著者
末盛 慶 小平 英志 鈴木 佳代
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.39-52, 2017-09-30

近年,ワーク・ライフ・バランスに関する研究が蓄積されている.しかし,その多くは共働き世帯など夫婦世帯を対象とした研究が多い.しかし,ワーク・ライフ・バランスの実現がより困難であることが推測されるのはひとり親家庭である.ひとり親家庭の場合,理論的に1 人で家庭役割や職業役割等を遂行していく必要があるからである. 以上の問題意識から,本稿では,シングルマザーの家庭領域から仕事領域に対するワーク・ファミリー・コンフリクト(FWC)の規定要因を分析した.分析対象は,名古屋市区部に在住し,年齢の記入があり,就業しているひとり親の母親113 名である. 分析の結果,時間のFWC に関しては,仕事過重と貧困状態が有意な関連を示した.ストレインのFWC に関しては,仕事過重,上司のサポート,および貧困状態が有意な関連を示した.行動価値のFWC に関しては,学校関与と上司のサポートが有意な関連,貧困状態は有意傾向で関連を示した.以上の結果から,仕事の過剰や上司のサポートといった要因に加え,貧困状態がシングルマザーのワーク・ファミリー・コンフリクトを高めることが示された.
著者
伊藤 文人
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.137, pp.1-23, 2017-09

本稿は, ポプラリズム運動を牽引したレイバー・ガーディアンズ(Labour Guardians:労働党の影響力の強い保護委員会)による人道的救貧行政(the Humane Administration of the Poor Law)をこの間収集した新資料を基に検討することを通じて,彼らの実践思想の内実にアプローチするものである. 本稿では,改正救貧法(1834 年)に規定されたガーディアンズの役割を確認した上で,1920 年代にレイバー・ガーディアンズによって実施された救貧行政とソーシャルワークの実相に焦点を当てる.その際に彼らの政敵であった慈善組織協会(COS)のそれと比較しながらその特徴を考察する.また彼らの設定した救貧法上の救済基準(スケール)の運用実態にも触れつつ,彼らのストリート・レベルの政策思想についても検討する. 検討の結果,レイバー・ガーディアンズの救貧行政は,遵法精神(コンプライアンス)の徹底を通じたステイクスホルダーへのアカウンタビリティ(説明責任)の確立と,財政事情が厳しい中でもその政策思想を現実化しようとした救済基準の設定と柔軟な運用を行っていたことが明らかになった.
著者
大濱 裕 江原 隆宜
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.81-99, 2017-03-31

「地域自治」なき「地域社会」に「地域福祉」はあるのか.これまでの地域福祉理論・政策・実践における「地域社会」の捉え方には,以下の二つの限界がある.①「地域社会」を個人の集合・空間と認識しているため,地域社会の能力・経験・仕組み・価値規範の実態的な固有性が捉えられないこと,②「地域社会」を行政に対置される相対的存在と認識するため,生活問題解決への「動態的変化のプロセス」を,住民参加や地域自治の構築・強化の文脈において適確に捉えきれないことである.本研究では,右田紀久惠著『自治型地域福祉の理論』を研究対象文献に選定し,「地域社会」と「生活問題」・「住民参加」の関連性・規定性,及びそれらの「理論・理念」,「制度・政策」,「実践手法」の整合性・一貫性を検討することを通して,地域福祉理論における「地域社会」の捉え方を考察した.
著者
青木 聖久
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.23-34, 2016-09-30

精神障害者や家族は,障害年金受給が,将来の就職に影響するのではないかと危惧している実態がある.それは,精神障害者が障害年金を受給していることが事業主に知られてしまうと,たとえ現時点において,経済的に困窮していたとしても,安心して精神障害者は障害年金を受給できない,というものである.これらの不安が解消されれば,精神障害者は障害年金の受給につながることになる. そこで本稿では,障害年金に関わりをもつ社会保険労務士からの調査を通して,このことを明らかにすることにした.なぜなら,社会保険労務士は,近年障害年金を専門にする者が増えていることに加えて,顧問という形で事業所に関わり,事業主から人事の相談を担いうる等,障害年金と事業所の双方に精通していると考えられるからである.そして,調査の結果,従業員の障害年金受給は制度的に,事業主に知られるものではないことがわかった.また,精神障害者が就労において求められるのは,障害年金の受給の有無という論点よりも,就労への取り組み姿勢を含めた労働の中身や,労働の継続性が大切であることの示唆を得ることができた.さらに,本稿を通して新たに得られた事柄は,以下のことである.それは,精神障害者や家族は,職に就くという「点」に注目することが多いが,豊かな人生を送るために働くという論点で捉えれば,自分のことを理解してくれる事業所で,いかに自分に合った働き方をするかという「曲線」で捉えることが大切だというものである.本研究では,このように働くことに関する新たな視点に辿り着くことができた.
著者
野村 豊子 照井 孫久 本山 潤一郎
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.1-21, 2016-09-30

本研究はリーダーケアマネジャーに対するスーパービジョンの意義と課題に関して,最近の英国のスーパービジョン研究における展開を踏まえ,2 つの調査研究を元に検証したものである.第1 の研究はケアマネジャーの現状と課題分析を目的に実施した主任介護支援専門員に対する質問紙調査であり,第2 の研究は主任介護支援専門員を対象に行ったグループインタビューである.この調査の結果としてリーダーケアマネジャーとしてのスキルアップ,他の人との関わりの意義,他者への期待と,自身に対する自信のなさ,時間的・精神的ゆとりのなさの間に乖離が生じている現実が示された.スーパービジョンの手法の不明確さの改善については,ケアマネジメントの知識・技術の向上のための方法と,スーパーバイジーとその環境の調整を目指す目的を達成する多面的な方法が求められる.英国のモリソンらのモデルの応用も視野に入れることが示唆された
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.134, pp.9-30, 2016-03-31

本研究では,過去18 年間に生じた介護殺人716 件の全体状況を確認し,被告の介護を担う力量が問われた3 つの事例の分析を行った.介護殺人防止に向けては,国の施策として生じた事件の情報をデータ化し,特徴や傾向の分析を行い,得られた知見を制度や施策に活かしていくことが求められる.支援の現場では専門職により,介護を担う者の意思や能力の見極めを行うことも必要である.介護者を対象にしたアセスメントと,それに基づくケアプランの作成を行うことは介護殺人の予防のみならず,すべての被介護者と介護者にとって,介護や生活の質の向上を目指すツールとなり得る.現在日本でもイギリスの実践に習い,ケアマネジャーらが介護者アセスメントの開発を行い,ケアプラン作成技術の向上をめざす試みが始まっている.それらを一部の実践に留めることなく,介護者支援の方策として全国に展開していくことが今後の課題である.
著者
大谷 京子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143, pp.81-98, 2021-03-31

ソーシャルワーカーにとって,専門職アイデンティティ形成は極めて重要であるが,それが困難な環境に置かれている.本論では,ソーシャルワーカーの専門職アイデンティティに焦点を絞り,それがどのように語られているのか,概念を整理し,その形成のための教育訓練について提示する. ソーシャルワーカーの専門職アイデンティティは,①専門職集団が共有するアイデンティティ,②個人の中に統合された社会的アイデンティティの一つとしての専門職アイデンティティ,さらにはそれに対する自己認識,③個人の中にそのアイデンティティを内在化させるプロセスという 3 つの意味で使用されていた. ③のプロセスに注目した専門職アイデンティティ形成のための取り組みとして,養成課程では,「非公式カリキュラム」の土壌づくり,専門職アイデンティティを省察し表明する機会の提供など 5 点,現任者に対しては,専門職集団との日常的な交流の場の提供,ソーシャルワーカーによるスーパービジョンの提供など 4 点を提示した.
著者
小木曽 早苗
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.140, pp.89-110, 2019-03-31

全国的に人口減少や高齢化が進行し地域移行支援対象が拡大するなかで,権利擁護支援ニーズは高まりを見せているが,地方の小規模自治体では人員・人材不足や財政面の負担も大きく,継続的に対応する上での困難さが生じている状況がある. 本稿では,小規模自治体の権利擁護支援の形成プロセスにはどのような条件整備が必要であるか,筆者ら大学研究チーム1が関わる高知県中山間地域の小規模自治体と実施主体である社会福祉協議会(以下,社協)の共同作業を例に,3 つの展開プロセスを通じて考察した. 結果,①先駆的な自治体調査のプロセスを経た小規模自治体型の検討,②継続的なスーパービジョンによる関係者の連携強化と支援力の向上,③各種調査研究等による根拠あるミッションの共有,④地域福祉を基盤とした権利擁護支援の方向性,が条件として確認された.また,⑤安定的な財源確保の必要性,⑥外部からの長期的な支援の重要性,も見えている. 中土佐町では,第2 期地域福祉計画の柱立てとしても権利擁護支援の充実を置く判断をし,より目指す方向性が明確になった.権利擁護支援を重要軸とした体制構築は,支え合いに留まらない地域共生社会の実現においても大きな役割を担おうとしている.
著者
山田 麻紗子 渡邊 忍 小平 英志 橋本 和明
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.133-151, 2017-09-30

筆者たちは児童虐待への効果的支援のあり方を探るため,2015 年の児童虐待対応の先進国であるアメリカ(ニューヨーク市,バージニア州)視察に続いて,2016 年に韓国(ソウル市)の関係機関10 ケ所を,次の2 つの知見を得るために視察した.それらは,①韓国の児童虐待に関わる各関係機関の役割・機能,②各関係機関の連携・協働の実際についてである.その結果,過去10 年間における韓国の児童虐待等に関する取り組みには格段の進歩があり,日本にとって学ぶ点が複数みられた.政府,司法,地方自治体,民間機関が縦横に連携・協働している点やひまわり児童センターの総合支援システムには,目を見張るものがある.本稿では,韓国ソウル市における児童虐待,児童福祉の現状と課題などを紹介したい.
著者
末永 和也 大林 由美子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.45-55, 2020-03-31

本研究は,消滅可能性都市として指摘されている南知多町の人口流出を防ぐための方策や人口を増やすことを検討するために,住民意識調査や専門職の意識調査を分析し,現在,計画内容が検討されている地域福祉計画の策定に寄与できることを目指している. 分析結果より,30 歳代および50 歳代以上の住民には「南知多町に住み続けたい」と考える人の割合が高いことに比べ,40 歳代の住民は,「南知多町に住み続けたい」と考える人の割合は低い傾向にあり,その理由として仕事,医療・福祉の面での課題がみられた. また,住民と専門職の間には学校統廃合の意識に差があった.住民は,学校統廃合には現状維持を求める意見が約5 割であることに対し,専門職は,現状維持したほうがよいと考える意見は約3 割であった.先行研究では,人口を減少させない方策として,小中高校の存続に力を注ぐことであると述べられている.このまま学校統廃合を進めていった場合,さらに人口流出が加速する可能性がある。 これらの分析をふまえ,地域福祉計画を策定していくためには,「専門職参加」「行政職員参加」だけでなく「住民参加」が必須であり,住民をいかに巻き込むことができるか鍵となることが考察された.
著者
神林 ミユキ 大林 由美子 伊藤 正明
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.151-165, 2018-03-31

多職種連携教育(IPE)と社会福祉士の連携教育が並行して実施する前に,次の2 点を明らかにする必要がある.1 点は社会福祉士の連携の特性が明確に把握されていることであり,もう1 点は医療系学部主導のIPE のカリキュラムにおける社会福祉士の連携力涵養の可能性である. 本研究では,この2 点の課題を検証するために,文献調査とIPE 実践調査をおこなった.結果は社会福祉士が学ぶ「連携」という用語は,IPE において活用される「連携」よりも広い意味をもつが,IPE において社会福祉士を目指す学生たちは,その概念を体現できておらず,ソーシャルワーク・アセスメントも行っていないことがわかった.調査の限界はあるが,連携の特性を明らかにするよりも共通点を活用することがIPE との並行に必要であること,社会福祉士養成に携わる教員がIPE カリキュラム作成に積極的に関わることが,間接的に社会福祉士の連携力の向上に有用であることを見出した.
著者
田中 和彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.143-152, 2017-03-31

2013 年(平成25)年にアルコール健康障害対策基本法が成立し,わが国のアルコール依存症を含めたアルコール健康障害対策は新たなステージに入った.2016(平成28)年に閣議決定された「アルコール健康障害対策推進基本計画」では,「アルコール健康障害に対する予防及び相談から治療,回復支援にある切れ目のない支援体制の整備」が挙げられており,地域におけるアルコール依存症治療における連携体制の確立が急がれる.わが国では,アルコール依存症が医療化した1961(昭和36)年以降,自助グループの誕生と相まって,各地の実情に合わせたアルコール依存症治療のための連携が取り組まれていた.その代表的なものが,大阪方式,世田谷方式,三重モデルである.本稿では,この3 つのモデルのレビューと比較検証を行った.その結果,3 つのモデルは二次予防から三次予防に比重を置いた連携体制であることがわかり,アルコール依存症の「医療化」という目的に基づいた連携体制であることが分かった.一方でそれぞれのモデルが進化,発展を遂げており,一次予防を含めた取り組み,すそ野の広がるアルコール問題への対応などに取り組んでいることも明らかになった.今後の課題として,医療化してきたアルコール問題を,医療化の視点のみならず,地域課題としてとらえていく視点の重要性,アルコール問題の予防から,早期発見,介入,治療,回復支援と地域生活を支えるアルコール問題トータルサポートネットワークの必要性が示唆された.
著者
野村 豊子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.15-38, 2017-03-31

回想法は,1960 年代の始め,アメリカの精神科医Butler が,「現実からの逃避」等と否定的に見られがちだった高齢者の回想の価値観を変えたことに始まる.回想法とライフレヴューは,現在,内外において多様な展開を見せている.しかしながらその方法を巡る倫理に関しては,明確な提示には至っていない.本稿では,回想法とライフレヴューの歴史的展開を概観し,その臨床実践・研究に関わる倫理や背景としての価値観について考察を行う.回想法・ライフレヴューの効果と倫理上の課題,回想法・ライフレヴューにおける時・時間の意義と倫理,開始時の同意・契約に関する考慮点,語り手と聴き手の関係性とコミュニケーションにおけるパワー関係の特徴,死の回想を巡る課題という論点を筆者の臨床実践の振り返りも含めて検討した.回想法の適用の是非への議論,また,回想をしない自己決定という根柢の理解も必要であることが示された.
著者
中村 強士 Tsuyoshi Nakamura
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.17-27, 2015-09

子ども虐待や貧困問題がクローズアップされていることをふまえて,貧困と育児ストレス,育児ストレスと虐待,そして貧困と虐待との連関については研究が進められてきている.しかし,乳幼児期の貧困とこれらの連関については十分な検討がなされていない.本研究では,乳幼児期の貧困問題の構造を明らかにすることを目的にした名古屋市内の大規模質問紙調査の結果から,保育所保護者における貧困層の養育態度について分析する.その結果,第1に,貧困層は他階層に比べて保育所利用を消極的にとらえていること,第2に,所得が低くなれば「同じことの繰り返し」「解放されたい」「我慢している」という育児ストレスを抱えやすく,そのストレスの発散方法として「ついついあたった」「ついつい叩いた」「厳しく叱った」という養育態度になること,第3に,200名を超える保育所利用者が「世話に関心ない」と答えていることの諸点を確認できた.
著者
朴 兪美
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.138, pp.31-46, 2018-03

本研究では,地域福祉が制度・政策によって拡張されるなかで,地域福祉推進の中核機関に求められている機能・役割,組織の位置づけ等について探る.そのために,日本の社会福祉協議会と韓国の社会福祉館を取り上げ,両機関の相対化を通じた分析を行う. 日本の社会福祉協議会と韓国の社会福祉館は,両国において地域福祉推進を担う中核機関として制度・政策によって形成されてきた組織である.半官半民という独自の位置づけをもって展開されてきた両機関には,福祉サービスの「市場化」と「地域化」が同時に進むなかで,新たな機能・役割が求められている.組織の新たな存在意義が問われている今日の状況を「危機」と捉え,両機関の歴史的文脈と危機状況にかかる「重大局面」を相対化し分析する. その結果,両機関における半官半民という組織の位置づけについて,官と民をつなぐ媒体という積極的な解釈の必要性を示す.官と民をつなぐ媒体の機能・役割は,官と民の動的均衡をなすことであり,それを果たすには組織マネジメントだけではなく,地域マネジメントが求められる.
著者
青木 聖久
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.125, pp.21-39, 2011-09

精神障害者 (以下, 当事者) の暮らしにおいて, 所得保障, とりわけ障害年金は重要な社会資源である. だが, 差別と偏見が根強い我が国において, スティグマへの葛藤から, 障害年金受給に躊躇する当事者は少なくない. だが, これらのスティグマが解決しないまでも, 実際に障害年金を受給すると, 生活の拡がりや価値観の多様性を実感する当事者は多い. つまり, 障害年金の受給を通して, 当事者は, 視点の変更や発想の転換に結び付くのである.これらのことを, 当事者同士が集う 「セルフヘルプ・グループ」 や, 「地域活動支援センター」 等の場を通して, 知りうる環境にある者はよい. だが, そのような場を有していない者のなかには, 障害年金を受給する権利を有しているにも関わらず, 受給に至らない者がいるのである.以上のことをふまえ, 本稿では, 障害年金が暮らしの中でどのように位置付いているかを明らかにする. 障害年金の実際が可視化できれば, 多くの当事者にとって, 障害年金は随分利用しやすいものとなろう. とはいえ, たとえ障害年金の実際が明らかになろうとも, 社会が当事者に対して, 理解に欠けておれば, 当事者は, ありのままの自分に向き合って社会で暮らすことが困難だといえる. そこで, 本研究では, 「暮らしにおける障害年金の実際」 に加えて, 「障害年金を受給しやすい社会のあり方」 を明らかにすることについても目的にしたい. そして, これらのことを論証するために, まず, 実際に障害年金を受給している当事者より, インタビュー調査 (個別及びグループ) を実施する. そして, 得られた結果を分析すると共に, 考察をしたい. 一方, 「障害年金を受給しやすい社会」 とは, 「ノーマライズされた社会」 という結論が導かれることが予測できる. だが, 本稿では, 単に理想論を述べて終わり, ということにしたくない. 仮に, 具体的な課題を見つけることができたなら, 問題解決の提示を行いたいと考えている. そのようななか, 注目しているのが英国の精神保健政策である. 英国では, 1997 年のブレア政権以降, 精神疾患を三大疾患に位置付ける等, 我が国が見習うべき点が多い. このように, 英国の精神保健政策を通して, 社会の差別と偏見等に苛まれずに, 障害年金を受給しやすい社会のあり方についても考察をしたい.最後には, 「障害年金の語りから得られた暮らしの実際」 と 「障害年金を受給しやすい社会」 の両者を相関的に捉え, 結論として提言をするものである.
著者
北村 育子 永田 千鶴 Ikuko Kitamura Chizuru Nagata
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.1-16, 2015-09

認知症高齢者が地域で暮らし続けることを支援するための要件と課題とを,地域包括支援センターにおいて行われているチームアプローチの実際を踏まえて明らかにした.熊本県内の全てのセンター79か所の職員196名から回答を得,44項目7因子(1)認知症疾患医療センターとの連携,(2)認知症高齢者の支援に必要なネットワークの構築と家族・地域の啓発,(3)認知症高齢者の緩和ケアと終末期ケア,(4)認知症高齢者の権利擁護とそのための地域資源の開発,(5)認知症高齢者とその予備軍の所在・状況の把握,(6)介護サービス利用のためのアドボカシー,(7)介護家族支援,を抽出した.専門職間で実施に多少の違いはあるものの,概ね地域包括支援センターとしてチームアプローチによる実践が行われていたが,終末期ケアに関する支援,ボランティアの活動機会の創出,家族会の立ち上げや地域への広報,などは実施率が低かった.