著者
ローレンス ウェイン
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.1-16, 2011-07-01

本稿では13,610の姓からなる苗字アクセントデータベースに基づいで、複合語構造の姓はアクセントの付与の仕方によって三つのタイプに分かれることを提案する。無標のタイプ(姓の三分の二以上)ではアクセント型が姓の後部成素の長さによって決定される。二つ目のタイプ(姓の約四分の一)では、特定の音環境に適用する規則が姓を有標のアクセントにする。残りの姓(六パーセント程度)は例外的に語形の一部としてその不規則的なアクセントを習得せざるを得ない。
著者
大堀 壽夫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.1-17, 2005-07-01

文法化の典型例を「自立性をもった語彙項目が付属語となって、文法機能をになうようになるケース」すなわち脱語彙化と規定し、その基準として、意味の抽象性、範列の成立、標示の義務性、形態素の拘束性、文法内での相互作用を挙げる。そして拡大したケースとして、元々自立形式でなくても、使用範囲が広がって機能の多様化が起きる多機能性の発達、および特定の語形に限定されない構文の発達を検討する。とりわけ後者においては、談話機能が重要な役割を果たす。文法化の道筋は多くの言語において共通性が見られる。その動機づけとして、具体的領域から抽象的領域への概念拡張としてのメタファー、および同一領域における焦点化のシフトとしてのメトニミーという二つのメカニズムを考察する。加えて、意味変化における一般的制約についてふれる。
著者
菊地 悟
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.108-122, 2006-04-01

歌人・石川啄木の「ローマ字日記」のローマ字表記自体の研究のため、市立函館図書館・函館市文学館所蔵の複写版を閲覧し、原本により忠実なテキストを作成した。「ローマ字日記」におけるローマ字表記の変遷は大別して4期に分けることができ、日本式からヘボン式に劇的に転換する第2期と第3期の間には「国音羅馬字法略解」というローマ字の表が挿入されている。この表は、ほぼ日本式の表であるが、拗音がアイウエオの5段にわたり、擬音の後の母音には『独立発音符号』として「¨」を付ける旨の注記がある、という二つの特徴がある。後者に関しては、実際の日記の表記でもわずか2例ではあるが、使用が認められた。国立国会図書館所蔵のローマ字関係文献を調査したところ、前者には南部義簿ら、後者には末松謙澄、丸山通一らの例を見出せ、啄木の表記が語学の素養ある碩学に通じる点のあることをうかがわせる成果が得られた。
著者
小川 晋史
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.99-111, 2011-10-01

琉球(諸)語には、一般に受け入れられていて規格の定まった表記法と言えるものは存在せず、方言によって、あるいは一つの方言の中でも様々な表記が提案されたり、個人によって書き方が違ったりしている。これは、現代において危機言語が生き残っていく上で不利な状況である。本稿では、琉球語がこのような状況になった歴史的背景を概観するとともに、表記の現状に関して具体的な問題点を複数とりあげる。その上で、それらの背後に存在するより大きな問題について考える。具体的には、方言の多様性に起因する問題と、言語研究者に起因する問題について考える。その後で、筆者が考えるこれからの琉球語に必要な表記法のかたちについて述べる。本稿全体を通じて、琉球語の表記を整えることは研究者にしかできないことであり、研究者が協力して取り組むべき課題であるということを論じる。
著者
平子 達也
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.18-35, 2015-01

金田一(1954[1975])は,石川県能登島諸方言のアクセントが京阪式アクセントから東京式アクセントへの変化の中間段階を反映しているとした。確かに,能登島別所方言における動詞活用形のアクセント交替現象などから,この方言の先史において金田一の想定する「語頭隆起」が起こったと考えられる。また,別所方言と近隣の向田方言との比較からは,向田方言において「語頭隆起」の後,隆起した語頭拍がアクセント核を担うようになる変化と,もとあったアクセント核の有無および位置を保持しつつ,語声調の対立を失うという変化が起こりつつあるものと考えられる。特に後者の変化は,現代東京方言と京都方言における複合語アクセントの対応関係とも符合するものである。「語頭隆起」の後の変化についても能登島諸方言のアクセントは東京式と京阪式とを結ぶ変化モデルとなるのである。
著者
堀川 宗一郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.34-18, 2015-10-01

これまで、芸術的要素を含む写本資料においては、多くの表記研究が為されてきた。その一方で、消息・文書といった実用的な資料を対象とした表記研究は、あまり蓄積されてこなかったように思われる。そこで、鎌倉遺文所収の仮名文書を採り上げ、「とん」の表記に着目し、実用的な書記実態の一端を明らかにする。鎌倉遺文における「ん」は、撥音・促音の表記の他、モの異体字としても使用される。「ん」がモの異体字として使用されるのは、「とん」という文字連続に限定され、必ず連綿で表記されることで、「ん」がモの異体字だと判読できる。また、連綿で表記された「とん」という文字連続は、必ずしも語や文節など意味とは対応しない。これを「固定的連綿」と呼ぶ。「固定的連綿」は「とん」以外の文字連続にも認められ、書記者の居住地域や性別・身分に左右されない、鎌倉時代における書記法の一つと捉えられる。
著者
高木 千恵
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.19-34, 2005-04-01

関西若年層は,カジュアルな場面における方言談話でも標準語形ジャナイ(カ)を使用している。1970年代生まれの男女70人分の談話資料を分析した結果,ジャナイ(カ)が方言形チャウ(カ)・ヤンカと用法を分担する形で受容されていることが明らかとなった。関西若年層が用いるジャナイは名詞・ナ形容詞述語の否定形であり,<否定><同意要求>の用法を担っている。旧形式であるチャウ(カ)は<推測>の,ヤンカは<認識要求>の形式として,棲み分けの形でジャナイ(カ)と併存している。ジャナイ(カ)の受容は標準語との接触によって起きた変化だが,これは方言が標準語に取って代わられる共通語化の一過程ではなく,方言体系の再編成という変化のメカニズムによって説明されるものである。
著者
高木 千恵
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.1-15, 2009-10

関西若年層が使用する文末形式クナイについて,自然傍受による用例収集と大学生対象のアンケート調査をもとに,韻律的・形態的・構文的特徴および文法的意味を中心に考察した。イ形容詞の否定疑問形式に由来するクナイは,疑問上昇調のイントネーションを伴い,主として動詞の基本形に後続することが多い。意味的には本来の<否定>としての機能を失っており,<同意要求>に特化したモダリティ形式である。関西におけるこのようなクナイの成立には,動詞述語の二重否定(疑問)形式であるンクナイ・ヘンクナイがすでに定着していたこと,および<同意要求>にコトナイという形式が使われていたことが関わっている。また,クナイを東京のことばと捉えている話者がおり,東京語化に対する抵抗感がクナイの浸透を阻む可能性もある。
著者
澤崎 文
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.75-61, 2012-01-01

万葉仮名はその一般的な定義の中に、字母である漢字の字義を捨象して機能する文字であることが合まれているが、『万葉集』において、訓仮名は字母の字義を利用して表記されることがある。本稿では、『万葉集』における訓仮名について、これまで指摘されてきたような字義を表現に利用するための字母選択だけではなく、そこに表記されることで読者に表現意図を意識させてしまうような字義の文字はなるべく使用を避け、万葉仮名の字義を意識させないための字母選択がなされたことを指摘する。また、平安時代の平仮名資料に見られる訓仮名出自の字母を『万葉集』と比較し、『万葉集』における字義を意識させない字母と同じ性質の字母が使用されていることを指摘して、平仮名の表音性に関係づける。
著者
三宅 俊浩
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.1-17, 2016 (Released:2017-03-03)
参考文献数
23

本稿は「読める」等「可能動詞」の成立過程について論じる。従来その成立については「レル」起源説,「得ル」起源説,下二(一)段自動詞「切ルル>切レル」等への類推説という三つの説が存在する。本調査により,中世末期の「読ムル」が動作主を取らず対象語に備わる一般的な可能属性を叙述するものであり,さらにこの様相は語彙的・意味的・統語的に近世前期の可能動詞と連続的であることが確認された。一方,「レル」「得ル」は「読ムル」および可能動詞の様相と著しく異なるものであった。さらに自動詞類推説について検証すると,属性叙述を行う有対下二(一)段自動詞と四段他動詞の関係は,可能動詞および「読ムル」と派生元の四段他動詞との対応と並行的であることがわかった。以上から可能動詞は属性叙述を行う下二(一)段自動詞への類推により成立したと結論付けた。
著者
橋本 行洋
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.92-107, 2006-10-01

本稿は、新語の成立および定着・普及の経緯を「食感」という語を通して観察するとともに、その要因について考察したものである。「食感」は近年広く用いられるようになった新語であるが、この語は教科書や公的文書にも使われ、筆者のいうところの《気づかない新語》の一つに数えることができる。この語はもと食品学・調理学研究者の間で、「味・香・触」を総合した〈広義の「食感」〉の意味で用いられたが、食品のテクスチャー研究が本格化した1960年代ころから、現在のような口内の触覚を示す〈狭義の「食感」〉の用法が多く見られるようになった。この〈狭義の「食感」〉発生の背景には、先行する同音の類義語「触感」の存在が関与しているものと考えられる。「食感」が《気づかない新語》となり急速に一般語化した要因としては、この語が漢字表記を本来の形とする漢字語であること、また「味」や「色」に対応する触覚を総合することばの欠を補うものであったことや、「食味」「食育」などの「食-」語彙の一つに位置づけられるといった、《語彙体系のささえ》の存在があげられるだろう。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.1-16, 2013-07-01

現代語では,動詞の連用形に相当する形式で命令を行う"連用形命令"が西日本を中心に見られる。この連用形命令は宝暦頃から見られはじめるものであるが,本稿では,この連用形命令の成立過程を考察した。近世前期には,すでに敬語助動詞「やる」の命令形「やれ」が「や」と形態変化を起こし,待遇価値も低くなっている。また,終助詞「や」も近世上方に存在していた。このことから連用形命令は近世上方において,敬語助動詞命令形「や」が終助詞と再分析され,「や」の前部要素が命令形相当の形式として独立し,成立したと考える。この連用形命令が成立したのは,待遇価値の下がった命令形命令を避けながらも,聞き手に対して強い拘束力のもと行為指示を行うという発話意図があったためである。また,各地で敬語由来の命令形相当の形式(第三の命令形)が成立しており,連用形命令の成立も"敬語から第三の命令形へ"という一般性のある変化として位置づけられる。
著者
中本 謙
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.1-14, 2011-10-01

琉球方言のハ行子音p音は,日本語の文献時代以前に遡る古い音であるとの見方がほぽ一般化されている。このp音についてΦ>pによって新たに生じた可能性があるということを現代琉球方言の資料を用いて明らかにする。基本的に五母音の三母音化という母音の体系的推移に伴って,摩擦音Φが北琉球方言ではp,p^?へと変化し,南琉球方言では,p,fへと変化して現在の姿が形成されたと考える。従来の研究に従い,五母音時代を起点にするのであれば,ハ行子音においても起点としてΦを設定しても問題はないと考える。そして,この体系的変化と連動してワ行子音においてもw>b,の変化が起こったとみる。また,ハ行転呼音化現象や語の移入時期という側面からもp音の新しさについて考察する。内的変化としてΦ>pが起こり得る傍証としてkw>Φ>pの変化傾向がみられる語も示した。
著者
日高 水穂
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.77-92, 2005-07

東北方言に広く用いられる文法形式のうち,移動の方向・着点を表す格助詞サ,目的語を表示する格助詞コト・トコ類,退去時制を表すテアッタ・タッタ形を取り上げ,その文法化の方向性と地理的分布の関係を考察した。これらの形式の文法化による変化の方向性を見ると,共通に,東北地方の日本海側の方言では,文法形式の機能を大幅に変質させる文法化が生じているのに対し,東北地方の太平洋側の方言では,本来の意味用法を維持する範囲での文法化が生じている。こうした文法化の方向性に見られる地域差を,言語地図による伝統方言の分布調査,若年層を対象とした多人数調査,方言による語りを文字化した昔話資料の用例調査などによって検証した。
著者
銭谷 真人
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.48-66, 2014-10-01

明治33年の小学校令施行規則において平仮名の字体が定められる以前から、既に文学作品などの出版物において、字体は収斂していく傾向にあった。本稿においてはそれが出版物全般に見られる現象であったのかを、明治期の代表的な大新聞の一つである『横浜毎日新聞』を調査することにより検証した。また使用できる字体が制約される活版印刷の導入が、仮名字体にどのような影響を及ぼしたかについても考察を加えた。使用される活字を基準に調査を行った結果、やはり字体は統一される傾向にあったことが判明した。ただし単純に時代が下るにつれて収斂していくのではなく、場合によっては字体数が増加することもあった。そしてそれには使用される活字が大きく関わっていることが考えられた。また字体の選択には仮名文字遣いも関係しており、使い分けのある、あるいはかつて使い分けのあった字体が最後まで用いられ続けたものと考えられた。
著者
作田 将三郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.1-16, 2007-04-01

本稿では,宮城県を例に,主として近世後期の庶民層が作成した庶民記録である飢饉資料,農事日記,年代記の計44種を対象に,資料の性格や方言的特徴などの資料論的考察を行なった。その結果,以下のことを明らかにした。(1)まず,資料の性格であるが,庶民記録として取り上げた3つの資料は,作成者の階層,作成時期,内容面といった資料的特徴から強い共通性を有しており,近世後期庶民層が記した同一の資料体として扱うことができる。(2)つぎに,音声の方言的特徴として,表記上の特徴,および現代方言との比較から,「イとエは語中・尾では統合しているが,語頭では統合していない」,「連母音のアイ・アエは融合している」などといった近世後期における宮城県方言の発音を推定した。すなわち,本稿で扱った庶民記録には,当時の方言的特徴が反映されており,近世後期の方言を知るための地方語文献として有効であることを指摘した。
著者
林 直樹
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.15-30, 2012-04-01

埼玉特殊アクセントとの連続性が指摘されている東京東北部アクセントの実態を明らかにするため,当該地域生育者87人分のリスト読み上げ式データを用いて分析を行った。当該地域アクセントの1)音調実態,2)年層差,3)地域差の3つの観点から分析を試みたところ,東京東北部全体は共通語化・東京中心部化しつつも,埼玉特殊アクセント的特徴である「型のゆれ」や「IV V類尾高型」が残存する傾向にあった。この残存傾向は,とくに高年層に顕著であった。以上の結果から,次の2点を明らかにした。1) 埼玉特殊アクセント的なあいまいアクセントから東京中心部的な明瞭アクセントへの変化は「同一語ゆれ]「形式ゆれ」の消失プロセスとして説明できると思われる。2) 地理的分布の非連続性は鉄道網の開設時期という都市化の観点から説明できる。
著者
竹村 明日香
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.16-32, 2013-04-01

キリシタン資料によると,中世末期のエ段音節ではエ・セ・ゼの3音節のみが硬口蓋化していたと考えられる。しかし中世期資料によっては他の工段音節でも硬口蓋化していたことを窺わせる例もあり,果たしてどの音節が硬口蓋化していたのかが問題となってきた。本稿ではこの問題を解決する一助とするため,近世〜現代九州方言のエ段音節を通時的・共時的に観察した。結果,エ段音節では,子音の調音点の差によって硬口蓋化が異なって現れていることが判明した。即ち,歯茎音の音節では子音の主要調音点を変える硬口蓋化が生じているのに対し,軟口蓋音や唇音の音節ではそのような例が認められない。このような硬口蓋化の分布は,通言語的な傾向と一致している上に,キリシタン資料のオ段拗長音表記とも平行的であることから,中世エ段音節の硬口蓋化の分布としても十分想定し得るものであると考えられる。
著者
川瀬 卓
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.16-32, 2015-04-01

本稿はどのようにして「どうぞ」が聞き手に行為を勧めることを表す副詞となったのか,なぜそのような変化が起きたのかについて,類義語の「どうか」との関係も含めて考察した。「どうぞ」は,近世から近代にかけて行為指示表現と関わる副詞に変化し,話し手利益の行為指示を表すようになる。近代以降新しく「どうか」が話し手利益の行為指示を表すようになったことで,「どうぞ」は聞き手利益の行為指示に偏っていく。ただし,あいさつや手紙など,限られた場面や文体においては,話し手利益の行為指示でも用いられる。以上の歴史的変化は,配慮表現において前置き表現が発達することや,行為指示表現の運用において受益者の区別が重要になることを背景として生じたものである。本稿の考察によって,配慮表現の歴史,行為指示表現の歴史を明らかにするうえで副詞に注目した考察も有効であることが示された。
著者
清地 ゆき子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.46-61, 2010-04

本稿は,日中語彙交流の視点から日本で訳語として成立した恋愛用語が,1920年代に中国語に借用されたことを明らかにすることを目的として,日中異形同義語「三角関係」と"三角恋愛"の成立及び定着過程を考察したものである。結論は次の4点てある。(1)「三角関係」は,1910年代後半に森鴎外や島村民蔵により訳語として成立した可能性が高い。(2)"三角関係"は1920年代初め,日本語借用語彙として中国人留学生らの創作作品などを介して中国語にもたらされた。(3)中国語では"三角関係"ではなく,1920年代前半に日本でも一時期使用された"三角恋愛"が定着した。(4)中国語において"三角恋愛"が定着した背景には,1920年代前半に,《婦女雑誌》を中心として,恋愛が頻繁に議論された社会状況があった。