著者
稲垣 稜
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.17-37, 2014-01-01 (Released:2018-03-22)
参考文献数
38
被引用文献数
1 2

本研究では,奈良県生駒市の例を中心に,大阪大都市圏の郊外から中心都市への通勤者数の減少を属性別に検討し,その減少の要因を明らかにした.その結果は以下の通りである.郊外における現在の住宅取得層は,地方圏出身者が減少し,郊外第一世代の子どもに相当する世代の占める割合が高まっていた.この郊外第二世代は,雇用の郊外化の影響を受けて,新規就業の段階から郊外内部での通勤を指向する傾向にあった.またさらに若い世代では,少子化や非正規雇用化により,中心都市へ通勤する新規就業者は大幅に減少していた.それら以上に中心都市への通勤者数の減少に寄与したのが,人口規模が大きく中心都市への通勤に特化していた郊外第一世代の退職であった.一方,中心都市への通勤者を増加させる方向には,郊外での住宅取得後も中心都市で就業を継続する既婚女性の増加が作用していたが,減少を相殺する規模ではなかった.
著者
稲垣 稜
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.26, 2021 (Released:2023-09-19)

大都市圏における買い物行動に関するこれまでの研究では,郊外地域居住者に焦点が当てられてきたが,都心の人口回復がすすむ中,都心居住者の買い物行動に着目する必要性も高い.そこで本研究では,大阪市における都心居住者の買い物行動を詳細に検討する.調査対象地域は,大阪市中央区の「森ノ宮・玉造」地区である.同地区に居住する人々を対象にアンケート調査を実施し,その買い物行動を分析した.買い物行動は,年齢や性別によって異なっている.高齢者や男性は,高級服を「難波・心斎橋」で購入する傾向にあるが,若年層や女性においては,「梅田・大阪駅」を利用する傾向が強い.普段着の場合は,居住地付近である「森ノ宮・玉造」を利用することが多い.入居時期別にみると,2000年以前に入居した人々においては「難波・心斎橋」を利用する傾向が強く残っているのに対し,2000年代以降に入居した新住民の場合は「梅田・大阪駅」を強く指向している.
著者
稲垣 稜
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.151-166, 2019 (Released:2019-07-13)
参考文献数
48
被引用文献数
2

横断データにもとづいて大都市圏郊外の買い物行動を明らかにした研究は数多く存在するが,縦断データに焦点を当てた研究は少ない。本研究では,大阪大都市圏の郊外に居住する人々の買い物行動に関する長期的な縦断データを収集する。対象地域は大阪大都市圏の東部郊外に位置する奈良市の平城ニュータウンであり,アンケート調査にもとづいて分析を行った。バブル経済期までは,大阪大都市圏の上位中心地である難波・心斎橋,下位中心地である大和西大寺駅周辺で高級服を購入するスタイルが維持されていたが,バブル経済崩壊以降難波・心斎橋の利用割合が大幅に低下した。最寄品である普段着の購入においても,1980年時点では百貨店の利用が一定程度あった。しかし1980年代以降,平城ニュータウンに総合スーパーが立地したことにより,普段着を平城ニュータウン内で購入する割合が上昇した。本研究では,大都市圏における買い物環境の変化に伴い郊外居住者の買い物行動が絶えず変化してきたこと,さらには現住地への入居時期により買い物行動の変化の仕方が異なることを明らかにした。
著者
稲垣 稜
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.8, pp.575-598, 2003-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
44
被引用文献数
5 4

本研究では,高蔵寺ニュータウン出身者を例に,郊外第2世代の移動プロセス,および彼らの移動選択に影響を及ぼす諸条件を検討した.移動には男女差がみられ,未婚時には女性の離家未経験者の割合が高く,結婚時には女性の長距離移動がやや多い.高校卒業直後は,制度的な条件に移動が制約される面が強いが,その一方で,男女のライフコースの違いを前提とする親の言動など非制度的な条件も重要である.大学卒業後は,正規就職ができず,親と同居しながら非正規労働力として就業せざるを得ない女性が生み出されやすい.社会人になると,非制度的な条件が一層重要になる.こうした諸条件の一方で,離家の可能性を持つライフイベントを経験しない場合は,親との同居の意味を積極的に考えること自体が少なく,同居を当然視するという側面もある.結婚後は,同居・別居に対する親子間での異なる意識や,親の居住する郊外住宅地の物理的条件が,親子の同居.別居に及ぼす影響も大きい.郊外第2世代の移動選択に影響を及ぼす条件の多くは郊外の特性を反映したものであり,しかもその特性は,郊外第1世代の行動によって形成されたものであることが少なくない.
著者
小方 登 稲垣 稜
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.20-27, 2009-03-15 (Released:2020-04-08)
参考文献数
16

本稿では,現代日本の大都市圏周辺部における都市化の物理的実態を明らかにするために,多時点の衛星画像を利用する試みを紹介する.対象地域として大阪大都市圏の周辺に位置する京阪奈丘陵地域を取り上げ, 1978 年,1989 年,2000 年の3時点のLANDSAT 画像データを利用した.まず植生の変化を明らかにするために,正規化差分植生指標(NDVI)の分布を検討した.次に3時点の赤色バンド画像を青・緑・赤の3つのチャンネルに充てて合成カラー画像とし,京阪奈丘陵における段階的な都市化過程を物理的側面から可視化して示した.さらに人口増減データと比較しつつ,色で強調された各時点における宅地造成が,日本住宅公団(現都市再生機構)や民間業者・学校法人による開発行為であることを確認した.結論として,多時点衛星画像の利用が都市圏レベルでの包括的な土地利用/被覆変化を明らかにする有効なデータソースとなりうることを立証した.
著者
稲垣 稜
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.149-171, 2016 (Released:2018-01-31)
参考文献数
55
被引用文献数
1

本研究では,都心の人口回復がすすむ中,都心居住者の職住近接がすすんでいるか否かを検討した。対象地域は,大阪市の都心に位置する大阪市福島区である。はじめに,国勢調査をもとに,福島区居住者全体の従業地構成の変化を分析した。その結果,都心居住者の就業については,職住近接よりもむしろ職住分離がすすんでいることが明らかになった。続いて,都心居住者における職住分離の背景,要因を明らかにするため,アンケート調査を実施した。都心における職住分離傾向の背景,要因は,以下のように要約できる。第一に,自営業者の職住関係の変化である。もともと自営業者は,職住一体を特徴としてきたが,近年,都心においては,自営業者の職住分離もすすんだ。さらに,自営業者数自体も大幅に減少している。第二に,若年層や分譲マンション居住者の動向である。若年層や分譲マンション居住者は,大阪市外への通勤者割合が高い。こうした都心における職住分離傾向は,雇用の郊外化とも関連がある。雇用の郊外化は,都心居住者の郊外への通勤を促進する方向に作用した。特に,ホワイトカラーによる都心居住の増加と都心雇用の減少が,職住分離をすすめる背景となったと考えられる。
著者
稲垣 稜
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.11-22, 2016 (Released:2019-05-31)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本研究では,近鉄大和西大寺駅周辺において実施したアンケート調査をもとに,郊外の鉄道駅周辺居住者の居住,通勤特性を明らかにした.一戸建て住宅には1970 年代以前に入居した高齢者が多く,分譲マンションには2000 年代に入居した30 〜40 歳代の者が多い.また,大部分が一戸建て住宅で占められている地域に比べ,本対象地域では,人口の郊外化以前からの居住者割合が高い.通勤先をみると,分譲マンション居住者は大阪市,賃貸・借家や一戸建て住宅居住者は郊外内での就業率が高い.一戸建て住宅居住者の中には自営業者が多く,本対象地域が市街化した1970 年代までに,当地域で商店などを開業した人々が含まれると考えられる.奈良県出身者は,県外出身者に比べ,ローカルな労働市場の存在ゆえに,比較的近隣での就業率が高い.本研究を通じて,大部分が一戸建て住宅で占められている地域とは異なる郊外の鉄道駅周辺の居住,通勤特性の一端を明らかにすることができた.
著者
稲垣 稜
出版者
奈良大学地理学会
雑誌
奈良大地理 (ISSN:21853371)
巻号頁・発行日
no.25, pp.36-48, 2019
著者
稲垣 稜
出版者
奈良大学総合研究所
雑誌
総合研究所所報 (ISSN:09192999)
巻号頁・発行日
no.23, pp.33-41, 2015

本研究では,郊外都市の旧市街地における居住者特性の実態を明らかにした。対象地域は、大阪大都市圏の郊外に位置する奈良市である。本研究は、国勢調査とアンケート調査をもとにしている。国勢調査からは、奈良市が郊外地域としての典型的性格をもつことが明らかになった。アンケート調査は、大和西大寺駅周辺地区を対象に実施した。アンケートで明らかになった点は以下の通りである。1 )高齢者の割合が高い。2 )新規流入者が多い。3 )持家一戸建てが最も多く、以下、分譲マンション、賃貸の順となる。4 )大阪市への通勤率は、奈良市全体のそれと差はない。
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
稲垣 稜
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.23-43, 2002-06-30
被引用文献数
2

本研究では,国勢調査・就業構造基本調査,及び愛知県春日井市に位置する高蔵寺ニュータウンにて実施したアンケート調査を利用し,大都市圏郊外に居住する若年者の人口学的特質,就業形態の多様化,及び通勤行動を関連づけることにより,1990年代以降の大都市圏郊外の雇用成長の性格を検討した,1990年代以降に労働市場への新規参入期を迎えた若年者は,親世代による郊外への居住地移動を反映して主に郊外に居住しており,彼らが就業年齢に達した1990年代には,郊外に居住する大量の若年者が労働市場へ参入することになった.時しもその時期はバブル経済が崩壊し,コスト削減のために企業が非正規労働力の積極的活用を進めた時期であった.アンケート調査によると,親と同居する場合,及び同居する兄弟姉妹に在学者がいない場合に非正規労働者,無業者になることが多いことが示された.郊外出身者の増加にともなう親と同居する若年者の増加,ならびに出生率の低下にともなう兄弟姉妹数の減少といった1990年代以降にみられる動向は,若年の非正規労働力化を進展させる条件になっているものとみられる.若年の非正規労働者の多くは郊外の自宅近隣で販売職・サービス職に就いている.郊外では,販売職・サービス職がバブル経済期よりもバブル経済崩壊後に就業者増加数を拡大させたが,これは郊外に居住する若年者の非正規労働力化による部分が大きく,性別にみると,新規学卒市場において不利な立場にある女性が果たした役割は大きい.1990年代以降の郊外における販売職・サービス職の雇用増加とは,郊外における若年人口規模の拡大傾向と,バブル経済崩壊にともなう非正規労働力化の進展が相まって生じてきたものと判断できる.