著者
堀江 薫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.93-107, 2005-07

本稿は、言語類型論の観点から、日本語と韓国語の文法化の対照を行う。具体的には「名詞の文法化」「アスペクトの文法化」「活用形の文法化」という三つのケーススタディを通じて、両言語の文法化に見られる共通性と相違点を明らかにすることを目的とする。両言語の文法構造の類似性を反映して、文法化に関しても表面的には多くの共通性が認められる反面、詳細に観察すると、両言語の間には、文法化パターンの生産性(拡張の度合い)や具体的な文法化の経路の詳細に関して興味深い相違点が観察された。今後は、適時的観点はもとより、談話に繰り返し現れる言語形式、構文が次第に固定化し、一定の文法的意味を表すようになる動的・共時的現象としての文法化の側面にも着目し、両言語の文法化の対照研究が生産的に行われることが期待される。
著者
中俣 尚己
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.31-45, 2009-01-01

本稿は現代日本語の「と」「や」「も」という3つの名詞句並列マーカーを体系的に分析することを目的とする。並列について従来いわれてきた「全部列挙」「一部列挙」という説明は語用論的な推意に関する性質であり,本質的な性質とはいえない。本稿では統語論,意味論,語用論それぞれのレベルにおいて並列表現の記述に必要な枠組みを提供する。統語論レベルでは「と」と「も」は名詞句がすべて他の要素と結びつく「+網羅性」という性質をもつ。一方,「や」は「-網羅性」という性質をもつ。意味論レベルでは各形式は集合を作り上げる動機が異なっている。「と」は共通の属性を必要としないが,「や」は聞き手が要素に共通の属性を発見する必要があり,「も」は文脈から要素の出現が予測できなければならない。語用論レベルでは「と」は「他に何もない」という推意を生み出すが,「や」と「も」はそのような推意を生み出さない。
著者
水谷 美保
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.32-46, 2005-10-01

<行く><来る><いる>の尊敬語形式について,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県に生育し居住する20歳以上の146人を対象にしたアンケート調査と,東京出身作家76人(76冊)の小説を用いた調査を行い,「イラッシャル」は,表すとされてきた<行く><来る><いる>それぞれの意味で用いられるのではなく,<来る><いる>としては使用され続けているが,<行く>には用いられなくなりつつあることを明らかにした。この変化の主な要因としては,「イラッシャル」は敬意によって動作主の移動の方向を中和するよりも,話し手が自身の関わる移動を,優先して表すようになったことにあるとした。そのために,「イラッシャル」が表す移動は,話し手(の視点)の位置が動作主の到達点となる<来る>になり,移動を表すことを同じくしながら,話し手の関わりが大きくない<行く>は,「イラッシャル」の意味領域から排除されることになった。
著者
矢島 正浩
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.16-31, 2010-10-01

上方・大阪語の接続詞的用法ソレナラ・ソレデハ・ソレヤッタラ・ソウシタラがどのような推移を経て今日の併存状況に至るのか、条件表現全体の歴史との比較、江戸・東京語の状況との比較を軸に検討した。その結果、次の二点が判明した。(1)近世中期にソレナラ一色だった段階を経て、ソレヤッタラ・ソウシタラが、条件表現の体系的推移であるタラの拡大と連動して発生・発達をすること。(2)ソレデハは、条件表現体系のありようとは無関係に、江戸・東京語の影響の下で使用され始めること。これらの接続詞的用法の推移には、上方・大阪語が地域語となるに及び、標準性・書きことばと連続する意識が稀薄化したことによって、上方・大阪語としての特性を発揮していく側面((1))と、中央語として勢力を強める江戸・東京語から影響を受ける側に回ったことを示す側面((2))とがうかがえる。その意味で、ソレナラ類の変遷は、上方・大阪語の近世以降の立場の変化を象徴的に表すものと言えるのである。
著者
川野 靖子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.47-61, 2009-10

「塗る」等の動詞は壁塗り代換と呼ばれる格体制の交替を起こすが,「付ける」「汚す」等は交替を起こさない。壁にペンキを{塗る/付ける/*汚す}壁をペンキで{塗る/*付ける/汚す}この現象に関して次のことを論じた。(1)「交替を起こすのは位置変化と状態変化を表す動詞」という従来の記述は,現象の言い換えであり説明にならない。交替を起こさない動詞が表す位置変化・状態変化との違いを明らかにする必要がある。(2)分析の結果,交替を起こす動詞が表す位置変化・状態変化は,それぞれ依存的転位・総体変化として特徴づけられるものであり,両者のシフトによって交替が起こることが分かった。「付ける」「汚す」等はこのようなタイプの位置変化・状態変化を表さないため交替が起こらないのである。(3)本稿のアプローチは,動詞の範疇的語義の階層性に着目したものである。これは,複数の交替の体系的記述を可能にする点でも有意義なアプローチである。
著者
横山 詔一 真田 治子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.31-45, 2010-04-01

山形県鶴岡市で進行中の共通語化について,将来の動向を予測する統計モデルとして言語の「生涯習得モデル」を作成し,その妥当性を論じた。このモデルは,「ある地域の言語変化の動態は,地域住民の脳内に生涯にわたって蓄積される言語記憶や言語運用能力の経年変化を反映している」という仮説のもと,「臨界期記憶+調査年効果→共通語化」という図式にしたがって共通語化を説明・予測する。鶴岡市において経年的に約20年間隔で過去3回実施された調査のデータをこのモデルで解析した結果,アクセント共通語化などにおいて予測値と観測値が精度よく一致することが示され,アクセント共通語化の進行速度が次第に加速していった状況などが統計学的に実証された。このモデルの提唱は,言語変化の経年調査データを新たな視座から検討する契機になるものと考えられる。
著者
勝又 隆
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.95-80, 2009-07-01

上代における「-ソ-連体形」文においては、「ソ」と述語との間に、格助詞「ヲ」を始めとして、格成分が主語を除いてあまり現れない。この現象について、本稿では以下のような考察を加えた。「ソ」は、述語と隣接または近接することで述部を構成し、述語を「焦点」に含むのが主たる用法である。そして、格成分は「ソ」がよく承接する要素である。それに加え、述語の項が「焦点」から外れる場合には「ソ」と述語との間には現れない。その結果、格成分の出現率が低くなっているものと推測できる。また、主語の出現率の高さは、主語そのものの出現頻度と重要度の問題であると考えられる。
著者
カイザー シュテファン
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.31-47, 2008-01-01

後世の評価がかんばしくないシーボルトの日本語記述書Epitome Linguae Japonicaeをとりあげ、先行史上の位置付けを試みる。シーボルトが自らリストしている参照文献との関連を検討すると、シーボルトの記述に影響を及ぼしたものとして確認できるのはツンベルグの旅行記の仏訳本のみであることが判明した。ただ、日本語のローマ字転写法ではケンペルの著作物の影響が見られることも両者の比較により判明する。シーボルトはケンペルの方法を踏襲しながらも改善・整理し、より体系的なシステムにした。ツンベルグの日本語記述と比較すると、シーボルトはツンベルグを引用しながらも誤りや誤植などを修正し、記述内容をデータにもとづき修正しているだけでなく、ツンベルグより体系的に日本語を記述している。くわえて、ツンベルグにはみられない、言語学的なとらえ方も見られ、「先人の研究より進んでいない」という後世の評価は不当であることを示した。
著者
小林 正行
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.1-16, 2006-10-01

本稿は、「強調」や「例示」の意を表すとされる助詞バシについて、狂言台本における使用実態を明らかにし、その用法の変遷を考察するものである。この調査で以下の事実を明らかにした。・上接語は、名詞を直接上接するものが大半を占める。そのうち、目的格相当は全期通じて用いられ、主格相当は近世中期以降の台本で新たに多用される。デ・ニテを上接するものも近世中期以降多用される。・共起する句末表現は、疑問表現が大勢を占める。禁止表現は謡など定型的な用例に限られ、新しいバシはほぼすべて「ゴザルカ/オリャルカ」という丁寧な疑問表現と共起する。これらの事実から、用法の変遷についての考察を行い、以下の結論を得た。・本来上接語を際立たせる「強調」の働きを持っていたバシは、その代表的な用例の性質から、「例えばこのようなもの」と上接語の同類の集合を想定させる「例示」の働きとして解釈され、さらに、新たに上接語の同類の集合を仮想的に表して、「品位」を持って疑問を表す用法が近世中期以降の台本に見られるようになる。
著者
栗田 岳
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.16-31, 2011-01-01

連体形終止、及び、連体形+ヨの終止には、述語にム・ラム・ケム(=ム系)を持ちつつ、推量・意志の文とは解しがたい例を見るが、それらは、以下の2類に区分される。・I類言語主体の推量・意志の作用とは関わりなく構成される未来事態を表すもの。・II類言語主体にとって、本来在るはずの姿とは齟齬する既実現の事態を表すもの。I類に表される未来事態とは、言語主体に思い描かれることによってのみ存在する事態である。一方、II類の言語主体は、本来在るはずの姿と齪齬する事態に惑い、改めてその存在を思い描くものと考えられる。以上より、これらI類・II類のム系は「事態が現実世界に存在することを思い描く」作用(=「設想」)を担う形式であると結論する。
著者
ナロック ハイコ
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.108-122, 2005-07-01

自立語または統語構造が付属語化,接尾辞化していくという形態的過程が文法化論の出発点となっているが,現在行われている文法化論はむしろ意味・機能面に集中している。そして,特に形態変化が豊富な日本語においては,形態変化のあり方,とりわけ形態変化の規則性は明確に記述されているとは言えない。本稿は,日本語の文法化における形態的側面に焦点を当て,動詞活用・派生体系の形態変化に基づいて四つの原則,つまり(1)(自立語の)接尾辞化,(2)形態的統合,(3)音韻的短縮,(4)活用語尾化が働いていると指摘する。こうした原則を特定するために音韻的にも厳密な形態論を使用する必要があると論じる。また,最後に,原則に反する形態変化の例を取り上げ,そこに「外適応」と「類推」のプロセスが働いていることを示す。
著者
宇都宮 啓吾
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.203-187, 2008-01-01

本稿では、訓点資料研究の一問題として、高麗続蔵経(義天版)の伝持者と真言宗における西墓点使用者とが重なる点や、高野山における喜多院点伝播が高野山中院明算周辺と関わる点、心覚を巡る教学等を具体例に、院政期における訓点資料とその加点者や伝持者を手懸かりとした教学的交流の実態とそこから得られる典籍の素性や加点・移点・伝持に関する分析の必要性を述べた。特に、白河・鳥羽院政期における真言宗の緊密な教学的交流の実態(その一つとしての仁和寺教学圏の問題)と諸宗に亘るヲコト点流布や訓点本の伝持の問題に注目している。また、右の如き訓点資料の分析に必要なデータベースの構築について、血脈類の検索までをも含めた統合的検索システムの視点から、稿者の試みを紹介した。
著者
井上 史雄
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.17-32, 2009-07-01

本稿の目的は三つある。一つは(第1節)、方言の地域差と年齢差を同時に知るための便利な技法としてのグロットグラムの理論的位置づけである。そのために、言語地理学における時間が「非実時間」であり、年齢差の示す「見かけの時間」、過去の調査や文献資料の示す「実時間」と性格が異なることを論じる。もう一つは(第2、3節)、方言現象が地理的に広がる速さについての資料提示である。山形県庄内地方のキンカからガンポへの変化について、過去の方言集二つと方言地図を対比し、かつグロットグラムの年齢差を照合して、伝播の年速を推定する。最後は(第4節)、日本語の方言・共通語の地理的伝播を説明できる雨傘モデルの増補である。従来の雨傘モデルは現代の共通語化と新方言の説明のために作ったものだが、さらに過去の京都からの伝播も考慮に入れて、拡充する。本稿はまた、「言語年齢学」という発想のための一道程でもある。
著者
邊 姫京
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.79-94, 2010-10-01

秋田,東京,大阪,兵庫,熊本の5地域を対象に,10歳代から80歳代の話者を含む音声資料(2006-2007年収録)を用い,無声化の生起要因及び無声化生起率の年齢的変化についての考察を行った。分析の結果から無声化生起率はどの地域も音環境の影響を強く受けていること,無声化生起率と音調との関係については兵庫,大阪でもアクセントよりも音環境の影響が大きいことが確認された。無声化生起率にはほぼ全国的に世代差があることをすでに報告したが(邊姫京2007),本稿では,世代間の断層が秋田では60代と50代の間,熊本と大阪では40代と30代の間にあり,兵庫も40代と30代の間に断層がある可能性があること,しかし東京では明確な年齢的違いはないことが確認できた。また,20年前の資料との比較から同一コーホート(同年出生集団)の無声化生起率は,ほぼ同じであることが明らかになった。
著者
尾崎 奈津
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.65-79, 2007-01-01
被引用文献数
1

本稿は否定命令文の機能と特異性,さらに命令文と否定の関わりについて記述したものである。従来,叙述の否定文は先に肯定的想定があってはじめて使用されることが知られているが,否定命令文も叙述の文と同様,肯定的な事態,すなわち命令文の対象となる行為が先にあって使用される。そしてその行為の成立する時間および意志性という二つの要因により,文の機能が,事態の実現を要求する《命令》から,〈不満の表明〉・〈当為的判断〉・対象となる行為に対する〈評価〉・〈願望〉に変化する。実例では後者の《命令》以外のもののうち,叙述文的な機能を担う〈不満の表明〉〈当為的判断〉〈評価〉の例が非常に多く出現する。しかもその中で〈評価〉は否定命令文に特有のものである。こうしたことから,否定命令文は肯定命令文に比べて叙述文に傾く傾向が強いといえる。
著者
山下 真里
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.33-48, 2013-10-01

「銭」の異体字「[セン]」について,字体の出現・衰退時期と盛衰要因を考察した。字体の出現・衰退時期を手書き文書によって調査した結果,「[セン]」は明治5, 6年頃から出現し,昭和20年代後半以降に衰退することが明らかになった。このような「[セン]」の盛衰は貨幣制度の変化及び物価の上昇に伴う「銭」の使用頻度の変化によって引き起こされたものである。「銭」は明治4年に貨幣単位に採用されると使用頻度が増加したが,物価の上昇によって次第に使用頻度は減少し,昭和28年に金銭単位「銭」が廃止されると頻度の減少は決定的なものとなった。このような「銭」の頻度から見た盛衰時期と,文書調査結果における「[セン]」字の盛衰時期はほぼ一致することから,「[セン]」字の盛衰要因の一つに貨幣制度の変化及び物価の上昇があると考えられる。
著者
渋谷 勝己
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.32-46, 2005-07-01

本稿では、日本語の可能形式の文法化のありかたについて、他の言語の場合も参照しつつ、その特徴を総合的に整理することを目的とする。分析によって、以下の点を明らかにする。(a)可能形式の起源となった形式には、完遂形式と自発形式がある。いずれも他の言語と共通するが、自発形式の種類が多様である点に日本語の特徴がある(第3節)。(b)日本語可能表現の内部では、状況可能>能力可能>心情可能といった変化の方向が観察され、通言語的に指摘されている能力>状況といった方向とは異なっている(第4節)。(c)日本語の可能形式は、さらに、行為指示形式や生起可能性を表すモダリティ形式に変化する場合があるが、前者はおもに禁止表現に、後者はわずかな形式に観察されるだけである(第5節)。まとめれば、日本語の可能形式の文法化は、可能形式以外の表現領域から可能形式化し、可能表現内部でさらに意味変化を起こすことはよくあるが、ときに禁止表現化する以外には可能形式の段階にとどまったまま、次の新たな可能形式に道を譲るといったケースが多い。
著者
李 芝賢
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.32-46, 2010-10-01

[便]を対象に個別語の使用増加が複数の字音を持つ漢字の字音と意味の関係に与える影響について考察する。現代日本語における[便]はビンが<通信手段>に,ベンが<都合>に集中した用例を持つ。<都合>はビン/ベンに共通するが,ベンに傾いている。このような使用様相は明治期における「郵便」「便利」などの個別語の使用拡大により形成されたと思われる。<たより>に連なる<通信手段>は「郵便」のような「-ビン」構造の語が通信・運輸において使用されたことにより定着する。<都合>は「便利」「不便」「便」のような<都合>に近い語義を持つベンの例の使用拡大によりベンに傾く。
著者
犬飼 隆
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-14, 2008-01-01

木簡をはじめとする出土物に墨や線刻で文字を書いたものがあり、手続きをふめば言語資料になる。それらは、古代の現物がそのまま利用できる点に価値がある。また、日々の文書行政の場で使い捨てを前提にして書かれたので、日常の言語使用が反映している点にも価値がある。出土物を言語資料として活用することによって、記紀万葉の類からとは異なる知見を得ることができ、今後、八世紀以前の日本語の全体像が塗り替えられるであろう。九世紀以降との連続・不連続も一層精密に解明されるであろう。より良質な資料を得て適切にとりあつかうためには、歴史学・考古学との学際を深める必要がある。また、朝鮮半島の出土物との比較が、研究の深化と精密化と発展をもたらす。
著者
田窪 行則
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.119-134, 2011-10

本稿は、沖縄県宮古島市西原地区の言語・文化を記述し、それを電子博物館として研究者および地区の住民たちが自由に見られる形で記録・展示し、この言語・文化の継承に資する試みを紹介する。宮古島西原地区は、池間島から明治7年に移住してきた住民が暮らしている。他地区から移住して自分たちの文化と言語を維持する努力をつづけてきたため、他地区より自己アイデンティティの確認作業を行わなければならず、母語と文化を維持してきた。この地区の住人たちは積極的に次世代に言語・文化を伝える努力を続けており、彼らの活動は他の地区の人々のモデルとなりえるものである。電子博物館というウェブ上の記録・展示装置がこのような地域住民の活動や、他の研究者との連携を助けるシステムとして機能し、琉球の言語と文化、ひいては消滅の危機にある言語・文化の記録と継承に貢献しうることを示す。