著者
田中 和彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.143-152, 2017-03-31

2013 年(平成25)年にアルコール健康障害対策基本法が成立し,わが国のアルコール依存症を含めたアルコール健康障害対策は新たなステージに入った.2016(平成28)年に閣議決定された「アルコール健康障害対策推進基本計画」では,「アルコール健康障害に対する予防及び相談から治療,回復支援にある切れ目のない支援体制の整備」が挙げられており,地域におけるアルコール依存症治療における連携体制の確立が急がれる.わが国では,アルコール依存症が医療化した1961(昭和36)年以降,自助グループの誕生と相まって,各地の実情に合わせたアルコール依存症治療のための連携が取り組まれていた.その代表的なものが,大阪方式,世田谷方式,三重モデルである.本稿では,この3 つのモデルのレビューと比較検証を行った.その結果,3 つのモデルは二次予防から三次予防に比重を置いた連携体制であることがわかり,アルコール依存症の「医療化」という目的に基づいた連携体制であることが分かった.一方でそれぞれのモデルが進化,発展を遂げており,一次予防を含めた取り組み,すそ野の広がるアルコール問題への対応などに取り組んでいることも明らかになった.今後の課題として,医療化してきたアルコール問題を,医療化の視点のみならず,地域課題としてとらえていく視点の重要性,アルコール問題の予防から,早期発見,介入,治療,回復支援と地域生活を支えるアルコール問題トータルサポートネットワークの必要性が示唆された.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.130, pp.1-14, 2014-03-31

親や配偶者など大切な存在が要介護状態になったとき,それまでの関係性から,できる限り自分が介護を担いたいと考える者は少なくない.このような気持ちを尊重し,かつ,介護者を支えるシステムを社会に構築するためには,我々は介護というものを社会にどのように位置づけ,支援の充実を図ればよいのだろうか.本稿では,はじめに日本における家族介護者支援の政策を振り返り,不可避の「依存」と依存者をケアする「依存労働者」が必然であることを確認し,依存者と依存労働者を国家が保護を講ずるべき対象としての家族ととらえ,ケアに伴う二次的依存を解消していく考え方を示した.また,自分と親密な関係にある他者を自分の手でケアする権利は「ケアすることを強制されない権利」に裏付けられていなければならないこと,ケアの関与のありようを各自の状況に応じて選ぶことができる状態を作り出すために,関係性へのニーズを権利と捉える視点が有効であることを示した.
著者
山田 麻紗子 渡邊 忍 小平 英志 橋本 和明
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.133-151, 2017-09-30

筆者たちは児童虐待への効果的支援のあり方を探るため,2015 年の児童虐待対応の先進国であるアメリカ(ニューヨーク市,バージニア州)視察に続いて,2016 年に韓国(ソウル市)の関係機関10 ケ所を,次の2 つの知見を得るために視察した.それらは,①韓国の児童虐待に関わる各関係機関の役割・機能,②各関係機関の連携・協働の実際についてである.その結果,過去10 年間における韓国の児童虐待等に関する取り組みには格段の進歩があり,日本にとって学ぶ点が複数みられた.政府,司法,地方自治体,民間機関が縦横に連携・協働している点やひまわり児童センターの総合支援システムには,目を見張るものがある.本稿では,韓国ソウル市における児童虐待,児童福祉の現状と課題などを紹介したい.
著者
小松尾 京子 Kyoko Komatsuo
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.75-86, 2015-09

本研究は,実習指導者による実習スーパービジョンの課題について,教育的機能の視点から明らかにするものである.社会福祉士実習指導者講習会の受講者にアンケート調査を行った.その結果,受講者の8割以上が,スーパービジョンの経験がないまま,実習指導者として実習スーパービジョンを担う立場にあった.実習指導者の多くは,教育的機能の実施がもっとも難しいと捉えていた.その理由として,環境要因,教育方法,スーパーバイザーとしての自分自身の要因から整理できた.実習指導者の担う教育的機能の明確化や実習担当教員と実習指導者の連携のあり方,実習指導者の置かれている状況に対応したフォローアップ体制の検討が今後の課題である.
著者
後藤 順久
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.128, pp.23-34, 2013-03-31

GPS 電波がない地下鉄駅で, 地図情報を障害者等のスマートフォンに提供することを目的に, ナビゲーションシステムのプロトタイプを構築をした.3 つの現在位置の検知方式の中から, 予備実験の結果により, 赤外線 ID タグによる位置検知の方法を採用した. ナビゲーションシステムの更なる機能向上を図るために, 地下鉄空間内で実証実験を行った.名古屋市営地下鉄の久屋大通駅 (南改札口) を出発地とし, 目的地の八事駅 (改札外) までの実験シナリオとなる. そのルートは, 久屋大通 (名城線) -上前津 (名城線→鶴舞線) -八事 (鶴舞線) となり, 上前津駅で 3 回のエレベーター乗車が発生する.実証実験は概ね成功裏に推移したが, 赤外線 ID タグによる方式にとどまらず, どの方式にしても地下空間全体でナビゲーションを行おうとすると相当額の投資額が必要となり, 費用対効果の検証が必要となる.
著者
福田 静夫
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
pp.121-140, 2012-06-30
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.134, pp.9-30, 2016-03

本研究では,過去18 年間に生じた介護殺人716 件の全体状況を確認し,被告の介護を担う力量が問われた3 つの事例の分析を行った.介護殺人防止に向けては,国の施策として生じた事件の情報をデータ化し,特徴や傾向の分析を行い,得られた知見を制度や施策に活かしていくことが求められる.支援の現場では専門職により,介護を担う者の意思や能力の見極めを行うことも必要である.介護者を対象にしたアセスメントと,それに基づくケアプランの作成を行うことは介護殺人の予防のみならず,すべての被介護者と介護者にとって,介護や生活の質の向上を目指すツールとなり得る.現在日本でもイギリスの実践に習い,ケアマネジャーらが介護者アセスメントの開発を行い,ケアプラン作成技術の向上をめざす試みが始まっている.それらを一部の実践に留めることなく,介護者支援の方策として全国に展開していくことが今後の課題である.
著者
小松 理佐子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.124, pp.39-54, 2011-03-31

社会福祉基礎構造改革の集大成として 2000 年に制定された社会福祉法の第 1 条に, 法の目的として 「地域における社会福祉の推進を図る」 ことが掲げられて以降, 地域を基盤とした社会福祉システムの形成に向けた政策が推進されてきた. その一環として, 第 1 条の改正と並行して, これを実現するための社会福祉関係法の制定・改正も行われてきた. それにもかかわらず, 孤独死の発生など, 地域で生活する人々への支援が十分に行われていない実態が明らかになっている. 本稿は, 地域で生活する人々の生活を支えるための社会福祉供給のあり方を明らかにすることを目的にして, 社会福祉供給の基本枠組みであるニーズとその充足1)について考察する.はじめに, 従来の公的社会福祉サービスの提供を地域を基盤とした支援体制へと転換するための課題を検討する. 次に, 地域生活支援におけるニーズを明らかにする. それを踏まえて, ニーズに対応する支援手段の充足の方法を考察する.
著者
三宅 亜希子 小沼 聖治 佐藤 光市 杉本 浩章 小松尾 京子 田中 和彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.129, pp.107-123, 2013-09-30

本研究は, 相談援助実習の巡回指導における実習教育スーパービジョンの内容とその課題を明らかにすることを目的としている. 巡回指導における複数回の実習教育スーパービジョンにおいて, それぞれの回で取り上げるべき実習教育スーパービジョン項目があることを仮説とし, 各回の実習教育スーパービジョンの項目を明らかにするための調査を行った. 分析方法は, 新カリキュラム初年度に本学通信教育課程の教員が作成した 『巡回指導ガイドライン』 の分類枠組みを作業仮説とした逐語データの分析である.その結果, (1)それぞれの回の巡回指導を構成する実習教育スーパービジョン項目の位置づけ, (2)実習生の語りから実習教育スーパービジョンの手がかりを得ることの有用性, (3)実習教育スーパービジョンにおける 「実習記録」 活用の有用性が明らかになった.
著者
朴 兪美 平野 隆之 穂坂 光彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.125, pp.67-82, 2011-09-30

この試論では, 福祉社会開発研究領域でのアクションリサーチにおいて, 研究者が実践現場に関わりつつその現場を研究対象とするときの方法論を考察する. 高浜市における 「計画空間」, 高知県での 「研究会事業」, 釧路市での 「普遍化事業」 の 3 事例の分析を通じて提起されるのは, 「メタ現場」 の構築である. 対象地域の社会変化をある抽象度をもって写像する 「場」 において, 実践者も研究者もそれぞれ自己を 「異化」 し自己相対化しつつ, その場に 「同化」 すなわち内在的・文脈的・共感的に理解しあえる 1 アクターとなる. 研究者は, このメタ現場に自己の研究枠組みや観察結果を投げかけ, それへの反応から枠組みを変更し, 観察を修正する. 実践者は日常的な生活の現実を振り返り, 俯瞰的に観察し, 現場に洞察を還元できる. 意識的に現場からの一定の距離をもって仮構されているという双方の理解の下に, 実践者と研究者との協働の場となる空間が, メタ現場である.
著者
高藤 真弓 野中 猛
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.126, pp.15-33, 2012-03-31

近年のケアマネジメント実践現場においては, 複雑多様化する対象者のニーズに応えるために, 介護支援専門員は多職種との連携や危機介入という高度なケアマネジメント技術が求められるようになっている. そこで本稿では, 日本福祉大学ケアマネジメント技術研究会の実践事例を通して, ネットワーク構築のプロセスを分析し, ネットワーキングの効果と具体的な方法を提示した.ネットワーキングには, ケアマネジメント実践力の向上と業務に対する動機付けという介護支援専門員の資質向上と, 社会資源開発の可能性につながる効果があり, 長期的には対象者への間接的な支援へと発展していると考えられる.