著者
北村 育子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.1-13, 2018-03-31

介護保険のサービスが質の高いものでなければならないことは言うまでもないが,地域密着型サービスには,加えて,地域に根差した透明性の高いサービスであることが求められている.運営推進会議の開催は,これを実践するための重要な方法であり,その責任を担うのは主に事業所の管理者である.運営推進会議がその目的を果たすためには,コミュニティワークと運営管理の知識と技術が必要となる.メンバーの選任,適切な議事の選定,メンバー間のパワーバランス等に配慮した議事進行,などを通して運営推進会議を参加者にとって意味のあるものとすることができる.この過程で管理者には,優れたリーダーシップを発揮することが求められる.その結果,事業所内のサービスの質的向上と地域社会の福祉ニーズの充足という二つの目的が同時に達成され,事業所が地域の重要な福祉資源・地域社会の実質的な構成員として認識されるようになる.
著者
岡田 衣津子 吉村 輝彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.131-149, 2018-03-31

2016 年6 月に公表されたニッポン一億総活躍プランで,「地域のあらゆる住民が役割を持ち,支え合いながら,自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し,公的な福祉サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる「地域共生社会」を実現する必要がある」とし,厚生労働大臣を本部長とする「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が設置された.コミュニティの中で起こるさまざまな課題や問題を住民自らが自分事として捉え,役割を持ち,自分にできることをしていくこと,住民の主体性形成や主体的な活動への参加が必要である.そのためには,外部から足りないものを与えられる支援ではなく,自らの内にある真価に気づき高めていく個人のエンパワメントや,その一人ひとりの力を集結して形成されるコミュニティ・エンパワメントの概念が不可欠である. これらのエンパワメントを推進する第一歩は,対話や交流の場における当事者同士の相互の関わり合いや学び合いであり,当事者の学びや気づきが,コミュニティで他者とともに生きる自分自身の行動変容を可能にする. 現在,さまざまな内容の対話や交流の場がコミュニティの中で生まれている.その中でも,当事者同士の「学び」に着目した「ラーニングカフェ」の取り組みを事例に,参加者がともに集いテーマに沿った話し合いを行うことを通して,どんな気づきがあり,何を得ているのかを明らかにした.その結果,楽しいひとときを過ごす場ではなく,「ラーニングカフェはトレーニングの場」であると参加者は捉えており,対話することや他者と関わることが,相互に影響を与え合い,自己理解や他者理解を深め,得られた学びや気づきが日常生活における行動変容につながっていた.
著者
奥田 佑子 平野 隆之
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.101-116, 2017-09-30

本論文は,地域福祉権利擁護事業の再評価が生活困窮者自立支援事業や社会福祉協議会における総合相談体制の充実につながるのではないかという仮説から出発している.本論文の目的は,1)地域福祉権利擁護事業が本来持っていた地域福祉的要素の再確認,2)総合相談体制の形成のプロセスとその中での地域福祉権利擁護事業の役割の明確化,3)生活困窮者自立支援事業との関係から,今日的に地域福祉権利擁護事業が果たす機能の明確化の3 点である.方法として,文献研究,滋賀県内3 市社協を対象とした体制整備に関する事例研究,相談実績分析を行っている.研究の結果,幅広い相談を受け止め制度利用につなげる「前さばき」の機能を地域福祉権利擁護事業が持っており,それが総合相談や生活困窮者自立相談の基盤となっていることが明らかとなった.また,社会的孤立や権利侵害の状態に置かれた人への相談への対応が,地域や他機関・多職種との連携・ネットワークづくりにつながっていることが分かった.
著者
水谷 なおみ
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.125, pp.83-102, 2011-09-30

本研究は, 障害者自立支援法移行期における就労支援事業所がどのように機能を選択したのかについて比較軸を用いて探索的に類型化を試みた. 具体的には, 事業内容が異なる 2 つの就労継続支援 B 型事業所に注目し比較事例研究を行った. 研究課題を明らかにする手段としては, 質的研究を選択し, 調査方法は, 半構造化面接法および参与観察法を用いた.その結果, 事業所がどのような機能を併せ持つかによって, 利用者の獲得する能力に違いが見られた. また, 利用者の生活課題を解決する要因は, (1)ミッションの達成に向けた事業が整備されていること, (2)利用者と職員に共通の認識枠組み (組織文化) が存在すること, (3)それらを継続・発展させる条件が必要であることが示された.
著者
浅原 千里
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.136, pp.39-64, 2017-03-31

「地域共生社会」の実現に向け,福祉専門職には多様なニーズへの対応が求められており,短期的には社会福祉士,介護福祉士,保育士等の養成システムの見直し,長期的には福祉系国家資格と専門職のあり方についての検討が課題となっている.本稿は,「社会福祉士及び介護福祉士法」創設までの議論を分析し,国家資格において「ソーシャルワーク」と「ケアワーク」の専門性が分離される過程を明らかにすることを目的とした.「社会福祉士」「介護福祉士」の資格制度は,民間シルバー産業の政策的振興と在宅ケアシステムに必要な人材の「職務分担モデル」および「品質保証」として設計された.社会福祉関係者は,この制度をソーシャルワークとケアワークの「機能分離モデル」と認識したが,そもそも制度が「ソーシャルワーク」と称して社会福祉士に求めたのは相談・コーディネート・マネジメント業務であり,社会福祉学が考えるソーシャルワークの理念形とは異なるものである.「ソーシャルワーク」をめぐる認識の齟齬を曖昧にしたまま,ソーシャルワークは社会福祉士,ケアワークは介護福祉士の専門性であるとして養成教育を組み立ててきたことが,社会福祉士の役割の見えにくさや活用のされにくさにつながっていることを考察した.
著者
伊藤 文人
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.1-23, 2017-09-30

本稿は, ポプラリズム運動を牽引したレイバー・ガーディアンズ(Labour Guardians:労働党の影響力の強い保護委員会)による人道的救貧行政(the Humane Administration of the Poor Law)をこの間収集した新資料を基に検討することを通じて,彼らの実践思想の内実にアプローチするものである. 本稿では,改正救貧法(1834 年)に規定されたガーディアンズの役割を確認した上で,1920 年代にレイバー・ガーディアンズによって実施された救貧行政とソーシャルワークの実相に焦点を当てる.その際に彼らの政敵であった慈善組織協会(COS)のそれと比較しながらその特徴を考察する.また彼らの設定した救貧法上の救済基準(スケール)の運用実態にも触れつつ,彼らのストリート・レベルの政策思想についても検討する. 検討の結果,レイバー・ガーディアンズの救貧行政は,遵法精神(コンプライアンス)の徹底を通じたステイクスホルダーへのアカウンタビリティ(説明責任)の確立と,財政事情が厳しい中でもその政策思想を現実化しようとした救済基準の設定と柔軟な運用を行っていたことが明らかになった.
著者
山本 克彦
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.35-51, 2016-09-30

近年多発する自然災害は,大規模,広範囲,同時多発等,複雑なものとなり,過去の経験が活かされつつも,新たな課題が生じているという実態もある.また被災地・被災者を支援するボランティアの存在や役割は災害ごとに注目を集める一方,災害ボランティアセンターの運営や,現場のコーディネートが困難を極めている状況である.その原因の一つは社会福祉協議会を中心として協働型で運営される災害ボランティアセンターの運営者自身が"被災者"であることにある.本来業務に加え,災害対応によって地元の被害状況や個別のニーズを把握する機会が持てない現状では,ボランティアセンターの効率的な運営やマンパワーを活かす活動にはつながらない. ここではこうした課題を解決するしくみの1つとして,筆者が災害発生後の初動期に試行した「学生ボランティアによるアウトリーチ」の事例をあげ,今後の災害に活用できるモデルを提示する.また今後の災害に備え,学生による災害支援のあり方について考察し,災害時の初動に対応できる"学生連携ボランティアネットワーク"について提言する.
著者
末盛 慶
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.128, pp.35-50, 2013-03-31

本研究では, 性別役割分担がどのように変動していくのかを明らかにすることを問題意識としながら, 夫婦間交渉に関わる測定概念─クレイム行為─を設定した. クレイム行為とは, 夫婦・パートナー間で, 自分が要望することを相手に伝える行為のことである. 本研究では, 夫婦間のクレイム行為のうち, 妻が夫に家事や育児などをするように要求するクレイム行為に注目し, こうした行為がどのような要因によって促進されるのかを計量的に明らかにすることを目的とした. 分析対象は, 1 歳〜3 歳児がおり, 愛知県在住で, 父母が同居し, 雇用者であり, かつ育児休業を取得していない夫とその妻 421 組である. 分析の結果, 妻の学歴が高いほど, 妻の父親子育て優先意識が高いほど, 夫の性別役割意識が伝統的であるほど, 妻のクレイム行為が発生しやすいことが示された. 以上の結果から, 妻から夫へのクレイム行為は, 妻の学歴の高まり, ジェンダー意識の平等化, そして夫の役割分担度の低さによって促進されることが示唆された.
著者
朴 兪美 細井 洋海 寺本 愼兒 平野 隆之
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.140, pp.111-124, 2019-03-31

本研究では,制度福祉中心の行政システムの機能不全に対応する地域福祉推進の組織整備に注目し,それが機能するメカニズムとして職員のリーダーシップに着目する.制度福祉の制約を乗り越える,新システムの形成において,その実質的担い手となる自治体職員のリーダーシップは重要な要素となる.本研究では,芦屋市の中間マネジャーの取り組みを取り上げ,リーダーシップが発揮される局面と,その展開に潜んでいるリーダーシップ発揮の環境的条件について探る. 分析方法としては,主に振り返りの手法を用いるが,2 人の中間マネジャーの振り返りを2 人の研究者が促進する形をとる.振り返りを通じて,トータルサポート体制をはじめ,独自の地域福祉推進体制を構築してきた芦屋市地域福祉課の時間的展開を探る.その展開においてリーダーシップが発揮された4 局面を取り上げ分析する. 4 局面は,困難事例からの権利擁護支援の展開,困難事例の支援を通じたトータルサポート体制の実体化,モデル事業を活用した庁内横断的な体制の整備,庁内連携を越えた地域内連携への挑戦,である.分析の結果,リーダーシップによる新規体制づくりと新規体制の運用に求められるリーダーシップとが好循環することと,中間マネジャーのリーダーシップによる人材育成の環境整備が行われることを示す.
著者
安藤 健一
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.145, pp.41-53, 2021-09-30

本稿は,社会福祉分野とくにソーシャルワーク実践における面接技法である「生活場面面接」にまつわる人物について考察するものである.そのため,本稿では"Children Who Hate"の執筆者であるフリッツ・レドル(Fritz Redl)とデイヴィッド・ワインマン(David Wineman)のうち,ワインマンに焦点を当てている.レドルはさまざまな論文等でも扱われてきており,その名も知れ渡っているが,共著者でありソーシャルワークの研究者であるワインマンについては日本ではあまり知られていない.彼は勤務校であったウェイン州立大学では名を冠した奨学金が設定されるなど重要な人物として扱われているが,論文等で扱われることは多くはない.とくに日本においては,この人物に焦点をあてられることはなかった.そこで,ワインマンのその人物像と児童の権利に関する活動を明らかにすることが本稿のひとつの目的である.また,ワインマンの論文に記述されたレドルへの評価を考察するものである.
著者
山田 妙韶
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.143, pp.13-26, 2021-03-31

精神保健福祉士(以下,要旨で PSW)に「寄り添う支援」についてのインタビュー調査を行い,1 年目と 3 年目の比較(縦断研究)をすることで,経験年数による共通性や差異を見ることを目的とした.PSW の資格修得後,実務経験 1 年目と 3 年目の調査に協力いただける PSW 6 名にフォーカス・グループ・インタビューを行った.質的統合法で分析を行った.その結果,以下の点が分かった.① 1 年目で語られていた話題が3 年目では語られていない.②同じ表題名でありながらとらえ方が変わった.③ 1 年目で定義づけされた「PSW の寄り添う支援」が 3 年目では定義するに至らなかった.④1 年目の調査では語られなかった「伴走」について 3 年目にその実践が語られた.以下4 点を今後の課題とする.①「寄り添う支援」を PSW の業務の文脈で考察する.②熟練 PSW へのインタビュー調査を行い実務経験の年数の点から考察する.③「寄り添い/寄り添う」と「伴走」との異同について考察することである.④インタビュアーの向上.
著者
大谷 京子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.129, pp.1-13, 2013-09-30

ソーシャルワークにおけるアセスメント概念を, 先行研究を通して整理した. アセスメントは, ソーシャルワーカー主導でクライエントの問題を把握する情報収集と分析のプロセスとされていた. しかし徐々に, 問題に焦点を絞るのではなく, クライエントの置かれている状況を, クライエントと共に理解していくことを指すように変化してきている. また, アセスメントプロセスについてモデルを提示した. すなわち, ソーシャルワークプロセスの中に, 情報収集 → アセスメントという段階があるのではなく, ソーシャルワークの全プロセスを通じて, アセスメント/リアセスメントという循環がクライエントとの協働でなされているというものである.以上を踏まえて, 研修プログラム開発を目指したアセスメントプロセスの操作定義を, 「クライエントとワーカー, そして周囲の状況を, ワーカーとクライエント双方が理解するためになされる, 情報収集と分析のプロセスであり, ワーカーは専門的価値に基づき知識を導出し, クライエントは固有の経験知に基づき, 協働して目の前の現実を解釈し共有するプロセスである」 とした.ニーズ主導アセスメントプロセスを, 交換モデルで展開するための, ソーシャルワーカーのスキル向上を目指すプログラム開発のために, さらにアセスメントスキルを明らかにすることが今後の課題である.
著者
篠田 道子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.142, pp.99-112, 2020-03-31

フランスとイタリアの医療・介護制度は異なっているものの,終末期ケアについては国主導のインフラ整備により,量・質ともに大きく進んだ.本人の意思決定を支えるために,後見人や事前指示書を位置付け,多職種で支える体制を整えている.本論文では,フランスとイタリアの終末期ケアに関する基本法を概説し,事前指示書による意思決定支援の取り組みと課題を整理する. 特に事前指示書については,わが国でも取り組んでいるアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に引き付けながら光と影について論じる.また,両国ともネットワーク形成を推奨するなど,終末期ケアを点で支えるのではなく,制度や場所を越えて多職種・他機関で支える仕組みづくりに舵を切っている.このような取り組みは地域包括ケアシステムを構築するうえで参考になる.
著者
青木 聖久 Kiyohisa Aoki
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.47-73, 2015-09

精神障害を有する本人(以下,本人)が暮らしを営むにあたって,障害年金を継続して受給するのは大切なことだといえる.ところが,就労したことによって,障害等級の級落ち(以下,級落ち)や支給停止になれば,暮らしに大きな影響を受けることになる.これらの状況をふまえ,本稿では,実際,障害年金が級落ちや支給停止になっている,あるいは,その可能性が高い状況にある本人の実態及びその後の相談体制,さらには,本人や家族が,障害年金や就労をどのように捉えているかを明らかにした.その結果,障害年金が級落ちや支給停止になっている者は6.7%いることがわかった.一方で,殆どの本人や家族が障害年金の意義を認めていた.また,就労についても,多くの本人や家族がその意義を認めていたものの,再発を危惧したり,障害年金の支給停止を気にしていることがわかった.そのため,就労に対して,ためらっているような意見も多く見られた.本稿では,生活支援に携わる者(以下,生活支援者)が,これらの複雑な想いを理解したうえで,本人や家族への直接的支援と共に,障害年金が使いやすい社会資源として位置付くように,社会へ働きかける等の間接的支援の取り組みが重要であるということを示した.
著者
木村 隆夫
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.77-109, 2016-09-30

筆者は,本論集134 号で「非行克服支援プログラム試論1-子ども・若者支援編-」(以下試論1とする)を発表した.試論1は,わが子の非行・問題行動に対して,支援者と親・家族が協働し,あるいは,親・家族が対応できる非行克服支援プログラムを意図して執筆したものである. 一方,子どもが非行・問題行動を起こすと「世間」は,当事者である子どもだけではなく,その親や家族までをも攻撃の対象としてしまうことが多く,逃げ場のない親や家族はわが子の非行・問題行動に振り回されるとともに,「世間」の白眼視や攻撃にさらされるという,二重の苦しみを受けることが多いので,親・家族の支援も重要な課題である. 試論2は,苦しむ親たちに伴走者として支援する支援者が活用することを想定して,親たちが二重の苦しみから抜け出し,荒れるわが子と向き合うことができる力を取り戻すための支援技法等について考察したものである.
著者
平野 隆之 奥田 佑子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.134, pp.91-106, 2016-03

生活困窮者自立支援制度の「自由な運用」を推進する方法として,東近江市でのモデル事業の研究で明確となった「実施体制」と「体制整備」との相互関連性を,大津市と高島市のなかにも見出すという研究方法を用いて,かかる推進枠組みの有用性と運用面での活用方法を検討した.その結果,実施体制のなかでも入口の相談強化や出口のプログラム創出には,体制整備として,①庁内・庁外を問わず連携会議の場の創出に加え,その場のマネジメントが重要であること.また,通常の会議とは異なった場の設定も有用であり,②手引きの作成や地域福祉計画等の委員会が相当すること.国のマニュアルにある「資源の開発」は各自治体においてハードルが高いことから,民間組織が先行する取り組みを評価し制度運用に活用することが有効な方法であり,そのための体制整備としては,③資源の開発における公民協働の方式が有効である.実施体制とその体制整備の概念化は,運用上の指針として,また比較分析の枠組みとして有用である.