- 著者
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牧野 友紀
- 出版者
- 東北社会学研究会
- 雑誌
- 社会学研究 (ISSN:05597099)
- 巻号頁・発行日
- vol.102, pp.9-33, 2018-12-28 (Released:2021-11-24)
- 参考文献数
- 14
東北地方太平洋地震および東京電力が起こした福島第一原子力発電所事故は、東北地方の太平洋岸の農山漁村に広大かつ甚大な被害をもたらした。農村社会の縮小という日本社会の転換期に、毀損した生業を復活させ、家の継承や村の生活協同関係を保持していくことは至難の業であるといわざるを得ない。住民に「村おさめ」を強制することなく、そうした生業と生活の体系を取戻していくことは、いかにして可能なのだろうか。本稿はこうした問題意識のもと、福島県沿岸地域の被災農村で、グリーン・ツーリズムを手がかりとして農のある生活を再生させようと奮闘している農村女性たちの活動に焦点を当てインタビュー調査を実施し、考察を行った。 その結果以下のことが明らかとなった。原発事故によって商品としての農村空間が毀損され、農家民宿としての機能が果たせない状況の中で、女性たちは、宿泊先を確保できない「よそ者」たちに対して、宿としての原初的なサービスを以って懸命に応対した。こうした行動がきっかけとなり、南相馬の農家民宿は、震災と原発事故の復興に関わる人々の後方支援のベースとして新たな機能を持つことになる。彼女たちは復興支援の宿主としての役割を果たしつつ、グリーン・ツーリズムの再生に取り組み、南相馬の住民たちを巻き込みながら藍の特産品作りに励んでいる。こうした工芸作物による地域の再興は、これまで過去の農家が行ってきたことを新たな形で復活させる試みであるといえ、自らの地域が保持すべき「農村らしさ」の実践として理解することができる。