著者
福本 拓
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 = Geographical review of Japan (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.288-313, 2010-05-01
参考文献数
45
被引用文献数
11

本稿の目的は,東京および大阪における在日外国人のセグリゲーションを国勢調査小地域統計を用いて明らかにし,植民地期の移民とその子孫で構成される「オールドカマー」と,1980年代以降に急増した「ニューカマー」という,渡来時期の違いに着目して分析することにある.本稿ではグローバル指標とローカル指標とを併用することでセグリゲーションの変化を把握する.「ニューカマー」の割合が大きい東京では,セグリゲーションの変化に一貫した傾向は見出せない.一方「オールドカマー」の多い大阪では,「オールドカマー」の社会減を反映しセグリゲーションは低下傾向にあるといえる.東京と大阪を比較すると,特定の町丁字における外国人の増加が新規入国の「ニューカマー」の流入に起因するという点で共通している.外国人の増加は,「ニューカマー」でも入居が容易な民間賃貸マンションの存在とも関連していると推測できる.総じて,両都市におけるセグリゲーションの変動には,「オールドカマー」の存在という歴史的要因および新規入国の「ニューカマー」の流入が大きく寄与している.特に新規入国の「ニューカマー」の動向については,外国人の長期滞在を想定していない日本の出入国管理政策の影響が一定程度あるといえる.
著者
青山 雅史 小山 拓志 宇根 寛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.128-142, 2014
被引用文献数
1

<p>2011年東北地方太平洋沖地震で生じた利根川下流低地における液状化被害の分布を詳細に示した.本地域では河道変遷の経緯や旧河道・旧湖沼の埋立て年代が明らかなため,液状化被害発生地点と地形や土地履歴との関係を詳細に検討できる.江戸期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道や,破堤時の洗掘で形成された旧湖沼などが,明治後期以降に利根川の浚渫砂を用いて埋め立てられ,若齢の地盤が形成された地域において,高密度に液状化被害が生じた.また,戸建家屋や電柱,ブロック塀の沈下・傾動が多数生じたが,地下埋設物の顕著な浮き上がり被害は少なかった.1960年代までに埋立てが完了した旧河道・旧湖沼では,埋立て年代が新しいほど単位面積当たりの液状化被害発生数が多く,従来の知見とも合致した.液状化被害の発生には微地形分布のみならず,地形・地盤の発達過程や人為的改変の経緯などの土地履歴が影響を与えていたといえる.</p>
著者
金 延景
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.166-182, 2016
被引用文献数
2

<p>本研究は,東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容を,経営者のエスニック戦略の分析から明らかにした.大久保地区では,韓国人ニューカマーの増加に伴い韓国系ビジネスが集積し始め,その後一般市場へ進出していった.その背景には,韓流ブームによって開かれたホスト社会の機会構造の下,経営者が用いたエスニック戦略の役割があった.韓国系ビジネスでは,ホスト社会の需要を事前に把握した経営者が,豊富な人的資源を用いて韓国飲食店のほか,韓流グッズ店や韓国コスメ店など韓国文化の商品化を通じた娯楽性の高い新業種を展開する多角経営を行うと同時に,日本人顧客の確保に重点を置いた立地戦略をとっていた.その結果,大久保地区の韓国系ビジネスは,従来の同胞顧客に向けた財やサービスの提供機能に加え,広域なホスト社会の日本人顧客に向けてエスニック財やサービスを提供する娯楽機能を有するようになったといえる.</p>
著者
松岡 由佳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.498-513, 2015

<p>地域の精神科病院を核に,多様な主体が精神障がい者支援に関わる愛媛県南宇和郡愛南町を事例として,活動の地域社会への拡大と精神障がい者の受容過程を,主体間関係と「負のまなざし」の変容に着目して検討した.1962年の精神科病院開院後,病院職員と親交を深めていった地区住民は,社会復帰施設が開設された1970年代中頃から,地域の生業や伝統行事の闘牛を介して精神障がい者と関わり始めた.1980年代末には,専門職や企業経営者らの先導を背景として,ボランティア主体の精神障がい者支援組織が発足し,イベントの開催や就労支援の活動を精神障がい者と共に進めてきた.当初それぞれの主体が有していた精神障がい者への「負のまなざし」は,特定の精神障がい者と相互に顔の見える関係を築いていく中で,精神障がい者を受容する方向へと徐々に変容していった.しかしながら,近年は支援者間の意識のずれや,人口減少や高齢化に伴う活動の担い手不足も顕在化する.</p>
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.49-70, 2015

<p>本稿では,高度成長期の勝山産地において,「集団就職」が導入され終焉に至るまでの経緯を分析する.進学率の上昇や大都市との競合により,労働力不足に直面した勝山産地の機屋は,新規中卒女性の調達範囲を広域化させ,1960年代に入ると産炭地や縁辺地域から「集団就職者」を受け入れ始める.勝山産地の機屋は,自治体や職業安定所とも協力しながらさまざまな手段を講じ,「集団就職者」の確保に努めた.「集団就職者」の出身家族の家計は概して厳しく,それが移動のプッシュ要因であった.勝山産地の機屋が就職先として選択された背景としては,採用を通じて信頼関係が構築されていたことが重要である.数年すると出身地に帰還する人も多かったとはいえ,結婚を契機として勝山産地に定着した「集団就職者」もいたのである.高度成長期における勝山産地の新規学卒労働市場は,国,県,産地といった重層的な空間スケールにおける制度の下で,社会的に調整されていた.</p>
著者
齋藤 仁 内山 庄一郎 小花和 宏之 早川 裕弌
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.347-359, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

近年,小型の無人航空機とSfM多視点ステレオ写真測量により解像度1m以下の高精細な空中写真と地形データの取得が可能になり,地理学の分野においてもそれらの利用が急速に進んでいる.本研究の目的は,これらの技術を表層崩壊地の地形解析に応用し,詳細な表層崩壊地の空間分布と土砂生産量を明らかにすることである.対象地域は,2012年7月九州北部豪雨に伴い多数の表層崩壊が発生した阿蘇カルデラ壁の妻子ヶ鼻地域と,中央火口丘の仙酔峡地域である.結果,空間解像度0.04mのオルソ画像,および0.10mと0.16mのDigital Surface Modelsが得られた.妻子ヶ鼻地域と仙酔峡地域における土砂生産量は,それぞれ4.84×105m3/km2と1.22×105m3/km2であった.これらの値は過去に報告された同地域の表層崩壊事例の土砂生産量よりも10倍程度大きい値であり,阿蘇火山の草地斜面における1回の豪雨に伴う潜在的な土砂生産量を示すと考えられる.
著者
網島 聖
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.303-328, 2016-11-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
48

産業集積を維持・発展させる上で,ローカルで伝統的な制度・慣習がつねに有効に作用するとは限らない.本稿は明治から大正期に同業者間の紛争を経験した大阪の材木業同業者町を事例に,伝統的な制度・慣習が地域における同業者間の調整機能を阻害した要因について論じる.江戸期以来培われてきた材木流通に関する制度・慣習は,明治以降も材木業者間の関係を細かく規定していく.しかし,こうした制度・慣習の新たな法的根拠になった同業組合の規定は,材木取引の実態から乖離していた.明治後期からの流通経路の変化と材木流通の制度・慣習に対する改善要求の高まりによって,この乖離は表面化し,大阪における材木業者間の利害対立を調整する機能は機能不全に陥った.調整機能が不全に陥った要因として,同業組合のフォーマルな制度が同業者の実際の利害関係に即していないこと,材木流通の制度・慣習が非常に閉鎖的であったことの2点が指摘できる.