著者
高橋 珠州彦
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-15, 2012-03-15 (Released:2021-02-19)
参考文献数
26

本研究は東京都武蔵野市吉祥寺地区を事例に,近郊地域における近代の市街化と地域内に居住する根生いの人々の転業過程との関係を検討した.考察にあたり,明治後期から高度経済成長期頃を対象時期とし,土地台帳による経年的な地籍復原と農家に由来する根生いの人々への聞き取り調査を行なった. また幕末期の農間渡世や,昭和初期までに鉄道駅や都市公園,学園,工場などが立地したことを当該地区における市街化の特徴と捉え,これらが根生いの人々の意思決定やその後の市街化の進展に影響を与えていたことに注目した.個別事例のK家は,宅地として農地を放出しつつ小規模工場を創業し第二次産業化を図っていた.また A家は,駅開設直後の駅前休憩所開業以来,積極的に業態を変化させつつ今日のテナントビル経営へと事業を展開していた.これら個のレベルから市街化を検討した結果,根生いの人々は市街化を受容するばかりではなく,起業家としての性格を持ち,市街化に対して積極的に関わっていた姿が明確になった.
著者
稲垣 稜
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.11-22, 2016 (Released:2019-05-31)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本研究では,近鉄大和西大寺駅周辺において実施したアンケート調査をもとに,郊外の鉄道駅周辺居住者の居住,通勤特性を明らかにした.一戸建て住宅には1970 年代以前に入居した高齢者が多く,分譲マンションには2000 年代に入居した30 〜40 歳代の者が多い.また,大部分が一戸建て住宅で占められている地域に比べ,本対象地域では,人口の郊外化以前からの居住者割合が高い.通勤先をみると,分譲マンション居住者は大阪市,賃貸・借家や一戸建て住宅居住者は郊外内での就業率が高い.一戸建て住宅居住者の中には自営業者が多く,本対象地域が市街化した1970 年代までに,当地域で商店などを開業した人々が含まれると考えられる.奈良県出身者は,県外出身者に比べ,ローカルな労働市場の存在ゆえに,比較的近隣での就業率が高い.本研究を通じて,大部分が一戸建て住宅で占められている地域とは異なる郊外の鉄道駅周辺の居住,通勤特性の一端を明らかにすることができた.
著者
箸本 健二 駒木 伸比古
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-19, 2009-03-15 (Released:2020-04-08)
参考文献数
22

本稿は,1都7県に立地する287 店舗のコンビニエンスストアを,POS データに基づく販売特性からタイプ分類した上で,平日と週末での販売特性の差異を把握し,その背景にある地理的要因を検討する.分析の結果,287 店舗のコンビニエンスストアは7つの店舗類型に区分できる.各店舗類型を規定する因子は,主として外出先因子(昼間人口),家庭内因子(夜間人口),他業態代替因子(競合状況)の3因子である.また7つの店舗類型は,国道16 号線の内側に卓越する5類型と,外側に卓越する2類型に大別され,国道16 号線を挟んで店舗類型が大きく変化している.次にPOS データを平日・週末に分け,各別に店舗類型を作成すると,含まれる店舗は変化するものの,店舗類型そのものは平日と週末とでほぼ共通している.平日と週末とで属する類型が異なる店舗は,来街者の数や質が平日と週末で大きく異なるオフィス街や学校・駅周辺に多く分布する.
著者
阿部 康久 GAO Ning
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
no.14, pp.138-153, 2019

本研究では,浙江省温州市に本社がある靴チェーンの意爾康社の加盟店店舗の山東省での地域的拡大メカニズムと加盟店管理について,①フランチャイズ方式による店舗網拡大の経緯,②加盟店に高いノルマを達成させる管理と支援の仕組み,③チェーン本部と加盟店の関係性やその変化,という点に着目して検討した.研究手法として,意爾康社本部や地域代理商の幹部4人と加盟店オーナー18人にインタビューを行い,オーナーになった経緯,商品調達の際の契約条件や取り決め,本部から受けている支援内容やその変化等について調査を行った.同社では以前から取引があった卸売・小売業者等とフランチャイズ契約を結び,同社製品のみを扱う専門店を開設していった.また,全国に展開している温州出身者の地域代理商に判断を委ねながら,加盟店に対して売掛金の支払い猶予,奨励金の支給や開店資金の支援等により経済的な支援を行っていった.加えて店舗運営のためのノウハウの提供も行っていた.中国では,起業家意識が高く企業や店舗等を経営する人々が多いが,同社が採用した手法は,このような人々を組織化する際には有効であり,フランチャイズ方式を導入して15年程度で,全国に4,000店もの店舗網を形成できた点は特徴的である.その一方で,本部と加盟店の関係をみると,以前は本部による加盟店への支援が充実していたが,近年では支援の縮小と管理の強化がみられ,販売額の増加が頭打ちになる中で利益配分の難しさが顕在化している.
著者
由井 義通 フンク カロリン 川田 力
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.46-56, 2007-03-15 (Released:2020-03-11)
参考文献数
12

Im Rahmen der Diskussion um eine bürgernahe Stadtentwicklung wird im Japanischen häufig das Wort machizukuri verwendet. Wörtlich bedeutet es, eine Stadt/ eine Stadtteil/ eine Nachbarschaft zu kreieren, herzustellen. Es umfasst sowohl städtebauliche Maßnahmen für eine hohe Wohnqualität und ein attraktives Stadtbild als auch soziale Bereiche wie Kommunikation und Kooperation innerhalb der Nachbarschaft sowie zwischen Bürgern und Verwaltung. In diesem Beitrag werden Beispiele aus den deutschen Städten Freiburg, Heidelberg und Berlin vorgestellt, wo Bürger bereits im Planungsstadium an Stadtentwicklungsprojekten beteiligt werden oder sich in Form eines Quartiersmanagements in der Verbesserung des Wohnumfeldes engagieren. An hand dieser Beispiele werden Probleme und Möglichkeiten aktiven Bürgerengagements in der Stadtentwicklung analysiert, um daraus Hinweise für die zukünftige Gestaltung der Stadtentwicklung in Japan zu gewinnen.
著者
杉浦 芳夫
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1, 2013 (Released:2020-09-09)
参考文献数
107

本稿では,黎明期の中心地研究の様相を,ドイツ都市地理学の形態論から機能論への転回の潮流の中で考察した.1)当時の都市地理学論争,2)『南ドイツの中心地』の書評,3)Bobek による中心地理論批判,4) 1938 年のアムステルダム地理学国際会議におけるChristaller の発表をめぐっての激論,5)1930 年代の非常に少数の中心地研究と『南ドイツの中心地』を引用する都市誌,に焦点を当てて考察を行なった結果,第二次世界大戦前から戦中にかけてのドイツ地理学界において都市の研究に関わる研究者が,中心地概念に対して一定の関心を示していたことがわかった.
著者
山元 貴継 内山 桂次 枝廣 優也
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.44-58, 2016

<p>2012 年にテレビアニメとして放映された作品「氷菓」をめぐっては,その舞台となった岐阜県高山市を訪れる観光客の動き「アニメ聖地巡礼」が確認されている.本研究は,それら「アニメ聖地巡礼」者だけでなく,同市市街地を訪れている観光客の層と,それらの観光客の動きの特色を分析したものである.2014 年6 月に高山市内の5 つの調査地点において質問紙調査を行い,計623 組,1,958 名以上分の観光客から回答を得られた.その結果,回答観光客全体では,名古屋大都市圏からは多くの観光客が日帰りで,関東地方および近畿地方からは多くの観光客が宿泊を伴って,高山市の市街地を訪れていたことが明らかになった.このうち48 組(全体の7.7%)が,アニメ作品「氷菓」を視聴した上で高山市を訪れていた.また,回答観光客全体は幅広い世代にまたがっていた一方で,「氷菓」を視聴した観光客は20 代が圧倒的に多くを占め,男性のみの団体観光客が目立った.さらに,回答観光客全体では,歴史的町並みの広がる「さんまち」地区と高山駅との間といった狭い行動範囲にとどまるのに対して,「氷菓」を視聴した観光客は「聖地」を求めて,広範囲かつ頻繁な動きをみせることが明らかになった.</p>