著者
小松 伸一 太田 信夫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.155-168, 1999-03-30

記憶研究において近年話題になっているトピックとして, 作業記憶, 潜在記憶, 展望記憶, 記憶の歪み, 自伝的記憶を取り上げ, それぞれのトピックにおける研究動向を展望した。作業記憶研究においては, 中枢実行系の機能を解明していくことがこれからの研究の焦点となっていた。潜在記憶研究では, 無意識的記憶過程との対比によって意識的記憶過程の解明が試みられ, 意図的な想起, 検索結果のモニタリング, 主観的意識経験, という3つの特徴が明示された。これら3つの特徴は, 生態学的妥当性を指向した研究の中で, より詳細な分析が積み重ねられてきた。まず展望記憶は, 回想記憶と比較した場合, 自己始動型検索に依存している点が特徴となっていたが, この特徴は実行機能の反映とみなされた。次に, 検索過程のモニタリングも実行機能の反映と考えられ, その失敗は記憶の歪みや誤りを引き起こすことが指摘された。さらに, 自伝的記憶の想起には, 自己概念が密接に関わり合っていることが示された。実行機能の解明は, 今後の記憶研究にとって重要な課題であることを示唆した。
著者
東 洋
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.125-131, 2000-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
6

筆者の形成期, つまり終戦前後から1960年代初頭に及ぶ間の日本の心理学の流れを, 学生または若手研究者としての体験と印象に即して述べる。この時期はまた戦争による壊滅から, 日本の国力も学問も回復に向かった時期である。教育心理学を関心の中心におきながら, 終戦前後のこと, ゲシュタルト心理学とS-R理論, 戦後の講習会を通じてのアメリカ心理学の影響, 教育心理学の独立, 臨床心理学, 心理学における数学と推計学, コンピューターと認知心理学などの話題から成る。

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著者
石黒 影二 落合 良行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.24, 1985-03-30
著者
牟田 悦子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.124-131, 2002-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
33
被引用文献数
1 5
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.64-76, 2013-03-30 (Released:2013-10-30)
参考文献数
100
被引用文献数
1 1

本稿では,2012年度の測定・評価領域の研究の動向を概観する。対象となる研究は,『教育心理学研究』に掲載された論文,日本教育心理学会第54回総会で発表された論文,さらに,国内外の関連する学会等で報告された論文や文献である。本年度に発表された研究を概観するにあたり,(1) 効果量(および, 検定力分析, メタ分析),(2) 項目反応理論,(3) MCMC法に注目した。 2012年度は,これまでその重要性を指摘されながらも十分に実践されているとは言えなかった,効果量やメタ分析に焦点が当たり,普及への一歩を踏み出した年と言えるかもしれない。また,項目反応理論に関する研究が多数報告されたことも本年度の特徴と言えるだろう。 本稿のもう1つの目的は,オープンソースの統計ソフトウェアであるRについて,教育心理学研究における利用の現状と展望について述べることである。Rが心理学研究でどのように利用されてきたか,Rの利用におけるメリットとデメリット,Rと他のソフトウェアの整合性,そしてRを用いた心理統計教育について述べる。
著者
大浜 幾久子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 = The annual report of educational psychology in Japan (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.144-155, 1996

ピアジェ(1896-1980)の生産性は, 60年にわたって常に際だったものであった。また, 死後出版も10年間に及び続いた。ピアジェの全著作を貫いているひとつの概念がもしあるとすれば, それは均衡である。ピアジェの野心は科学的認識論をつくりあげることであった。ピアジェが発生的認識論とよんでいる認識論は, 基本的に構築説にたつものであり, その主目的は, 初期の単純な認識からより複雑で強力な構築物への移行を研究することである。ある方向へ向かう発達のダイナミクスを説明するのに, ピアジェは調整のメカニズムを伴う均衡化のモデルを精緻化した。この考えの起源は, ピアジェが若き日に著した『探究』と題する小説にまで遡る。生涯を通して, ピアジェはこのミデルを洗練し続けたのである。生涯最後の10年, ピアジェは, 研究を構造の側面から過程の側面へと転換し, 心的操作を機能のより広い形態に従属させ, また新しい可能なことと必然なことへの開放という観点から, 認識, 矛盾, 弁証法を分析することによって, ピアジェ理論のもつ機能主義的な特質を新たなものにした。
著者
土屋 玲子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.162-172, 2000-03-30

本論は, 学内にあるカウンセリングルームに通う生徒たちが, そこでは普通に学習もし, 友人関係もつくれるのに, なぜ学級には適応しないのかという疑問から出発した。筆者は, 日々学校内での教師の実践を見ていて, 力量のある教師が, 教師に特有の教える・指導するという働きかけと, カウンセラーにみられる気付く・待つという両方の姿勢を適宜, 使いこなしていることに気がついた。こういう教師の学級では, 問題児といわれた生徒が, 落ち着き, 目立たなくなる。そこで, 筆者は, 教育の場にその両方の働きが必要と認識している4名の教師の実践を検討した。結果は以下のようであった。1)学校環境そのものの中に, 教師が, 気付く・待つことを阻害する要因が含まれる。2)教師(教科指導の専門家)とカウンセラー(心の領域の専門家)の役割を明確に分担する方向と, 教師個々に, あるいは, 学校全体の雰囲気に, 両方の働きを混在させようとの方向ができている。これは, 教師の専門性をどのように捉えるのか, スクールカウンセラーの果たすべき役割, そのための適正な配置方式といった問題につながってくる。スクールカウンセラーが配置されて5年が終わろうとしている今, 改めて検討すべき課題といえる。
著者
大島 純
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.178-187, 2008-03-30
被引用文献数
1

本稿では,現在初等教育から高等教育まで,その普及が著しいe-ラーニングについて,その効果的な利用のために展開されている認知心理学的研究の二つを概観する。その第一はe-ラーニング学習環境で学習者に要求される学習方略(自己制御学習)に関する研究である。この研究の成果は,e-ラーニング学習環境における学習成果を向上させる教育的支援のあり方(足場掛け)について有益な示唆を提供している。そして第二は,学習者の認知的アーキテクチャに言及した認知的負荷理論の発展である。e-ラーニング学習環境における課題要求と,それを実行するための学習者の心的資源の関係をシステマティックに分析する視座を提供してくれている。それぞれの研究潮流を概観した上で,そうした研究アプローチが今後のe-ラーニングにおいてどのような意味を持っているのかについて著者なりの考察を加える。
著者
藤岡 孝志
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.142-154, 1999-03-30

本論文の目的は, まず, 授業における教育臨床的な側面と教師の職能発達, 及び今日的な課題である不登校に焦点を当てた様々な研究を概観し, その上で, 日本独自の教師(特に担任)サポートを中心としだスクールカウンセリングシステムの構築に向けての試論を展開した。その際, 合わせて, スクールカウンセリング活動についてもその研究を概観した。最後に, 今後の展望として, 以下の6つの観点を提案した。(1)個別, 集団によるカウンセリングだけでなく, コンサルテーションやコーディネーション, ピア・カウンセリングなどの重要性 (2)スクールカウンセラーによる多様な側面への介入の必要性。(3)個別教育計画の作成に果たす心理学専門家の役割の明確化と貢献。(4)授業における教育臨床的な観点に焦点を当てた実証的・実践的な研究の推進。(5)教師の職能発達における教育臨床的な側面の実証的・実践的な研究の推進。(6)教師による「教育行為」と心理学の専門家による「心理行為」の明確化と両行為相互の役割供応に関しての実証的・実践的な研究の推進。