著者
松本 茂
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-43, 2003-06-15

本論文の目的は、家電リサイクル法の不法投棄データを用いてコミュニティーの自主施行力を評価することである。この目的のために、論文では、以下の3つの分析を行った。第1に、不法投棄水準の地域差を産み出す要因をCount Data Model によって検証した。第2に、再びCount Data Model を利用し、社会資本が不法投棄水準に及ぼす影響について考察した。以上2つの分析の結果、失業率が低く、外国人の居住割合が低く、持ち家比率が高く、帰属意識が高い自治体ほど、不法投棄の水準が低いことが示された。第3の分析として、家電リサイクル法の施行前後の不法投棄水準をProbit Model によって比較し、家電リサイクル法の効果について検証した。分析の結果、持ち家比率が低く、選挙の投票率が低い自治体では家電リサイクル法施行前から不法投棄の水準が高かったが、法施行後その状況が更に悪化しでいることが示された。
著者
橋本 恭之
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.421-432, 2004-11-11

本稿では、政府の財政収支を考慮した形で世代重複モデルを構築し、シミュレーション分析をおこなうことで、ケインズ的な政策が有効か否かを検証することにした。分析の結果、景気対策としての減税政策は、減税先行期間において1人あたりの消費を多少は引き上げることができるが、経済破綻を近い将来に生じさせてしまうことがわかった。また、先行減税と歳出削減の組み合わせも、日本経済の破綻を多少延期できるのにすぎず、経済の破綻を回避するためには、増税による財政再建が必要であることがわかった。また、増税による財政再建は、各世代に深刻な利害対立を発生させることもわかった。
著者
大塚 忠
出版者
関西大学
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.335-369, 2005-12

本稿は、前半を専門工の職業移動とマイスター・技師の職業移動の分析に当て、専門大学でのエンジニアーによる代替がどのように、またどの程度進展したかを見る中で、専門工の地位やマイスターの地位がこの間の技術的・組織的な構造変化によって変化したのか、また今後はどうかなどを検討している。昇進機会は減ったが、両者の地位は基本的に維持されたというのが結論である。後半は、その結論を受けて、地位を維持するために、機能変化に応じた能力開発が行われたとみて、それを職業訓練制度改革の中に見た。訓練改革の方向が定まりプロセス重視を目的とした訓練が行われるようになった、というのが論点である。
著者
松下 敬一郎
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.135-148, 2006-09-20

近年の日本の少子化においては、子供をもたない女子人口割合の増加が顕著にみられ、4人ないし5人に1人の女子が無子を選択している。本論では、子供をもたないことが選択される端点解が最適となるモデルを用いて、子供の養育費用が増加することにより端点を選択する割合が増加することを示している。さらに、実証研究のための含意として、端点においては子供の養育に対する補助の効果が小さいこと、経済的に自立している場合には子供をもたないことが資産所有者の資産分布に与える影響は小さいこと、子供の需要増加に結びつかない結婚の奨励は離婚を奨励することになる可能性があること、資産継承は子供の需要増加に結びついており少子化を減速させることを指摘している。
著者
春日 淳一
出版者
関西大学経済学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.29-53, 2011-06-10

本稿の目的は、N.ルーマン(Luhmann)が自らの社会理論に取り込んだ数学由来の概念「固有値」(Eigenwert)に着目し、その有効性をとくに現下の時代状況に照らして浮かび上がらせることである。はじめに数学概念と照合しつつ、ルーマンが「固有値」という語で指し示そうとしたものが何であるのか、そのイメージ把握に努める。しかし、得られるのはひとつの明確なイメージではなく、さまざまなイメージのいわば寄り集まりである。そこで固有値の集合を整序すべく、まずは機能(的下位)システム・レベルの固有値と全体社会レベルの固有値を区別する。議論を補強する意味でルーマンの固有値論とハイエクの自生的秩序論との対比をはさんだあと、このシステム・レベルの区別をふまえた固有値の入れ子構造ないしピラミッド状構成という整序図式を提示し、それにもとづいて固有値概念の有効性をいわゆる「改革」のケースについて検証する。
著者
春日 淳一 KASUGA Junichi
出版者
関西大学教育学会
雑誌
関西大学経済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.29-53, 2011-06

本稿の目的は、N.ルーマン(Luhmann)が自らの社会理論に取り込んだ数学由来の概念「固有値」(Eigenwert)に着目し、その有効性をとくに現下の時代状況に照らして浮かび上がらせることである。はじめに数学概念と照合しつつ、ルーマンが「固有値」という語で指し示そうとしたものが何であるのか、そのイメージ把握に努める。しかし、得られるのはひとつの明確なイメージではなく、さまざまなイメージのいわば寄り集まりである。そこで固有値の集合を整序すべく、まずは機能(的下位)システム・レベルの固有値と全体社会レベルの固有値を区別する。議論を補強する意味でルーマンの固有値論とハイエクの自生的秩序論との対比をはさんだあと、このシステム・レベルの区別をふまえた固有値の入れ子構造ないしピラミッド状構成という整序図式を提示し、それにもとづいて固有値概念の有効性をいわゆる「改革」のケースについて検証する。
著者
谷田 則幸 大東 正虎
出版者
関西大学
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-18, 2007-06

2004年に発生した中越地震において、被災状況の確認と被災者の発見は、非常に困難であった。電話網(有線、携帯)が不通状態になったことと、それに伴う政府の対応策も後手に廻ったことが主な原因と考えられる。こうした問題を解決するために総務省では、大規模地震が発生したときに上空から小型のセンサを多数散布することで情報収集を行うことが計画されている。しかし、どのような機器が採用されるかは現時点では公表されていない。我々は、電波の送受信が可能なアクティブ型ICタグを活用すれば、こうした計画が実現できると考える。本稿では、震災被災者を発見するためにアクティブ型ICタグをヘリコプターによって上空から散布した場合の位置特定手法の提案と考察を行う。電波の送受信が可能なアクティブ型ICタグは、通信手段が何も無い場所において、簡易なネットワークを自律的に形成することができる。また、温度などが感知できるセンサを付けることで、被災者の存在を確認することができる。また、測量方法のひとつである三辺測量を位置特定アルゴリズムとして採用し、被災者の位置特定を行う。三辺測量において搭要な距離情報は、ICタグが発信する電波の到達時間を距離に換算することで、測量が可能となる。被災者のいる位置は、ランダムに散布されたICタグを使って、位置が特定されたICタグ3個を利用して任意の1点を特定し、三辺測量を繰返しながら特定される。上述のようなICタグの散布、被災者の位置特定等に関してマルチエージェント・シミュレーションを実施し、その結果を考察する。