著者
阪井 康友 門間 正彦 山田 哲
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-24, 2007-03

脳卒中運動麻痺の回復機序は,神経系リハビリテーションの中で関心を持たれる課題の一つである。本研究は,運動の学習過程に伴う小脳の賦活状況の把握を目的にした。研究方法は,健常者5名を対象に正弦波の手指トラッキング・タスクを連続6日間行った。そのタスクのデータから正確度を算出し,タスク遂行中にfunctional MRIを用いて大脳皮質と小脳の賦活状態を経時的(1,2,5,6日目)に測定した。結果は,全例において,タスク正確度(運動学習)は徐々に高まる傾向を示した。小脳領域の賦活(横断面積)については2日目で急速に賦活部位は縮小し,6日目まで賦活部位の面積は維持されていた。一方,大脳皮質における感覚,感覚連合,運動,運動前,視覚の領域の賦活状態は,1日目より2日目は賦活部位が収縮しており,手指トラッキング運動の学習過程に大脳皮質とともに小脳の関与も考えられた。
著者
坪井 章雄 N D パリー
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.23-32, 2011-03

本研究の目的は、認知症高齢者の介護家族(以下:認知症介護者)の、抑うつ傾向軽減に有用なサービスを検討することである。茨城県下の全介護者を対象に、層化二段無作為調査を実施した。結果、認知症介護者は476名(男89名、女387名)、認知症介護者におけるサービス利用者と非利用者の抑うつ傾向では、「ショートステイ」、「トイレの改造」で利用者の抑うつ傾向が有意に高かった。一方、「障害の予後や改善の説明」では、サービス利用者の抑うつ傾向が有意に低かった。問題解決実施者と非実施者の抑うつ傾向については、「福祉職に相談する」で抑うつ傾向が有意に高かった。一方、「相談者がいる」、「援助者がいる」、「趣味がある」では、抑うつ傾向が有意に低かった。認知症介護者の家族は、身体障害の介護家族と同様に家族を中心とした相談者や介護支援者や趣味的活動の有無が、介護者の抑うつ傾向の軽減に有用であることが示唆された。
著者
小形 岳三郎 堀口 尚 松井 三和 大坪 理恵子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.89-99, 2001-03

茨城県民を対象にHelicobacter pylori (H.pylori)感染に起因する胃炎のプロフイルを知る目的で, 県内の広域中小医療機関にて施行された胃炎1291例, 胃びらんまたは胃潰瘍365例の生検材料を対象に, 病理形態的に細分類し, H.pylori菌の検出率を検討した。菌検出率は胃炎が54%,胃びらん(活動期)が87, %胃潰瘍(活動期)が65%であった。胃炎各型の菌検出率は, 軽度胃炎0%, 単純性胃炎17%, 表層性胃炎54%, 活動性胃炎98%, びらん性活動胃炎96%, 再生性胃炎52%, 化生胃炎17%, 萎縮性胃炎18%であった。この菌検出率の結果と年齢的発症率から検討した結果, 胃炎は次の3グループに分けられた。第一のグループ(軽度, 単純性胃炎)は,H.pylori感染とは無関係な胃炎で, 発症頻度は少く, 年齢とは無関係に一定の頻度にみられた。第二のグループ(表層性, 活動性, びらん性, 再生性胃炎)は, H.pylori感染と密接に関係する胃炎で, 20才以後年齢とともに増加し, 50才以降では胃炎の過半数を占めた。第三グループ(化生性, 萎縮性胃炎)は, H.pylori菌検出は低率であったが, その大部分が第ニグループの胃炎の終末像を示唆する病理像を示し, 第二のグループの増加とはやヽ遅れて年齢とともに増加した。以上, 茨城県民の壮年期以降にみられる胃炎の大部分はH.pylori感染に基づくことが示唆された。
著者
小國 英一 永田 博司
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.79-83, 1999-03

Machado-Joseph病に認められた特異な顔貌について生理学的解析を行った。これは, 片側閉眼と対側の前頭筋が収縮し, これまでの文献では不随意運動の一種と推測されている。症例は58歳男性で, 30年前に失調性歩行で発症し, 10年前に診断が確定した。神経学的には, 両側眼瞼下垂, 両眼性復視, 眼球運動障害, 構音・嚥下障害, 運動失調, 寡動, 筋萎縮, 筋力低下, 神経因性膀胱を認めた。解析には瞬目反射(BR), ビデオカメラによる運動記録(KR), 両側眼輪筋・前頭筋からの表面筋電図(sEMG)を用いた。 BRでは検出し得る異常はなく, KRでは顔面筋の随意性は保たれており, sEMGではこの顔貌と随意的片側閉眼の筋活動パターンが一致していた。これらの結果から, この顔貌は不随意運動ではなく, 眼瞼下垂と復視の随意的代償と考えられた。随意的代償運動が不随意運動に類似する例は他でも知られており, 障害評価の際には神経生理学的手法を用いた客観データを収集し解析する事が重要である。
著者
坂江 千寿子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.7-15, 1998-03
被引用文献数
1

昨年10月15日, 臓器の移植に関する法律が施行されて4ヶ月経った。いまだに第1例目の移植は実施されておらず, このテーマは日本人には受け入れ難いともいわれている。そこで, そのような国民感情に影響したと考えられる新聞報道に着目し, 臓器移植問題が国際化し始めた1982年から, 脳死臨調の答申を経て議論が国会の場に移った1994年までの全国版三紙(読売新聞・朝日新聞・毎日新聞)の見出し文を対象にしてどのような問題点が掲載されたかを分析した。分析には, (1)見出し文をプラスイメージ(価値付与)・マイナスイメージ(価値剥奪)・中立の三方向で分類した後, (2)価値剥奪に属する見出し文をJSORTプログラムで分析し, 抽出された個々の言葉を統合して報道された問題点を示すという方法を用いた。その結果, (1)価値付与の見出しは約70%から60%で推移し, 記事の多くはプラスイメージを伝えていたが, (2)脳死への疑問やそれを認めた場合に生起する諸問題, 移植医療の体制の問題など慎重な立場を取らざる得ない背景や広範囲な問題点も伝えたことが示された。
著者
岩井 浩一 澤田 雄二 野々村 典子 石川 演美 山元 由美子 長谷 龍太郎 大橋 ゆかり 才津 芳昭 N.D.パリー 海山 宏之 宮尾 正彦 藤井 恭子 紙屋 克子 落合 幸子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.57-67, 2001-03

看護職の職業的アイデンティティを確立することは, 看護実践の基盤として極めて重要であると考えられるが, 看護職の職業的アイデンティティの概念や構造は必ずしも明確になっていない。そこで, 現在様々な立場にある看護職を対象に調査を行い, 看護職の職業的アイデンティティの構造を探るとともに, 職業的アイデンティティ尺度を作成した。因子分析の結果をもとに, 1)看護職の職業選択と誇り, 2)看護技術への自負, 3)患者に貢献する職業としての連帯感, 4)学問に貢献する職業としての認知, 5)患者に必要とされる存在の認知, という5つの下位尺度が抽出された。これらの下位尺度に高い因子負荷量を示した項目について信頼性係数を算出したところ, α係数は0.78〜0.89といずれも高い値を示しており, また尺度全体としては0.94と信頼性が高いことが確認された。さらに, 因子得点を算出し, 看護職としての臨床経験年数や看護教員としての教育経験年数などの変数との関連を探ったところ, 看護職の職業選択と誇り, 看護技術への自負, 患者に貢献する職業としての連帯感, および学問に貢献する職業としての認知という4つの因子は, 年齢, 臨床経験年数, および教育経験年数と有意な相関が認められたが, 患者に必要とされる存在の認知因子は年齢および臨床経験年数とのみ関連が見られた。各因子とも, 看護学生群でスコアが低く, どのようにして職業的アイデンティティが高まっていくかを探ることが今後の課題といえる。
著者
大西 真由美
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.61-71, 2000-03

1997年の日本の妊産婦死亡率は6.5であり, 一方1995年のパラグアイの妊産婦死亡率は130.7である。日本とパラグアイにおける妊産婦保健の状況と妊娠・出産に関する経験を比較し, 妊産婦死亡率を低下させるための戦略を考察する一助とする。日本においては, 現在においても妊産婦保健医療向上のために, 数, 質共に適切な医療従事者の配置と24時間管理体制の整備が必要であると報告されている。パラグアイにおいては, トレーニングを受けた助産婦数の確保と適切な配置が, 妊産婦死亡率を低下させる戦略として不可欠である。しかしながら, 両国における妊産婦死亡原因とそれをとりまく背景は複雑に入り組んでいる。今後の課題として, 戦後, 日本がたどった妊産婦死亡率低下と妊産婦保健サービス向上の経験を, 社会・経済的要因や女性の地位等も含めて多角的に研究することにより, パラグアイをはじめとする開発途上国の妊産婦保健向上のために貢献できると考える。
著者
和田 佐和子 鷲田 孝保 山崎 郁子
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.57-65, 2004-03
被引用文献数
1

「クライエント中心の作業療法」の考え方を通し, 日本の在宅痴呆高齢者に対する作業療法サービスについて考察したところ, 痴呆高齢者本人に対する本質的なサービスとは何か, という課題があがった。その答えを探すために, 学問的視点及び一般社会の視点から, QOLに関する文献調査を行った。結果より, QOLの各側面 (生命の質, 生活の質, 人生の質) に対する本質的なサービス項目が11項目導き出された。さらに, 「目の前のその人の, 今この瞬間を大切に, 潜在能力を引き出す作業療法サービス」と一つにまとめられた。これはリハビリテーションの理念とも一致し, 作業療法の本質的なサービスとは何か, という課題に答えるものであった。これらの答えが, 痴呆高齢者本人を「クライエント」と信じ, サービスを提供しようとする多くの作業療法士や他のケア提供者にとって, 道しるべとなることを願う。
著者
小形 岳三郎 堀口 尚
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-11, 2000-03

非感染性の肺傷害の多くは, 病理学的にびまん性肺胞傷害と呼ばれる病変をきたす。このびまん性肺胞傷害は肺胞組織の崩壊・炎症に続く持続的な肺線維化を特徴とする。本稿では, 先ず, びまん性肺胞傷害を病理発生的に上皮傷古型と内皮傷古型の2型に分類し, 炎症及び線維化の進展様式に差異のあることを示した。次に, 肺傷害の発生にはオキシダントが深く関与していることを種々の肺傷害について説明した。最後に, びまん性肺胞傷害の特徴である持続性線維化の機序について考察した。(1)肺胞上皮の傷害にもとづく上皮傷古型肺胞傷害は, 硝子膜形成とマクロファージを主体とする溶出性肺胞炎をきたし, その後急速に肺胞の器質化・再構築を起こす。これに対し, 肺胞中隔の毛細血管内皮の傷害にもとづく内皮傷害型肺胞傷害は, 基本的には間質性肺炎をきたすため, 肺胞中隔は次第に線維性肥厚におちいる。内皮障害型の場合には, 更に二次的肺胞上皮傷害が生じる。(2)高酸素による肺傷害は活性酸素よる外因的なオキシダント肺傷害である。 ARDSの際の肺傷害の如く, 系統的に血管内にて白血球が活性化することによって内因的にもオキシダント肺傷害をきたす。また, 化学物質や薬物による肺傷害の場合においても, 二次的に抗酸化機構の破綻によるオキシダント傷害が深く関与する。原因如何にかかわらず, 内皮傷害型にみられる二次的上皮傷害は, 抗酸化機構の破綻によると考えられる。(3)肺傷害の修復に関与する肺胞間質細胞は, マクロファージから放出されるサイトカインにより増殖するとともに, 活性化した肺胞間質細胞はオートクリン機能を獲得することによって自己増殖する。この肺胞間質細胞のオートクリン機能獲得が, 肺傷害後の肺線維化が進行性である理由と解釈される。また, 肺胞間質細胞はレチノイド貯蔵細胞の一つで, その細胞増殖に対してレチノイドは抑制的に働く。