著者
中川 恵
出版者
羽衣国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大衆への普及が過去10年以内という点で新しいメディアと位置づけられるインターネットと衛星放送の普及が、中東地域の生活空間、政治的意思の形成、政治的意思形成の場となる公共空間にいかなる変容をもたらしているのか、とりわけ女性たちの政治的意思決定のプロセスを調査・分析した。その結果、モロッコの場合、衛星放送の普及と国家が進める社会・経済開発の両方がほぼ同時に進んだことが、女性の政治参加を促進したと結論づけることができた。
著者
中川 恵理子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.397-409, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
28

本稿では,独占的大規模産地による全国的な広域流通システムが生鮮野菜価格の空間分布をどのように規定しているのかを,長野県産の夏ハクサイを事例に,輸送費と市場規模に焦点を当てて検討する.まず,統計データの分析によって,(1)長野県からの輸送費と卸売価格の間には正の相関関係がみられること,(2)同一輸送費圏内では大規模市場の価格は平均値に近く,中小規模市場の価格は取扱量と負の相関関係にあること,の2点が示された.次に,聞取り調査より,JA全農長野の一元的出荷体制が輸送費と卸売価格との相関関係を生んでいることが確認された.そして,同一輸送費圏内での価格の分布を規定している要因は大規模市場の建値形成機能であり,中小規模市場の価格が取扱量と負の相関関係にある要因は,JA全農長野との直接取引の有無および主要な取扱品の規格の差であることが明らかになった.
著者
土屋 貴志 中川 恵子 常石 敬一 西山 勝夫 村岡 潔 岡田 麗江
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

1.十五年戦争期の医学研究事例に関する歴史的研究石井機関における医学研究の解明に関しては、常石が3回の訪米調査(ワシントンDC周辺)、土屋・中川[末永]・西山・岡田・刈田らが3回の訪中調査(ハルビン、藩陽、北京、長春、大連、太原)を実施し、それぞれ研究成果を著書、雑誌論文、および学会発表として公表した。また、石井機関の紀要『陸軍軍医学校防疫研究報告』第2部(復刻版、不二出版刊)のすべての掲載論文について抄録を作成するプロジェクトを、刈田が幹事長、西山が事務局長、土屋・中川[末永]が幹事、岡田・村岡が会員である「15年戦争と日本の医学医療研究会」のプロジェクトとして、研究協力者と共に実施し、全論文810本の抄録を完成させた。満州医科大学に関する研究に関しては、中川[末永]を中心に資料を分析し、その成果を学会発表および講演、雑誌論文、著書として公表した。以上の研究により、石井機関および大学における当時の医学研究の詳細な実態および広がりを確認できた。2.医学研究倫理学の原理の探究土屋と村岡を中心に、土屋が主宰する「医療倫理学研究会」において毎週輪読会を行い、倫理学的原理の本質と事例に対する役割に関する邦文図書7冊、英文図書4冊、英文論文8本を精読した。土屋と村岡はその成果を学会発表および雑誌論文として公表した。以上により、事例および語りを中心とする倫理学研究法の意義、医学研究論理全体の見取り図、および医学研究に関する主要な倫理学的原理の1つであるベルモント原理の歴史的意義、を確認し、今日の日本における医学研究の倫理学的原理を確定するための展望を得ることができた。
著者
伊藤 広貴 越塚 誠一 芳賀 昭弘 中川 恵一
出版者
日本医用画像工学会
雑誌
Medical Imaging Technology (ISSN:0288450X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.208-214, 2011 (Released:2011-10-12)
参考文献数
14
被引用文献数
1

胸郭の運動が一因となり呼吸による肺変形が引き起こされるため,胸郭の時系列の動きを知ることは肺内部の変形シミュレーションをする際に重要な知見となる.そこで,解剖学的知見とCT画像をともに用いる胸郭運動モデルを提案する.肋骨は肋横突関節と肋椎関節を結ぶ軸で回転運動をさせ,各肋骨の回転角度は呼気と吸気時のCT画像から求める.これにより,提案した胸郭運動モデルがポンプハンドル運動とバケットハンドル運動を定性的に再現できることを示す.さらに,呼気と吸気時のCT画像を用いて,提案した胸郭運動モデルにおける肋骨の回転角度算出手法の妥当性を検証する.
著者
中川 恵正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.38-47, 1980-03-30

本研究は3コの実験からなっている。実験Iでは,併行弁別訓練事態において過剰訓練によって手掛り結合が形成されるか否かが,実験IIでは,手掛り結合に基づいて2コの弁別課題遂行間に相互作用が生じるか否かが,実験IIIでは,3コの弁別課題が併行して訓練される事態においても過剰訓練によって手掛り結合が形成され,そして相互作用が生起するか否かが検討された。 実験Iでは,32名の幼児は2コの弁別課題を用いた併行弁別訓練を受け,そして過剰訓練(24試行または0試行)を受けた後,テストを受けた。テスト条件: 群Iは2コの弁別刺激対の負刺激が互に入れ替る条件であり,群IIIは2コの弁別刺激対とともに原学習時の正刺激が残存し,負刺激がともに新しい刺激に替る条件であり,群IVは2コの弁別刺激対ともに原学習時の負刺激が残存し,正刺激がともに新しい刺激に替る条件であり,群IIは群Iと同じ条件だが,過剰訓練を受けない条件である。主要な結果は次の通りである。1,群I,IIIおよびIVの弁別遂行間に差がみられなかった。しかもこれら3群のテストでの弁別遂行は過剰訓練期間中の弁別遂行に比べてそこなうことがなかった。 2,群IIは他の3群に比べて弁別遂行が劣っていた。 実験IIでは,64名の幼児は2コの弁別課題を用いた併行弁別訓練を受け,過剰訓練(20試行または10試行と0試行)を受けた後,逆転学習の訓練を受けた。逆転学習条件: 全体逆転群は2コの弁別課題ともに同時に逆転された。部分逆転群は1コの弁別課題のみが逆転され,もう1コの弁別課題は逆転されなかった。分離逆転群は1コの弁別課題のみが逆転され,もう1コの弁別課題は除去された。統制群は原学習,逆転学習ともに1コの弁別課題の訓練を受けた。主要な結果は次の通りである。1,過剰訓練を受けたとき,全体逆転群は他の3群より早く,また分離逆転群と統制群は部分逆転群に比べて早く逆転学習を完成した。2,全体逆転群の逆転学習は過剰訓練によって促進され,分離逆転群および統制群の逆転学習も促進される傾向がみられたが,部分逆転群の逆転学習は遅延された。 実験IIIでは,60名の幼児は3コの弁別課題を用いて併行訓練を受け,過剰訓練(30試行と0試行)を受けた後,逆転学習の訓練を受けた。逆転学習条件:全体逆転群は3コの弁別課題ともに逆転された。部分逆転-I群は1コの弁別課題のみ逆転され,残りの2コの弁別課題は逆転されなかった。部分逆転-II群は2コの弁別課題がともに逆転され,もう1コの弁別課題は逆転されなかった。主要な結果は次の通りである。1,標準訓練条件下と過剰訓練条件下とにおいて,全体逆転群の学習の速度と部分逆転群(IおよびII群ともに)のそれとが逆関係になった。2,部分逆転群(IおよびII群ともに)の逆転されない弁別課題における誤反応は過剰訓練によって増大した。
著者
中川 恵正 新谷 敬介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.23-33, 1996-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13

The present study investigated which factors facilitated solving arithmetic word problems in fifth graders by comparing five training techniques: (1) Self controlinterpretation training(SCI) that was to acquire both the self regulated uses of solving skill and strategy and the self control ability of evaluating one's own solving process, correcting it and interpretating it to others; (2) Blind training(BT) expected to enhance the awareness of solving skill and strategy; (3) Error finding training (EF) that was to monitor the other's solving process; (4) Ordinary teaching training(C) used in a public elementary school, and (5) 30-SCI training(30-SCI) that children had been given the SCI training for 30 hours before the basic learning had begun. In Experiment 1, fifth graders were trained under a given condition for three hours and then given four posttests. Group 30-SCI did better performance on each posttest than the 4 other groups. Group SCI also did better performance on posttests 1, 2, and 3 than Group BT. Experiment 2 using four training techniques confirmed the superiority of the SCI technique to the others found in Experiment 1 in third graders.
著者
中川 恵
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.65-92, 2018-12-28 (Released:2021-11-24)
参考文献数
19

日本の有機農業運動研究は、生産者と消費者による取引と信頼の規範を明らかにすることをつうじて、有機農業が農法の変更であるのみならずライフスタイルに対する挑戦であったことをあきらかにしてきた。オルタナティブ・フード・ネットワークス研究も同様の問題関心をもち、Community Supported Agriculture(CSA)や農産物直売所、地産地消などの取り組み事例をもとに、食の工業化の問題点を浮き彫りにしてきた。しかし、これらの研究では野菜や穀物を中心とし、生産者と消費者が直接にかかわりあう実践のみに注目が集中してきた面がある。だが、生産者から消費者に直接取引される経路は部分的であり、野菜や穀物などを生鮮品として消費する機会もまた限定的である。「農と食」にかんする技術や経路の変化をとらえるためには、フード・システムの他の対象に対しても関心を払うべきではないか。 本稿は、岩手県旧山形村の日本短角牛生産農家を中心とした共同購入グループの活動に焦点を当て、とくに調理師、精肉業者、加工業者などフード・システムにかかわる専門的アクターが活動の展開をサポートしていることを明らかにした。「農と食」にかかわる社会運動の見取り図とその変化をとらえるためには、生産者および消費者だけではなく、関連する専門的アクターへの調査が必要である。
著者
中川 恵
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.125-143, 2015-01-30 (Released:2022-02-06)
参考文献数
9

本稿は、宮城県の有機野菜生産者たちが始めた放射性セシウム測定活動の事例から、〈提携〉関係の再生をめぐり、彼ら生産者が直面する困難な状況を明らかにする。東日本大震災によって引き起こされた原発事故を契機として、食料の安全性確保は重要な課題となった。調査によって、有機野菜生産者たちが国の行う放射能測定によってではなく、自らの手によって安全性を証明しなければならないと考え、早期に測定体制を整えたことが分かった。それは、有機農業が国の安全基準や規制を批判的に捉え、自省的に厳しい安全性を追求する営みであったことに由来する。彼らは放射能測定においても「行政安全検査」が証明する安全性では納得せず、自らの手で確認できるまでの間は安全性が証明されていないと考えた。その後、測定が続けられているが、〈提携〉関係は回復していない。にもかかわらず、生産者はこのことを消費者の無理解によるものとは批判しない。なぜならば、〈提携〉関係において安全かどうかを決めるのは、国でも生産者でもなく、消費者自身だからである。そもそも〈提携〉関係とは食の安全という旗印を掲げた有機農産物を介した関係であった。生産者が〈提携〉を重視する程、〈提携〉関係の解消が必然的に生じるという逆説的状況がここには存在するのである。
著者
飯山 直樹 鎌田 磨人 中川 恵美子 中越 信和
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.579-584, 2002-03-30
参考文献数
35
被引用文献数
11 13

棚田畦畔がもつ草地性植物の生育地としての機能を把握するため, 徳島県上勝町樫原地区において, 次のようなことを明らかにした。当地では, 全水田面積に対する畦畔面積の割合は29.4%であり, 水田に付随する草地の面積は大きい。植物群落は, 畦畔の物理的な構造に対応して異なっており, 土や石垣等の様々な物理環境の畦畔があることにより, 地域内の植物の多様性が高められている。畦畔における年間の草刈り回数の違いは植生高や遷移度に影響を与え, 刈取り回数が多いほど (最大3回), それらが低く保たれた。一方, 草刈り回数の違いは, 植物群落の種組成や多様度には大きな影響は及ぼさなかった。出現種数や多様度は草刈りが行われないまま2年間放置された畦畔でも変わらず維持されていたが, 5年間放置されると極端に減少していた。
著者
笹野 仲史 榎本 敦 細井 義夫 白石 憲史郎 宮川 清 勝村 庸介 中川 恵一
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.233, 2007 (Released:2007-10-20)

エダラボン(商品名:ラジカット)はフリーラジカルスカベンジャーとして知られており、脳梗塞の治療薬として臨床的に広く使われている薬剤である。今回の我々の実験では、エダラボンの放射線照射後のMOLT-4細胞のアポトーシスに与える影響をin vitroで研究した。アポトーシスについては、色素排除試験、Annexin_V_-PI染色、caspaseの分割により解析した。エダラボンにより、X線照射によるアポトーシスが有意に抑制されることが分かった。細胞内フリーラジカルをCM-H2-DCFDAにより、解析した。細胞内フリーラジカルの産生量は、照射によりほぼ完全に抑制されていることが分かった。p53の蓄積、リン酸化およびp21WAF1の発現は、エダラボンにより抑制されていることが分かった。以上より、フリーラジカルスカベンジャーのエダラボンは、p53経路の抑制を介して、MOLT-4の照射によるアポトーシスを抑制していることが分かった。
著者
中川 恵正
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.114-123, 1980-06-30

本研究は,2個の弁別課題を併行して訓練する併行弁別事態において,後述学習における先行学習の適切次元の有無を変数として,過剰訓練の効果を検討した。 5×2の要因計画が用いられ,第1の要因は移行の型であり,全体逆転移行(W),部分逆転移行(P),半次元外移行-I (HEDS-I), 半次元外移行-II (HEDS-II)か次元外移行(EDS)であった。第2の要因は過剰訓練の有無であり,過剰訓練0試行か過剰訓練24試行かであった。被験者60名(平均年齢4歳1か月; 平均知能115.3)の幼児で,6名ずつ下位群に分けられた。先行学習の規準(5回連続正反応)到達後,あるいは所定の過剰訓練後,ただちに5個の移行条件(W, P, HEDS-I, HEDS-II, EDS)のいずれかを行った。移行学習規準は5回連続正反応であった。正反応に対する強化は"あたり"という言語強化と,ブザー音と黄色ランプの点灯の非言語強化とであった。 主要な結果は次の通りであった。 (1),全体逆転移行群の学習は過剰訓練によって促進される傾向がみられた。また半次元外移行-II群の逆転群の逆転課題の学習は過剰訓練によって促進された。しかし過剰訓練は部分逆転移行群の学習を遅延した。 (2),過剰訓練は半次元外移行-II群の次元外移行課題の学習を促進したが,次元外移行群の学習を促進も遅延もしなかった。 (3),全体逆転移行群と部分逆転移行群の後続学習課程は,標準訓練条件下では異ならないが,過剰訓練条件下では互に異なっていた。 (4),次元外移行課題における学習行程は,半次元外移行-I群,半次元外移行-II群および次元外移行群の3群間に差がみられなかった。 本研究の結果は,後続学習における先行学習の適切次元の有無が過剰訓練の効果を規定する重要な要因であることを示している。さらに先行学習の適切次元が後続学習に存在する場合には,過剰訓練は次元外移行学習をも促進することを明らかにしている。
著者
由谷 仁 中川 恵嗣 諏訪園 秀吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1944, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)をはじめとする神経難病においては,筋力低下の進行が発声器官におよび,コミュニケーションに大きな問題をもたらす症例が少なくない。また進行に伴い通常のスイッチが押せなくなるなどの障害が頻繁にありうるため,様々なスイッチや意思伝達装置を再検討し,身体状況に合わせて使用しているのが現状である。2013年末,パーソナルコンピューター(以下PC)のマウスカーソルを視線で操作出来る装置The Eye Tribe Tracker(以下EyeTracker)が開発された。我々は第68回国立病院総合医学会に於いて,EyeTrackerをALS患者に試用し,臨床での有用性を検討した。その際,マウスカーソルは眼球運動にて動かし,クリックは右足関節底屈による空気圧スイッチにて行う方法であった。今回は注視によりクリックが可能となるソフトウェア「しのびクリック」(吉村隆樹作)を使用し,眼球運動および注視によって意思伝達装置を操作出来るようにした。このEyeTrackerをALS患者1名と演者にて試用し有用性を検討したので報告する。【方法】対象者はALSにて意思伝達装置を使用している60歳代女性1名(以下,症例)と演者で,症例はADL全介助,右足関節底屈にて空気圧スイッチを操作している。使用機器はEyeTracker(Eye Tribe社製)およびEyeTracker用専用ソフトウェア,意思伝達装置としてHeartyLadder,クリックするソフトウェアとして「しのびクリック」,それらをインストールしたPC(OS:Widows7)である。環境設定として,Bedの背上げ角度は15~30°,アーム式PC固定具およびHeartyLadderCD付属のワンタッチ短文入力画面を使用した。方法は眼球運動および注視によって同一の短文(17文字)入力を行った。評価としては,1)利用の適否,2)試行した時間,3)入力に要した時間,4)生じ易いミス・誤作動,5)眼球運動・瞬目・開閉眼など,6)要望・感想とした。【結果】1)演者は利用可能,症例では入力が不安定。2)演者は30分程度,ALS患者は一週間に一度30分程度を3ヶ月程度実施。3)演者は32秒,症例はミスが多く不可。4)マウスカーソルが,見ている場所と若干ズレることにより正確な入力が難しい。クリックまでの時間設定が難しく,選んでいない文字を選択し易い。5)症例の眼球運動はゆっくりでも速い動きでも特に問題なし。瞬目・開閉眼は上下眼瞼部の動きが不十分で努力を要す。連続5分程度使用すると,上眼瞼部の軽度下垂が認められる。6)一文字に焦点を合わせること,注視すること,それを短時間でも継続することが疲労をもたらしやすい。【考察】演者では文章作成可能であったが,症例では困難であった。この問題点を大きく分類すると「目でマウスを動かすこと」と「目でクリックすること」の2点に分けられる。「目でマウスを動かすこと」はPCとEyeTrackerと目との位置関係を適切に設定すること,視線をEyeTrackerがしっかり認識することが必要不可欠である。その際,眼瞼下垂によって瞳孔に上眼瞼が近づきすぎるとEyeTrackerが上手く認識出来ないことが多いと思われる。「目でクリックすること」はしのびクリックを使用して可能であるが,文字を一定時間注視し,視線を固定することが必要となる。この一定時間注視し視線を固定することが症例では難しく,ミスが多くなり文章が作成できなかった要因と思われる。また瞬きでクリックできるような改善も望まれる。よって現時点での最もよい適応としては,上眼瞼部の下垂が少なく,連続で注視しても目の疲労が少ない人であると考えられる。また現在,使い易くするためには個人でプログラミングする必要があるため,技術を持った人間が多く関わることで,より適応範囲が広がると思われる。以上から,現時点での(ソフト開発を自在に行わない範囲)EyeTrackerの臨床適応範囲が明確となり,症例を選べば極めて有用である可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】EyeTrackerにより視線入力を可能にすることで,更なる症状の進行にも対応出来る可能性が広がり,コミュニケーションの継続が期待できる。また,世界中でIT及びプログラミング教育の必要性が叫ばれており,日本に於いても国策として「産業競争力の源泉となるハイレベルなIT人材の育成・確保」という項目が挙げられている。今後はrehabilitationとITはより密接な関係が必要であり,我々の活動分野の拡大にもつながるため,非常に意義がある。
著者
今江 禄一 中川 恵一 山下 英臣 芳賀 昭弘 竹中 重治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では放射線治療中の対象内の治療中のcone beam CT(CBCT)画像を取得可能であるガントリ回転型の強度変調放射線治療法を用いることによって,簡便かつ低侵襲に治療中の対象内の構造を同定し,治療装置の照射記録を用いることによって実際に標的に与えられた吸収線量および対象内の線量分布(実線量分布)を構築することを研究期間内目標とした.本研究の達成により実線量分布の評価法が構築され,放射線治療による腫瘍制御や正常組織のリスクの正当な評価につながる.
著者
上坂 充 中川 恵一 片岡 一則 遠藤 真広 西尾 禎治 粟津 邦男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

医学物理および医学物理士のあり方については、日本医学物理学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会や厚労省関連の諸委員会にて長年議論されている。代表者らが主な活動の場としている日本原子力学会や日本加速器学会などに加わっている多くの学生、研究者、理工系大学教員が医学物理に興味を持ちその発展に参画したいと考えている。それらの方々が、放射線医療の新科学技術の開発研究を行っている。アメリカではこの40年で5,000人以上の医学物理士が単調増加的に誕生しているが、それには新技術の開発と普及が定常的に行われたことの証でもある。今の日本ではライナックを始め、国産治療装置が撤退し、輸入品に席巻されている。「研究開発型」医学物理士に掛けた思いは、輸入品のメンテナンスのみでなく、欧米のような機器開発を伴った医学物理の学問の創成と人材育成である。その議論の場を円滑に運営するため、日本原子力学会に「研究開発的医学物理」研究特別専門委員会を設立した。議論の対象として以下のテーマを設定した。1.イメージガイドピンポイント照射システム開発(1)X線・電子線(2)イオンビーム(3)中性子(4)レーザー、2.生体シミュレータ開発(1)DDS(Drug Delivery System、薬品送達システム)設計(2)人体線量分布高精度評価(3)薬剤流れの解析(4)治療計画の高度化、3.教育プログラムの充実と人材育成(1)欧米を目指したカリキュラム(2)大学院生の奨学金(3)ポスドク制度(4)留学。ここまで4回委員会(9月4日午前、28日、11月1日、2月28日午前)と2回の研究会(第6,7回化学放射線治療科学研究会、9月5日午後、2月28日午後)を開催し、上記テーマについて深く議論を行った。結果、1については白金が入ってX線吸収と増倍効果のある抗がん剤シスプラチンミセル、金粒子を手術して注入せず注射でがん集中させて動体追跡できる金コロイドPEG、シンチレータとPDT(光線力学療法)剤を一緒に送達してX線PDTを行う、3つのタイプのX線DDSの開発が始まったことが特記事項であった。また陽子線治療しながらPETで照射部が観察できる国立がんセンターの手法も画期的である。2については、粒子法による臓器動体追跡シミュレーションの可能性、CTのダイコムデータ形式からのシミュレーションメッシュデータ生成、地球シミュレータを使ったDDS設計など、日本に優位性のある技術が注目された。放射線医療技術開発普及のビジネス価値の定量分析(リアルオプション法など)も実用化に向けて有用である。教育体制につては、特に北大、阪大、東北大、東大にて整備されつつあった。これら革新的研究テーマと人材育成プログラムを、すでにスタートした粒子線医療人材育成プログラムのあとに用意すべきである。その際国際レジデンシー(研修生)など欧米機関との連携も重要である。アメリカMemorial Sloan Kettering Cancer Centerがその窓口としての可能性が高くなった。本活動は日本原子力学会研究専門委員会としてもう2年継続できることとなった。特定領域研究相当のものを立案してゆきたい。