著者
山西 裕美
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.41-41, 2000

日本は、1990年以降、離婚率が増加しつづけ、1998年には普通離婚率が1.94と今世紀最高水準となり、注目を集めている。しかし、日本におけるワンペアレント・ファミリーの研究は、いくつかの研究を除き、それほど体系的には行われておらず、そのほとんどが児童扶養手当等の現金給付を扱った社会保障制度との関わりである。<BR>本報告書は、ワンペアレント・ファミリーのなかでも、離別母子世帯に焦点を当て、先にあげたような従来型研究にとどまらず、詳細なインタビュー調査により、母子ワンペアレント・ファミリーの「生活世界の内側」をトータルに把握することが目的である。また、日本の離別母子ワンペアレント・ファミリーと、他国との共通性や異質性を探るうえで、アメリカ・イギリス・オーストラリア・スウェーデン・香港との比較調査研究となっている。<BR>本書は2部構成となっており、第I部では日本の離別母子ワンペアレント・ファミリーについて、第II部では諸外国の離別母子ワンペアレント・ファミリーについての調査結果が記されている。各国調査を通じ、離婚後のシングルマザーの自立度や幸福感について、大きく分けて次のような論点が設定されている。1) 離婚前の性別役割分業意識との関連、2)両親育児規範との関連、3) 離婚に先立つ準備と支援ネットワークとの関連、4) 離婚前の貨幣配分システムと妻子の生活水準との関連、5) 養育費を中心とした生活保障との関連、6)離別ワンペアレント・ファミリーをめぐるスティグマとの関連について。<BR>調査結果を、日本と諸外国との比較で述べると以下の特徴がある。日本は諸外国と比べ、二つの点で異なっている。一つ目は、性別役割分業への適応や両親育児規範、祖父母との離婚後の同居といった規範意識レベルでの差異。二つ目は、教育費や住宅費の補償給付や養育費徴収システムなど社会保障システムによる生活保障の遅れである。これらは日本のシングルマザーの自立に対し独自の影響を与える一方、離別母子ワンペアレント・ファミリーをめぐるスティグマは、いずれの国においてもうかがえる。<BR>事例研究のため、日本を含め諸外国ともサンプル数が少なく、サンプリング方法においても代表性に問題があることは免れない。しかし、得られた調査結果および知見の意義は、各国の離別母子ワンペアレント・ファミリーの現状を示唆していることだけにあるのではない。このような近代家族観の自縛を逃れた新たな「家族」の意味構成を考えていくことは、高齢者や障害者の自立など、これまで家族に内包されてきたものの表出という今日的課題に対する解釈枠組みの提示と、そのうえで必要なソーシャル・サポートのあり方を模索するうえでも有効であるといえるだろう。
著者
岩井 紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.30-42, 2011-04-30 (Released:2012-05-31)
参考文献数
5
被引用文献数
5

本稿は,Japanese General Social Surveyのデータを基に日本の家族の変化をとらえ,現状を把握し,今後の方向について考える資料を提供する.2000年から2010年までに継続的に尋ねた85項目を14分野に分けて変化のトレンドを記述する:婚姻状態,同居世帯員,世帯構成,就労・所得,夫婦の働き方,階層意識,結婚観,性別役割意識・夫婦別姓,子ども観,セクシュアリティ,育児・介護の社会化,家族生活,墓についての意識,満足度・幸福感.個人も家族も,雇用情勢の変化に振り回されながらも,強い不満を抱くことなく,現実に向き合っている.若年層の無職・非正規雇用が拡大し,未婚率を押し上げ,未婚成人子の親との同居が増加した.女性の就業率は全体として高まり,M字の谷が浅くなった.高齢者の生活保障と介護の社会化に続いて,育児・教育の社会化が望まれている.若年層と女性の就労の変化が,家族の今後に与える影響は大きく,税制と雇用政策と福祉の全体像の改革に左右される.
著者
西野 理子
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.12-12, 2000

『入門』とあるが、「家族社会学ってなにやってるの?」という疑問に、半分答えて半分答えない本である。「答えない」というと否定的に聞こえるが、本書の意義は前半の「答える」部分にある。というのも、本書は「若い研究者、院生、学生のためのテキスト」として編集された『社会学研究シリーズ-理論と技法』の第1巻であり、「理論と実証の統合、統一」をめざして、「先行研究の整理、そこからの問題の発見などについて」「実際に研究を進めていく手だて、技法を教えるもの」になるように編集されている。その点、ほかの教科書とは異なり、家族ではなく家族研究を理解するための書である。日本家族社会学会の機関誌でも、創刊号と第2号では「いま家族に何が起こっているのか」をとらえようという特集が、10周年記念特集号では「家族社会学の回顧と展望-1970年代以降」と題する特集が組まれた。10年の間をおいて、現象としての家族理解から、家族研究自体を認識し直そうという動きがあり、本書の登場もそうした時代的要請にみあったものといえよう。そもそも、実証研究が多い割に理論的蓄積が十分に進んでいないという家族研究の課題克服への試みでもある。<BR>全体は4部構成となっており、第1部が「家族研究の系譜と概観」、第2部で「家族発達的研究」「歴史人口学」「社会的ネットワーク論」それぞれの分野における家族研究の展開が、基本的な用語の解説とともに紹介されている。第3部で夫婦関係と親子関係から家族の内部過程への接近を概括し、第4部で実証研究の方法と理論研究の動向を概説している。単なる研究動向の概述というより、すでにさまざまなかたちで公表されている各分野のレビューをふまえたうえでの整理と展望である。とりわけ第3部は、論者自身の問題関心も織り込んで、研究者相互のコミュニケーションを啓発している。<BR>事象への関心をどのように展開させていくか。研究の最初の一歩に大変有益な教科書である。学部生には、本書が編集された背景など、社会学全般と関連させた解説があったほうがよさそうだが、家族研究を志す大学院生には、ぜひ精読しておいてもらいたい必読書である。本書の随所に「袋小路に陥らせず」「停滞状況に突破口を見出すには」とあるように、研究者がもう一度、全体を見渡して理論的地盤を固めるのにも役立つ書である。また欧米諸国の家族研究書の章構成と比較してみるのも一興である。
著者
末盛 慶
出版者
学術雑誌目次速報データベース由来
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.103-112, 2002
被引用文献数
1 4

本研究では, 母親の就業が子どもに与える影響に関する諸理論と先行研究を概観した上で, 母親の就業が子どもの独立心にどのような影響を持つのかを実証的に明らかにする。本研究では, 母親の就業状態だけでなく母親の職業経歴の効果も検証し, また社会階層や母子関係を統制した上で母親の就業の効果を検証する。分析対象は, 東京都郊外地区から多段無作為抽出法でとられた長子の中学生とその母親451組である。分析の結果, 母親の就業状態によって子どもの独立心に違いはみられなかった。しかし, 母親の職業経歴によって子どもの独立心に有意な差異が生じていた。結果は, 就業継続する母親の子どもの独立心が他の群に比べ有意に高いことが示された。ここから, 母親の就業状態だけでなく母親の職業経歴を捉えることの重要性, および母親の就業継続が必ずしも子どもに対して否定的な影響を及ぼさない-むしろポジティブな影響さえ及ぼしうる-ことが明らかになった。
著者
平井 晶子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.7-16, 2003-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
25
被引用文献数
2

「家」とは, 世代を超えて永続し, 直系親族により単独相続され, 家業や家産が維持され, 構造的には直系家族世帯を形成するものと定義される。しかし, 庶民層で「家」が一般化した時期については未だ定説が確立していない。本稿では「家」に不可欠な要素である永続性に着目し, 実態としての世帯に永続性が備わっているのかどうかを, 歴史人口学的方法を用いて検討した。その結果, 永続性は不変的に存在したのではなく19世紀以降に一般化したこと, さらに永続性が一般化する前は永続性規範も希薄であったとの仮説を得た。これらの知見は, 17世紀初頭から「家」が存在したとする従来の家族社会学的家変動論や近代になりようやく「家」が成立したとする法制史的家変動論に再考を迫るものであり, 近世から近代への連続性において家の変動を捉える枠組みを提示するものである。
著者
藤崎 宏子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.135-140, 2010-10-30 (Released:2011-10-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本テーマセッションは,日本家族社会学会創立20周年を記念して,編集委員会と研究活動委員会の共同企画により,日本の家族社会学の過去20年における研究動向を理論的展開に注目して総括するとともに,今後の課題を展望しようとするものである。はじめに池岡義孝氏から,「戦後家族社会学の展開とその現代的位相」という題目のもと,戦後における家族社会学の研究史のなかに過去20年を位置づけるという総論的な報告があった。続く4人の報告者には,この期の家族社会学研究において生産性が高く,かつ,家族と他の制度領域,もしくは家族社会学と他の学問領域とのインターフェイス部分でなされた研究の動向について報告をお願いした。具体的には,「教育学と家族研究」(小玉亮子氏),「ケアの社会学と家族研究」(井口高志氏),「階層研究と家族社会学」(岩間暁子氏),「フェミニズム論と家族研究」(千田有紀氏)である。なお,司会は,藤崎宏子と宮本みち子が務めた。
著者
石黒 史郎
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.30-41, 2007-04-30 (Released:2009-08-04)
参考文献数
25
被引用文献数
2

本稿の目的は, 家族社会学の形成過程を探るという問題関心の下, 戸田貞三の初期著作において, 家族が, どのように問題にすべきものとして構成されているのかを検討することである。彼の初期著作において看過できないのは, 明らかな社会改良への志向である。制度や集団, その成員, あるいは生活形式などの一般的なタームも, その志向をめぐって組織化されており, それによって社会的な弊害が析出される。そこで重要になるのは人々が正確な事実を知り, それに基づいて行為することであり, そのための契機として家族は位置づけられている。統計法はそうした人々が基づくべき事実を知らしめるための方法であり, それによって, 彼の論理において重要な位置を占めている家族についての事実も知らされるのである。