- 著者
-
稲垣 稜
- 出版者
- 一般社団法人 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理 (ISSN:00187216)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, no.2, pp.149-171, 2016 (Released:2018-01-31)
- 参考文献数
- 55
- 被引用文献数
-
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本研究では,都心の人口回復がすすむ中,都心居住者の職住近接がすすんでいるか否かを検討した。対象地域は,大阪市の都心に位置する大阪市福島区である。はじめに,国勢調査をもとに,福島区居住者全体の従業地構成の変化を分析した。その結果,都心居住者の就業については,職住近接よりもむしろ職住分離がすすんでいることが明らかになった。続いて,都心居住者における職住分離の背景,要因を明らかにするため,アンケート調査を実施した。都心における職住分離傾向の背景,要因は,以下のように要約できる。第一に,自営業者の職住関係の変化である。もともと自営業者は,職住一体を特徴としてきたが,近年,都心においては,自営業者の職住分離もすすんだ。さらに,自営業者数自体も大幅に減少している。第二に,若年層や分譲マンション居住者の動向である。若年層や分譲マンション居住者は,大阪市外への通勤者割合が高い。こうした都心における職住分離傾向は,雇用の郊外化とも関連がある。雇用の郊外化は,都心居住者の郊外への通勤を促進する方向に作用した。特に,ホワイトカラーによる都心居住の増加と都心雇用の減少が,職住分離をすすめる背景となったと考えられる。