著者
白蓋 真弥 網木 政江 浅海 菜月 桐明 祐弥 生田 奈美可 安達 圭一郎 田中 愛子
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.165-173, 2021-12-02 (Released:2021-12-24)
参考文献数
13

【目的】新型コロナウイルス感染拡大の影響により,臨地での看護学実習の機会が減少した2020年度卒業生の看護実践能力を明らかにすること,さらにコロナ禍以前に看護基礎教育を受けた2018年および2019年度卒業生の卒業時看護実践能力との比較を通して,2020年度卒業生の看護実践能力の特徴を明らかにすることを目的とした.【方法】2020年度卒業生77名および既卒生56名に対し,無記名選択式一部記述式の自記式質問紙調査を実施した.【結果】有効回答率は2020年度卒業生74.0%,既卒生35.7%であった.2020年度卒業生の看護実践能力の平均点が高かった項目は「看護の実施にあたり,その人の意思決定を支援することができる.」や「多様な価値観・信条や生活背景を持つ人を尊重する行動をとることができる.」等のヒューマンケアの基本に関する実践能力群に含まれるものであった.また,感染防止対策に関する項目も平均点が高かった.2020年度卒業生および既卒生の平均点を比較したところ,66項目中62項目で2020年度卒業生の平均点が有意に高かった.また,既卒生平均点の順位を基準として,2020年度卒業生平均点の順位を比較し,順位が大幅に下降した項目は,実施する看護の根拠と方法を人々に合わせ説明すること,回復期や慢性的な健康課題に関する看護等であった.一方で順位が大幅に上昇した項目は,家族アセスメントやエンドオブライフケア等であった.【結論】2020年度卒業生は一定の看護実践能力を身につけることができたと自己評価していた.しかし,臨地で実習できていないために,現実的な視点からの評価ができていない可能性があった.
著者
田邉 規和 播磨 夕美子 橋本 真一 寺井 崇二 山﨑 隆弘 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.33-37, 2013-02-01 (Released:2013-03-14)
参考文献数
11

症例は31歳の女性.18歳時にCrohn病と診断され,当科での治療を開始された.経腸栄養療法や5-ASA製剤,ステロイドや抗TNFα抗体製剤等の内科的治療を行うも効果不十分であり,消化管合併症の悪化から24歳時に回腸部分切除術,26歳時に回盲部切除術,28歳時に回腸および上行結腸切除術を施行し,残存小腸は約280cmとなった.その後も症状は安定せず,成分栄養剤による経腸栄養療法を勧めるも患者の理解が得られず,長期の絶食および中心静脈栄養を施行していた.31歳時頃より,見当識障害および活動性低下が認められたため当科入院となった.腹部骨盤単純CT検査上,肝萎縮を伴う肝硬変の状態と考えられ,血液生化学検査にて著明な肝機能障害およびアンモニア値の上昇を認めたため,非代償性肝硬変症による肝性脳症と診断された.血液検査上HBVおよびHCV感染は否定され,飲酒歴もなく,以前より脂肪肝が認められ,肝胆道系酵素の上昇も認められていたことから,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)による非代償性肝硬変と診断した.年齢と肝機能から肝移植を考慮したが,適したドナーがいなかったことと,患者が肝移植を希望しなかったことから対症療法を継続した.その後もCrohn病や肝硬変の加療で入退院を繰り返し肝不全により死亡した.重症Crohn病の経過中に複数の要因からNASHを併発し非代償性肝硬変症へ進展した,極めてまれな症例を経験したため報告する.
著者
久保 秀文 中須賀 千代 多田 耕輔 宮原 誠 長谷川 博康 小野寺 学
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.161-164, 2013-08-01
参考文献数
9

われわれは急性の閉塞に対してステント留置を行い一期的な切除手術が可能であったS状結腸癌の1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性.北海道を旅行中に突然の腹痛を来して地域の病院へ入院となった.検査でS状結腸に腫瘤を診断されたが,患者が地元(山口県)での手術を希望したため閉塞に対して金属ステントが留置された.ただちに腹痛は消失し多量の排便を認め,その後当院へ紹介入院となった.S状結腸切除術が施行されたが術後経過は良好であり術後第10病日目に軽快退院した.患者は現在も再発徴候なく健在である.急性の大腸閉塞に対して術前の金属ステント留置は侵襲が少なく複数回の手術を回避することができ有用な方法と考えられる.
著者
河口 義隆
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.105-112, 2017-05-01 (Released:2019-06-08)
参考文献数
14

緑膿菌に対するタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)の効果を投与量,投与回数,投与時間を変化させた12通りの投与方法で検討した.モンテカルロシミュレーション法を用いて%Time above MIC(%T>MIC)が50%以上得られる確率(Target Attainment%:TA%)を腎機能別に算出し,TA80%以上を満たす投与方法を導出した.薬物動態パラメータは日本人肺炎患者における母集団薬物動態(population pharmacokinetics:PPK)解析結果より,MICは2011年から5年間に山口大学医学部附属病院で分離された緑膿菌のアンチバイオグラムからMIC90値を設定した.50%T>MICが得られる確率(TA)80%以上かつ,より患者負担の少ない(低用量,少回数,短時間投与)投与を優先することを推奨する最適投与方法の基準とした.2015年の結果では,クレアチニンクリアランス(CLcr)20mL/min未満の患者で2.25g1日4回投与,CLcr20から29mL/minの患者で4.5g1日3回投与,CLcr30から79mL/minの患者で4.5g1日4回(それぞれ1回1時間点滴),CLcr80mL/min以上の患者では4.5g1回3時間点滴を1日4回投与が推奨された.ただし,期間ごとのMIC90値には変動性があり,値が高くなると適応用量内では最適投与方法が推奨できない結果も得られた.腎機能別に患者を層別化し,感受性が不良な菌種における直近のアンチバイオグラムからMICを設定することで,経験的治療においてもPK/PDを考慮した最適な投与方法が推奨可能であった.
著者
田中 愛子 後藤 政幸 岩本 晋 李 恵英 杉 洋子 金山 正子 奥田 昌之 國次 一郎 芳原 達也 Aiko TANAKA Masayuki GOTOH Susumu IWAMOTO Keiei LI Yoko SUGI Masako Kanayama Masayuki Okuda Ichiro KUNITSUGU Tatsuya HOBARA 山口大学医学部環境情報系・公衆衛生学講座 和洋女子大学短期大学部 元山口県立大学看護学部 岡山大学大学院法医生命倫理学講座 山口大学医学部環境情報系・公衆衛生学講座 山口大学医学部環境情報系・公衆衛生学講座 山口大学医学部環境情報系・公衆衛生学講座 山口大学医学部環境情報系・公衆衛生学講座 山口大学医学部環境情報系・公衆衛生学講座 Department of Public Health. and. Human Environment and Preventive Medicine Yamaguchi University School of Medicine Department of Health and Nutrition Wayo Women's University Formerly of School of Nursing Yamaguchi Prefectural University Department of Legal and Bioethics Graduate School of the University of Okayama Department of Public Health. and. Human Environment and Preventive Medicine Yamaguchi University School of Medicine Department of Public Health. and. Human Environment and Preventive Medicine Yamaguchi University School of Medicine Department of Public Health. and. Human Environment and Preventive Medicine Yamaguchi University School of Medicine Department of Public Health. and. Human Environment and Preventive Medicine Yamaguchi University School of Medicine Department of Public Health. and. Human Environment and Preventive Medicine Yamaguchi University School of Medicine
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.697-704, 2001-08-31
参考文献数
21
被引用文献数
1

In order to explore how to provide death education according to age groups, we examined the differences in the awareness of death between the adolescent and the middle age groups. A questionnaire survey was conducted using the Death Concern Scale. The subjects were students (n=627) aged between 19 and 29 (i.e. the adolescent group), company workers (n=149) and visiting nurses (n=94) aged between 30 and 64 (i.e. the middle age group). First, the question items were analyzed by content analysis and confirmed by factor analysis. Two factors were extracted from the Death Concern Scale:"thinking about death " and "anxiety and fear of death". Secondly, the data from both age groups were analyzed and compared by using the Mean Structure Model. The factor "thinking about death" had a greater value for the adolescent group than for the middle age group. There was no significant difference between the two groups in terms of the factor "anxiety and fear of death". These results imply that death education carries more importance for the adolescent group than for the middle age group.
著者
古元 礼子
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.145-152, 2008-10-31 (Released:2008-12-08)
参考文献数
21

甲状腺ホルモン (T3,T4) は発生,成長,代謝において重要な働きをしているが,その作用は甲状腺ホルモン受容体 (TR) を介して発現する.TRは核内受容体スーパーファミリーに属するリガンド依存性の転写調節因子であり,標的遺伝子の発現を調節する.ヒトのTR遺伝子の異常は甲状腺ホルモン不応症 (RTH) として報告され,αとβの2つのTR遺伝子のうち,TRβ遺伝子の欠損または変異によるホルモン作用の異常である.TRβを優位に発現する下垂体では甲状腺刺激ホルモン (TSH) に対するネガティブフィードバックが破綻する.今回,我々はRTH患者で同定されたTRβ遺伝子の変異を導入した遺伝子改変マウスを解析した.この変異TRβ (TRβPV) はリガンド結合部位のアミノ酸置換のためリガンドが結合できない.TRβPV/PVマウスは血中T3,T4,TSHの著しい上昇を示し,半年齢から下垂体が野生型の2倍以上に増大した.病理組織学的には多発性のTSH産生腫瘍を認めた.コントロールとしてTRβPV/PVマウスと同様に著しいT3,T4,TSHの上昇を示すTRα1-/-,TRβ-/-マウス(TRα1とTRβを欠損する)を解析した。TRα1-/-,TRβ-/-マウスはTSHに対するネガティブフィードバックが破綻し,下垂体からTSHを激しく産生するにもかかわらず,下垂体は正常であった.腫瘍の発生にリガンドの結合しない変異TRβが重要である可能性が示唆された.cDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析より,TRβPV/PVマウスに発生するTSH産生腫瘍ではcdc2,cyclin D1など細胞周期,細胞増殖に関連する遺伝子の発現が上昇していた.TRβPVの機能解析により,リガンドの結合しないTRβPVを介してcyclin D1/CDK/Rb /E2F シグナルが活性化され,腫瘍の発生に関わっている可能性が示唆された.
著者
守田 孝恵 磯村 聰子
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.17-24, 2017-02-01 (Released:2018-03-27)
参考文献数
24

【目的】1分単位のタイムスタディによって,保健師の日常業務の内容と時間量を明らかにする.【方法】市の保健師を対象に始業から終業までのタイムスタディの連続観察法を実施した.毎分0秒になった時点の保健師の行動・言動を観察記録し,「データ」とした.「データ」の内容が変化した時点で,区切り「場面」とし,その意味を表す「活動内容」を生成し時間量を明らかにした.対象者に厚生労働省保健師活動領域調査の様式に記入してもらい,問題点等を聞いた.【結果】業務時間は526分,場面は75であった.活動内容別時間量は,「住民との関わり」は130分で業務全体の24.7%であった.「地域への働きかけ」は,81分(15.4%),「個別ケースの評価検討」は50分(9.5%),「地域活動のための職場内の相談」は,71分(13.5%)であった.活動領域調査様式への記入は,保健福祉事業4時間,コーディネート2時間,業務連絡・事務2時間で,感覚的に振り分けられていた.【考察】「地域活動のための職場内の相談」「個別ケースの評価検討」は,業務の中で人に学ぶ能力開発である.それらに約2時間を費やしており,日常業務で実践力が培われている実態が浮き彫りとなった.業務の間の分単位の相談・共有・報告等の時間確保が能力開発には重要であることが明らかとなった.保健師活動量をより正確に調査をするには,職場における地域活動のための相談や個別ケースの評価検討の時間を計上できる項目が必要であると考えられた.
著者
丸山 マサ美
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.17-27, 2006-02-28

近年,生殖補助医療の進歩は著しく,不妊症患者をめぐるさまざまな調査が行われている.しかし,当事者である不妊症カップルを対象にした生殖技術に対する調査は少ない.今回,現在,治療中の不妊症カップル(A市B施設において,治療中の不妊症カップル122名(男性58名,女性64名),回答者の年齢平均 男性36.3±4.5歳,女性33.8±3.9歳)について,生殖技術に対する態度の意識調査を行い,各質問項目と『子供の有無』別,『性別』に統計解析を行った.調査は,平成14年10月19日〜平成15年8月27日実施した.調査票の質問項目は,フェイスシートを用意し,生活観4項目,人生観5項目,生殖技術の是非と推進8項目,AID (Artificial Insemination by Donor)について7項目,生殖医療の将来4項目,将来の家族設計・生殖技術に関する態度4項目であった.生殖補助技術について,「子供の有無」別と関連の高い項目は,「AIDに対する態度」,「営利目的でなく精子バンクとして精子を管理する事」の2項目が該当し,「AIDについては,自分自身はしない.他人はかまわない」,といった姿勢にあった.「子供の有無」別にかかわらず,「卵提供」・「胚提供」については,利用の意思がなかった.また,子供をもつカップルは,利用するだろう技術として「AIH」,「IVF」,「排卵誘発剤」と答えたが,子供のいないカップルは,「AID」,「代理出産」,「代理母」,「人工卵」,「人工精子」の技術利用を期待していた.また,「性別」と関連の高い項目は,「患者自身の不妊経験」,「身近な不妊経験者の存在」であった.女性を取り巻く日常生活の環境要因とその経験に何らかの影響があるようだ.生殖補助医療においては,被実施者である不妊カップルを中心にその出生児,さらには,提供者のプライバシー保護が重要であり,子の福祉を考慮した倫理的,法的,社会的議論が今後さらに期待される.
著者
日野 啓輔
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.103-108, 2005 (Released:2006-09-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

著者は山口大学医学部第一内科入局以来,主にウイルス性肝炎の病態と治療に関する研究を行ってきた.本総説ではC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染機序と肝発癌機構についてわれわれのデータを紹介しながら考察を行った.HCVが末梢血単核球細胞内に感染することにより宿主の免疫応答から回避する可能性や,外被タンパク内に存在する超可変領域の変異を繰り返すことによる中和抗体からの逃避が持続感染機序の一要因と考えられた.こうしたHCV持続感染は究極的には高率な肝細胞癌の発生へと繋がるが,肝発癌にはHCVがもたらす酸化ストレスが関与していると考えられる.しかし,HCVのみの酸化ストレスでは肝発癌には不十分であり,酸化ストレスを増強する2nd hitが重要と考えられる.臨床的には加齢,アルコールなど酸化ストレス増強因子はいくつか上げられるが,われわれはC型肝炎病態の特徴の一つである肝内鉄過剰に注目しC型慢性肝炎の鉄過剰状態に類似したHCVトランスジェニックマウスを作成し,肝発癌機構の解析を行った.その結果,HCV感染における鉄過剰状態はミトコンドリア障害を引き起こし,酸化ストレスを増強することで肝発癌を促進することが明らかとなった.今後はこの発癌モデルを利用して,C型肝炎からの肝発癌を抑制しうる効果的な治療を開発したいと考えている.
著者
野口 哲央 花園 忠相 森 健治 沖田 幸祐 坂井田 功
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.241-246, 2013-11-01 (Released:2014-02-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2 3

症例は65歳の女性で,下腹部痛を主訴に受診し,腹部CTで内臓動脈瘤破裂による腹腔内出血と診断された.血管造影検査では広範囲にわたって血管径の不整や動脈瘤が認められ,回結腸動脈瘤が出血源と考えられた.動脈塞栓術にて症状は改善した.血管造影所見から分節性動脈中膜融解,segmental arterial mediolysis(以下,SAM)と診断された.TAE後1年10ヵ月のCTでは,未治療の動脈瘤と血管狭窄は消失していた.SAMは比較的稀な疾患であり,長期予後の報告もないため自然予後を理解する上で興味ある症例と思われたので,報告する.
著者
宮原 誠 西山 光郎 吉田 久美子 一宮 正道 多田 耕輔 藤田 雄司 秋山 紀雄 久保 秀文 長谷川 博康 宮下 洋
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1+2, pp.29-34, 2011-04-30 (Released:2011-07-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

症例は37歳,男性.トラックの荷台から飛び降りた際,立てかけてあった熊手の柄が肛門より刺入した.柄を自己抜去した後,肛門出血および疼痛が出現し当院救急搬送された.受診時,下腹部に軽度圧痛があり,肛門の5時から8時の方向にかけ挫傷を認めた.腹部CTで右傍直腸腔内に血腫および遊離ガスを認め,注腸造影で造影剤の腸管外への漏出を認めた.以上より,杙創による直腸穿孔と診断し緊急手術を施行した.開腹時,右傍直腸腔内に血腫,体毛,衣服の断片が存在し,直腸Rb部右壁に1.8cm大の穿孔を認めた.穿孔部を縫合閉鎖し,S状結腸を用いた人工肛門を作成した.また経肛門的に裂創部粘膜を縫合した.経過は良好で術後25日目に退院,8ヵ月後に人工肛門を閉鎖し完治した.杙創において,会陰部や肛門周囲から刺入した場合には骨盤内臓器や腹腔内臓器を損傷する危険性があり,受傷早期に臓器損傷の有無とその程度を把握し,これに応じた治療を迅速に行う必要がある.また体腔内に異物が存在することもあり注意すべきであると思われた.
著者
徳田 信子
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.23-29, 2016-02-01 (Released:2018-03-08)
参考文献数
29

近年,摂取脂肪酸の多寡やバランスが種々の炎症性疾患やアレルギー性疾患に与える影響が注目されている.しかし,栄養学的な知見が数多く報告されているのに対し,機序の詳細には不明な点が多い.多価不飽和脂肪酸は水に不溶であるため,細胞内でその機能を発揮するためにはキャリアーが必要となる.我々は多価不飽和脂肪酸を可溶化する細胞内キャリアーである脂肪酸結合タンパク質(Fatty Acid Binding Protein:FABP)に着目し,免疫系支持細胞での発現や機能について検討している.免疫系の組織では,細網細胞と呼ばれる支持細胞が自身の産生する線維とともに網状構造をつくり組織を維持していることが従来から知られてきた.しかし近年,支持細胞は免疫細胞の移動や機能,恒常性の維持にも重要な役割を持つことが明らかになってきた.また,それぞれの免疫組織に特異的な支持細胞があり,同じ組織の中でもそれぞれの場に応じた機能を持つ細胞が存在していることがわかってきた.特に,リンパ節のT細胞領域の線維芽細胞はfibroblastic reticular cell(線維芽細網細胞,FRC)と呼ばれ, T細胞の移動や分化などに重要な役割を担っている.我々は,神経系に特異性が高いと考えられてきた脳型脂肪酸結合タンパク質FABP7がFRCに発現し,T細胞の恒常性に寄与していることを明らかにした.また,脾臓のT細胞領域にも同様の細胞が存在することを示した.FABP7は肝臓固有のマクロファージであるKupffer細胞にも発現し,サイトカイン産生や,スカベンジャー受容体を介した死細胞の貪食を調節し,急性肝障害および肝線維化の病態に関与していた.また,FABPは表皮の恒常性の維持や中枢神経系の傷害からの回復など,生体防御に広く寄与していた.これらのことから,支持細胞を中心としたさまざまな免疫細胞がそれぞれに固有の脂肪酸のキャリアーを持ち,他の細胞の機能を調節することで免疫応答を制御していることが示唆された.
著者
岡野 こずえ
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.5-9, 2015-02-01 (Released:2016-05-11)
参考文献数
11

血小板は直径2~4μmの円盤状で,無核の微小細胞である.しかし,その内部のα顆粒には血小板由来増殖因子,β-トロンボグロブリン,von Willbrand(vWF)因子,濃染顆粒にはADP,ATP,セロトニンなど様々な物質を含んでいる.また血小板膜表面にはvWFの受容体の膜糖蛋白(GP)Ib/Ⅸ/Ⅴ複合体やコラーゲンの受容体であるGPⅥなど特有の機能的GPが存在し,生体の止血機構に重要な役目を果たしている.一方,血小板は活性化し易く形態の変形や粘着・凝集を起こし,崩壊後に微細粒子(MP)化することから,臨床検査法の対象としては取り扱いの難しい細胞でもある.その血小板に関して,測定方法に始まり巨核芽球性白血病の診断方法,血小板機能評価方法と血栓止血機構との関連性をテーマに研究を進めてきている. 活性化血小板由来マイクロパーティクル(aPLT-MP)は,強力な凝固活性促進や炎症促進作用を持ち,止血作用だけでなく脳梗塞や心筋梗塞の病因となる動脈硬化病変の形成にも強く関連している.しかし,MPは血小板の他に単球や血管内皮細胞など様々な細胞から産生され,細胞によってその動脈硬化病変の形成作用が異なると考えられているが,それらを鑑別測定できる検査法は確立されていない.現在,我々は血液中の多様なMPの中でもaPLT-MPを特異的に定量出来る高感度ELISAを開発し,種々の血栓症患者を対象に臨床的有用性の検討に取り組んでいる.さらに,aPLT-MP以外のMP検出法を開発し,各細胞由来MPが血栓形成作用や炎症促進作用にどのように関与しているかをaPLT-MPとの比較で明らかにする研究を行っている.今回はその研究経過について報告する.
著者
中澤 淳
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.5-14, 2013-02-01 (Released:2013-03-14)
参考文献数
33

江戸時代の毛利藩における医学教育は,本藩と4つの支藩において独自の展開をみせた.また,長崎との距離や交通の要衝下関の存在は,防長二州(周防,長門)における西洋医学の受け入れを助けたと考えられる.歴史的には徳山藩における医学館および四熊家の私塾見学堂が古く,天保年間に萩本藩に開設された好生館(堂)は,漢方と蘭方の優秀な教授陣による医学教育機関であった.明治に入ってから赤間関(下関)と三田尻(防府)における医学校開設や独自の医術試験施行など,新たな機運が盛り上がったが,それらは比較的短命に終わり,本格的医学教育は第2次大戦中宇部に創設された山口県立医学専門学校により再開された.
著者
神田 隆
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.5-11, 2005 (Released:2006-02-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

中枢神経では血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB),末梢神経では血液神経関門(Blood-nerve barrier, BNB)が神経系の内外を隔てるバリアーの実体であるが,現在ではBBB,BNBは物質交換を妨げる単なる壁ではなく,現在では神経系に対する物質透過を選択する能動的なシステムであると考えられている.臨床的な立場からは,BBB,BNBは炎症細胞や各種液性因子が神経実質内へと侵入する際の窓口であると共に,難治性神経疾患治療薬が神経細胞・神経軸索へと到達するのを阻む最大の障壁ともとらえることが可能で,BBB,BNBの人為的な操作は各種神経疾患の新たな治療法開発へ新たな地平線を開くものである.
著者
宮崎 睦子 田口 昭彦 櫻木 志津 篠原 健次 井上 康 Mutsuko MIYAZAKI Akihiko TAGUCHI Shizu SAKURAGI Kenji SHINOHARA Yasushi INOUE 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 山口県立中央病院内科 Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial Department of Medicine Yamaguchi Prefecture Central Hospial
雑誌
山口医学 = Yamaguchi medical journal (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.183-187, 2003-10-31
参考文献数
12

A 66-year-old male complained of thickening of the skin at the face, posterior neck and back after a febrile episode. The patient had obesity, elevated levels of HbA1C and urinary C-peptide. The seological tests for collagen diseases were negative. The serum level of vascular endothelial growth factor (VEGF) was elevated. The biopsied skin specimen revealed the thickening of the dermis by the increased proliferation of collagen fibers, thickening of collagen bundles with fenestrations and infiltration of lymphocytes. Scleredema caused by diabestes mellitus and obesity was diagnosed, accompanied with insulin resistance. The patient was initially treated with administration of prednisolone, followed with diet therapy. Scleredema ameliorated partially, however elevated level of VEGF persisted after 6 months of discharge. It is unclear whether elevated level of VEGF may be related to the pathogenesis of the disease or may be an aggravating factor.
著者
田邉 剛
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.5-10, 2014-02-01 (Released:2014-04-18)
参考文献数
21

自然免疫系は病原体の感染時に初期に応答する免疫システムである.当初,獲得免疫系が作動するまでの,一時的な免疫応答機構と考えられていた.しかし実際には自然免疫系の活性化の程度により獲得免疫系の機能が規定されることから,自然免疫系が免疫応答全般を制御する系とされている.自然免疫因子は,菌体に共通する成分であるpathogen-associated molecular patterns(PAMPS)をリガンドとして認識し,炎症性サイトカインを産生する.最近では生体の危険因子danger-associated molecular patterns(DAMPS)のセンサーであることも明らかになっている.自然免疫因子は主に膜結合型のToll-like receptor(TLR)と,細胞質局在型のnucleotide-binding oligomerization domain(NOD)-like receptor (NLR)から成る. 自然免疫系の異常が関連する疾患として,これまでNOD2の機能低下による炎症性腸疾患クローン病,NOD2の機能亢進による全身性肉芽腫形成疾患Blau症候群(若年性サルコイドーシス)を報告した.さらに同じく全身性肉芽腫形成疾患サルコイドーシスの病因が,細胞内侵入型アクネ菌に対する変異型NOD1の応答不全によることを明らかにした.またNOD2による骨髄系の血球分化の異常により骨髄性白血病の発症につながる可能性を報告した. 近年,IL-1βの活性化をもたらす免疫複合体インフラマソームが注目されている.インフラマソームの活性化が糖尿病や動脈硬化など,生活習慣病を中心とした疾患の発症と関連することが明らかになっている.自然免疫系の詳細が明らかになることで,有効で安全なワクチンの製造に理論的な裏付けが可能となった.さらに関連疾患に対して,自然免疫系の活性制御による新規治療法の開発が進められている.