著者
小林 信一
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.131-154, 2009-05-23 (Released:2019-05-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1

1990年代以降の研究活動の改革を含む大学改革は,3つの理念により先導されてきた.第1は1990年代前半からの「基礎研究シフト」や博士後期課程の拡大などによる拡大モデルである.これは,90年代半ばから徐々に,イノベーション・モデルとも呼ぶべき,科学技術と社会経済的価値との関連性を重視した改革モデルと,ニューパブリック・マネジメント・モデルとも呼ぶべき改革モデルに置き換えられていく.改革は,90年代には大学の研究活動を拡大する方向に働いたが,2000年代には改革の成果があがっているとは言いがたい.むしろ,大学間格差の拡大,ポスドクの増加などが顕在化し,「選択と集中」の方向性は妥当なのか,システムに矛盾はないのか,制度的な対応に偏りすぎていないか,などの問題に直面している.
著者
野田 文香
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.33-52, 2020-07-15 (Released:2021-08-12)
参考文献数
39

導入から16年が経過した認証評価は,その目的である質の保証・改善については一定の成果がみられる一方,「社会への説明責任」は十分に果たしきれていないことへの懸念が示されてきた.法令適合性を重んじた外形的評価の限界や質保証の国際スタンダード化を背景として重点評価項目となった内部質保証には,今後,学生が身に付けるべきアウトカムを基軸とした「学位プログラム」の構築をはじめ,教育プログラムの質保証のより一層の充実が求められる.学修者主体の教育と学位等の国際通用性の確保を目指し,認証評価が高等教育と社会とを結びつけるプラットフォームとして機能していくために,社会的目線を伴うアウトカムに紐づいた参照基準や資格枠組みなどを,質保証制度に組み込んでいくことが重要である.
著者
小杉 礼子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.71-92, 2017-07-31 (Released:2019-05-13)
参考文献数
21

本稿では,若年大卒者の仕事の変容について,3つの視点(①学卒未就職,失業,非正規雇用の状況,②就業先の企業規模,職種,賃金,③早期離職)から統計分析を行った.そこから,高卒者との比較においては,失業率も非正規雇用率も低く,また就業先は大規模企業が多いなど学歴間格差は拡大していること,一方,ブルーカラー職に就く男性卒業者が2割を占めるようになったり賃金の分散が大きくなるなど大卒内での就業実態の多様化が起こっていることが明らかになった.また,女性大卒就業者が大幅に増えていることも指摘した.こうした変容を踏まえて,大学が検討すべきことは,培うべき知識・スキルの認識を(産業)社会と共有する仕組み,女性卒業者のキャリア開発であることを指摘した.
著者
速水 幹也
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.165-185, 2016-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本研究では,薬学教育改革以後の6年制薬剤師養成課程を対象として,①就職(進路)と②国家試験という薬学教育における二つの「出口」に着目して分析を行い,改革の成果と課題を描出した.就職(進路)の分析からは,改革以後に病院・薬局など臨床現場への就職者割合が増加していることが明らかとなった.国家試験の分析からは,1.国家試験合格率が改革以後に低下傾向であること,2.国家試験合格率は学生の大学入学時の基礎学力によって規定されていることが明らかとなった.これら二つの結果から,改革の成果として高度な専門教育を受けた臨床現場への就職割合が増大する成果が確認された一方で,国家試験に合格できず高度な専門教育の効果を受けられない学生が生み出されているという課題が浮き彫りとなった.
著者
大森 不二雄
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.9-30, 2014-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿は,大学教育改革の鍵概念となっている「教学マネジメント」及び「内部質保証」に関し,大学経営と質保証の両面で先行した英国の政策と実態に関する分析・考察から,日本にとっての含意を得ることを目的としている. 大学教育に関する日本の政策言説は,全学的な教学マネジメントや大学ガバナンスの内部質保証にとっての有効性に,素朴なまでに信を置いている.しかし,英国の大学における教学マネジメントを含む内部質保証システムの整備の考察からは,経営機能の強化は,質保証の実質化の必要条件であっても,十分条件ではない可能性が示唆される.また,質保証の取組がコンプライアンスにとどまり,教授・学習過程にインパクトをもたらすに至っていない,との批判的分析は,質保証の一筋縄ではいかない複雑性と困難を表す.
著者
鳥居 朋子 夏目 達也 近田 政博 中井 俊樹
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.217-235, 2007-05-26 (Released:2019-05-13)
参考文献数
24

大学のカリキュラム開発に有効な指針を提供するDiamond の「教育プログラム開発のプロセス」を現場に適用するためには,教員や専門家等によるカリキュラム開発の共同作業の促進が鍵になる.米国ミシガン大学におけるDiamond モデルの適用事例では,カリキュラム開発の過程における仲介者の役割を参考にしつつ,相談業務に有効な調査ツールや評価のためのデータ収集の方法等が工夫されていた.今日,日本では各大学の取り組みによる教育の質向上が期待されている.こうした状況で大学のカリキュラム設計および評価の手法を開発する場合,学内の合意形成や意思決定につながる対話の促進に有効な調査方法の開発・提供や人的支援の方法の改善を図ることが有効な方策の一つになると考えられる.
著者
中島 英博
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.271-286, 2011-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
24

本稿は,大学職員が管理職として必要な資質を,業務を通じて獲得する過程に注目した質的研究により考察した.本稿の主要な結論は,以下の通りである.第1に,大学職員が管理職として業務を遂行する力を身につける上で,業務を通じた学習が重要である.第2に,大学の職場において,部下の業務を適切に設計して与え,業務を通じた学習を促進できる課長職の育成が,急務の課題である.第3に,それらの実現においては,大学職員が顧客志向の信念を持てる人事制度面の整備が急務である.第4に,大学職員の職場において特徴的な学習内容は,組織内部に関する学習であり,教員組織を含む他部署の要求を把握し,満足度を高める方法で業務を進めることである.
著者
寺﨑 昌男
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.7-21, 2010-05-25 (Released:2019-05-13)
参考文献数
15
被引用文献数
2

職員の組織的な能力開発(SD)は,その必要性と重要性にもかかわらず,効果的なプログラムの実現,体系的なカリキュラムの編成の面で多くの課題を抱えている.本稿では,現在日本の大学で実現されている五つの能力開発ステージを取り上げて,おのおののメリットとデメリットを点検し,今後の活用方法を考察する.次いでSD のミニマム・エッセンシャルズを,①大学の本質への理解,②自校理解の形成,③大学政策への理解という3点に絞って提言する.さらにSD の目標は企画能力の養成にあるのではないかという観点から,職員のライフステージに即応したSD プログラムが必要ではないかと論じ,さらにFD と結合したSD のあり方を論じ,職員の専門性を保障する人事コースをどのように創るかというテーマについて提案を試みる.
著者
天野 智水
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.177-195, 2022-08-10 (Released:2023-12-23)
参考文献数
26

意思決定への教員の参加はいかなる功罪をもたらすのか.それは決定の領域によって,あるいは学長等によるリーダーシップの発揮ぶりという条件によって異なるのか.この課題を検討するため,部局長等を対象とした質問紙調査から得たデータを分析した.その結果,教授会が「教員選考」により強い影響力をもつ場合に「共同体意識」はより高いという正の関係に,一方でその「大学経営」への影響力は大学の「戦略的取組」や「全体最適」と負の関係にあることなどがわかった.また,リーダーシップは教授会の影響力よりも従属変数を説明できる度合いが高いことや,一部従属変数では両者の交互作用効果が有意であることがわかった.これらの結果から含意を読み取り提言とした.
著者
中尾 走
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.217-236, 2022-08-10 (Released:2023-12-23)
参考文献数
26

本稿の目的は,性別専攻分離がどのような要因によって変化してきたのかを明らかにすることである.性別専攻分離とは,性別によって選択する専攻分野に差異があることを言う.日本を含む先進国では,性別専攻分離が小さくなっているため,専攻分野内の男女の偏りも小さくなっているという解釈がなされてきた.けれども,実際には性別専攻分離の変化は,専攻分野内の男女差だけでなく,様々な要因によって変化することが知られている.専攻分野内の男女差が小さくなっておらず,その他の要因によって性別専攻分離が小さくなっている場合,女性の選択する専攻分野が多様になっているという解釈は誤解となる. そこで,本研究では,性別専攻分離の変化を5つの要因に分解し,どのような要因によって性別専攻分離が変化しているのかを明らかにした.分析の結果,2つの結論が得られた.1つ目が,専攻分野内の男女の偏りは実際に小さくなっており,性別専攻分離を小さくする効果があった一方,各専攻分野のサイズの変化によって,性別専攻分離が大きくなっており,2つの効果が相反する影響を与えていた.2つ目が,専攻分野ごとの寄与を明らかにした結果,それぞれの専攻分野で異なる寄与を与えており,時点によっても影響の方向や大きさが異なることが分かった.
著者
西村 君平 呉 書雅
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.237-256, 2022-08-10 (Released:2023-12-23)
参考文献数
34

本稿の目的は,高等教育研究におけるRCTへの懐疑を踏まえて,RCTの方法論とは別の科学的認識論の観点から1)エビデンスの特徴,2)その構築の過程を明らかにすることである.本稿では科学的認識論に依拠したEBPM論である「活用のためのエビデンス論」とその基礎にある科学的実在論論争の知見を,高等教育研究への応用を視野に理論的に検討する.これにより1)EBPMのエビデンスには,抽象度の異なる概念により構成された階層的な理論とその理論によって架橋された文脈の異なる多様な経験的根拠が求められること,2)エビデンス構築のためには,理論の妥当性をその理論が構築されたときには想定されていなかった文脈において検証していく必要があることを明らかにする.最後に高等教育のEBPMの課題とその解消の展望について考察する.
著者
加藤 靖子
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.133-152, 2014-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
28

本研究では,全国婦聯と彼らが単独で設立した成人大学である全国婦聯管理幹部学院(現中華女子学院(普通本科))に焦点をあて,その設立過程を考察することによって,社会主義を掲げる中国でなぜ女子に限定された高等教育機関が必要とされたのかを明らかにすることを目的とし,国家イデオロギーと高等教育機関設立の関係性の一端を分析する.改革開放政策が始まると,中国共産党は幹部選抜に学歴要件を課すとともに幹部教育の正規化方針を打ち出した.この方針により男性に比べ学歴レベルの低い女性は幹部選抜に不利となった.しかし,全国婦聯は幹部教育正規化を足がかりとして,幹部の再訓練,自らの活動分野の専門知識を持つ女性幹部の育成,さらには女性の就業機会拡大のために女子高等教育機関設立を目指したのである.
著者
天野 郁夫
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.7-27, 1998-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
28
被引用文献数
6

In Japan, higher education research as an independent field of study had its “take-off” phase in the 1970’s. The massification of higher education, student revolt in the end of the 1960’s, and the rapid development of higher education research in the U. S. were the main forces that prompted the “take-off”. After a rather gradual growth in the 1980’s, the field experienced rapid expansion in the 1990’s. In the movement towards structural readjustment of Japanese economy, politics and society. Universities and colleges were forced to change drastically in their basic concept, organizational structure and functions. In response to the pressure, the Ministry of Education relaxed substantially the University Establishment Standard on undergraduate education in 1991. Stimulated by the initiative, many of the universities and colleges started to reorganize not only their curricula but also basic structures of teaching, research and administration. The rapid development of higher education reform prompted an expansion of higher education research. Even though research and training units in the field of higher education is still limited in number, researchers interested in the field have been increasing rapidly. The research topics have become increasingly diversified, and many are related to policy or practice than genuinely academic. In 1997, the first academic and comprehensive research society on higher education was established with more than 300 members. Higher education research is expected to grow more rapidly in the coming decade.
著者
大山 篤之 小原 一仁 西原 理
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.249-270, 2011-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
13

本稿の研究は,次の手順で行われたものである.全国公私立大学を対象とする大学格付けに基づき,全大学を群化し,別途構築する志願者数推移シミュレーションモデルを用いて各大学群に対して全入時代到来確率を算出する.これにより,各大学群に属する大学の一覧及びそれぞれの大学群に与えられる全入時代到来までの猶予期間が明示される.結果として,これが,大学経営ならびにそれを支援する組織にとっても,経営政策の意思決定を行う上で,非常に有効な情報となり得ることを示唆する.
著者
速水 幹也
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.175-195, 2021-08-10 (Released:2022-08-10)
参考文献数
23

本研究では,6年制課程薬学部に進学し薬剤師となることの私的収益率を,①性別・医療専門職別の比較,②女子のライフコース別の比較,③国家試験合格率と標準年限卒業率の反映,という3点を踏まえて算出した. その結果,薬剤師の収益率は男子では特に低いこと,女子については他の医療専門職より必ずしも高くないものの,ライフコース別の分析から相対的に有利な専門職であることが明らかとなった.また,国家試験合格率や標準年限卒業率を加味した分析では留年1回ごとに私立大学進学者では約1%ポイント収益率が低下することが明らかとなった.この背景として,入試難易度が影響し,収益率の低下は難易度が低い大学において顕著であり,薬学教育改革による修業年限の延長と量的拡大が要因として挙げられることを指摘した.
著者
立石 慎治 丸山 和昭 猪股 歳之
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.263-282, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
28

本稿の目的は,日本の大学教員のキャリア形成と能力開発上の課題について,東北地域23機関の専任教員を対象とした質問紙調査の分析から明らかにすることである.具体的には,教員キャリアと能力観,及び諸経験との関連を概観した上で,総合的能力の自己評価を規定する要因を解明すべく,ロジスティック回帰分析を行った.その結果,総合的能力の自己評価における第一の基盤となるのは研究能力であること,また教育能力が研究能力に次ぐ影響を有していることが明らかとなった.次に,教科書の執筆,学内FDへの参加,学内研究経費の獲得が,総合的能力の自己評価に正の影響を及ぼす経験として抽出された.最後に,これらの諸要因の影響を統制した上でも,総合的能力の自己評価には,専任教員経験年数がプラスに,また任期付き雇用がマイナスに作用することが明らかとなった.
著者
グッドチャイルド レスター
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.95-122, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
36

米国において,学術分野としての高等教育,そして高等教育の専門学会としての米国高等教育学会(ASHE)はいかにして始まったのだろうか.学術分野としての高等教育が創始されたのは1893年に遡る.クラーク大学のG. Stanley Hall学長が最初の科目を教え,大学院学位プログラムを作ったのである.20世紀の米国高等教育の拡大により,今では4500もの大学が存在している.大学院学位を持った大学管理者や学生関係部門の専門職に対するニーズが,高等教育分野の成長を促し,約180もの高等教育学位プログラムを作り出した.2013年秋,この分野は120周年を迎えようとしている.
著者
大塚 雄作
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.65-78, 2013-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本論では,日本高等教育学会と大学教育学会を比較することを通して,両学会の研究連携のあり方について展望した.高等教育を研究対象とするマクロなアプローチを中心とする日本高等教育学会に対して,大学教育学会は,授業担当者が自らの授業の改善のために,自らの授業を研究対象とするミクロなアプローチを中心としてきた.しかし,この10~15年の間に,両学会に同時に属する会員の割合も多くなり,両者の境界は必ずしも明確ではなくなってきた.教育実践は,それぞれのローカリティにおける「個別性」が問われるが,その「個別性」の表現に,教育の文脈や背景,学生の多様性の記述などとともに,社会・文化・歴史・制度といった「普遍性」ある分類が的確に含まれる必要がある.そのような形で,実践と理論の橋渡しを試みていくことが,今後,日本高等教育学会と大学教育学会の両学会に求められていくであろう.
著者
出相 泰裕
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.145-163, 2016-05-30 (Released:2019-05-13)
参考文献数
27

近年,社会人院生の数は停滞しているが,職業人が大学院に進学するにあたっては阻害要因が存在している.そこで専門職大学院に在籍する職業人学生にインタビュー調査を行い,阻害要因をどう克服し,進学への決断に至ったのかを,成人の教育機会参加に関する概念モデルを検証しつつ,考察した.その結果,今進学しないとチャンスはないというタイミングや他者の影響,大学院の取組により,進学が後押しされていたり,また学習が好きという学習志向性などによって動機が阻害を乗り越えるまでに強化されていたり,さらには人間行為力の強さから自ら阻害を軽減したりして,進学に至っていた.大学院は短期セミナーの提供などにより,受講者の進学動機を強化したり,教員が受講者と信頼関係を築いたりすることなどが肝要となる.
著者
岩永 雅也
出版者
日本高等教育学会
雑誌
高等教育研究 (ISSN:24342343)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.65-84, 1999-05-23 (Released:2019-05-13)
参考文献数
13

The university has long been regarded as an institution for exclusively training the elite. For the several hundred years since the network of modern universities was completed during the 15 th century in the West, universities have, in fact, produced the social elite, and they have done so in an exclusive manner. After the end of the Second World War, however, sophisticated industrial restructuring and the “massification”of society have led to massification of higher education in almost all advanced nations. In a “massified”society, universities transform themselves into massive and massified systems, prompted by greater numbers of students, diversification, and division into increasingly smaller units, but in the process they lower educational standards and the students’intellectual quality. In recent years, rapid advances in telecommunications and information technology have made institutions of higher learning almost universally accessible. The “universalization”of the university is progressing, along with corresponding changes in the organization and quality of higher education, just as the universities underwent transformation with their “massification”before the 1990s. Training of the elite by the university has been particularly affected by the social phenomena of massification and universalization. Even massified and universalized universities continue to produce the social elite, for lack of bettersuited institutions. Elite candidates, however, are only a small fraction of the entire student population. Moreover, the boundary between ordinary students and “elite candidates”is now blurred. Special educational agendas for a handful of elite students have disappeared, at least from the undergraduate curriculum. If society needs an elite population, where and how will such people be trained? One of the answers lies in “gifted and talented education.” This concept itself goes against the “equal and universal education”meted out according to the students’calendar age, but it is a first step towards achieving a flexible university education system. This concept is different from the conventional “elite”education in that it does not aim at producing a cluster of social elite, but encourages its eventual production by not stopping advanced education of the ablest. This kind of ability-based education has yet to develop methodology and must still overcome many social barriers. It is definitely not an easy course, but for many universities aggressive promotion of this type of education is the only practical course, given the current universalized education system and assuming universities do not want to revert to the elite education system of the past.