著者
岩井 紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.155-164, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
22

EASSは,アメリカで1972年に開始されたGeneral Social Surveyを範として,それぞれの社会で日本版総合的社会調査(JGSS),Korean General Social Survey (KGSS),中国総合社会調査(CGSS),台湾社会変遷調査(TSCS)に取り組んでいる日韓中台の4つの研究チームが,東アジアに共通する問題を掘り下げてデータを収集し,比較分析を行い,データを公開するという目的で,2003年にスタートしたプロジェクトである.最初に取り組んだテーマが「東アジアの家族」であり,議論とプリテストを重ねて「EASS 2006家族モジュール」を作成し,それぞれの全国調査に組み込んでデータを収集し,国際統合データを作成した.4チームは「EASS 2006家族モジュール」と比較できる形で「EASS 2016家族モジュール」を作成し,日韓中台の家族の現状をとらえて,この10年間に生じた変化を明らかにする.本稿では,4つの社会における経済発展の過程と家族の変化を概観し,EASS 2006家族モジュールを振り返り,EASS 2016で検討すべき課題を示した.
著者
徐 堯
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-44, 2019-04-30 (Released:2020-04-30)
参考文献数
57

福祉国家建設の途上にある中国は公的介護保険制度の在り方を模索している.政策導入の初期に人々はいかなる介護意識を持つのか.この問題意識のもとで,本稿は中国農村部に注目して高齢者ケアをめぐる選好の構造を考察する.ケアの脱家族化論を援用してケアサービスとケア費用についての仮説を提起し,中国中部に位置するF県とQ県で実施した調査データを用いた多変量解析により,介護意識の規定要因を分析した.分析の結果,1)脱家族的なケアサービス志向に対するコミュニティケア,女性,若年世代,都市部居住,非農業就労などの効果が正の値,三世代以上世帯,娘同一世帯などの効果が負の値で有意であること,2)脱家族的なケア費用志向に対する不平等縮小感と皆保険・皆年金評価の効果が正の値で有意であることが明らかになった.高齢者ケアについて,農村部住民は「支援された家族主義」志向および「脱家族主義」志向を持つことが示唆される.
著者
梁 凌詩ナンシー
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.200-212, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
26

本研究の目的は香港の教育改革と教育コストの関係を明らかにし,教育制度の変化がどのようにスタートラインで勝つ心理を形成したのかを考察する.少子化の要因は多様であり,子どもにかける教育コストの上昇はその一つである.香港はイギリス植民地になった後,英語重視社会となり,英語能力が進学および社会的評価の高い職業に就くカギである.中学校の使用言語を広東語にする方針で1988年に行われた教育改革により英語を使用言語とする中学校が同年には全体の2割弱となった.また,高校に進学する資格を判断する統一試験をなくし,学生が統一試験の成績によってより良い高校に転学する機会がなくなるようになった.そのうえ,教育改革により小中高一貫校に変更するエリート校が続出し,学生にとって転校する機会が基本的にはなくなった.このように,子どもをエリート校に進学させるため,スタートラインが大事であるという意識が香港社会に形成され,入学競争が幼稚園まで前倒しされた.
著者
李 雯雯 筒井 淳也
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.157-170, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
36

本研究は,中国全体をカバーする中国家族パネル研究(CFPS)の2016年の調査データを用いて,都市部における成人子とその親との世代間関係におけるジェンダー差を分析するものである.従来の同分野の研究が異なった世帯に属する男女の比較を行うものであったのに対して,本研究では世帯単位の調査であるCFPSを用いることで,直接に同一世帯に属する夫婦間の差を用いて検証することができる.分析の結果,夫方の親との同居割合は,妻方の同居割合の5倍以上であることがわかった.さらに,世代間関係のジェンダー差は関係の内容に応じて異なることがわかった.家事援助やケアは夫方に,接触頻度は妻方に偏っている.夫婦の学歴差は世代間関係に独特な影響を持つことが示された.すなわち,妻の相対的な高学歴は世代間関係のジェンダー差をより平等にしており,妻の資源へのアクセスが夫婦間の均等な世代間関係に寄与していることが示唆された.
著者
夏 天
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.91-103, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
31

本研究は,家族における親の長期不在の形態の一つとして,中国における親の「外出労働」を取り上げ,(1)親の「外出労働」による不在は子どもの大学進学希望と関連するのか,(2)その関連はペアレンティング仮説によって説明されるのかを検討する.中国の全国調査データ「China Family Panel Studies(CFPS)2010」を分析した結果から,以下の知見が得られた.第1に,男子においてのみ,両親ともに不在の場合に本人の大学進学希望が顕著に低くなる傾向が示された.その傾向は主養育者が祖父母であること,男女で向社会的な規範の内面化度に差があることなどに起因すると考えられる.第2に,主養育者の教育的関与は,親の不在状況と独立に子どもの大学進学希望と正の関連を示したが,親の不在の負の効果を説明するペアレンティング仮説としての媒介効果は支持されなかった.
著者
杉浦 郁子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.148-160, 2013-10-31 (Released:2015-09-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

本稿では,性別違和感のある人々の経験の多様性が顕在化したことを背景に,「性同一性障害であること」の基準として「周囲の理解」が参照されるようになった可能性を指摘する.また「性同一性障害」がそのように理解されるようになったとき,性別違和感のある子とその親にどんな経験をもたらしうるのかを考察する.まず,1980年代後半から90年代前半に生まれた若者へのインタビュー・データを用いて,「周囲の理解」という診断基準が出現したプロセスについて分析する.次いで,「性同一性障害」の治療を進めようとする20代の事例を取り上げ,医師も患者も「親の理解」を重視していることを示す.そのうえで,親との関係調整の努力を要請する「性同一性障害」という概念が,親子にどのような経験を呼び込むのかを論じる.
著者
宮崎 貴久子 斎藤 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.54-65, 2003-01-31 (Released:2010-02-04)
参考文献数
30

死によって大切な人を失うことは大きな喪失体験である。世界保健機関によると, 緩和ケアの目標は, 患者とその家族にとってできる限り良好なクオリティ・オブ・ライフを実現させることであり, 患者の療養中も, 患者と死別後も家族への援助を継続する。本研究の目的は, 一般病棟の緩和ケアにおける, 患者の死が家族にどのように影響するのかを明らかにすることである。16名の家族の自由意志による研究参加協力を得て, 死別6か月以降にライフライン・インタビュー・メソッドによる面接調査を行った。描かれたライフラインの分岐点とイベントの分析結果より, 家族が死別体験をどのようにとらえて, 将来をどのように描いているのかその傾向を探った。家族の悲嘆反応は死別した家族との生前の関係, ジェンダー, 年齢などの多くの要因によって異なる。家族ケアの今後の課題と方向性を提示する。
著者
稲葉 昭英
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.144-156, 2021

<p>貧困・低所得の定位家族で育つことが子どもの内面に与える影響を検討するために,等価世帯所得によって定義される「世帯の貧困」と子ども(中学3年生)のメンタルヘルス(心理的ディストレス)との関連を計量的に検討する.内閣府「親と子の生活意識に関する調査」(2011年)を用いて,対象を有配偶世帯に限定して分析を行った結果,(1)男子では貧困層にディストレスが高い傾向は示されなかったが,女子では貧困層で最も高いディストレスが示された.(2)女子に見られるそうした貧困とディストレスの関連は親子関係の悪さや,親や金のことでの悩み,といった家族問題の存在によって大きく媒介されていた.この結果は貧困世帯において女子に差別的な取り扱いがあること,および女子は男子よりも家族の問題を敏感に問題化する,という二つの側面から解釈がなされた.</p>
著者
宍戸 邦章
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.121-134, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
37
被引用文献数
1 2

「圧縮された近代化」が生じた東アジアでは,晩婚化・未婚化が進行し,出生率が急低下している.20世紀末以降,東アジアは極低出生率の状態を示し始めた.東アジアでは,未婚化・晩婚化だけでなく,世帯規模の縮小,単独世帯の増加,高齢者の子との同居率の低下,離婚率の上昇も生じている.これらの現象は,個人化として捉えることができる.本稿では,個人化の議論や東アジアの家族文化的背景を踏まえ,東アジア社会調査(EASS)に基づいて,日韓中台の比較分析を行った.分析の結果から,東アジアにおける「家父長制の型」は,2000年代後半における東アジアの家族やジェンダーのあり方に影響を与えていること,東アジアにおいてもジェンダー間不衡平論の状態が成り立つことを指摘し,東アジアの晩婚化・未婚化が生じるメカニズムを考察した.
著者
松木 洋人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.52-63, 2013-04-30 (Released:2014-11-07)
参考文献数
38
被引用文献数
4

1980年代後半以降,主観的家族論と構築主義的家族研究は人々が使用する日常的な家族概念に注目することの重要性を論じてきた.しかし,これらの研究に対しては,専門的な家族定義の意義や可能性を否定するものであるとの批判もなされている.本稿では,主観的家族論と構築主義的家族研究およびその批判のいずれにおいても看過されてきた日常的な家族概念の家族社会学研究にとっての含意を明らかにする.まず,主観的家族論と構築主義的家族研究およびその批判において論点となっていたのが,専門的な家族概念と日常的な家族概念との関係であることが確認される.そのうえで,この論点を社会科学における記述の適切性についての議論と関連づけることによって,日常的な家族概念は,家族定義の間の齟齬をめぐる問題を脱問題化するものとして,そして,個別の経験的研究においては専門的な家族定義の適切性の条件となるものとして理解できることを主張する.
著者
和泉 広恵 野沢 慎司
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.34-37, 2017-04-30 (Released:2018-06-18)
参考文献数
5

近年,家族社会学においては,「家族」の多様化と意味変容に関する研究が蓄積されている.一方で,様々な領域において「家族」がその外側からの介入/支援を受け入れ,それによって維持・再編されるようになってきた.そこで,本シンポジウムでは,「家族」に対する専門家という第三者の介入が,精神保健・司法・福祉の各領域においてどのように実践されているのかを検討し,家族社会学の新たな展開の可能性を論じることをねらいとした.本シンポジウムでは,中村伸一氏(家族療法家),原田綾子氏(法社会学),中根成寿氏(福祉社会学)の3名の報告に対し,天田城介氏,松木洋人氏からのコメントが行われた.オーガナイザーおよび司会は,和泉広恵・野沢慎司が務めた.
著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.44-56, 2018

<p>本稿では,「就業構造基本調査」の匿名データ(1992・2007年)を用いて,1990年代から2000年代にかけてのひとり親世帯内部の所得格差とその変容について時点間比較を行った.</p><p>分析の結果,以下の知見が得られた.第1に,有子世帯の所得格差は,過去15年間で拡大傾向にあり,とくに独立母子/父子世帯内部で所得格差が大きい.第2に,高学歴化によりひとり親の教育水準が急速に向上したものの,ひとり親世帯の低学歴層への偏りは安定的に維持されている.第3に,要因分解法の推定結果より,世帯所得の学歴間格差が独立ひとり親世帯の所得格差の拡大に寄与しているが,他の成人親族との同居はひとり親世帯の階層差を緩衝させる役割を持っていた.</p><p>以上より,ひとり親世帯内部の所得格差は階層差を伴って緩やかに拡大しており,家族・世帯の「自助努力」を強調する福祉政策は,低学歴層のひとり親世帯の経済状況を悪化させる可能性が示唆された.</p>