著者
高本 條治 Joji Takamoto
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.405-419, 1996-03

ウナギ料理を注文する際に使われるとされる「ばくはウナギだ。」という文(いわゆる「ウナギ文」)について,前稿(高本1995b)を承けて論述する。本稿では,まず,前稿に引き続き,先行研究がどのようなパラフレーズを行っているかをまとめ,それを分類整理する。次に,「ウナギ文」発話の解釈のポイントが,デフォルト解釈がキャンセルされることによって引き起こされる推論にあるという主張を行い,「ウナギ文」発話の解釈記録形式との関連を論じる。最後に,「ウナギ文」の先行研究に「過剰な文法化」が見られることを指摘する。
著者
大前 敦巳
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.285-298, 2005

小論は,地方国立の上越教育大学と関西都市部の私立大学・短期大学の学生を対象に,2003年(1年次)と2004年(2年次)に実施した質問紙追跡調査に基づき,学生生活を通じていかなる文化習得を遂げ,そこにどのような社会的要因が関与しているかを検討した。1年次には幅広い文化領域に興味関心を示したのに対し,2年次に入ると自分に見合ったものを取捨選択する傾向が認められた。文化的取捨選択に関与する社会的要因について重回帰分析を行った結果,2年次に盛んに行われるようになった文化活動やスポーツは,社会的要因に強く規定されることがなく,上教大では学校的な文化習得様式の間での違いがみられ,関西私大・短大では,家庭の物質的豊かさが学校的なものから離れた領域の活動を規定する傾向がみられた。
著者
大前 敦巳
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.565-579, 2006

本稿は,今日の大学生における文化資本をめぐる問題について,「学生消費者主義」や「大学の商業化」など,高等教育拡大がもたらした多くの国々に共通してみられる変化の状況との関わりの中で検討する。フランスの国立学生生活観察研究所(OVE)が実施する全国学生生活調査の結果を参照しながら,関西と北陸・上越の大学・短大生を対象に実施した質問紙調査の結果に基づき,学生の社会的出自,過去の学習経験,現在の学生生活との関係を分析した。親の職業や学歴に規定される階層文化以上に,後天的な学習経験や学生生活へのコミット/アルバイトを含む経済生活への親近性,という対立軸が,正統的文化/中間文化/大衆文化といった文化活動の違いを生み出す傾向が認められた。消費文化との連続性をもちながら,文化資本の形成条件となる「必要性への距離」を提供しているのは,社会的出自よりも学枚,特に大学の場においてであり,大学が変化に直面する中,その機能を衰弱させないことが必要と考える。
著者
小埜 裕二
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.280-273, 2008

テクスト中の「悲嘆は痛まない」の一文の意義について考察し、「憂国」は、ニーチェ流の「悲嘆」の感情を通して<生の確証>がなされてきた従来の三島作品史の流れから、バタイユ流の「エロス」「苦痛」の感情を通して<存在の確証>がなされていく作品の流れを形作る起点となった作品であることを明らかにした。バタイユはエロティシズムを<肉体のエロティシズム><神聖なエロティシズム><心情のエロティシズム>の三種に分けたが、三島は「憂国」において、武山と麗子の性愛行為に<肉体のエロティシズム>を、武山の死に<神聖なエロティシズム>を、麗子の死に<心情のエロティシズム>をそれぞれ付与していることも明らかにした。
著者
藤田 武志
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.567-588, 2002

日本と韓国の中学生の競争意識について以下の六点が見出された。第一に,競争意識を抱く者は両国とも少数派であり,中学生たちの意識は必ずしも「受験=競争」という図式でとらえることはできない。また,第二に,家族ぐるみの受験競争というイメージは,日本よりもむしろ韓国に対してあてはまる。しかし第三に,両国とも競争意識を抱く者が存在しないわけではなく,その割合や分布は,選抜システムの特徴によって規定されている。また第四に,競争の状態を不安感や内申書への気遣いといった意識面と,学習時間という行為面からとらえた場合,やはりそのありようは両国とも選抜システムの特徴と対応している。さらに第五に,東京都の競争の状態については,「ユニバーサル選抜型」推薦入試の導入という選抜システム的要因を加えると,より説明力が高まる。これらのことから第六に,受験競争のありようは選抜システムによって規定されている「受験競争の社会的構成」が確認された。これらの知見は,選抜システムの改革や評価は,理想的なモデルをもとにするのではなく,システムがどのような生徒にどのような影響を与えているのかという現実的な調査にもとづいて行う必要性を示唆するものである。
著者
齋藤 一雄
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.77-87, 2004

養護学校小学部用の音楽科教科書に掲載されている歌唱教材を音楽の授業で活用し,リズムの指導がどのように展開できるか,リズム反応の部分を中心に分析した。対象は小学校特殊学級の1~5年生の3名で,教師の支援を得ながら楽しく,授業に参加することができた。そして,手拍子による「ことりのうた」の八分音と「かもつれっしゃ」の四分音で構成されたパターンによく反応した。児童がよく知っている曲であったことと反応動作の工夫が影響したと考える。足踏みによる「あしぶみたんたん」の四分音で構成されたパターンへの反応は,正反応するまでに時間がかかった。手拍子よりも足踏みが大きな動作を必要としたこと,簡単な構成の教材だが児童にとって初めての曲であったことが影響したと考える。正確なリズム反応をひきだすために歌唱教材は有効であったが,教材により親しむことと反応動作のし方,テンポ設定について配慮する必要が示唆された。We made a teaching plan with rhythmic responces, using song teaching material, in mentally retarded class which had 3 children. Their age were 6-11. All of them participated in music class pleasantly with supports by teachers, and enjoyed. In rhythmic responces by clapping, they could respond to the complicated rhythmic patterns on "ことりのうた ""かもつれっしゃ". By stumping, they had much time to respond to the complicated rhythmic patterns on "あしぶみたんたん". For this reason, stumping need large movement in comparison with clapping, and they start begin to listen "あしぶみたんたん". However, we found that song teaching materials are useful in rhythmic responces.
著者
大庭 重治
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.529-537, 2003

多くの子どもたちは,小学校に入学する頃にはある程度の平仮名書きを習得している。しかし,組織的な書字指導が行われない幼児期には,字形を誤って学習してしまう状況が少なからず存在する。このため,小学校に入学した後の文字学習においては,平仮名書きの新たな習得とともに,誤学習により定着した誤字の修正が重要な目標となる。そこで本研究では,27名の子どもを対象として,幼稚園の年長時と1年時の年度末に平仮名書字の状態を観察し,その誤字内容の変化から,誤字の修正を促すための小学校での一斉指導における配慮事項を提案することを目的とした。その結果,就学直前の幼児期には,無反応の他に崩壊,異字など,字形が大きく崩れた誤字タイプが多く観察された。一方,1年終了時には,原型保存,異配置など,字形の部分的な崩れを示す誤字タイプがほとんどであった。このことから,小学校における一斉指導において,字形の大きな崩れは修正されやすいが,文字の部分的な崩れは十分に修正されない可能性があることが示唆された。また,描画機能の発達は書字行為の全体的な向上には関連していると考えられたが,そのことが必ずしも平仮名書字における細部の誤字修正には結びつかない場合があることも示唆された。以上のことから,1年生に対する平仮名書きの一斉指導においては,板書とともに手元で字形を確認できるプリントを併用したり,グループ学習により児童が相互に評価し合う機会を作るなど,誤字の細部にわたる修正を可能とする学習環境を計画的に設定することが必要であると考えられた。Preschool children are apt to write wrong Japanese letters (hiragana) because they have little chance to acquire handwriting skills systematically. They therefore need to correct their wrong letters by themselves when they become school children. This study was planned to propose the handwriting teaching method to the teachers who were teaching handwriting skills to first-grade children in the regular class. Twenty-seven children were given the writing task of 10 letters two times, at the end of the year of preschool and the first grade. The wrong letters at those times were classified into five error types, and the distributions of the types were compared. The main result was that many letters that got out of letter shapes were observed in preschool children, but in first-grade children there were few those letters and there were just letters that had partial errors. From these results some teaching methods of handwriting in the regular class were proposed to improve children's corrective abilities in handwriting, for example, using a letter-model sheet or making children assess their writing letters each other.
著者
藤岡 達也
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.1-10, 2008
被引用文献数
1

本稿では、近年の自然災害に関する防災・減災への国際的な取組の動向を国連の機関(UN/ISDR)を中心に概観し、持続可能な開発のための教育(ESD)が推進されていく上での意義と課題を探る。その中で、特に教育に期待されている内容に焦点をあて、兵庫行動枠組2005-2015(HFA)の観点から学校教育を中心に日本に期待される役割について論じる。また、HFAを構築する日本における自然災害の復興の例として、2007(平成19)年7月16日に生じた中越沖地震での柏崎市の学校と上越教育大学の支援活動を取り上げる。この支援活動の意義と課題を踏まえながら、ESD構築のための今後の地震等大規模災害時における学校安全や教員の役割等についても考察する。In this paper, in the first place, I would like to overview the international current for natural disaster reduction through the consideration of activities of United Nations International Strategy for Disaster Reduction (UN/ISDR). In the second place, especially I focus on the contexts concerning education and see the construction of Education for Sustainable Development (ESD) in Japan. After that, I discuss the safer school and roles of teachers from the Viewpoint of Hyogo Framework for Action 2005-2015 (HFA).\Furthermore I will take an example to illustrate the natural disaster reduction by the development of HFA in Japan, After The Niigataken Chuetsu-Oki Earthquake in 2007 occurred, Joetsu University of Education sends students for damaged primary schools in Kashiwazaki City. In addition to these considerations of the significance and problems of these activities, the safer schools and roles of school teachers after the natural disaster such as great earthquake will be brought to light for the construction of ESD in schools.
著者
太田 將勝
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.37-44, 2002-10
著者
河合 康
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.119-129, 1998

本稿では,イギリスにおける特別な教育的ニーズをめぐるオンブズマン提訴事例を取り上げ,その特徴と,親の権利保障の実情を把握することを目的とした。今回,この事例を取り上げたのは,1事例の中で複数の不服申し立てがなされ,各々について,オンブズマンの裁決の基準となる「過誤行政」と「不公平」に関して,異なる判断が示されており,特別な教育的二一ズをめぐる親の権利が実質的にどのような意味を持ち合わせているのを検討するのに適していると考えたからである。本事例における主要な論争点は,子どもの特別な教育的ニーズの評価の段階において,当局が,①子どもの状態について適切な情報を獲得せず,②親に情報を提供するのを怠り,③判定書を作成するかどうかの決定に長時間を要したという点,及び,判定書の作成の前後において,④正規の当局の職月でない者が報告書を作成し,⑤その作成者と報告書について議論するように手配せず,⑥作業療法士の報告を受けず,⑦分子どもに対して別の教育の場を検討しなかった,という点であった。結果は,評価の段階における①~③については,「過誤行政」の結果として「不公平」を親が被った点を認め,当局に賠償の支払を命じた。しかしながら,判定書の作成の段階においては,④,⑤, ⑦については「過誤行政」は認められず,また,⑥については,「過誤行政」は認められたが,それによって「不公平」が生じたとは判断されなかった。今回の事例より,特別な教育的ニーズをめぐるオンブズマン提訴事例においては,手続き上の不備や時間的な遅延の場合に,親の不服申し立てが認められ可能性が強いが,教育の場の決定に直接関わる段階になると,当局の裁量が支持される傾向にあることが示唆された。その一方で,オンブズマンは,教育法令には規定されていない不服申し立て事項を補完する機能を有していることも明らかにされた。The purpose of this study was to analyze the case of the ombudsman concerning special educational needs. In this case parents lodged some complaints which were as follows; 1 ) During the assessment the Council failed to obtain adequate information about their daugher's condition. 2 ) It failed to keep them fully information. 3 ) It took too long time in deciding whether a formal statement should be issued. 4 ) It accepted a report from an officer who was not employed. 5 ) It failed to arrange for them to discuss the report. 6 ) It failed to obtain an occupational therapist's report. 7 ) It failed to consider alternative placements for their daugher. For the complaints of 1), 2), and 3), maladministration leading to injustice was accepted and the ombudsman recommended that the injustice should be remedied. For the complaint of 6) maladministarion was found but injustice wasn't accepted. For the rest of complaints maladministraion wasn't found. From this case study it was suggested that ombudsman would complement the appeal systems which were based on the educational law.
著者
大嶽 幸彦
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.113-126, 2007-02-28

本稿は,40年近くの研究・教育生活のかたわら,地理学周辺の読書を通して得た地理知識の効用についての研究にさらに考察を加え,特に2005年から2006年にかけての1年間の最新著書・学会誌掲載論文等を中心にまとめたものである。The object of this research consists of a reflection on 『Utility of Geographic Knowledge』 by Yukihiko Ohdake, which analysed the author's geographic knowledge in near 40 years' research and education life, referring to about 530 books and dissertations.