性が増し, 低侵襲化されたことで, 従来の術後食を見直す動きが広がっている. 特に, 術後回復強化策ERASが種々の手術に普及することで, 術後早期の経口栄養と段階食の見直しが行われている. 今後, 術後栄養管理は経口栄養が主流となっていくと推測され, 術後食がさらに重要視されると考えられる. 術後給食の科学的, 臨床的検討と改善が望まれる.
著者
丸山 道生 栢下 淳 高見 澤滋 渡邉 誠司 高増 哲也 東口 髙志
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.310-316, 2019 (Released:2020-06-15)
参考文献数
13

本邦では2019年末より,現行の経腸栄養用誤接続防止コネクタである医薬発第888号広口タイプコネクタ(以下,現行コネクタと略)が廃止され,誤接続防止コネクタに係る国際新規格であるISO80369-3(以下,ISOコネクタと略)が導入される.ISOコネクタのオス型コネクタは内腔の最小口径が狭いため,ミキサー食の注入に際し,注入圧の上昇によって注入が困難になる懸念がある.今回,小児病院3施設それぞれにおいてミキサー食の胃瘻注入を行っている患児の家族3名,看護師3名の計6名に対し,各施設の標準的ミキサー食の注入を行い,現行コネクタとISOコネクタの比較を行った.同時に,用いたミキサー食の物性も検討した.注入実験において,観察項目のミキサー食の投与時間,シリンジ持ち替え回数,主観的評価の「負担感」と「問題なく使用できるか」,いずれにおいても現行コネクタとISOコネクタで統計学的な有意差は認められなかった.この結果から,ISOコネクタでのミキサー食の注入は現行コネクタと変わりなく可能と判断された.
著者
丸山 道生
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.63-72, 2017 (Released:2018-02-22)
参考文献数
27

わが国では,静注用脂肪乳剤として大豆油100%製剤のみしかないが,世界では,大豆油以外に,中鎖脂肪酸(MCT)やオリーブ油,魚油などを原料とした脂肪乳剤が臨床的に使用されている.大豆油はその脂肪酸組成においてn-6 系多価不飽和脂肪酸のリノール酸が大半を占めており,その代謝産物のエイコサノイドは生体の炎症を惹起させる作用があるため,理論的には大豆油由来の脂肪乳剤は長期投与や重症患者への投与には慎重を要する.この大豆油由来の脂肪乳剤の欠点を緩和するために,生物活性の少ないMCT やオリーブオイルを混合した製剤が開発されてきた.また,違ったアプローチとしてn-3 系多価不飽和脂肪酸を豊富に含む魚油を使用することで,炎症反応を抑えるというn-6 系にない有用な作用をもつ脂肪乳剤も開発されてきた.各種脂肪乳剤の原料の油脂の特徴と現在,世界で使用されている各種脂肪乳剤の特徴を解説し,脂肪乳剤の代謝に関しても記載する.