著者
前田 喜四雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.9-33, 1984

<I>M.australis, M.paululus</I>および<I>M.solomonensis</I>の3種における外部および頭骨計則値とそれらの相対比の若干について地理的変異を調べた。<I>M.australis</I>と<I>M.paululus</I>における下腿長および下腿長と前腕長との比, <I>australis</I>における頭骨の長さに関する計測値および脳函幅では雄が雌より大であった。一方, <I>M.australis</I>の頭骨全長に対する前腕長の比および頭骨基底全長に対する臼歯間幅の比では雌が雄より大きかった。<I>M.australis</I>の全形質と, 頭骨全長に対する乳様突起間幅の比を除いた<I>M.paululus</I>の全形質では, 地理的変異が明らかであった。<I>M.solomonensis</I>は他2種のいかなる個体群よりも大半の形質で有意に異った.<I>M.paululus</I>は頭骨と歯列の長さにおいて, 他2種のいかなる個体群よりも有意に小さかった。
著者
橘 敏雄 上川 外茂次 城後 公典 山村 慶紹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.50-57, 1970

1966年の夏季, および66年より67年にかけての冬季にキュウシュウノウサギの日周活動に関する観察をおこない, いくつかの知見を得た。<BR>A個体 (雌成獣) の活動は夏, 冬ともに19時頃から開始され翌朝7~8時頃に終る夜行型を示した。また夏, 冬を問わず明方休息期へ移る際に激しく走り廻る行動が観察された。この原因は明らかではないが昔から伝えられている寝場に入る前の警戒行動ともみられる。<BR>B個体 (雌亜成) 獣の活動はA個体のような日周期性は示さなかったが, この原因は不明である。<BR>両個体の活動において温度, 照度などの微気象との関連性は特に認められなかった。<BR>採餌中は一定地に留まることはないと言われて来たが周囲に異常がない限り同位置にて採食しつづけた。<BR>人, 犬などの足音および枯葉などを踏む音に対しては異常な警戒を示したが, 自動車, 人声などの騒音に対しては特に警戒を示さなかった。<BR>1回の閉眼時間は1~3分程で1日のトータルにおいても20分程度と非常にわずかであった。<BR>毛づくろい洗顔行動は朝方および夕方の活動の開始と終了の前後に数多く観察された。
著者
高田 靖司
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.40-53, 1979
被引用文献数
8

長野県中央山地にある, カモシカ特別保護区と旧扉入山辺休猟区において主に調査をした。1975年8月下旬から1977年12月初旬までに得られた, 135個のツキノワグマの糞の内容と採食活動痕を分析し, 6月中旬から12月初旬までの食性を明らかにすることができた。<BR>ツキノワグマは雑食性であるが, 植物性食物に強く依存している。6月から7月には動物性食物が重要であるが, 8月から10月には動物性食物とともに植物性食物に強く依存するようになり, 11月から12月には一層植物性食物に強く依存する。<BR>動物性食物の大半は昆虫類で占められ, アリ類 (Formicidae) , 特にアカヤマアリの成虫が重要である。次いでハチ類 (VespidaeとApidae) の成虫がよく利用された。アリ類は全期間に出現し, 最も基本的な動物性食物である。ハチ類は9月~12月まで出現した。哺乳類では, ノウサギとニホンカモシカが食べられたが, 出現頻度は低い。<BR>植物性食物では, 液果・核果類と堅果類が重要である。液果・核果類は, 8月から12月初旬まで出現し, 10月中旬までは重要な地位を占めるが, それ以後その地位を失う。堅果類は9月下旬から12月初旬まで出現し, この時期のツキノワグマにとって最も重要な食物である。液果・核果類では, アケビ類, 次いでタラノキが, 堅果類ではミズナラが最もよく利用された。<BR>この3年間ではミズナラに隔年結果現象がみられ, 1976年秋は不作であったが, 1977年の秋は豊作であった。この現象はツキノワグマの食性に影響し, 1976年にはミズナラがほとんど利用されなかったが, 1977年にはよく利用された。<BR>ツキノワグマを保護するためには, ミズナラを初め, 多様な構成樹種をもった広葉樹林を維持する必要がある。
著者
那波 昭義
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.109-113, 1971

耳介背面の斑紋はヒョウ亜科とネコ亜科では基本的に異っているようである。しかしネコ亜科内には少くとも2系統が見受けられ, ヒョウ亜科ほど単純でない。これに反して尾の斑紋には, 亜科による違いは認められない。
著者
吉行 瑞子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.117-119, 1971

Among the characters generally employed as important key characters, the shapes of posterior border of rhinarium, breadth of rostrum and strength of postorbital constriction, strength of postorbital processes, and number of premolars seem to be considerably variable. They must be treated carefully in the course of taxonomic identification.
著者
小原 良孝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.59-69, 1982

イタチ科イタチ属の近縁種2種ニホンイイズナとホンドオコジョの染色体をG-, C-バンド法により比較分析し, 核学的観点からその系統類縁性を考察した。両種は形態的によく似ていて, 非常に近縁であるとされているが, 染色体数, 染色体構成は著しく異なっている。ニホンィイズナは2n-38で大型の中部着糸型染色体を6対含んでいる。これら大型染色体6対のうち5対はその短腕部に大きなC-バンド (C-ヘテロクロマチン) 部位をもっている。又, この部位はG-バンドではネガティブな部位として観察される。一方, ホンドオコジョは2n=44であり, 上述のような大型染色体は含まれていない。<BR>ニホンィイズナのG-, C-バンドパターン, ホンドオコジョのC-バンドパターン, 染色体の大きさ及び腕比を基準にした両種の染色体の対応性, 染色体の総長 (TLC) の比較, TCLに対するX染色体の割り合い等の検討から, ニホンイイズナとホンドオコジョの間の核学的関連性はC-ヘテロクロマチンの重複増加, 重複増加したC-ヘテロクロマチン部位への転座, 及びロバートソン型動原体融合によって説明される。
著者
宮尾 嶽雄
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.199-209, 1976
被引用文献数
1

1967年5月より1975年5月までの間に, 中央アルプス (木曽山脈) および北アルプス南部で発見されたニホンカモシカ12頭の死体について, その胃内容物から食植物の種類を同定した。発見地点の海抜高度は1, 100~2, 000m, 死亡時期は秋 (10・11月) , 積雪期 (2~4月) , 早春 (3~5月) にわたっている。<BR>12個体の剖検例から, 胃内に発見された食植物は, 常緑針葉樹2科7種, 落葉広葉樹6科6種, 常緑広葉樹1科4種, 草本7科9種の総計16科26種になる (Table 1) 。これらを死亡時の季節別にみるとTable2およびTable3の如くになる。秋には9種で広葉樹が多く, 針葉樹は1種にすぎない。積雪期には8種の植物が食べられているが, 針葉樹が圧倒的に多い。早春になると食植物の種類は急増して18種となり, 草本の食べられる割合が多くなる。<BR>参考までに, 夏期に食痕によって確認されたニホンカモシカの食植物はTable4およびTable5の如く, 種類数はひじょうに多く, しかも草本が主な食物になることがわかる。<BR>すなわち, ニホンカモシカの食物としては, 秋に常緑広葉樹, 積雪期に針葉樹, 春から夏には草本が重要なものとなる。これを要するに, ニホンカモシカは, 新鮮な緑葉を求める動物なのである。<BR>したがって, ニホンカモシカの食生活は, 積雪期にきわめて厳しいものとなる。そのため, 山地森林の広域皆伐は, ニホンカモシカの生活を成り立たなくさせ, その結果, ヒノキなどの植林地に, ニホンカモシカによる食害が発生する。植林地への食害は, 環境破壊に対するニホンカモシカの無言の抗議行動であり, それはまた, 人間の生息環境悪化に対する警告でもある点を認識しなければならない。<BR>合成樹脂製品の断片2点が胃内にみられた1例もある。ニホンカモシカの死体は, ツキノワグマによって食い荒らされていることが多い。
著者
藤巻 裕蔵
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.74-80, 1969
被引用文献数
1

1960年3刀から1961年11月まで札幌市藻岩山の天然林でヒメネズミを採集し, これらを臼歯の磨滅状態によって越冬個体と当年個体とにわけて, 繁殖活動の季節的変化を調べ次の結果を得た。<BR>1.繁殖期は, 1960年には4~9月, 1961年には3~8月であった。<BR>2.繁殖期間中越冬個体が主として繁殖する。当年個体のうち早く生まれ, 体重も越冬個体に近くなったようなものは繁殖活動を行なう。しかし繁殖能力は低く, 個体群の増大には重要な意義を持たない。
著者
中田 圭亮
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.117-125, 1986

北海道中央部にある針広混交天然林において, 個体群変動に関連したヒメネズミの一腹仔数 (胎児数) を調べた。一腹仔数の齢変異はわずかであり, 有意ではなかった。頭胴長と一腹仔数との間には有意な正の相関があり, 当年雌でこの関係はより明らかであった。個体群密度は一腹仔数と有意な負の相関を示し, 越冬雌で関係はより明らかであった。妊娠雌は減少相で捕えた3個体を除き, すべて増加相のみで捕獲され, 一腹仔数は増加相で多かった。一腹仔数の有意な季節変化と年変化が見られた。一腹仔数の年平均は, 秋まで繁殖が延びた年で高く, 夏までに繁殖が終わった年で低かった。当年雌は個体群の増加に重要な意義を有していた。一腹仔数の変化は個体群変動過程と関連していた。
著者
森井 隆三
出版者
THE MAMMAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.219-223, 1978

1971年から1976年にかけて, 香川県内で採集されたアブラコウモリの新産児 (89個体) の乳歯 (di2/3dc1/1dpm2/2=22) の脱落と永久歯 (I2/3C1/1PM2/2M3/3=34) の萠出について調査した。結果は次の通りである。<BR>1. 乳歯の脱落は, 出生後14日令から始まり, 30日令で完了する。<BR>2. 乳歯の脱落順序は以下のようである。<BR>上顎: 第2乳臼歯→第1乳臼歯→ (乳犬歯・第1乳切歯) →第2乳切歯, 下顎: (第1乳切歯・第2乳臼歯) →第2乳切歯→第3乳切歯→第1乳臼歯→乳犬歯。<BR>3. 永久歯の萠出は, 出生後8日令から始まり, 30日令で完了する。<BR>4. 永久歯の萠出順序は以下のようである。<BR>上顎: (第1大臼歯・第2大臼歯) → (第2切歯・第3大臼歯) → (犬歯・第2小臼歯) →第4小臼歯→第3切歯, 下顎: (第1大臼歯・第2大臼歯) →第1切歯→第3大臼歯→ (犬歯・第4小臼歯) → (第2切歯・第3切歯・第2小臼歯) 。<BR>5. 乳歯脱落と永久歯萌出の完了期は巣立日令とも一致する。
著者
森井 隆三
出版者
THE MAMMAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.6, no.5, pp.248-258, 1976
被引用文献数
1

1973年6月9日に, 香川県善通寺市内で採集されたアブラコウモリ (5個体) の出産状況と新産児 (7個体) および胎児 (8個体) について調査した。結果はつぎの通りである。<BR>1. 出産時期は6月9日~13日であった。<BR>2. 胎児数は2~4であり, 平均3.0であった。<BR>3. 胎児および新産児の外部形態における個々の絶対値は変化しているが, 成体に対する全体的なプロポーションは一定のパターンを示したた。<BR>4. 胎児および新産児の頭蓋骨の発達程度は, 外部形態より大きかった。<BR>5. 胎児および新産児の頭蓋骨の縫合は, 後頭部の方が前頭部よりも完成の度合が高かった。<BR>6. 乳歯の萠出は次の順序であった。上下顎とも最初に2本の切歯と1本の犬歯があり, つぎに前臼歯 (dpm1とDPM1) 1本づつが加わった。そして, 下顎に1本の切歯 (di1) が追加され, つづいて下顎に1本の前臼歯 (dpm2) が加わる。最後に1本の前臼歯 (DPM2) が加わる。<BR>7. 乳歯の形態は, di2, di3, dc, dpm1, DI1とDI2の先端は3葉に分かれ, DCはL字型をしており, dpm2, DPM1とDPM2はくさび型であった。di1は先端が2葉に分かれていた。
著者
森井 隆三
出版者
THE MAMMAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.151-152, 1971

Recently the author obtained six specimens of <I>Miniopterus schreibersi fuliginosus</I> (HODGSON, 1835) with a white patch of different sizes the body from Yashima-dokutsu Cave, Kagawa Prefecture.<BR>Appearance ratio of the partial albinism of this species was 1.2% in this cave, almost similar to that of Akiyoshidai, 1.0%, reported by KURAMOTO, 1967. Five specimens out of six albinos have the white patch on anterior part of the body as in the most of albino bats.
著者
森井 隆三
出版者
THE MAMMAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.12-13, 1979

屋久島において, 1978年7月25日~26日にかけてコウモリの採集を行った。キクガシラコウモリの雄1頭とコキクガシラコウモリの雄3頭が採集された。上記2種の採集は, 屋久島における初めての記録である。
著者
森井 隆三
出版者
THE MAMMAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.117-121, 1980

1971年から1978年にかけて, 香川県内で得られたアブラコウモリ<I>Pipistrellus abramus</I>計167個体の外部形態の発育について調査し, 以下の点が明らかとなった。<BR>1.目は出生後約8~9日で開いた。<BR>2.耳介は出生後約3日で立った。<BR>3.毛は出生後約14日で全身にはえた。<BR>4.飛翔は出生後約19日で開始した。<BR>5.出生後約13日までは, 親が新生児をつれ出していた。