著者
井澤 信三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.91-103, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
49
被引用文献数
1

本研究では,わが国における特別支援教育にかかわる教育心理学研究の動向を概観した。はじめに,特別支援教育や教育心理学に関連する主要な学術雑誌を「障害に直接関連しない学術雑誌」と「障害に直接関連する学術雑誌」に大きく分け,それごとに,最近(2017年1月から2020年9月)における「障害に関連する研究」についての数量とその内容からの整理・分析を行った。さらに,自閉スペクトラム症児における介入研究の動向と介入研究が学校教育に貢献できるための方略について文献検討を行った。主として,(1)モノとヒトの環境を最適化していくための1つとしてのエビデンスに基づく実践という捉え方,(2)エビデンスに基づく実践を環境に組み入れる意義,(3)エビデンスを学校教育の実践につないでいくための方向性,また,(4)今後の学校教育に求められるエビデンス,といった4点の視点から論考した。
著者
伊藤 忠弘
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.42-52, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
50
被引用文献数
4 1

本稿はまず日本教育心理学会第53回総会での研究発表570件のうち社会領域に関連する245件の動向を確認した。本年度は学校組織や教師, 教師集団についての研究が増加した。子どもの対人関係や学級適応といったテーマも相変わらず関心が高かった。次に最近1年間に発表された本邦における対人関係と関係性を扱った社会心理学的研究の動向を概観した。これらの研究のテーマは, (1) クラスの中での逸脱行動への同調および社会的比較, (2) 青年期の対人関係の親密性と排他性, および希薄化, (3) 親密な関係が個人にもたらす機能(関係効力性, 社会的動機づけ), (4) 対人関係の否定的側面(関係性攻撃, 引きこもり), (5) 対人関係を支える対処行動や感情(罪悪感, 感謝, 共感性), ソーシャル・スキル, を含んでいた。関係性を間主観的な概念として捉えようとする試みや相互作用過程を解明しようとする試みが行われていることが明らかになった。
著者
若松 養亮 白井 利明 浦上 昌則 安達 智子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.201-216, 2019
被引用文献数
1

<p> 日本の進路指導では長い間,「合格すること」に偏重した指導を行ってきたという批判がある。2004年にキャリア教育が始まって以降も,「キャリア=職業」という誤解のために,「夢やつきたい職業見つけ」ばかりが盛んに扇動されるが,その手段や方法が指導されず,キャリア発達を高める指導も二の次にされる弊害がある。本論文では,進路意思決定,時間的展望,自己効力感,ジェンダーの4つの研究の蓄積をもとに,それを超える指導とはどのようなものか,また進路指導やキャリア教育で目標とされる「社会的・職業的自立」に結びつく支援はどのようなものかが論じられた。最後の節では,4つの論考をふまえて,今後の進路指導とキャリア教育への提言が論じられた。</p>
著者
田村 節子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.168-181, 2003-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
17
被引用文献数
4

学校生活において子ども達は, 学習面, 心理・社会面, 進路面, 健康面にわたる多様な援助ニーズをもっている。スクールカウンセラーが, 子ども達の援助ニーズに応えるためには, 学校心理学に基づく心理教育的援助サービスの理論体系 (石隈, 1999) が多くの示唆を与える。本稿では, 学校心理学を枠組みとしてスクールカウンセラーが実践したコア援助チームの事例を取り上げ, 心理教育的援助サービスについて考察した。コア援助チームとは“教師・保護者・コーディネーター (スクールカウンセラーなど)が核になり, 他の援助資源を活用しながら定期的に援助する心理教育的援助サービスの形態 (田村, 1998)”である。コア援助チームでは, それぞれの異なった専門性や役割を生かしながら子どもの状況について検討し, 今後の援助について話し合い, 援助資源を生かして援助を行う。コア援助チームで行ったコーディネーションや相互コンサルテーションは有効であることが示唆された。さらに, 援助資源の把握, アセスメント, 援助の立案などのために作成した援助チームシート・援助資源チェックシートも有用であることが示された。
著者
小野田 亮介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.185-200, 2019

<p> 自分の意見を分かりやすく説得的に文章化する能力は,学校教育での活動(e.g., 作文,学級新聞,小論文,レポート,論文などの執筆)のみならず,社会生活(e.g., 意見書や要望書の執筆,企画の提案から書面での交渉)を営む上でも重要になる。したがって,学校教育を通した意見文産出能力の育成は,学校教育以降を見据えた長期的な視点のもとで計画され,実行されるべきだといえる。本論文では,学校教育における意見文産出指導について「誰に,何を,どう書くか」という3つの観点から検討した。具体的には,それぞれの観点を「誰に:読み手意識」,「何を:理由想定」,「どう:意見文スキーマと産出方略」といったキーワードで捉え,(1)観点ごとに関連する先行研究を概観し,(2)学校教育での指導で課題となりうる点を指摘するとともに,(3)それらの課題に対応する指導方法について提案した。最後に,全体の議論をふまえて今後の意見文産出研究,および意見文産出指導の展開について考察した。</p>
著者
山崎 勝之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.73-83, 2002-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
63
被引用文献数
1 1
著者
大神 英裕 実藤 和佳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.145-154, 2006-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
49

ヒトは誕生直後から社会的認知の萌芽を現し, その後, 飛躍的に発達していく。1975年, 他者が見ている対象を見る現象である視覚的共同注意が, 後続する社会的認知発達に重要であると報告された。以降, 多くの研究が重ねられ, その定義や行動的指標は広義かつ多様になっていった。しかし, 各共同注意行動の出現時期やその発達的関連性はいまだ明らかでない。そこで, 約2,000人の出生児を対象に, 8ヵ月から18ヵ月まで2ヵ月ごとに共同注意に関する縦断的コホート調査を実施した。本稿では, 先行研究の文献とこの調査のデータとをあわせて紹介する。調査の結果, 出現時期の様相が明らかとなり, データの標準化により共同注意尺度を作成した。また共分散構造分析から, 共同注意の発達には「視線の追従」・「行動の追従」・「注意の操作」・「シンボル形成」という4段階があり, 因果的な発達連鎖を持っていることが示唆された。こうした共同注意の定型発達過程の検討は, 乳幼児期における発達評価にも貢献できる。生後18ヵ月時点における定型発達, 知的障害, 自閉症の共同注意行動の特徴について報告するとともに, 自閉症の初期予兆について論じた。