著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.20-32, 2020
被引用文献数
1

<p>本稿の目的は,「就業構造基本調査」匿名データ(2007年)を用いて,シングルマザーの正規雇用就労と世帯の経済水準の関連について検討することである.傾向スコア・マッチング法を用いた統計分析より,得られた主要な知見は次の3点である.第1に,正規雇用への就労はシングルマザーの時間あたり賃金を32.0%上昇させ,相対的貧困率と就労貧困率をそれぞれ36.5%, 39.5%低減させる効果を持つ.第2に,正規雇用就労の効果には階層差が存在し,賃金と就労貧困率については低学歴層ほどその就労効果が小さい.第3に,正規雇用就労を達成したとしても,非大卒のシングルマザーはその半数以上が自身の就労所得のみでは貧困状態を脱していない.以上の結果は,シングルマザーを対象とした就労支援施策に加えて,女性が結婚や出産を通じて直面する労働市場上の不利を解消することが母子世帯の経済的地位を高めるうえで重要であることを示唆する.</p>
著者
西村 昌記
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.165-176, 2012
被引用文献数
2

ストレスプロセスモデルを用い,高齢者を介護する配偶者のストレスとその性差について検討した.対象は配偶者を介護する60歳以上の主介護者314名(女性206名,男性108名)であった.分析モデルは介護者の年齢と活動能力,1次ストレッサー(被介護者のADL障害,認知症に関連する行動),2次ストレッサー(介護負担感),心理社会的資源(情緒的サポート,介護統制感),精神的健康から構成されている.構造方程式モデリングによる同時分析の結果,1次ストレッサー,2次ストレッサー,精神的健康の相互の関連には男女に共通性が高く,これらと心理社会的資源との関連にはやや性差があることが示唆された.すなわち,男女とも情緒的サポートと介護統制感が介護負担感を低下させ,精神的健康に寄与するという媒介効果が示された一方,女性にのみ介護統制感が精神的健康に寄与するという直接効果が認められた.
著者
諸田 裕子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.69-80, 2000-07-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
19

「少子化問題」をめぐる政策において、近年、「不妊問題」への言及が行われ始めている。本稿では、こうした現象を「不妊問題」の社会的構成の一つの局面としてとらえ、その局面を特徴づける論理を政策レベルの言及やマス・メディア空間に流通する「不妊問題」言説を手がかりに描き出すことを目的としている。少子化への政策レベルの対応における「主体的な選択」「自己決定」というレトリックの採用は、個人が尊重されながらも問題解決の責任が個人へと帰責されてしまうという両義的な帰結を予見させる。それは、 “経験の告白” による問題の克服が問題の個人化をもたらし、結果、社会の側の変革への志向が閉ざされるという、マス・メディア空間に流通する「不妊問題」言説の特徴によっても強化されてしまう。私たちは、「主体的な選択」を根拠にした「不妊問題」への社会的対応の行方について今後も議論を展開していく必要がある。
著者
前田 正子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.26-36, 2012-04-30 (Released:2013-07-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

家族のない人や地域とのつながりを持たない人が増えている中で,人々は困難に直面したとき,最後に役所にくる.しかし,年金や介護などの既存の社会保障制度や福祉制度だけでは,人々の複合的な問題は解決しない.人々の安心感を保障するためには既存の制度に加え,これまで家族が担ってきた対人サービスを社会的に供給することが必要になる.実際に子育て支援の現場では,親を孤立させないために行政と市民やNPOとの連携によってきめ細やかな支援が行われている.だが,家族的ケアを社会的に供給すべきかどうかという点にも議論があるだろう.また,その供給に同意が得られたとしても,何を誰がどう供給するか,それは誰が担い,財源はどう確保するのか,自助・共助・公助の役割分担をどうすべきかといった議論が必要になるだろう.
著者
中村 雅子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.9, pp.39-56,136, 1997-07-25 (Released:2010-02-04)
参考文献数
16
被引用文献数
1

To what extent do the Japanese recognize the transmission of value consciousness which occurs within the family? Do they recognize the influence of parents' to a greater extent than Americans do? This issue is explored through survey data from a sample of 1764 Japanese and 1500 Americans chosen by a random sampling method in both countries. Factor analysis was used to identify four commonly shared dimensions of value consciousness. The structure of transmission from parents was resulted in one dimension in both countries.Results suggest that the Japanese respondents have a low level of transmission of value consciousness, if any at all, with the main route of transmission being covert (acquired through observation) rather than overt (verbally taught). The American respondents tended to put higher importance on parental influence than did their Japanese counterparts, and showed a higher inclination to influence their children during their educational years.Japanese respondents felt less responsible for transmitting social values to younger generations than did the American respondents. This low level of transmission of value consciousness among the Japanese may have allowed for the difference in the perception of value consciousness between generations, and could also have widened it.
著者
有地 亨
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.54-66, 1989-07-20 (Released:2009-09-03)
参考文献数
15

After World War II, Japan's society has been faced with the bustling world and economic trend. And consciousness for families has also changed remarkably. In accordance with that, most of urban office workers have become to form nuclear families. In other side, one parent families, unmarried mothers with children and singles are increasing gradually. That is to say various forms of families have come out. Before, we made efforts to maintain the legal models of “modern small families”. However, today we have held a lot of special acts and family policies in regard of various forms of families. For the shaking families at the mercy of these policies, we must reflect how to control the society for families and how should be the families.
著者
善積 京子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.43-53, 2003-01-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
13

近年欧米諸国では, 恋愛結婚, 婚外の性交・出産の排除, 法律婚主義, 性別役割分業という特徴をもつ〈近代結婚〉が, フェミニズム・性解放・子どもや同性愛者の人権の視点から批判される。個人単位化されているスウェーデンでは, 性別役割分業体制否定, 婚姻の有無を基準にしない性モラル, 異性間の同棲関係の制度化, 同性間カップル関係の制度化, 婚外子差別の撤廃, 婚姻外の親子関係の確定および養育責任追及の制度化という, 新しい婚姻制度に変容する。婚姻登録の個人的意義は, 経済面における法的権利の保証, 情緒的きずなの確認・強化にあり, さらにパートナー登録では, 「結婚」としての意味, パートナーの配偶者としての公表, 相手の姓使用の意義が加わる。未来社会では, 婚姻制度が遂行してきた父親確定の機能は, DNA鑑定技術の普及により父親確定制度で代替可能となり, また性愛関係の特権化の機能も親密な関係性の変容により不要になるかもしれない。
著者
森岡 正博
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.21-29, 2001
被引用文献数
1

代理母や精子バンクのような最新の生殖技術は, われわれの生命観や人間観家族観に大きなインパクトを与えるであろう。子どもをもちたいというわれわれの欲望は, 具体的な下位欲望へと分節化されてきた。そして, 近代家族規範はそれらの分節化された欲望によって揺るがされる。それら分節化した欲望とは, たとえば, (1) どんな方法でもいいから子どもがほしい, (2) 血のつながった子どもをもちたい, (3) 自分の身体で妊娠出産をしたい, (4) こんな子どもならほしいが, こんな子どもならほしくない, (5) だれかと同一の遺伝子をもった子どもがほしい, などである。これらのうちいくつかは近代家族にとって既知のものであるが, 他のいくつかはまったく新しいものである。借り卵, 借り子宮, クローンなどは近代家族規範を新しいものへと変容させるかもしれない。
著者
西村 純子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.12-2, pp.223-235, 2001-03-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
29

主婦とは、家事・育児などの家庭責任を負う女性を指す実態的カテゴリーであると同時に、女性を家事・育児の責任者とするような意味・モノ・行為の体系から成る制度である。中年女性のライフ・ストーリーの分析を通して明らかになったのは、主婦という制度は女性たちの違和感を内包しながら維持されており、彼女たちの違和感とは、主婦であり続けることの選択不可能性、「専業」主婦という立場の不安定性、身体化された家事の拘束力に対するものであること、そこには高度成長期以降の女性の就労をめぐる意味内容の変化や性別分業規範の流動化といった歴史的社会的状況がかかわっているということである。今日的な状況における主婦という制度をめぐる社会学的研究は、主婦をめぐる選択がどのような条件のもとで、どのように引き受けられているかに注目することによって、主婦という制度がいかに生成・変容しているかを記述していくことが必要である。
著者
神谷 悠介
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.135-147, 2013-10-31 (Released:2015-09-05)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿は,インタビュー調査に基づき,ゲイカップルにおける家計組織とパートナー関係を分析することによって,(1)レズビアンカップルと比較した際のゲイカップルの家計組織の特徴, (2)家計組織パターンと平等なパートナーシップとの関係,(3)同性愛者に対する差別が,ゲイカップルにおける家計組織や生活状況に与える影響について解明することを目的とする.分析の結果,(1)レズビアンカップルは共同管理型が典型的な家計組織パターンの一つであるのに対して,ゲイカップルは独立型が典型的な家計組織パターンであること,(2)家計組織の独立性は,平等なパートナーシップを保障するとは限らないこと,(3)同性愛者に対する差別がゲイカップルにおける生活の個別性の一因であることが解明された.
著者
多賀 太
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.93, 2000-07-31 (Released:2010-01-22)

本書は、「女性兵士問題」「国家と『性暴力』問題」「女性性器手術問題」という、フェミニズムにおいて近年クローズアップされてきた問題を論じた、9人の執筆陣からなる論文集である。第I部から第III部のそれぞれに男性の執筆者が1人ずつ含まれることで、議論により一層の広がりが与えられているように思える。まず第I部で、軍隊内で男女にまったく対等な処遇を行うかどうかという「女性兵士問題」を題材として、フェミニズムが「暴力」とどのような関わりをもつべきかが議論される。続いて第II部では、「従軍慰安婦問題」と「夫婦間強姦」を題材として、近代国民国家においては十分保障されてこなかった「性暴力を受けない権利」をめぐる議論が展開される。さらに第III部で、「女性性器手術問題」を題材として、「第一世界」のフェミニストたちが「第三世界」の女性の経験を「性暴力」の被害として規定すること自体の「暴力」性についての議論が行われる。最後に第IV部で、編者による議論の総括が行われる。一見しただけでは無関係にも思えるこれらの問題の背後には、共通するより大きな問いが存在している。すなわち、グローバル化が進行しつつある現代において、フェミニズムは、「性」の違いによって「暴力」に関する異なる経験を強いてきた近代国民国家 (=「ネーション」) とどう関わっていくべきかという問いである。しかし、これに答えるのはそうたやすいことではない。もし、フェミニズムが国民国家の枠を越えて「性」と「暴力」の問題に取り組むべきであるとするならば、他国に暴力を行使する軍隊の存在を前提としてそこでの男女の機会均等を主張することは慎まねばならないし、たとえ国家によって合法化・正当化された営みであっても女性の人権侵害と見なされるならば「国家批判」や異文化への「介入」も必要となってくる。しかし他方で、国家を越えた問題設定は国内での性差別を不可視化させる危険性を伴うし、女性の人権のうち国民国家の枠によってこそ保障されうる側面や、異文化への「介入」にともなう「暴力」性をどう考えるのかという問題も起こってくる。本書には、この問いに対する明確な回答は記されていない。編者がわれわれ読者に求めているのは、本書から唯一の正答を見つけだすことではなく、むしろ本書が提供してくれる議論を足がかりとして、女性あるいは男性として今後国家とどのように関わっていくべきなのかを1人1人が考えていくことなのであろう。
著者
Yu-Hua Chen Chin-fen Chang
出版者
Japan Society of Family Sociology
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.189-199, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
20
被引用文献数
2

The study of intergenerational transmission of gender role attitudes (GRA) connects those about parenting mechanism of children's value, socialization, challenges of feminism and gender studies to patriarchy. Previous studies of the transmission of GRA between generations focused on the effects of socialization and symbolic interaction on the formation of GRA of children. Attitudes may change with children's own life-course events, such as entering labor market or starting family formation. The current paper studies if socialization at home remains significant predictor of children's GRA and if their life experiences play an important role in their early adulthood. Findings of analyzing panel data from the Taiwan Youth Project show that children are more egalitarian than their parents, female are more so than male, and children in adulthood are more so than in their youth. Parents have strong effects on shaping children's GRA, especially between mother and daughter. The results seem to support the exposure perspective. However, marriage makes adult children more conservative, especially for married men. The results seem to indicate more the acceptance of the reality by married couple than the backlash of egalitarian attitudes. The self-interested perspective is better to explain the changes of GRA in early adulthood of respondents.
著者
田渕 六郎
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.111-120, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿は主として全国家族調査(NFRJ)データの分析にもとづき,世代間の居住関係の変化に焦点を当てて2000年代における現代日本家族の動態を明らかにした.有配偶子の親との同居は,夫親との同居率がやや低下したものの大きな変化は生じておらず,親との同居に関連する要因には,持続的なパターンと変化の両方がみられた.未婚子の親との同居については,親同居率が顕著に上昇しており,同居の関連要因について,未婚子の低い経済的地位と同居との関連が継続的に観察された.2000年代の世代間居住関係は,未婚子の親との同居が拡大するなかで,親と有配偶子との間の「直系家族制」的な同居が減少し,その構造も変化の兆しをみせている.こうした今日の世代間居住関係の変化を的確に解釈するためには,従来のような有配偶子とその親との関係に限定されないような研究枠組みからの接近が求められる.
著者
山根 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10-1, pp.5-29,154, 1998-03-25 (Released:2009-08-04)
参考文献数
7
被引用文献数
6 7

This paper aims to clarify how gender studies have developed theory and research in Japanese family sociology since second wave feminism in the 1970s.The goal of the theoretical contribution of gender studies is to overcome two modern family models, functionalist role defferentiation model and socialist egaritarian model, which have had great influence on Japanese family sociology.Major research themes developed in gender studies are gender roles, housework, dual career, motherhood/fatherhood, rethinking of “the family”, and rethinking of maritalinstitutions. Quantitative methods have been predominantly used in these research. It is necessary to expand research themes and to develop qualitative methods in order to understand gender reality today.

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著者
野田 潤
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.74-75, 2007-04-30 (Released:2009-08-04)
被引用文献数
1 1