著者
増田 靖彦
出版者
学習院大学
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.81-101, 2007

サルトルが日本に受容されるに当たっては、いくつかの困難が存在した。彼の多様な執筆活動に対応しきれない日本のアカデミズムの構造や、第二次世界大戦という世界の特殊な状況などがそれに当たる。 そうした困難を克服しつつ、サルトルの受容はまず作品の素描や翻訳から始まった。その蓄積はやがて、サルトルの作品を総体として論じる試みとなって現れる。その嚆矢となったのが、サルトルをフッサール現象学に基づいた自我の問題提起として読解する研究であり、自己と他者の関係を基礎付ける人間学として読解する研究であり、今日の人類が抱える思想的課題と格闘する文学者として読解する研究であった。これらの研究はいずれも、サルトルの思想家としての側面に焦点を当てていることが特徴的である。 しかし、サルトルの作品における形式及び内容の変化と、行動する知識人というイメージの流布とによって、そうした研究動向にも転換の時期が訪れる。日本におけるサルトルの受容はもっぱら実存主義者サルトルを前面に押し出すようになっていくのである。This paper tries to clarify how Sartre's thoughts came to be known and studied in Japan. At the time they were introduced into Japan, there were two main difficulties: the subdivided organization of special studies in Japanese academia and the grave situation of the world during World War II. The introduction of Sartre into Japan began with the sketch or translation of his works. These efforts easily made it possible to treat the works of Sartre as a whole. An assortment of studies appeared such as those which discussed his thoughts on the problematic of ego based on Husserlian phenomenology, those which concidered his thoughts as an anthropology founded on the relationship between the self and the other, and those which considered him to be a man of letters tackling every kind of task important for the modern human. Each one of these studies focused on the thinker in its own characteristic way. However, as Sartre altered the form and content of his works, and was held in high reputation as the intellectual who acts, the studies on Sartre gradually began to move in another direction. They came to project Sartre as an existentialist in the foreground of their interpretations.
著者
後藤 謙太郎 増田 靖
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会誌 (ISSN:09187324)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.151-166, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
46

本稿の目的は,会社αの研究所で27年間にわたって開発され,製品化に至った製品Xの開発プロセスの中で生成された実践知の生成・変容・継承過程を,製品系譜学を用いた調査により明らかにすることである.そのため,調査方法として,実務者が研究者となり,自身の実務現場を調査する,創発的ビジネスフィールドリサーチを採用した.また実践共同体とバウンダリー・オブジェクトの概念を用いて分析を行った.その結果,企業研究所の組織実践における実践知の生成・変容・継承過程を明らかにし,社内に継承された実践知と,実践に埋もれ形式知化できるがされてこなかった実践知との質的な違いを見出した.
著者
桐原 隆弘 今井 敦 中島 邦雄 小長谷 大介 福山 美和子 熊谷 エミ子 増田 靖彦 西尾 宇広 稲葉 瑛司
出版者
下関市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はF・G・ユンガー『技術の完成』(1939年執筆、戦後に公刊)における技術論を哲学、ドイツ文学、エコロジー思想、科学技術史の各観点から総合的に検討することを目指した。同書の論点として、①機械論的自然観と有機的生命観/人間観/社会観との絡み合い、②技術による富/余暇の逆説的な減少過程、ならびに大衆のイデオロギーへの感染性および技術時代の戦争の全面戦争への展開、③富(存在および所有)と時間(生産および余暇)の理論を軸とするエコロジー思想の萌芽を読み取った。ユンガー自身が有するこれら複数の論点を照らし合わせる作業から、科学技術の公共哲学的意義をめぐる議論に新たな一石を投じることができよう。
著者
増田 靖彦 Yasuhiko Masuda
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.6, pp.81-101, 2008-03-28

サルトルが日本に受容されるに当たっては、いくつかの困難が存在した。彼の多様な執筆活動に対応しきれない日本のアカデミズムの構造や、第二次世界大戦という世界の特殊な状況などがそれに当たる。 そうした困難を克服しつつ、サルトルの受容はまず作品の素描や翻訳から始まった。その蓄積はやがて、サルトルの作品を総体として論じる試みとなって現れる。その嚆矢となったのが、サルトルをフッサール現象学に基づいた自我の問題提起として読解する研究であり、自己と他者の関係を基礎付ける人間学として読解する研究であり、今日の人類が抱える思想的課題と格闘する文学者として読解する研究であった。これらの研究はいずれも、サルトルの思想家としての側面に焦点を当てていることが特徴的である。 しかし、サルトルの作品における形式及び内容の変化と、行動する知識人というイメージの流布とによって、そうした研究動向にも転換の時期が訪れる。日本におけるサルトルの受容はもっぱら実存主義者サルトルを前面に押し出すようになっていくのである。
著者
下松谷 匠 増田 靖彦 谷川 允彦 谷口 哲郎 奈良 雅文 村岡 隆介
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.2366-2370, 1995-11-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
9

ヘルペス脳炎の治療中大量出血,穿孔をきたし,手術にて救命しえた幼児の十二指腸潰瘍症例を経験した.症例は1歳3カ月の女児で,嘔吐を主訴に近医受診し,意識障害を認めたため本院紹介入院となった.意識は深昏睡に陥り,ヘルペス脳炎と診断し, dex-amethasone, acyclovirの投与を開始した.治療開始後大量のタール便を認めたため内視鏡検査を行ったところ,十二指腸からの出血で凝血塊が幽門輪より胃内へ膨隆していた.保存的治療にもかかわらず出血が持続したため緊急手術を行った.十二指腸球部から下行脚にかけての前壁に径約2cmの穿孔を認め,凝血塊などにより覆われていた.胃半切術を行い,再建法はビルロートII法に準じて行ったが,十二指腸断端は閉鎖できず,空腸を十二指腸断端に吻合した.術後経過は良好で3カ月後退院した.
著者
宮本 淳子 増田 靖
出版者
日本コミュニケーション学会
雑誌
日本コミュニケーション研究 (ISSN:21887721)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.5-27, 2019-11-30 (Released:2019-12-03)
参考文献数
52

This paper presents characteristics of “interactive” communication to promote innovation. In recent years, many researchers have shown interest in “interactive” communication in science and technology communities as a means of promoting innovation. However, collaboration and “interactive” communication do not guarantee success, which is dependent on the quality of the communication and the methods employed. This paper investigates the development of successful collaboration in the field of innovative technology. We examined the specific case of removing old paint using laser beams to elucidate an “interactive” communication method that promotes innovation. We conducted three in-depth interviews with key members of the development team and a group interview involving all participants and analyzed and interpreted the data using the framework of “Katari=Antenarrative” theory. As a result, the following factors were identified as characteristics of “interactive” communication promoting innovation: “chains of awareness and meaning transformation in a ternary relationship,” “Katari to create empathy,” “mutual responsiveness,” and “listener’s flexibility.” Furthermore, we brought up “Katari-tsutae” as a new concept of “Katari=Antenarrative” theory. In conclusion, we suggest that innovation will be promoted by recognizing and practicing these four characteristics of “interactive” communication when working on technology development.
著者
森下 桂嗣 増田 靖
出版者
一般社団法人 経営情報学会
雑誌
経営情報学会 全国研究発表大会要旨集 2015年秋季全国研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.311-314, 2015 (Released:2016-01-29)

既存市場に新規参入する場合には、コストや製品パフォーマンスなどにおける競合との差別化を図る競争戦略が必要となる。それらの差別化を実現する構成要素を相互作用させて一貫性のある戦略を立案してくために、ストーリーが有効であると言われている。そこで本稿では、創発的ストーリーテリングという手法を活用して市場調査により得られた情報から医療機器産業への新規参入を目指した戦略ストーリーを作成した事例を報告する。創発的ストーリーテリングとは、仮説ストーリーの検証と修正を繰り返しながら、ストーリーを完成させていく手法である。本稿では、戦略ストーリーを構築するために適用した。
著者
増田 靖
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.94, no.9, pp.773-777, 2011-09-01

本稿では,イールドマネジメントの基礎と最近の研究の動向を紹介する.イールドマネジメントの目的は,企業収益の向上にある.まずは,簡単な例を用いてイールドマネジメントの考え方を説明する.次に,イールドマネジメントの動的計画法への定式化の一例を示し,更に,顧客の商品選択行動モデル化の重要性と,オーバブッキングの問題を議論する.最後に,イールドマネジメント問題の近年の新しい展開について述べる.