著者
彦坂 佳宣
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.61-75, 2006-10

準体助詞には,本州ノ,九州ト,土佐・北陸・山陰ガ,新潟県ガン,山形県ナ等がある。地理学的には連体格から発達したノ・ガが新・古の関係,ト・ナは地域性が強くて更に古く,格助詞トとナリに由来すると推定した。文献からは,ノは中央語である近畿で近世初期には発達したとされ,恐らく江戸も同じ。一方,新潟・土佐・九州の近世方言文献によれば,他の形式もこれに遅れない時期に独自に発達したと考えた。その分布要因は,ノ・ガの尊卑表現と連体格/主格の構文分担機能とが関連し,ガは周辺地域で前者が,ノは中央地域で後者が優位の時期に発達し近隣へ伝播したと推測した。発展的用法であるノニ・ノデ・ノダ等の論理的表現は中央語が先かと思われ,地方語との差異も見られる。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.78-92, 2010-04-01

本稿では命令や依頼などの行為指示表現について,尊敬語命令形と受益表現命令形の用法の歴史的関連を調査した。中世末期では,「-ください」などの受益表現命令形は,受益表現の本来的な用法である上位者に対する話し手利益の表現("依頼")を中心として用いるが,近世以降用法を広げる。一方「-なさい」などの尊敬語命令形は,近世までは行為指示表現のすべての用法で用いることができるのに対し,近代以降受益表現命令形の中心的な用法である"依頼"から用いることができなくなる。この歴史的変遷の要因として,近世から近代にかけて,"話し手に対する恩恵があるときは受益表現で標示する"という語用論的制約ができたことを指摘し,話し手に対する利益がある用法から尊敬語命令形が衰退することを述べる。
著者
鳴海 伸一
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.60-45, 2012-01-01

漢語「随分」の受容と変容を例に、どのような過程を経て程度的意味・評価的意味が発生するのかを明らかにし、漢語副詞の意味変化のパターンを示した。「随分」」は、もともと程度的意味を持たなかったのだが、具体的な分量の意味を表す量副詞用法を介して抽象的な程度的意味を表すようになった。さらにその後、程度の高さを表すだけでなく、そのような程度性を有する事態に対する評価的意味を伴うようになった。この「量的意味」・「程度的意味」・「評価的意味」は、程度的意味とその周辺的な意味として、意味的に近接していると同時に、「量的意味」→「程度的意味」→「評価的意味」というように、通時的な変化の道筋でもあり、それは、程度副詞の成立とその程度的意味の変化のパターンと位置付けられることを示した。
著者
金 愛蘭
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.18-33, 2006-04-01

語彙調査の結果などによれば,20世紀の後半には,外来語の増加に伴って,少なからぬ外来語が基本語彙の中に進出したと推測される。そうした外来語の多くは,生活の近代化に伴って借用され,多用されるようになった具体名詞であるが,一方では,抽象的な意味を表す外来語の中にも,雑誌や新聞などで数多く用いられるようになり,基本語彙の仲間入り(基本語化)をしたとみてよいものがある。しかし,抽象的な外来語の基本語化は,生活の近代化といった言語外的な要因によってではなく,意味・用法の記述によつて明らかになる言語内的な要因によって説明しなければならない。本稿では,そのような記述の一環として,新聞文章における外来語「トラブル」の基本語化に注目し,1960年ごろから新聞に使われ始めた「トラブル」が,1980年ごろまでにはその意味・用法を3種6類にまで拡大させ,最終的には,新聞で報道される機会の多い《深刻・決定的な危機的事態に至る可能性を持って顕在化した不正常な事態》を「広く」「概略的に」表すことのできる,それまでの新聞語彙にはなかった「便利」な単語として成立したことを明らかにし,そうした基本語がそれまでの個別の類義語とは別に必要とされた背景に,20世紀後半における新聞文章の概略的な文体への変化があるとの見方を提示する。
著者
村井 宏栄
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.1-15, 2012-10-01

平安期成立の多くの部首分類体字書や音義書とは異なり、三巻本『色葉字類抄』の「作」注記は字体注記と見なしがたい例がまま見られる。本稿は三巻本の「作」注記の概要を述べ、「又作」と「亦作」の差異について以下3点を指摘した。まず第一に、各注記形式の重出例や交替例により、「又作」「亦作」は正-俗等の評価を含意しない異体・異表記注記であると考えられる。第二に、三巻本の「亦作」はほぼウ篇以降のみに出現し、これは二巻本でいう下巻部分に限定される。よって、「亦作」の分布には『色葉字類抄』の改編過程が関与すると考えられる。第三に、『大漢和辞典』との照合及び見出し字・注記字の構成要素の共通性から検討した結果、「亦作」の主たる機能は異字体(異形同字)を示すことにあるのに対し、「又作」のそれは異字体を包含した異表記を表示するものと言える。熟字の見出しに「又作」が施された場合、この傾向はより強く認められる。
著者
色川 大輔
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.82-67, 2014-10

本稿は本居宣長『詞の玉緒』六之巻の助動詞「らむ」についての説である「かなの意に通ふらん」の所説から、『古今和歌集』七番歌と八四番歌についての解説を取り上げ、その説の拠って来るところについて、従来あまり関連が調査されていない歌学書や古典文学注釈書の解説との関連を探った。結果、七番歌について従来『顕注密勘抄』を引いているとされるところについては契沖『古今余材抄』とそれに後続する荷田春満や賀茂真淵の『古今和歌集』注釈に触発されたもの、八四番歌を「しづ心なく花のちるかな。何とてしづ心なく花のちるらん」と解するのは、賀茂真淵の『百人一首』注釈の説を取ったものであると結論した。そして以上の考証を通じ、本居宣長が『詞の玉緒』において当時新進の学問であった国学の古典注釈の成果を己の語法学説に取り入れたありさまについて考えた。
著者
竹内 史郎
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.2-17, 2005-01

本稿は,中世室町期を下限とし,サニ構文の成立,その意味タイプの拡張および接続助詞サニ等について論じる。以下具体的に示す。1サニ構文は,上代語のサ語法や,キニ(形容詞準体句+ニ)やクニ(ク語法+ニ)といった接続形式等を考慮すれば,「名詞節+主節の背景を提示する助詞ニ」という方法で成立したと説明でき,接続部サニは別個の形態素の連続と考えられる。2 10世紀以前のサニ構文は,「内的徴証-有意志文」という意味タイプ(以下原タイプ)に集中する。当初のサニ構文は意味類型の対応によって原因理由文であることが特徴づけられていた。3ところが,11世紀以降時代を下るにつれて,10世紀以前の意味タイプにおける制約が緩んでくる。すなわち,原タイプの勢力が維持されつつも,「外的徴証-有意志文」などの種々の意味タイプへの拡張が例外的に生じた。また,形容詞語幹のみならず形容動詞語幹にサニが下接するようになった。4 15世紀には,原タイプと拮抗する形で「外的徴証-有意志文」という意味類型の対応を表すタイプが定着した。主にこのことを要件として,別個の形態素の連続であったサニは単一形態として再分析され,形態素間の境界が消失した結果,原因理由の接続助詞になったと認められる。ここにおいて,サニ構文は原因理由の意味をもつ接続形式による原因理由文となった。
著者
原田 幸一
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.16-31, 2015-07

本稿は,若年層による日常会話をデータとし,「トイウカ」の使用を分析した。分析の結果,「トイウカ」の用法は発言改正用法(<暫定提示><言い換え><譲歩補足>)と話題調整用法(<話題導入><話題維持>)に分類できること,種々の形式のうち縮約形「てか」が出現数と使用者数が最多であること,テ系では発言改正用法より話題調整用法のほうが「てか」の割合が高く,ツ系でも発言改正用法より話題調整用法のほうが「つか」の割合が高いことを明らかにした。分析結果にもとづき,縮約形「てか・つか」の使用に関して「単純化(simplification)」の傾向を指摘した。また,広義文法化の立場から「トイウカ」が文法化の一事例として位置付けられることを主張した。
著者
辻 加代子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-16, 2007-01-01

近世上方において勢力をもっていた待遇表現形式の一つである動詞テ形に指定辞が付加された形式(以下「テ指定」と呼ぶ)の形態変化に関して以下のことを報告する。天保7年刊京都板洒落本『興斗月』に「テ指定」の過去形として上方板洒落本資料としては特異なチャッタの形が多数出現している。このチャッタ形に注目してその音価,意味,および活用の諸側面から検討した結果,次のことが明らかになった。(1)天保年間の頃京都で「テ指定」過去形はテデアッタの縮約形テジャッタがさらに縮まったチャッタの形へと変化した可能性がある。(2)『興斗月』に現れるテチャッタ形は先行研究では同じ頃の他の洒落本に現れるテジャッタ形と同価とみなされてきたが,音声的には表記のとおり「テチャッタ」であり,「テ指定」表現の過去形にアスペクト形式が付加された形式である。
著者
間宮 厚司
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.149-135, 2011-10-01

筆者は、これまでに『おもろさうし』の言語を大和古語と比較することで、沖縄固有の語(オモロ・グスク・テダ等)の語源や特有の文法体系(係り結び・形容詞等)について考察してきた。本稿では、ヂャウ(門)の原義、ウリズン(陰暦三月頃の季節)の語源、人称名詞(我)アとワについて、助詞ハの表記と発音について考察した。その結果、ヂャウ(門)の原義を門に施されたヂャウ(錠)と推定し、ウリズンの語源は、「(大地が雨で)潤って(空気が)澄むこと」と、『おもろさうし』の実例から推定した。そして、『おもろさうし』の人称名詞(我)ア系とワ系を調査した結果、アガとワガの下に来る語には、明確な違いが認められた。また、助詞ハの中で、「…を」に当たる「は」表記の発音はワでなく、バであったと考えるのが穏当であるという結論に達した。
著者
下地 理則
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.33-50, 2009-07-01

本稿の目的は,南琉球宮古伊良部島方言(以下伊良部島方言)の形容詞を定義することである。これまで,伊良部島方言を含めた宮古方言全体の研究史において,形容詞という用語は複数の形式(munu「もの」を主要部とした複合,畳語,活用など)に対して広く用いられ,当該方言の共時的な品詞体系を重視して形容詞を定義した論考はほとんど存在しない。さらに,ある形式を「形容詞」と呼ぶことが一般言語学的に見て適切かどうかという通言語的・類型論的な視点からの考察がなかった。したがって本稿では,共時体系における他品詞(名詞と動詞)との張り合いの中で形容詞を定義し,さらに通言語的な観点から,形容詞と呼ぶにふさわしい形式を考察する。その結果,形容詞としてはむしろ二次的に考えられてきた畳語形式のみが形容詞と呼ぶにふさわしく,複合形式と活用形式は名詞と動詞の下位クラスとして考えられることを示す。
著者
小林 賢次
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.182-171, 2005-07-01

本稿は、条件表現の歴史に関するこれまでの研究成果を整理し、文法化の観点から捉え直してみることを目標にしたものである。その観点から、順接仮定条件の場合、「未然形+バ」から「己然形+バ」への交替現象にかかわる「ナラ(バ)」「タラ(バ)」の形式の発達について「モノナラバ」の形式などを参照してその位置づけを行い、順接確定条件の表現形式として、「間」や「程ニ」が発達する状況を確認した。逆接条件に関しては、特に近代語における逆接確定条件の表現形式「ケレドモ」の成立をめぐって、打消推量の助動詞「マジ」が「マジイ」「マイ」へと変遷する過程と関連づけて捉え、また、形式名詞「所」を軸とした「トコロデ」について、その表現機能の変遷を捉えて考察し、全体として、文法化の流れを探った。
著者
大田垣 仁
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.31-46, 2009-10-01

換喩は言語表現の指示対象や意味が字義通りのものから関連する別の事物にずれる現象である。大田垣(2009)では換喩の中でも特に名詞句の位置に生じる換喩を「指示的換喩」と名づけ、これを金水(1990)の議論をもとに名前の転用の有無によって名前転送型と役割転移型にわけた。役割転移が名前の転用をおこなわないフレーム内での認知操作であるのに対して、名前転送には臨時的なものと語彙化したものがあり、名詞の通時的意味変化に中心的にはたらく指示的換喩は名前転送型と考えられるが、その変化の条件が何であるかはまだよくわかっていなかった。本稿では、まず、名前転送が語彙化する動機づけとして「命名的要因・認知的要因・文化的要因」という3つの要因を提案した。さらに『日国オンライン』から語義に換喩による意味拡張をもつ名詞を抽出し、名詞の関数的な側面(名前と役割の区別、普通名詞と固有名詞の区別)に注目することで語彙化の類型を定式化した。
著者
金 銀珠
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.118-134, 2016-10-01 (Released:2017-04-03)
参考文献数
15

本稿は中古語の名詞節において主語を表示する「の」と「が」および無助詞の機能の違いを節内の主語,述語,被修飾語の総合的特徴と構造体系の相互関係に注目して明らかにした。中古語の名詞節における主語の表示は「構造の大きさ」と「指示」という二つの指標で条件づけられ,無助詞は節の内部の小さい構造の主語を表示する形態で,「の」は節の構造が拡張されている時の主語を表示する形態として機能している。「が」は「の」と無助詞の中間に位置する。各形態には特異な使用分布が観察されるが,これは本質的には構造の大きさに依拠して現れる相互補い合いの現象である。「が」は前接語を強く「指示」する機能を持ち,これにより主語の表示には「構造の大きさ」とは別の新たな指標が加わる。「が」は前接語に人を指す語を取ることが多かったことが機縁で節内述語が活動述語に偏るようになったと考えられる。
著者
森 勇太
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.1-16, 2013-07-01 (Released:2017-07-28)

現代語では,動詞の連用形に相当する形式で命令を行う"連用形命令"が西日本を中心に見られる。この連用形命令は宝暦頃から見られはじめるものであるが,本稿では,この連用形命令の成立過程を考察した。近世前期には,すでに敬語助動詞「やる」の命令形「やれ」が「や」と形態変化を起こし,待遇価値も低くなっている。また,終助詞「や」も近世上方に存在していた。このことから連用形命令は近世上方において,敬語助動詞命令形「や」が終助詞と再分析され,「や」の前部要素が命令形相当の形式として独立し,成立したと考える。この連用形命令が成立したのは,待遇価値の下がった命令形命令を避けながらも,聞き手に対して強い拘束力のもと行為指示を行うという発話意図があったためである。また,各地で敬語由来の命令形相当の形式(第三の命令形)が成立しており,連用形命令の成立も"敬語から第三の命令形へ"という一般性のある変化として位置づけられる。
著者
庵 功雄 張 志剛
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.86-100, 2015-04-01

本稿では,近代語として「明六雑誌コーパス」(「明六」),現代語として「自作の「読売新聞2000年データベース」」(「読売」)を取り上げ,コーパスベースで比較した。まず,「明六」にのみ用例があるものを「読売」(および拡張して「現代語」)と比較し,現代語にも用例があるものと,現代語には用例がないものに分けた。次に,「明六」と「読売」の中間に位置するものとして「太陽コーパス」を取り上げ,三者の間での移行関係を考察した。特に,「自他」について詳しく考察した。その結果,「明六」で他動詞であるものは,その後自他についてかなり安定しているのに対し,「明六」で自動詞であるものは,その後自他が変化する割合が相対的に高いことなどがわかった。
著者
永澤 済
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.17-32, 2007-10

現代より自他両用動詞の多い近代漢語動詞の自他体系が,現代までにどう変化したかをコーパスを用いて分析し,その要因を考察した。近代漢語が自動詞として存立するための条件<通常,他から人為的なはたらきかけを受けずとも成立し得る変化を表す>は,現代に至っても変わらないが,他動詞として存立するための条件〈非情物または非情物と有情物の両方が変化主体となり得る変化を表す>は,現代に至ると厳しくなり,非情物が変化主体であっても自律性の高い事象は他動詞で表せなくなった。結果,多くの自他両用動詞が自動詞専用化した。このような変化が起きたのは,漢語動詞が日本語への定着度を増すなかで,和語に倣い自他を分化させる方向へ力が働いたためと考えられ,それを可能にしたのが,他動詞化接辞として機能する「-させる」の存在だとみられる。一方,自動詞化接辞が日本語になかったことが,他動詞専用化した動詞の少なさの背景にあるとみられる。
著者
毛利 正守
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-15, 2014-01-01 (Released:2017-07-28)

現在,古事記などの文章は,「変体漢文」であると一般に把握されている。「変体漢文」という呼称は,橋本進吉によって提唱され,漢文を記すことを志向しながらもその用法を誤って「変則な書き方」になったもの,それを「変体漢文」と命名した。一方,橋本は,古事記などの文章については,漢字を用い慣れるに従って日本語をも漢字で書くようになり,その文章は「変体漢文」ではなく「和文」であると把握した。それ以降の研究史を辿ってみると,橋本の道理に適った「変体漢文」という捉え方が正確に継承されず,橋本の主要な発言を見過ごし,また誤解したまま今に至っているというのが現状である。が,その捉え方がすでに長く行われているのだからそれでよしとするのではなく,もう一度,理に適った論に立ち返り,考え直すべきであると筆者は考える。本稿は,研究史の実態を炙り出すところにその主眼をおき,あわせて研究史と関わらせつつ倭(やまと)文体についてとり挙げることにする。
著者
駒走 昭二
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.35-50, 2017-10-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
15

18世紀の薩隅方言が記されているゴンザ資料には、多数のカス型動詞の使用例が見られる。本稿では、それらの形態的特徴、表現価値を、派生元になったと考えられる動詞との関係性、対応するロシア語の意味、資料中における語形の齟齬等に着目することによって考察した。その結果、形態的には、ラ行の動詞に接続し「-ラカス」という形をとるものが最多であること、音節数が4音節のものが最多であることなどが明らかとなった。また、表現価値としては、基本的に他動性を有すること、他動詞よりも完全さや過度さを表示すること、また、動作主をより強く表出することなどが明らかとなった。
著者
ローレンス ウェイン
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.1-16, 2011-07-01 (Released:2017-07-28)

本稿では13,610の姓からなる苗字アクセントデータベースに基づいで、複合語構造の姓はアクセントの付与の仕方によって三つのタイプに分かれることを提案する。無標のタイプ(姓の三分の二以上)ではアクセント型が姓の後部成素の長さによって決定される。二つ目のタイプ(姓の約四分の一)では、特定の音環境に適用する規則が姓を有標のアクセントにする。残りの姓(六パーセント程度)は例外的に語形の一部としてその不規則的なアクセントを習得せざるを得ない。