著者
清地 ゆき子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.46-61, 2010-04

本稿は,日中語彙交流の視点から日本で訳語として成立した恋愛用語が,1920年代に中国語に借用されたことを明らかにすることを目的として,日中異形同義語「三角関係」と"三角恋愛"の成立及び定着過程を考察したものである。結論は次の4点てある。(1)「三角関係」は,1910年代後半に森鴎外や島村民蔵により訳語として成立した可能性が高い。(2)"三角関係"は1920年代初め,日本語借用語彙として中国人留学生らの創作作品などを介して中国語にもたらされた。(3)中国語では"三角関係"ではなく,1920年代前半に日本でも一時期使用された"三角恋愛"が定着した。(4)中国語において"三角恋愛"が定着した背景には,1920年代前半に,《婦女雑誌》を中心として,恋愛が頻繁に議論された社会状況があった。
著者
村山 実和子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.16-30, 2012-10-01

近世の資料を中心に,「あつくろしい」「かたくろしい」「むさくろしい」などのように,形容詞を派生する「クロシイ」という接尾辞が見られる。まず,その意味・用法について観察すると,主にク活用形容詞に付き,不快感や非難など言語主体から対象へのマイナス評価を表すことが分かった。次に,その形式については,現代語では「あつくるしい」のように「〜クルシイ」という形が見られることから,従来は「〜クルシイ」が「〜クロシイ」へ形を変えたものとされてきた。しかし,中世の資料や現代方言に「〜クラウシイ」という形が見られること,「〜クロシイ」も「〜クルシイ」も連濁しないことなどを考え合わせると,「〜クロシイ」→「〜クルシイ」という変化であったと考えられる。「見苦しい」「息苦しい」のような,音形・意味ともによく似た「〜グルシイ」という形が存したために,このような語形変化が生じたものと考えられる。
著者
柳田 征司
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.186-174, 2008-01-01

抄物研究の現在は、戦前に研究をはじめた第一世代の研究者が世を去り、戦後から六〇年代までに抄物論文を発表しはじめた第二世代が研究成果をまとめ、他方七〇年以後抄物論文を発表しはじめた第三世代が研究を推し進めている、そういう時期として捉えられる。抄物の発掘・整備について言えば、日本語史上の通説を覆すような資料を含む厖大な量の資料が伝存しており、これを推進しなくてはならない。抄物による言語の研究は、価値の高い資料によって日本語の歴史の根幹に関わる問題を解明し、更にはその全体を説明することを目指さなくてはならない。抄物はそのための思索をするにふさわしい沃野である。しかし、他方で資料や用例の報告なども軽視してはならない。
著者
新屋 映子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.33-46, 2006-10-01

「彼はかなり熱心だった。」という形容詞文に似た表現として「彼はかなりの熱心さだった。」という名詞文がある。本稿は後者のように形容詞の語幹に接尾辞「さ」が後接した派生名詞を述語とする文の性質を、形容詞文と比較しつつ考察した。「〜さ」は抽象的な程度概念であるため単独では述定機能を持たず、性状規定文の述語であるためには連体部を必須とする。述語としての「〜さ」には性状の程度を中立的に述定するものと、評価的に述定するものがある。評価的に述定する機能は「〜さ」と形容詞が共通に持つ機能であるが、「〜さ」による述定には何らかの文脈的な前提が必要であり、形容詞文の評価性が形容詞によって表わされる性状の「存在」自体に向けられているのに対し、「〜さ」を述語とする文の評価性は連体部に示される性状の「あり様」に向けられているという違いがある。連体部と「〜さ」との意味関係は多様で、連体部は「〜さ」を述語とする文に豊かな表現力を与えている。
著者
朱 京偉
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.50-67, 2015-04-01

現代日本語では,漢語の造語力が低下し,外来語の増加に及ばないなどとよく指摘される。しかし,これは,二字漢語に限って言えることであり,既成漢語の複合によって造られる三字漢語と四字漢語は,むしろいまでもその造語力が生かされているように思われる。三字漢語と四字漢語は日常的によく使われているものの,その中の一部しか辞典類に登録されないためもあって,二字漢語に比べ,研究者の間で注目されることが少ない。このような現状に鑑み,小論では,四字漢語の語構成パターンに焦点を当て,蘭学期・明治期・現代という3期の資料を通して,通時的にどのような変化が見られるかを探ってみた。
著者
琴 鍾愛
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-18, 2005-04-01

筆者は談話展開の方法の地域差は,話者が情報内容を効果的に伝えるために相手に送る談話標識に反映されていると考え,談話標識の出現傾向から談話展開の地域差について研究を進めてきた。本稿では,この立場から東京方言,大阪方言の高年層話者における説明的談話を量的に分析し,さらに,仙台方言と比較することで,三つの方言の違いを明らかにする。分析の結果,仙台方言は自分が発話権を持つことをアピールし,相手との情報共有を積極的に働きかけていく方言であることがわかった。一方,大阪方言はそうした相手に対する働きかけは消極的であり,話の進行を単純にマークしつつ,自分で納得することに主眼を置く方言であると考えられた。東京方言は総合的に見て,両者の中間に位置するが,仙台方言により近い面をもっていると判断することができた。
著者
作田 将三郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.1-16, 2007

本稿では,宮城県を例に,主として近世後期の庶民層が作成した庶民記録である飢饉資料,農事日記,年代記の計44種を対象に,資料の性格や方言的特徴などの資料論的考察を行なった。その結果,以下のことを明らかにした。(1)まず,資料の性格であるが,庶民記録として取り上げた3つの資料は,作成者の階層,作成時期,内容面といった資料的特徴から強い共通性を有しており,近世後期庶民層が記した同一の資料体として扱うことができる。(2)つぎに,音声の方言的特徴として,表記上の特徴,および現代方言との比較から,「イとエは語中・尾では統合しているが,語頭では統合していない」,「連母音のアイ・アエは融合している」などといった近世後期における宮城県方言の発音を推定した。すなわち,本稿で扱った庶民記録には,当時の方言的特徴が反映されており,近世後期の方言を知るための地方語文献として有効であることを指摘した。
著者
川瀬 卓
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.16-32, 2015-04-01

本稿はどのようにして「どうぞ」が聞き手に行為を勧めることを表す副詞となったのか,なぜそのような変化が起きたのかについて,類義語の「どうか」との関係も含めて考察した。「どうぞ」は,近世から近代にかけて行為指示表現と関わる副詞に変化し,話し手利益の行為指示を表すようになる。近代以降新しく「どうか」が話し手利益の行為指示を表すようになったことで,「どうぞ」は聞き手利益の行為指示に偏っていく。ただし,あいさつや手紙など,限られた場面や文体においては,話し手利益の行為指示でも用いられる。以上の歴史的変化は,配慮表現において前置き表現が発達することや,行為指示表現の運用において受益者の区別が重要になることを背景として生じたものである。本稿の考察によって,配慮表現の歴史,行為指示表現の歴史を明らかにするうえで副詞に注目した考察も有効であることが示された。
著者
堀川 宗一郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.34-18, 2015-10-01 (Released:2017-07-28)

これまで、芸術的要素を含む写本資料においては、多くの表記研究が為されてきた。その一方で、消息・文書といった実用的な資料を対象とした表記研究は、あまり蓄積されてこなかったように思われる。そこで、鎌倉遺文所収の仮名文書を採り上げ、「とん」の表記に着目し、実用的な書記実態の一端を明らかにする。鎌倉遺文における「ん」は、撥音・促音の表記の他、モの異体字としても使用される。「ん」がモの異体字として使用されるのは、「とん」という文字連続に限定され、必ず連綿で表記されることで、「ん」がモの異体字だと判読できる。また、連綿で表記された「とん」という文字連続は、必ずしも語や文節など意味とは対応しない。これを「固定的連綿」と呼ぶ。「固定的連綿」は「とん」以外の文字連続にも認められ、書記者の居住地域や性別・身分に左右されない、鎌倉時代における書記法の一つと捉えられる。
著者
櫛引 祐希子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.31-46, 2009-04-01 (Released:2017-07-28)

エズイは中世の中央語として<対象を厭わしく感じる程度の恐怖感>を表していたが、各地に伝播して意味変化を起こした。関東に伝播したエズイは意味変化を重ね、関東で新しく生まれた意味が東北に伝播して二次的な意味変化を起こした。一方、西日本の各地域に伝播したエズイは個々の地域で独自の意味変化を起こした。このように中央語のエズイは関東を挟んだ東西の地域に伝播した結果、東では関東と東北で段階的な意味変化を遂げ、西では各地域で個別的な意味変化を遂げた。エズイが起こした意味変化の東西差は、東日本では関東が東北に対して求心力を持っていたこと、西日本では中央を除くと関東のような求心力を持った地域がなく複数の地域が拮抗状態にあったことを示唆する。
著者
かりまた しげひさ
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.69-82, 2011-10-01

琉球方言にひろくみられる助辞=duをふくむ文は、=duに呼応して連体形と同音形式の述語が文末にあらわれることから、おおくの研究者が=duを古代日本語のゾとおなじ係助辞とよび、琉球方言に係り結びがあると主張してきた。琉球方言には=duとおなじ文法的な特徴をもつ=ga、=nu、=kuse:がある。内間(1985)は那覇方言の=gaを、仲宗根(1983)は今帰仁方言の=kuse:と=gaを、平澤(1985)は宮古方言の=nu、=gaを係助辞とみなした。本稿は那覇方言、今帰仁方言、宮古方言、八重山方言の=du、=ga、=kuse:、=nuをふくむ文の通達的なタイプと文末述語を検討し、当該助辞が特定の活用形と必ずしも呼応していないこと、当該助辞の機能が焦点化であることをのべる。
著者
新里 瑠美子 セラフィム レオン・A
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.83-98, 2011-10-01

本稿は、沖縄語と上代日本語との比較分析を通し構築した筆者らの係り結び仮説(日本祖語形再建、類型、成立、変遷など)の妥当性を琉球弧の方言群において検証することを目的とする。本稿で焦点を当てた|ga|の係り結び仮説では、その類型として、Type I(文中|ga|といわゆる未然形の呼応)、Type II(文中|ga|と通常連体形の呼応)、係助詞の終助詞用法を考え、各々、自問、他問、他問と特徴づけた。検証の結果、国頭久志(くにがみくし)方言でTypeIとTypeIIの類型と機能が仮説と合致、疑似終助詞用法がTypeIIの文法化と解釈できると述べた。徳之島井之川(とくのしまいのかわ)、国頭辺野喜(くにがみべのき)・漢那(かんな)、八重山鳩間(やえやまはとま)方言においては、終助詞用法の|ga|の清濁の異音に関し、見解を提示した。鳥島(とりしま)方言では、構文はType II、機能はType Iという用法について新たな音変化を提案し、反証とならないと論じた。宮古西里(みやこにしざと)方言の構文と機能のずれについても、仮説擁護を試みた。最後に、今帰仁(なきじん)方言の|kuse:|=コソの通説に異を唱え、その成立に|ga|が関わったとの仮説を述べた。
著者
Heinrich Patrick
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.112-118, 2011-10

日本語研究の一環ではない、独自の分野としての琉球言語学は、最近になって生まれたばかりだ。そのため、琉球社会言語学のスタートも遅れたことは否めない。これまでの研究対象は、主に言語危機度の測定、言語シフト、および琉球諸島の言語編制の変化に限られる。よって、未だに研究されていない重要な分野が多数あると言える。琉球諸語の維持と復興のためには、琉球社会言語学のさらなる展開が急務であり、そのためには記述言語学と言語維持運動が、より密接な協力体制を築いていくことが不可欠である。
著者
田窪 行則
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.119-134, 2011-10

本稿は、沖縄県宮古島市西原地区の言語・文化を記述し、それを電子博物館として研究者および地区の住民たちが自由に見られる形で記録・展示し、この言語・文化の継承に資する試みを紹介する。宮古島西原地区は、池間島から明治7年に移住してきた住民が暮らしている。他地区から移住して自分たちの文化と言語を維持する努力をつづけてきたため、他地区より自己アイデンティティの確認作業を行わなければならず、母語と文化を維持してきた。この地区の住人たちは積極的に次世代に言語・文化を伝える努力を続けており、彼らの活動は他の地区の人々のモデルとなりえるものである。電子博物館というウェブ上の記録・展示装置がこのような地域住民の活動や、他の研究者との連携を助けるシステムとして機能し、琉球の言語と文化、ひいては消滅の危機にある言語・文化の記録と継承に貢献しうることを示す。
著者
林 青樺
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.31-46, 2007-04-01

本論は,主体の意志性の有無及び事象のあり方と主体との関係に焦点を当て,無標の動詞文との比較を通して,実現可能文の意味機能を検討した。その結果,主体の意図的または期待する行為の実現を表わす構文として論じられてきた実現可能文は,「旅行中に思いがけず中田英寿選手に会えた」などのような,主体の意図の外での偶発的な行為の実現を表わす場合もあることを指摘した。そして,マイナス的な意味を表わす語句との共起が不可能であることと,成立の確率の高い事象を表わせないことから,実現可能文は< <事象が主体にとって好ましく,かつ得難い>というプラスの意味特徴を持ち,実現した行為をプラスの事象と捉えるか,ニュートラルな事象と捉えるかという点で無標の動詞文と対立することを明らかにした。また,実現可能文は,表わす事象の成立が不確かなため,「主体の行為がどうなったか」という事象の結果に焦点が当てられ,事象の《未成立》を表わせることが明らかとなった。
著者
井上 史雄
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.17-32, 2009-07-01

本稿の目的は三つある。一つは(第1節)、方言の地域差と年齢差を同時に知るための便利な技法としてのグロットグラムの理論的位置づけである。そのために、言語地理学における時間が「非実時間」であり、年齢差の示す「見かけの時間」、過去の調査や文献資料の示す「実時間」と性格が異なることを論じる。もう一つは(第2、3節)、方言現象が地理的に広がる速さについての資料提示である。山形県庄内地方のキンカからガンポへの変化について、過去の方言集二つと方言地図を対比し、かつグロットグラムの年齢差を照合して、伝播の年速を推定する。最後は(第4節)、日本語の方言・共通語の地理的伝播を説明できる雨傘モデルの増補である。従来の雨傘モデルは現代の共通語化と新方言の説明のために作ったものだが、さらに過去の京都からの伝播も考慮に入れて、拡充する。本稿はまた、「言語年齢学」という発想のための一道程でもある。
著者
彦坂 佳宣
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.110-124, 2010-10-01

『方言文法全国地図』第38図「寒いけれども〜」を逆接確定条件の代表とし、言語地理学的、文献方言学的解釈を試みた。新古の点は、日本の外輪に(1)バッテ(ン)類と(2)ドモ類、中輪に(3)ガ類、中央に(4)ケレド(モ)類の分布から、(4)(3)(2)の新古順とした。(1)は、分布様態と、古く仮定条件でその後の確定化の経緯から(2)に遅れて局地的な発生と考えた。接続法では、もと已然形承接の(1)(2)が終止形承接となったが、この類は「旧・已然形+バ」の主要仮定条件類の周辺分布域とほぼ一致し、この承接法が仮定用法化した時期に承接法を変えたと考えた。伝播面では、古い(1)(2)(3)は近畿中央から全国に、新しい(4)は上方で盛行し江戸に伝播した2極放射で、圧迫されたガは東西ごとの周辺分布となり、中国地方では理由ケーニと同音衝突もあって残存したと見た。近世方言文献からは、今日への途上、ないしほぼ現況に近い模様が出来ていたと推測した。
著者
田中 牧郎 山元 啓史
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.16-31, 2014-01-01

『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話6話に対して、形態素解析を施し、パラレルコーパスを作成して、『今昔物語集』から『宇治拾遺物語』、『宇治拾遺物語』から『今昔物語集』の双方向で語の対応付けを行った。相互に対応付けられたデータから、異なる語が対応する比率の高い語彙を抽出することで、硬い文体的価値を持つ語彙と、軟らかい文体的価値を持つ語彙とが特定された。抽出された双方の語彙について、同文説話全体(83話)の語の対応状況を分析したところ、同語が対応するか異語が対応するかの違いが、語の意味・用法によって決まる傾向があることや、その傾向が、文体的価値の硬軟の段階差に応じて層をなすように変わっていくことが解明できた。また、異語対応の場合に、他方の説話集で対応する語が特定の語に定まる場合があり、これは文体的な対立関係にある類義語と考えられた。
著者
渋谷 勝己
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.32-46, 2005-07-01

本稿では、日本語の可能形式の文法化のありかたについて、他の言語の場合も参照しつつ、その特徴を総合的に整理することを目的とする。分析によって、以下の点を明らかにする。(a)可能形式の起源となった形式には、完遂形式と自発形式がある。いずれも他の言語と共通するが、自発形式の種類が多様である点に日本語の特徴がある(第3節)。(b)日本語可能表現の内部では、状況可能>能力可能>心情可能といった変化の方向が観察され、通言語的に指摘されている能力>状況といった方向とは異なっている(第4節)。(c)日本語の可能形式は、さらに、行為指示形式や生起可能性を表すモダリティ形式に変化する場合があるが、前者はおもに禁止表現に、後者はわずかな形式に観察されるだけである(第5節)。まとめれば、日本語の可能形式の文法化は、可能形式以外の表現領域から可能形式化し、可能表現内部でさらに意味変化を起こすことはよくあるが、ときに禁止表現化する以外には可能形式の段階にとどまったまま、次の新たな可能形式に道を譲るといったケースが多い。