著者
久保田 肇
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.117-135, 2009-12-10

本論文ではビューリー(2007、第5章)において取り扱われた、クーン/タッカー的な接近法による古典的な凸有限経済における厚生経済学の基本定理を取り上げる。この経済の消費者が凹な効用関数を持つと仮定する事によって、厚生経済学の基本定理は制約条件付最適化(最大化)問題として表現できる。そこでこの問題に非線形計画法の基本定理であるクーン/タッカー定理を適用する事により、パレート最適な配分では線形社会厚生関数が最大化される事が示される。更に、制約条件付最適化(最大化)問題における最大値関数の性質により、財・サービスに対してその市場価格がその限界社会厚生値になっている事や、最大化された線形社会厚生関数の各係数が市場均衡における各消費者の所得/貨幣の限界効用の逆数になっている事が導かれる。これらの結果は効用関数の微分可能性を前提にすることなく得られている。
著者
田中 嘉浩
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.271-276, 2014-01-24

数学が後から多くの分野に於いて重要な応用を持つことは枚挙に暇がなく,現代数学の計算量の理論で「簡単には解けない問題」となっている素因数分解の難易度を逆転の発想で応用した公開鍵暗号が情報通信技術の発展した現代に於いて,電子商取引(EC) や情報基盤で欠くことのできない技術になっていることもその好例である。本稿では,組合せ問題のみならず他の数学の未解決問題とも深く関って本質的な数論に関するこの20年間―1995年の Fermat の最終定理の解決から2013年の双子素数予想への前進まで―を概観する。
著者
吉野 悦雄 ジャミヤン ガンバト
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.31-41, 2006-03-09

本稿ではモンゴルにおけるGDP計算方法の実態について分析する。モンゴル政府は,国民経済統計を市場経済体制に適応した統計制度に切り替えている。遊牧民の所得はGDPに計算されているが,ミルクなどの畜産物はその諸経費の把握が困難なためにGDPに計算されていない。また,法人企業のGDP計算はほぼ国連SNA基準に基づいて行われている。しかし,個人経営の商店やタクシー屋などの所得は測定できないがゆえに,GDP計算には算入されていない。
著者
佐々木 憲介
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.105-125, 2001-12-11

経済学における理論派と歴史派との論争といえば、オーストリア学派の創始者C.メンガーとドイツ歴史学派の総帥G.シュモラーとの間に起こった「方法論争」が有名であるが、実は類似の性格をもった論争が、攻守所を変えて、イギリスでも行われていた。ジョン・ケルズ・イングラム(John Kells Ingram, 1823-1907)は、イギリスにおける方法論争の重要な一翼を担った人物であり、オーギュスト・コントの観点から古典派経済学を批判した人物であった。イングラムは、歴史的方法が理論的方法に取って代わらなければならないと主張し、その歴史的方法によって、歴史の一般的法則を探究しようとした。イングラムはまた、経済学史に関する該博な知識に基づいて、歴史学派運動の経済学史上の意義を明らかにしようとした。つまり、もともと統一されていた社会諸科学の研究から、経済学がいったん部分学として分化し、それが再び統合されるべき時期にきていること、政治的束縛から産業活動を解放した経済的自由主義が、自由な活動ゆえの弊害を生み出し、それを解決するための社会改良が必要な時期にきていること、これらの事情を背景として歴史学派が成長してきたというのである。さらに、歴史学派運動の現在の中心地はドイツであるが、ドイツ歴史学派に先立ってコントとリチャード・ジョーンズとが歴史学派の観点を提示していたとし、イギリス歴史学派の運動もドイツの亜流ではないということを強調した。
著者
李 嗣堯
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.49-61, 2013-02-21

台・中間に2010年6月に締結された「両岸経済協力枠組み協議(Economic Cooperation Framework Agreement: 略称ECFA)」は台湾経済・産業にもたらす影響が極めて大きいということで注目が集まった。これまでのECFAに関する研究は, 「ECFAの必要性」, 「ECFAの政治的リスク」そして「ECFAの台湾経済への影響」等をめぐってそれぞれの内容を検討したうえ, その賛否についての見解を述べるという形式が主であった。これに対して本稿は, ECFAの歴史的背景, ECFAの内容, そして台中双方にとってのECFAの狙い所の三つの側面に注目して馬英久政権が新たに展開した「台中経済連携強化」の意義を明らかにする試みである。 本研究の検討によって以下の5点の結論にまとめられる。(1)ECFA は特殊なFTAではあるが, 両岸経済の統合に寄与することに違いないこと。(2)経済統合といって台湾経済に与える影響は必ずしもプラスばかりでなく, マイナス面もあること。(3)ECFAは決して単なる経済的な議題ではない認識が必要である。(4)ECFAは台湾と他の国とのFTA調印を保証するものではないこと。(5)ECFA調印にともなう市場開放の圧力を直視すべきであり, 最終的に両岸貿易正常化の実現に帰さなければならなく台湾側もそれに対応できるように施策を検討すべきである。
著者
吉田 昌幸
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.69-87, 2012-07-12

本論文は, 地域通貨導入過程における課題のひとつである, 地域通貨に関する周知や理解の深化に対して, ゲーミング・シミュレーションという手法を採用し, ゲームの設計とその実施結果について考察をしたものである。地域通貨導入過程においては, 地域通貨の周知や理解, 発行形態や流通デザインの策定, 発行組織・体制の構築という課題がある。これらの課題を解決していく上で, 地域住民・リーダー層・研究者との間で共通のビジョン(地域通貨のある地域社会像)の醸成とその共有が欠かせない。本論文では, 地域通貨の学習ツールとして地域通貨ゲームver.2を作成し, その実施結果を流通状況と参加者へのアンケート結果を併せて考察を加えている。
著者
栗田 健一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.115-128, 2006-06-08

本論文では,ギルド社会主義思想を別の形で摂取し,独自の経済観を構想したC.Hダグラスの研究をおこなった。ダグラスは,市場と国家とは違う領域に経済の調整を任せるという発想を持っていた。この研究では,中央政府と分権的生産者銀行が協調しながら,市場経済がもたらす不安定性を除去するという視点をダグラスが持っているということが明らかにされた。特に,彼の重要な概念である「有形信用」と「金融信用」に着目した。「有形信用」とは潜在的な生産力概念を示すものである。例えば,石炭の生産でまだ150トン生産できる可能性があれば,「有形信用」は,その余剰生産力を意味している。そして「金融信用」とはその余剰生産力を顕在化させるための貨幣であり,通常は銀行から供給される。だが,ダグラスはこの「金融信用」の供給を市場で活動する銀行や国家に任せるのではなく,労働者達のアソシエーションである分権的生産者銀行に任せるという発想を持っていた。この発想に彼のオリジナリティーがあり,市場や国家とは違う領域の重要性を持っていた点に,彼の思想の意義があるという主張をおこなった。
著者
多田 和美
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.35-84, 2010-06-10

本稿は,多国籍企業の内部環境と外部環境(現地環境)の要因が,海外子会社の製品開発活動に及ぼす影響とそうした活動がいかなる成果を生成するのか解明することを目的としている。そこで,成功事例との比較分析に向けた予備的研究として,失敗事例に相当すると考えられる日本ペプシコ社の事例研究を行った。本稿では,先行研究の課題を踏まえ,Schmid & Schurig(2003)を出発点とした枠組によって,(1)内部環境要因と外部環境要因の各構成要素が製品開発活動に及ぼす影響,(2)その過程において生じる構成要素間の相互作用,(3)それらの影響に基づく製品開発活動が成果に及ぼす影響を分析した。その結果,内外環境要因の各構成要素とその相互作用は,海外子会社の製品開発活動と成果に多様な影響を及ぼすことなどが新たに明らかになった。
著者
小林 好宏
出版者
北海道大学經濟學部
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.1-16, 1987-09