著者
古賀 雄二 村田 洋章 山勢 博彰
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.103-111, 2014-05-01 (Released:2014-07-11)
参考文献数
32
被引用文献数
10

目的:せん妄はICU患者の入院期間延長や生命予後悪化につながるが,スクリーニングされずに見落とされ,治療されないことも多い.ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)は,ICUでのせん妄評価法として国際的に認められた方法である.本研究は日本語版ICDSCの妥当性・信頼性の検証を目的とする.研究方法:日本の2ヵ所の大学病院ICUで実施された.妥当性評価として,精神科医が評価するDSM-IV-TRをせん妄診断の標準基準として,リサーチナースおよびスタッフナースの日本語版ICDSCのカットオフ値を検討し,感度・特異度を算出した.また,リサーチナースとスタッフナースの日本語版ICDSCの評価を比較し,評価者間信頼性を算出した.結果:評価対象者数は82名であり,DSM-IV-TRでのせん妄有病率は22%であった.興奮・鎮静度はRASS-0.33±2.5であった.DSM-IV-TRに対して日本語版ICDSCのカットオフ値は2点の場合に感度と特異度の和が最大となったが,特異度が高いのはカットオフ値を3点とした場合であった.カットオフ値3点でのリサーチナースとスタッフナースの日本語版ICDSC評価結果は,それぞれ感度が66.7%と72.2%,特異度が78.1%と71.9%であり,評価者間信頼性はκ=0.55であった.結論:日本語版ICDSCは外科系ICU患者において,せん妄診断の標準基準であるDSM-Ⅳ-TRと比較して妥当性と評価者間信頼性を有するせん妄評価ツールであり,記録物からレトロスペクティブにせん妄評価が可能なツールである.高い特異度を確保するという臨床上の理由から,カットオフ値を3点として使用することを推奨する.
著者
福井 悠美 佐伯 一成 花園 忠相 田邉 規和 浦田 洋平 日髙 勲 寺井 崇二 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.35-40, 2015-02-01 (Released:2016-05-11)
参考文献数
18

肝細胞癌(HCC;hepatocellular carcinoma)の自然破裂はしばしば遭遇する病態である.しかし,肝動脈化学塞栓療法(TACE;transcatheter arterial chemoembolization)施行直後に破裂を来した症例の報告は比較的まれであり,今回,HCCに対しTACE施行直後に破裂を来した一例を経験したので報告する.患者は73歳男性,背景肝は慢性肝障害(非B非C)であり,20XX年5月に肝S7のHCCに対して,開胸開腹S7亜区域切除術を施行した.翌年5月,肝両葉にHCCの再発を認め,リピオドール併用肝動脈化学療法(Lip-TAI;lipiodol - transcatheter arterial infusion)を施行したが,肝S2の腫瘍はリピオドール貯留不良であった.7月には同S2病変は径38×20mm大に増大し,肝表面に突出していた.同病変に対してTACEを施行したが,治療終了4時間後に心窩部痛が出現し,収縮期血圧は60mmHg台に低下した.細胞外液負荷にて速やかに収縮期血圧90mmHg台まで上昇したため経過観察としたが,徐々に貧血が進行した(術前Hb 11g/dl → 術後Hb 6.2g/dl).術後4日目の腹部エコーおよび腹部造影CTで,TACE施行後の肝S2のHCCの周囲に血腫を認めた.明らかな造影剤の漏出は認めなかったが,HCC破裂による貧血進行と判断し,同日再出血予防のため肝動脈塞栓療法(TAE;transcatheter arterial embolization)を施行した.TAE施行後は再出血なく経過した.本症例では,HCCが増大傾向にあり,肝表面に突出していたことから,元々HCC破裂の可能性も考慮すべきであった.加えて,TAE施行時にTACE後の肝S2HCCに血流の残存を認め,塞栓が不十分であったことが判明した.以上のことから,TACEに伴う様々な刺激,血流残存などの要因によりHCC破裂を来したことが推察された.したがって,本症例のように肝表面に局在するHCCに対してTACEを施行する際には,TACE後破裂のリスクも想定して,慎重かつ確実に肝動脈を塞栓し,厳重な経過観察をしていくことが重要と考えられる.
著者
白澤 文吾 藤宮 龍也 松井 邦彦 瀬川 誠
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.143-146, 2014-05-01 (Released:2014-07-11)
参考文献数
6

山口大学医学部医学科では,二年前より臨床実習用のログブックを導入し,学生と教員に活用を促してきた.その目的として,学生にログブックの記録を振り返ってもらい成長の記録として役立てて欲しい事,また多忙な教員が短い実習期間の中で効率よく学生を指導するため,学生自身の学習意欲を高めさせることといった効果を期待していた.今回,ログブックの活用状況に関するアンケート調査を,臨床実習学生と全診療科臨床実習担当教員に実施した.調査の結果から,学生,教員ともにログブックが臨床実習の場に浸透しているとは言いがたい現状だった.しかしながら,本来のログブックの目的である「復習や振り返りに役立った」が学生からの自由記述回答で最も多かった.また,学生からの改善策として「診療科毎のログブックの扱いに対する温度差が大きく,全体での統一した活用法を決めて欲しい」との回答が最も多く,早急な改善が必要であると思われた.今後,臨床実習の充実に向けて,ログブックの改訂を行いながら,学生と教員の双方にログブックの有用性を理解してもらい,活用を積極的に働きかけることが必要であると考えられた.
著者
玉田 耕治
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1+2, pp.5-10, 2012-05-01 (Released:2013-03-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1

癌免疫療法は従来の治療法に抵抗性である進行癌に対する革新的な治療法として研究,開発が進められている.近年の基礎的な腫瘍免疫学の発展と多くの臨床研究の蓄積により,癌と免疫システムの相互作用に関する分子機構が明らかとなってきた.免疫システムは癌細胞が発生する段階では免疫監視機構として,また顕在化した癌組織においては腫瘍抗原に対する免疫応答として癌をコントロールしようとする.これらの免疫反応に対し,癌細胞は自身の免疫原性を変化させることや腫瘍微小環境における免疫抑制メカニズムを誘導することで,極めて巧妙に免疫システムから逃避し,生存増殖していることが明らかとなってきた.このことから従来の癌免疫療法の手法では効率的に癌反応性免疫細胞を誘導することは困難であり,またたとえ誘導できたとしても,腫瘍微小環境における抑制メカニズムでその機能が阻害され,十分な治療効果が示せないことが示唆された.つまり効果的な癌免疫療法の樹立には,いかに効率的に癌反応性免疫細胞を誘導するかという点に加えて,腫瘍微小環境での免疫逃避機構や免疫抑制メカニズムをいかに制御するか,という視点が重要であることが確立してきた.このようなパラダイムシフトに基づき次世代型の癌免疫療法が次々と開発されており,米国ではその一部が進行癌に対する新しい治療法としてすでに承認されている.本総説では,このような視点から開発が進められている「免疫チェックポイント分子の阻害を標的とした新しい抗体療法」および「遺伝子改変技術を利用したリンパ球移入療法」について紹介する.
著者
山下 進
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.193-200, 2007-12-31
参考文献数
15

【背景】尿中の3-メチルヒスチジン(3-methyl histidine,3-MH)は筋タンパク異化の程度を反映する指標とされている.近年ではより短時間のタンパク代謝を評価する方法として,血中の3-MHが用いられることがある.しかし,これまでにヒトでの測定報告は少なく,その基準値は決められていない.【目的】健常成人における血中3-MHの基準値(範囲)を求め,重度侵襲患者の血中3-MHと比較する.そして侵襲時,タンパク異化の指標と成り得るかを検討する.【方法】健常成人101名の血中3-MHを高速液体クロマトグラフで測定した.重度侵襲患者6名の血中3-MHを経日的に測定し,基準値と比較した.また,血中アルブミン,急性相タンパクおよび尿中3-MHを経日的に測定し,タンパク代謝を評価した.【結果】健常成人の血中3-MHの基準範囲は0.91〜5.59nmol/mlとなった.男性では1.22〜6.26nmol/ml,女性では1.09〜4.41nmol/mlであり,男性が有意に高値を示した(p<0.05).筋肉量による補正のために3-MH/血中クレアチニン値(3-MH/Cre)を算出すると,男女差がなくなり,健常成人全体では0.13〜0.53nmol/μg Creが基準範囲となった.重度侵襲患者では健常成人に比して血中3-MH/Cre値は有意に高値であり(0.59±0.12 vs 0.33±0.10nmol/μg Cre,p<0.05),筋タンパクの異化亢進が示唆された.重度侵襲患者の血液では3-MH/Creとアルブミン,急性相タンパクにそれぞれ相関を認めなかった.【結論】健常成人の血中3-MH/Creの基準値を設定した.筋肉量の差があるために男女別の基準値か,クレアチニン値で補正した値を用いる必要がある.重度侵襲患者では明らかに血中3-MH/Creは上昇し,タンパク異化亢進が強く示唆された.
著者
松下 一徳 真野 隆充 堀永 大樹 森 悦秀 村松 慶一 田口 敏彦 上山 吉哉
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2+3, pp.43-47, 2008-06-30 (Released:2008-07-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

近年,口腔腫瘍切除後の顎欠損による咬合機能ならびに審美性の回復にインプラントが用いられるようになった.われわれは,腓骨による下顎骨再建後にインプラント義歯を用いて咬合機能の回復を行った1例を報告する.42歳の女性が左下顎歯肉の腫脹を主訴として平成16年当科を紹介受診した.左側下顎骨エナメル上皮腫の診断により,下顎骨区域切除後,血管柄付き腓骨皮弁による顎骨再建を行った.術後13カ月に再建用プレートを除去し移植骨にインプラント一次手術を行った.インプラント二次手術後,インプラント周囲炎が認められたため,口蓋歯肉をフィクスチャー周囲に移植し,付着歯肉を形成した.上部構造として磁性アタッチメントを利用したオーバーデンチャーを作製し,咬合機能の回復を得た.
著者
井上 宣子 大草 知子 名尾 朋子 李 鍾国 松本 奉 久松 裕二 佐藤 孝志 矢野 雅文 安井 健二 児玉 逸雄 松崎 益徳
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.109-115, 2005-08-31
被引用文献数
2

心筋細胞間のギャップ結合の発現・分布はコネキシン蛋白の半減期が短いことにより様々な病態において直ちに変化しうる.高頻度電気刺激(RES)によるギャップ結合リモデリングへの効果はいまだ明らかにされていない.培養5日目のラット心室筋細胞に120分間3HzのRESを負荷した.RESによりCx43蛋白質および遺伝子発現量は60分後には有意に増加した.免疫染色においても同様の結果であった.心筋細胞中のangiotensin II (AngII)は15分後に約2倍に上昇した.MAPK系のリン酸化型ERKは2峰性に5分と60分で, またリン酸化型JNKも15分と60分で著明に活性化された.リン酸化型p38 MAPKは5分後に1峰性に活性化された.細胞外電位記録法により心筋細胞の興奮伝播特性の変化を解析したところ, RESにより伝導速度は有意に増加した.これらの変化はlosartanにより抑制された.RESによるCx43の発現増加はまたERK, p38の特異的阻害剤にても抑制された.RESは, 早期より心筋細胞内のAng II産生を増加し, MAPK系を活性化することによりCx43発現量を増加させた.その結果, 細胞間の刺激伝播異常を引き起こし, 不整脈基質の一つとなる可能性が示された.
著者
寺崎 裕田加
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.47-54, 2004-02-29
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

There is no consensus on whether the patella should be resurfaced in total knee arthroplasty (TKA) at present. Therefore, the indications for patellar resurfacing in TKA were evaluated in this study. Sixty-seven knees that were received TKA between 1996 and 1998 were studied. The petella were resurfaced in 26 knees, but were not resurfaced in 41 knees. The mean age of the patients was 71 yesrs, and the follow-up period ranged between 24 months and 60 months, with a mean period of 41 months. The Japanese Orthopaedic Association (JOA) scores, patella scores, and plain radiographs were evaluated. In the non-resurfacing group, the deformation of the patellofemoral joint was investigated, and the patella scores and femoral rotational alignment were evaluated by the degree of congruity between the patellofemoral joint. Although there were no significant differences between two groups in JOA scores, in those cases with rheumatoid arthritis, the resurfacing group was significantly higher than non-resurfacing group in patella scores. Anterior knee pain tended to appear more often in the non-resurfacing groupe. In the resurfacing group, we observed more progressive deformation of the patellofemoral joint and lower patella scores when the congruity between the patellofemoral joint were not good. This trend was more pronounced in those cases with rheumatoid arthritis. In the cases with low femoral rotational alignment scores, the joints were incongruity. In those cases with osteoarthritis, resurfacing of patella is not necessary in the long term if the femoral rotation is adjusted adequately and the patellofemoral joint is congruent. However, in those cases with rheumatoid arthritis, patellar resurfacing is recommended because the deformation of the joint progresses, and the frequency of pain increases with time even when the patellofemoral jionts are congruent.
著者
谷田 憲俊
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.89-97, 2004 (Released:2005-09-30)
参考文献数
18

The backgrounds of informed consent in the history are described with a special reference to human experimentation, clinical trials and physicians' morality and ethical codes. The first informed consent might be one by a Japanese surgeon Hanaoka Seishu (1760-1835), which included information of diagnosis, condition, and immunity to him in case of incidence. During the extensive development in medicine from the nineteenth to twentieth century, a number of inhumane experimentations were carried out in vulnerable subjects. Then, movement against cruel human experiments emerged, and headed toward establishment of human rights. The current concept of informed consent was introduced in 1900 by the Prussian government. In 1931, Reich Minister of the Interior issued the Guidelines for New Therapy and Human Experimentation, which included almost all informed consent rules in a current sense. However, these guidelines could not stop the abuse of people in medical research by doctors. After World War 2, the Nuremberg Code and Helsinki declaration have established the current form of informed consent. However, even this final form of informed consent could not stop the abuse of research subjects by doctors as exemplified by the Taskegee syphilis study, Willowbrook hepatitis trials and the Gelsinger case in the Pennsylvania University. We must remind ourselves the history of informed consent, which tells us that even the finest form of informed consent rule can be jeopardized easily by doctors resulting in the abuse of research subjects.
著者
西野 友紀 西川 潤 佐竹 真明 松本 俊彦 赤司 景子 木藤 朋子 中村 弘毅 沖田 極
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.69-74, 2005-06-30
被引用文献数
1

プロトポンプ阻害薬(PPI)を一定期間投与しても治癒しない潰瘍の存在が明らかになり, 注目され始めている.H_2受容体拮抗薬(H_2-RA)の静注により, 一旦止血したにもかかわらず, PPIの内服薬を開始後に再出血を来たした出血性胃潰瘍の2例を経験した.症例1では, H. pylori陽性で胃潰瘍の再発を繰り返したために胃角が著明に短縮しており, また再発性十二指腸潰瘍による幽門輪の変形も認めていた.症例2では, 幽門狭窄を来たしており, 再出血時の緊急内視鏡検査時には内服中のオメプラゾールが錠剤のまま胃内で確認された.幽門狭窄は進行性に強くなり, 最終的には胃癌の確定診断がついた.これらの2例は, 胃排出能が低下していたことにより, 胃内で長く酸性環境下に曝露されたPPIの吸収低下が起こり, 十分な胃酸分泌抑制は得られず, 再出血を来たしたと考えられた.このような胃排出能低下によるPPIの吸収不良がある場合は, H_2-RAへの変更や胃運動改善薬の併用などが効果的であり, 本2症例でもH_2-RAの内服薬へ変更したところ, コントロール良好となった.小弯の著明な短縮や幽門狭窄などで胃排出能が低下している場合, PPI内服薬の効果が十分に得られないことがあるので注意を要すると考えられた.