著者
澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.107-117, 2016-05-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
19

本研究では,関東地方における対流性降水の発現頻度とその経年変化の地域性を明らかにし,風系との関連を検討した.アメダスの毎時資料(1980~2009年7, 8月)に基づき対流性降水を抽出し,各年における対象領域全体の発現頻度に対する各地点の降水発現率を算出した.対流性降水発現率の経年変化型は,大きく三つに類型化され,I型は北部山岳地域,II型は北部山岳地域の山麓域,III型は南関東の平野域にまとまって分布する.I型とIII型の対流性降水発現率の経年変化には有意な負の相関関係が認められ,I型で対流性降水発現率が高い(低い)年は海風の内陸への進入が明瞭(不明瞭)である.また,III型地域で対流性降水強度の経年変化が明瞭でない一方,その他の要因を含む降水全般の降水強度は増大傾向にある.これらの結果は,降水発現頻度や強度に関する経年変化を,従前活発に議論された南関東より大きな空間スケールからとらえ直すことの必要性を示唆している.
著者
任 海
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.22-38, 2016-01-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
46

中国では,1990年代から上海市をはじめとする大都市で,都市更新の計画が制定されてきた.本研究では,上海市静安区を例として中国の大都市における都市更新が中心市街地内部で引き起こした土地利用の変化を調査し,その実態を詳細に地図化するとともに,小地域レベルで人口分布の変化と土地利用の関係を明らかにすることを試みた.その結果,静安区の都市更新では,スクラップ・アンド・ビルドによって,主に商品住宅と呼ばれる住宅が建設されたことが明らかになった.土地利用の類型化によると,静安区の小地域は6種の土地利用タイプで構成されており,区の北部は住宅地域であり,南部は業務地域と文化財地域である.小地域レベルで分析した結果,静安区においては一部の小地域の人口密度が都市更新前より高くなった.また,旧来の住宅が大規模に取り壊される一方,人口密度が保持されながら,大量の優れた建物が歴史文化財として保存された.
著者
富田 啓介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.53-67, 2016-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
14

自然保護地域の運営には,利用面の配慮が求められるが,都市近郊に位置する小面積の自然保護地域の利用実態は明らかではない.そこで,愛知県に存在する三つの湧水湿地保護区を事例に,利用者層・利用行動・利用体験の諸相を明らかにした.来訪者へのアンケートによると,来訪者の中心は,夫婦・親子・友人からなる2人または数人のグループで,その大半が近隣自治体に居住する50歳代以上の中高年者であった.主たる来訪理由は自然観察と散策で,滞在時間は短かった.こうした利用者の特性は,常時公開か否かといった公開方法や広報内容,公開時の運営手法によっても変わりうることが示唆された.利用者の満足度と満足内容を分析すると,保護対象についての知識や観察方法を適切にガイドすることが高い満足度に結びついていた.一方,湿原の植生遷移の進行や動植物の減少といった自然保護上の問題が満足度にも悪影響を及ぼしていた.
著者
最上 龍之介 橋本 雄一
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.571-590, 2015-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
46

本研究は東日本大震災以降の津波浸水想定の変更を踏まえて,積雪寒冷地の認可保育園における集団避難の取組みに関する現状と課題を検討した.対象地域には,積雪寒冷地である北海道道東地域において津波浸水想定域内の人口が最多となる釧路市を選出した.釧路市の認可保育園を対象とした聞取り調査から,移動面と運営面に関する次の課題が明らかになった.移動面の課題は,避難先まで長距離の移動を要する保育園がみられる点であり,冬季には積雪や路面凍結により歩行速度や避難効率が低下し,避難時間が増大することであった.運営面の課題は,東日本大震災以降,避難先に指定された高層建築物は暖房設備を十分に備えておらず,冬季には低温環境で乳幼児を長時間待機させなくてはならないことであった.さらに,郊外の保育園は市街地中心部の保育園と比較して,冬季の積雪や路面凍結,低温の影響を受けやすく,避難困難の問題は深刻度を増す可能性が指摘された.
著者
埴淵 知哉 中谷 友樹 竹上 未紗
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.6, pp.591-606, 2015-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
51
被引用文献数
1

健康を左右する一つの因子として,近隣環境への研究関心が高まっている.しかし,これまで日本を対象とした事例研究の蓄積は不十分であり,国際的にも全国的範囲を対象とした分析は限られていた.本研究では,人々が暮らす場所の近隣環境によって,健康に由来する生活の質(HRQOL)が異なるのかどうかを統計的に分析した.認知的および客観的に測定された近隣環境指標と,HRQOLの包括的尺度(SF-12)との関連性を,日本版総合的社会調査2010年版を用いたマルチレベル分析によって検討した.分析の結果,近隣環境を肯定的に評価・認知している人ほど,健康に由来する生活の質が高いという関係が明らかになった.他方で,客観的に測定された近隣環境指標はHRQOLとの独立した関連を示さず,場所と健康の間を取り結ぶ多様な作用経路が示唆された.