著者
橋本 敬 西部 忠
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.131-151, 2012-03-08

本論文は, 制度の多様性と内生的変化を示す制度生態系を記述する数理モデルとして「ルール生態系ダイナミクス」(Rule Ecology Dynamics: RED)を提示し, それが経済社会進化の態様記述や政策展開に対して持つ経済学的含意を論じる。まず, 戦略ルール(ミクロ主体の内部ルール)とゲームルール(外なる制度)を経済社会の複製子(If-then ルール)と再定義し, 制度を, ミクロ主体の認識・思考・行動とマクロ的な社会的帰結をメゾレベルで媒介する, ミクロ主体によって共有されたルールと捉える。これにより, ゲーム形式と戦略的予想均衡という従来の2つの制度観を, それぞれ「ゲームルール」と「共有された戦略ルール」として統一的に理解できる。こうした進化的制度観の下, REDは, ゲームルールを評価するミクロ主体の価値意識の集合的表象(内なる制度)を「メタルール」として導入することにより, 進化ゲーム理論とレプリケータ・ダイナミクスを統合・拡張し, 戦略ルールとゲームルールの相対頻度が内生的に変化するような共進化を記述し分析できる。このため, REDは進化主義的制度設計のための理論枠組みとなる。
著者
園 信太郎
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.1-2, 2010-09-09

根元事象の定義を反省してみた。
著者
佐藤 芳彰
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.199-215, 2003-12-16

我が国を代表する小売企業であるイトーヨーカ堂が、1990 年代初めに実施した各種の改革に焦点を当て、それらを組織学習という知識活動の視点から分析した。1990 年代、当社では、情報システムが変更されPOS(販売時点情報管理)データを活用した単品管理が本格的に始まっている。同時期、チームマーチャンダイジング(チームMD)と言われる、メーカーや問屋との組織を横断したプロジェクトチームによる活動も、衣料品において本格的に始まっている。これは、小売業が主導的な役割を演じながらメーカーとともに新商品を共同開発するものである。チームMD に関連して、組織構造の変革が行なわれ、バイヤーの役割が明確化され、仕入れ体制が大きく変化している。また、完全買い取り制が始まり取引先との関係が変化している。これは、リスクマーケティングと呼ばれた。これらの一連の改革は、商品計画に関連するもので、小売マーケティングの核心的部分である。これらを詳細に検討するとともに、単品管理に関連しては組織学習の視点から、また、チームMD に関連しては組織間学習の視点から、知識活動としてのインプリケーションを明らかにした。
著者
田中 愼一
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.9-18, 2005-03-10

近代日本の人傑をとらえ、これを論評するのは容易であるはずはないだろう。高尚偉大なる人物にして且つ文筆家であれば、その一代の文業に精通することが期待されるだけに、余計そうなるであろう。1984 年制定の五千円札以来にわかに族生の感ある新渡戸稲造研究家、その一員に達していない私としては、いわゆる群盲象を評す、にとどまることを危惧しつつ書いたのがこの小論である。焦点は新渡戸稲造の朝鮮(韓国)観、それが年代を経るなかでどのように推移していったのか、を追跡しようとした。しかも、関連する事柄で興味が湧いた際には、追求していく本来の大通りから、時には註をステップ台にして横町へ飛び込み、場合によってはさらに横町から左右の細い路地を覗き込みながらあわただしく出入りしたかのごとき叙述もしたのであった。文化的架橋者たらんことを使命にしていたとおぼしき新渡戸稲造は、その生きた多端な時代の運命をよく担っていた方なのではないか、というのが私の擱筆感の一つである。
著者
瀬川 高央
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.167-181, 2008-12-11

本稿の目的は,1983年のウィリアムズバーグ・サミットで,中曽根康弘政権が,米ソの中距離核戦力(INF)削減交渉に対し,極東配備のSS-20も交渉対象にすべきだとする立場を貫徹することで,ソ連による日米欧離間を封じていく過程を,日米外交資料の分析から解明することである。本稿は全5節で構成される。1節では,SS-20配備に対する西欧と極東の戦略状況の相違を明確にする。2節では鈴木善幸政権から中曽根政権にかけてSS-20問題での対外交渉姿勢の変化を検討する。3節と4節では,レーガンのゼロ・オプションが危機に直面したことを受け,日本が西側結束に向けて展開した秘密交渉について分析する。5節では大韓機撃墜事件により,東西緊張が再燃する中で,日米欧関係が強化されていく過程を考察する。最後に結語では,中曽根による西側決裂回避という成果を,首相のパフォーマンス外交ではなく,SS-20極東移転やINF暫定案の浮上という外生要因に対して,外相・事務方が行った対外交渉の結果として位置づけ直す。その上で,INF問題に対する中曽根政権の取り組みを契機として,日本の外交的地平が西側全体に拡大したことを論証する。
著者
阿部 智和 宇田 忠司
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.109-146, 2017-06-13

本稿の目的は,質問票調査にもとづき,国内の共有・共創型ワークスペースの実態を明らかにすることにある。まず,ウェブ調査を実施し,国内で稼働している施設の全数に近い(2016年9月30日時点)と考えられる750スペースのうち,308スペースから回答を得た。ついで,収集したデータのうち268スペースの回答を分析し,①施設,②運営組織,③戦略,④活動,⑤利用者,⑥成果,という6つの包括的視点から相関分析の結果を示した。そのうえで,本調査にもとづく共有・共創型ワークスペースの実態に関する知見を提示した。
著者
柴田 裕通
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.36-48, 2000
著者
須戸 和男
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.77-99, 2006-06-08

本稿は,アメリカの通商政策と対外租税政策の相互関係を歴史的に概観し,今日のグローバルな世界経済におけるアメリカの対外経済政策の及ぼす影響を考察するものである。 その中心的論点は,アメリカ多国籍企業のグローバルな経営戦略であり,第二次世界大戦後のアメリカ多国籍企業は,政府の課税優遇措置による海外市場開拓促進政策に重大な役割を演じ,これによって両政策の密接な相互依存関係を創出した。しかし,1970年代以降の多国籍企業は,政府の政策目的とは離れた独自のグローバルな経営戦略を採り始め,両政策間に乖離・対立現象が現れ,次第にその相互関係は希薄になってきた。 多国籍企業の外国直接投資は,その実質的本拠を国外に移転し,国内産業の空洞化をもたらし,貿易収支および経常収支の巨額な赤字を生み出した。さらに,多国籍企業のグローバルな租税回避戦略は税収を減じて財政政策に重大な影響を与えた。このため,通商政策は戦後の多角的自由貿易体制の修正を迫られ,二国間および地域間自由貿易協定や保護主義的政策に向かった。対外租税政策は多国籍企業に対する課税強化政策および租税回避抑止政策へと大きく変容した。以上の如く多国籍企業の自立的展開は,両政策の変化・変容と両政策の相互関係に変転をもたらした。