著者
江頭 満正
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-16, 2016-03-31

日本では年間150以上のロックフェスティバルが開催され、 数日の開催期間で多くの観客を集め、 地域活性化にも、 ビジネス面でも成功する傾向にある。 本研究では、 2つのタイプのロックフェスティバルの違いを、 経済波及効果の視点で分析した。 郊外型の事例として 「MONSTER baSH2015」、 都市型の事例として 「VIVA LA ROCK2015」 の経済波及効果を算出。 その結果から、 地域に与える影響を考察し、 郊外型がより高額であることを明らかにし、 観客の来場意図へも言及した。
著者
竹内 誠
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.51-70, 2015-03-31

音楽を専門とする大学は、クラシック音楽だけではなく、ポピュラー音楽や、音源などの音楽機材を使用する音楽制作など、様々な学生を受け入れるようになった。 その結果として今では、音楽の経験が少なく、楽典の知識も乏しい学生も、入学を許されることとなっている。 音楽理論の学習には、音程の理解と聴き取る能力が不可欠である。 しかし、音楽経験の少ない学生の多くは、音程の理解が不十分であり、音程を聴き取る能力も無い。 この問題に対処するために、音階のナンバリングを用いて、音感教育を行う教育手法を考案した。 英語圏の国々では、ナッシュビルナンバリングシステムという、音階のナンバリングによる音感訓練を行っているが、 階名の習慣と言語の問題から、これをそのまま日本で行うには問題がある。 今回考案した教育手法は、ナッシュビルナンバリングシステムを基本としているが、日本の音楽習慣に合わせた変更を行い、 私の経験による工夫を加えたものである。 ナンバリングによる音感訓練は、子供への音感教育には当然として、大人の音感訓練に特に効果的な教育システムである。 この論文により、多くの方の意見をいただき、さらなる工夫を重ねてゆきたいと考えている。
著者
江頭 満正
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.32, pp.1-25, 2020-03

現在音楽業界で収益を生み出すには音楽フェスティバルが非常に重要です。しかし、音楽フェスティバルを成功させる要因に関する研究は極めて少ない。この研究の目的は、音楽フェスティバルのマーケティング戦略を検討することだ。この調査は、日本で最も成功している音楽フェスティバルの1つ、京都大作戦で観客を対象に、アンケート調査を実施した。その結果、アーティストパフォーマンス、チケットは毎年完売し、優れたビジネスモデルの3点が明らかになった。この調査結果は、競争が激化する音楽フェスティバルにおいて、運営サイドが重要視すべき点を示唆することが出来た。Nowadays, music festivals are very important for generating revenue streams in the music industry. However, there have been very few studies performed about factors to make music festivals successful. The purpose of this study is to examine marketing strategies. This study focuses on one of the most successful festivals in Japan, "Mission Impossible Kyoto". A questionnaire was utilized to survey the festival audience, and the investigation revealed three critical factors that could influence the success of the festival.•Artist Performance •Ticket Sales •Business Best Practices These findings are important for diversity of music festivals and choice of the audience, which may be at risk due to intensifying competition.
著者
伊藤 紫織 Shiori ITO 尚美学園大学芸術情報学部 Shobi University
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.29, pp.1-16, 2018-10

万葉集にも登場する景勝地松川浦(福島県相馬市)を表す「松川十二景和歌色紙帖」(相馬市教育委員会、相馬市指定文化財)は一帯を治めた藩主相馬昌胤(1661 ~ 1728)によって元禄元年(1688)頃に作られた。松川十二景は、瀟湘八景の八景風に場所と季節や天候を組み合わせるのではなく、十二の場所を選んでいる。松川十二景は東山天皇の勅許を得て、公家が和歌を詠むことにより、新名所の権威を高めている。新名所を定め、権威づけることは、兄の急死により新しく藩主となった昌胤の正統性を示すものであった。新名所の権威を高める和歌に合わせて実景図というよりは名所絵風の狩野派の絵が描かれた。十二景は季節の順となる1 松川浦2 水茎山3 梅川4 沖賀島5 松沼浜6 川添森7 長洲磯8 紅葉岡9文字島10 離崎11 飛鳥湊12 鶴巣野が元来の順序とみられる。絵師は狩野常信ら江戸狩野の正統的な顔ぶれであり、絵も新名所、そして新名所を制定する藩主の正統性を補強する。Sōma Masatane (1661–1728), the feudal lord of Sōma Domain (now Fukishima Prefecture),commissioned the album Matsukawa jūni-kei waka-shikishi-chō (Tanka poems and pictures for the Twelve Views of Matsukawa; Sōma Board of Education) around 1688. Matsukawa is a famous place, which we can already find mention of in the Man'yōshū, a collection of poems from the 8th century. The Twelve Views of Matsukawa designates places only, unlike the Eight Views of Xiaoxiang or the Eight Views of Ōmi, which combine places with seasons or particular kinds of weather. The Emperor Higashiyama sanctioned the Twelve Views newly-chosen by Masatane, and twelve court nobles composed tanka to accompany them. In this way, the new Twelve Views of Matsukawa were officially accepted. Masatane, who inherited Sōma Domain due to his brother's sudden death, wanted to represent his legitimacy through this official acceptance. Moreover,the pictures of the Twelve Views were painted by genuine Edo Kano painters, including Kano Tsunenobu, to further legitimize Masatane's authority. These pictures were not painted as real landscape, but as idealized ones with overtones of classical literature. The order of the Twelve Views was originally determined by season, but it is different in the album.
著者
三輪 亜希子 田代 順
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.87-100, 2016-03-31

筆者の所属するダンスカンパニー〈プロジェクト大山〉は大学という教育機関から発足した。 卒業から様々なターニングポイントを経過し、 発足10年目を迎える現在も活動の幅を広げながら日本のダンスシーンにおける地位を確立し始めている。〈プロジェクト大山〉はコンテンポラリーダンスのカンパニーである。 コンテンポラリーダンスが日本に根付いてから30年あまりの時間が経過した。 同時代の感性を取り入れ, 斬新で新しい演出に富んだ芸術として瞬く間に90年代のダンスシーンを彩ったコンテンポラリーダンスであるが、現在は、手法や振付がある程度確立され、新しさが生まれにくいと認識されるような過渡期にもさしかかっているといえる。 また、 日本ではダンスが職業化していないという事情から、日本における多くのダンスカンパニーは契約や組織規定のない緩やかな結束で成立している傾向がある。こうしたことを背景に、この論文では、日本のダンスカンパニーの生成に関してメンバーの言葉を読み解くことで考察していく。今回を初考とし、さらなる考察の展開を図る計画である。
著者
竹内 誠 Makoto TAKEUCHI 尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.83-106, 2010-11-01

ソルフェージュとハーモニーの能力は、音楽を専門とするには不可欠であり、音楽大学の専門科目では根幹となる授業である。従って、ソルフェージュ教育とハーモニー教育の現状と問題点は、音楽大学の現状と問題点をそのまま映し出している。今回の研究ノートは、芸術情報研究第16号に鳴海史生教授が書かれた、"「固定ド・移動ド」をめぐって"への私の回答であり、現在すすめている新規ハーモニーテキスト内容の一部である。また、工学系大学の音楽への取り組みを紹介して、音楽大学の現在置かれている社会的立場を考察する。
著者
川浦 義広
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.41-62, 2016-03-31

ジェルジ・リゲティ (1923-2006) は、 20世紀後半を代表するハンガリーの作曲家である。 彼の音楽は 「音響の変化のプロセス」 を音楽の時間構造と結びつけたという点で非常に独創的であり、 1960年代には「ミクロポリフォニー」という語法を確立した。 その後一貫して音響空間や時間構造への試みを行うが、 1980年代以降になると和声的な書法や旋法を用いた書法など過去の時代の音楽にみられた書法に回帰する。 また、 同時にミニマリズムの影響からポリリズムやポリテンポなどの多層的かつ複雑なリズム書法を用いるようになる。 本論文では、 リゲティの作風の変遷を考察することによってリゲティの音楽的関心やそれに伴う作曲語法の変遷を明らかにし、晩年に書かれた作品である 「ヴァイオリン協奏曲」の分析を通して和声的な書法や過去の書法が彼の音楽においてどのような効果を持っているのかを考察する。 また、このような考察は、過去の音楽書法と現代作品の書法の関連性について検証することにもなるといえる。
著者
小椋 久雄
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.21-34, 2015-03-31

今日の映像作品に於いてカメラワークの無い作品はない、つまりカメラの動かない作品はないと言っていいだろう。 では何のために、どういう効果を狙ってカメラは動くのだろうか。 本論では、「移動撮影 (パンを含む)」について実際に公開された海外の映画のシーンもとに解説し、さらに筆者が監督した映画 「世にも奇妙な物語 映画の特別編・結婚シミュレーター」(東宝配給2000年公開)を題材に具体的に検証および解析をしていく。
著者
三輪 亜希子
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of informatics for arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.26, pp.71-84, 2017-03

20 世紀の舞踊はヨーロッパを中心に展開し、日本にはプロ制度がほとんど無いことからダンサーは海外へと渡っているといっても過言ではない。中でもピナ・バウシュやモーリス・ベジャールといった20 世紀の舞踊史に改革をもたらした「巨匠」の下で直接創造活動を共にした貴重な経験をもつダンサーがいる。本研究では、20 世紀の舞踊の偉大なコレオグラファーの下で、ダンサーとしての第1ステージを体験した日本人ダンサーを対象にした。彼らへのインタビューデータに質的研究による分析手法を当て、ダンサーの心理や感覚を考察する。
著者
小林 仁
出版者
尚美学園大学
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.63-73, 2016-03-31

1927年に初演された 「ショー・ボート」 は、 「それまでのミュージカルの概念、 常識を破った画期的なもので、 今日アメリカのミュージカル史に新しい時代の到来をもたらした歴史的な作品」と位置付けられている。 1 脚本・作詞のオスカー・ハマースタインII世と作曲のジェローム・カーンは、エドナ・ファーバーによる原作の小説に描かれた人種問題を始めとしたアメリカの現実的、社会的問題を、登場人物のキャラクターにおけるその独創的な脚色、および黒人音楽であるブルースをとり上げるなどした音楽の多様性をもって、それまで娯楽として位置づけられていたミュージカルとは違う、物語と音楽が文字通り融合した全く新しい演劇の形態としてまとめあげ、芸術性の確立と舞台表現の可能性を示した。 本稿は、作者であるオスカー・ハマースタインII世 (脚本・作詞) とジェローム・カーン (作曲) それぞれがこの作品において成し遂げた芸術的手法と、 この作品がミュージカル史において果たした役割を通して、その革新性を考察するものである。
著者
竹内 誠
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.18, pp.83-106, 2010-11

ソルフェージュとハーモニーの能力は、音楽を専門とするには不可欠であり、音楽大学の専門科目では根幹となる授業である。従って、ソルフェージュ教育とハーモニー教育の現状と問題点は、音楽大学の現状と問題点をそのまま映し出している。今回の研究ノートは、芸術情報研究第16号に鳴海史生教授が書かれた、"「固定ド・移動ド」をめぐって"への私の回答であり、現在すすめている新規ハーモニーテキスト内容の一部である。また、工学系大学の音楽への取り組みを紹介して、音楽大学の現在置かれている社会的立場を考察する。
著者
江頭 満正
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-16, 2019-03

ミュージックフェスティバルへの参加は、多くの社会の人々にとって重要かつますます一般的な経験となっているが、出席の結果として訪問者が得る利益の種類についてはほとんど知られてない。本研究は、日本の新潟県で開催されるフジロックフェスティバルに参加した人々の特徴と、反応を調べることによって前者の側面に焦点を当て、消費者マーケティングの考察への洞察を提供することを目的としている。音楽フェスティバルへの参加、消費行動、および満足度に影響を与える動機付けの調査を実施した。 調査結果に基づいて、参加者の芸術的、音楽的、社会的および心理的なニーズによりよく応えるために、フェスティバルのデザインを改善し、それによって体験のインパクトと深みを増すために、音楽フェスティバルマネジメントを提案した。
著者
華山 宣胤 定平 誠
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.13, pp.17-26, 2008-03

インターネットの高速化とコンピュータの処理能力の向上に伴い、ウェブサイトの動画コンテンツ配信のあり方が注目されている。Webラーニングにおいても、Webとインターネットをプラットホームとする動画コンテンツの有効活用を試行している。しかし、動画配信を中心とするカルチャー教育のWebラーニングについて調査すると、講座には興味を示す人が多いにもかかわらず、実際に利用している受講者は極めて少ないのが現状である。それは、制作者側が単に講座の種類と数を増やすことに腐心し、講座の有効なプロモーション活動を怠っているためである。そこで、本研究では、カルチャー教育を動画配信している「ネット塾」の各種の講座についてのイメージ調査を行い、そのデータ分析から、動画配信講座の有効なプロモーション方法を考究する。今回の研究は、この研究調査の予備調査の結果を中心に報告する。
著者
高城 詠輝
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.31-43, 2018-10

新藤兼人の監督作品を、その映像を中心に考察し、新藤の長年の創作活動を支えてきた、彼の映画演出の技術を明らかにする。新藤兼人は多作な脚本家であるが、映画監督としての作品には、自らや周りの人間の実体験を作品化するといった共通点がある。そして、その作劇術は、近代劇から着想を得た映画冒頭からのドラマの展開、シチュエーションの繰り返しと差異等が挙げられる。それは同一アングルの繰り返しとして表れ、最後の作品である『一枚のハガキ』にも見られる。また、『一枚のハガキ』で登場人物と共にもう一つの主役としてクローズアップされるのが家そのものである。そして『裸の島』にもつながる天秤棒で水を運ぶラストシーンでは、大地が強調される。それは新藤自身の幼少期の記憶から再現されているならば、私小説的な映画と考えられる。
著者
小林 仁
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.63-73, 2016-03-31

1927年に初演された 「ショー・ボート」 は、 「それまでのミュージカルの概念、 常識を破った画期的なもので、 今日アメリカのミュージカル史に新しい時代の到来をもたらした歴史的な作品」と位置付けられている。 1 脚本・作詞のオスカー・ハマースタインII世と作曲のジェローム・カーンは、エドナ・ファーバーによる原作の小説に描かれた人種問題を始めとしたアメリカの現実的、社会的問題を、登場人物のキャラクターにおけるその独創的な脚色、および黒人音楽であるブルースをとり上げるなどした音楽の多様性をもって、それまで娯楽として位置づけられていたミュージカルとは違う、物語と音楽が文字通り融合した全く新しい演劇の形態としてまとめあげ、芸術性の確立と舞台表現の可能性を示した。 本稿は、作者であるオスカー・ハマースタインII世 (脚本・作詞) とジェローム・カーン (作曲) それぞれがこの作品において成し遂げた芸術的手法と、 この作品がミュージカル史において果たした役割を通して、その革新性を考察するものである。
著者
大木 裕子
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.27-39, 2011-03-01

ウクレレはハワイで民族楽器として誕生した小型の弦楽器で、1920年代に第1次ブーム、1950年代に第2次ブームを迎えた。その後は大手企業が撤退する中で、家内工業的なメーカーが細々と生産を続けてきたが、ウクレレを使う著名アーティストの出現もあり近年になって人気が復活し、現在は第3次ブームの到来とも言われている。音量の弱い、柔らかい音色を特徴とするウクレレだが、京都の占う らべ部弦楽器製作所ではこれまでのウクレレの概念を覆す革新的な楽器を作り出そうとしている。ここでは、素材や技術、情報といった側面において京都という伝統ある「場」をうまく活用しながら、販売面では東京を拠点としたビジネスの展開を特徴としている。本稿では、この占部弦楽器製作所のウクレレ製作の事例からイノベーションの源泉について考察する。
著者
鳴海 史生
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.29-36, 2017-10-31

アメリカのチェンバリスト、ブレドリ・リーマンが2005 年に『アーリー・ミュージック』誌で発表した論文は、斯界に大きなセンセーションを巻き起こした。バッハがいかなるやり方で鍵盤楽器を調律していたのかは長らく不明であったが、われわれが頻繁に目にする《平均律クラヴィーア曲集》第1 巻の序文に記された渦巻模様こそ、その方法を示すものだ、というのである。加えてリーマンは、三種類の渦巻が5度の調整の度合いを具体的に表わすとし、「バッハ調律」の姿をきわめて鮮明に描き出した。こんにち、いわゆる古楽の世界では、それが定説となっている感がある。しかし、実際に「バッハ/ リーマン調律」で演奏してみると、多少なりとも違和感を覚えない人はいないであろう。本論は、それを再検討し、三種類の渦巻が示すであろう5度の調整の度合いを修正することによって、より快適な「バッハ調律」を提案するものである。
著者
河野 元昭
出版者
尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
no.12, pp.9-21, 2007-11

日本文人画誕生の秘密を解くためには、岡倉天心が『東洋の理想--特に日本美術について--』において指摘したような日本文化の本質的な性格を知らなければならない。その表層だけを眺めてはならない。これは日本文化について考察する際、つねに忘れてはならないことだが、日本文人画の場合には、とくに心に留めておく必要がある。それは中国絵画との関係がきわめて密接だからである。その基本的様式が中国絵画によって規定されているからである。そして日本文人画家の中国憧憬が誰よりも強かったからである。本論は『芥子園画伝』など中国画譜の学習と、荻生徂徠が重視した唐話学を改めて取り上げることによって、日本文人画誕生における中国憧憬の重要性を指摘したものである。
著者
鈴木 常恭
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.37-55, 2007-11-30

テレビジョン番組は、ほとんどが先行する演劇、大衆演芸、歌劇などの実演形式、そして映画の表現形式を敷衍したものである。しかし、クイズ番組は放送メディア(テレビ、ラジオ)が、独自に開発した数少ない番組形式である。この番組形式は、テレビが登場して以来いまも多くの視聴者を獲得している。そして、この番組形式は、いま世界中のテレビジョン放送が共有する主要なジャンルとして位置づけられている。この研究ノートでは、テレビ番組研究の一貫として、はじめにテレビ番組におけるジャンルの生成と確立に言及し、これを踏まえクイズ番組の構成要素、出題と知、演出そして受容のされかたを番組の変遷を踏まえ考察する。
著者
田村 和紀夫 Wakio TAMURA 尚美学園大学芸術情報学部
雑誌
尚美学園大学芸術情報研究 = Journal of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:18825370)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.53-63, 2014-03-31

モーツァルトのオペラ・ブッファ『フィガロの結婚』K.492 はオペラの歴史に画期的な一頁を開いた。バロックのオペラ・セリアは、登場人物の感情を表現することによって、劇を形成していた。しかし『フィガロの結婚』では、盲目的な「欲望」が劇を動かす。この全く新しい劇的原理を明らかにしたのが、ケルビーノのアリアである。この論文では、ボーマルシェの原作との比較を通じて、ダ・ポンテとモーツァルトの「改作」の意味を検証する。そしてそこから『フィガロの結婚』がもつ画期性を具体的に解明し、バロック・オペラからの決定的な訣別の軌跡を辿る。Mozart's opera buffa "The Marriage of Figaro" K.492 became a epoch-making work in the history of operas. The opera seria in the baroque era had formed a drama by expressing the various emotions of characters. However, in "The Marriage of Figaro", it is a blind "desire" thatdevelop the play. The aria of Cherbino revealed this completely new dramatic principle. This study, through the comparison with Beaumarchais's original play, intends to clarify the meaning of"adaptation" of Da Ponte and Mozart., and to verify the decisive progress of "The Marriage of Figaro" that made the farewell to baroque operas.