著者
藤本 雅子
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.2-15, 2004-01
被引用文献数
3

日本語の母音の無声化は東京方言では多く近畿方言では少ないとされる。それは東京方言では子音が,近畿方言では母音が丁寧に発音されるためであるという説がある。本稿では東京方言話者と大阪方言話者の発話資料を用い,1)典型的無声化環境での無声化の頻度,2)非典型的無声化環境での母音長の2点を検討した。その結果,1)については,アクセント条件を揃えると東京方言話者と同程度に無声化する大阪方言話者が多いこと,一方でアクセント条件を揃えても有意に無声化が少ない大阪方言話者がいることが明らかになった。2)については,母音が無声化しない大阪方言話者の母音は東京方言話者より有意に長いこと,無声化する大阪方言話者は東京方言話者と同程度(/e/)か東京方言話者より短くなる場合がある(/i/)ことが明らかになった。さらに,東京方言話者の/i/は発話速度に関わらず一定して短いが/e/ではその特徴が見られないことから,東京方言話者は無声化しやすい母音では特殊な制御をしている可能性があると思われる。
著者
松繁 弘之
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.17-28, 2002-04

本稿の主題は『字音仮字用格』の冒頭に位置する「喉音三行辨」を分析することである。第一に,「喉音三行辨」の理論的位置を明らかにする。第二に,「喉音三行辨」の理解に必要不可欠な二つの図表を分析する。解釈の骨子は次のやうになる。宣長は喉音三行をまづ区別して,それを「喉音三行分生図」により表現する。そして,その区別した三行を関係づけるために「軽重」の概念を導入し,その関係を「喉音軽重等第図」により表現する。特に,その「軽重」の概念が雅楽の「唱歌」に着想を得たものであり,それが音の高低を意味すること,即ち「いえあおう」と高音から低音へといふ序列をなすこと,を述べる。
著者
陳 力衛
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.30-43, 2003-07

本稿は,熟字訓形成の要因を,まず漢籍の伝来に伴う概念の対訳の必要性から捉え,一体性としての熟字に対して和訓が語訳の性格を帯びていることを確認する。そして,この種の熟字訓は時代とともに産出され,つねに中国語から新語・類義語・新表記を日本語に取り入れるための手段として用いられたため,一過性や流行性といった特徴が指摘できる。また逆に,伝承性の強い本草学関係の熟字訓にも注目し,日中間の交渉による意味概念の同定とそのずれを指摘する。一方,視覚による書記表現としての効果性への追求から,日本人が独自に創出した熟字訓もある。本稿はそれを取上げ,中国語由来のものとの異同を比較し,最後に,熟字訓の問題点を指摘する。
著者
村山 七郎
出版者
国語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.124, pp.p112-104, 1981-03
著者
大野 晋
出版者
国語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.72, pp.26-31, 1968-03
著者
内間 直仁
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.32-44, 2004-04

琉球宮古・八重山方言では, 古代日本語のワ行子音が[b]となる顕著な音韻現象がある。これは奄美諸島の一部, 沖縄本島北端の一部の方言にもみられる。この[b]について, 従来記述的な研究報告はなされていても, その成立についての考察はほとんどなされていない。この[b]の成立は, 宮古・八重山方言においては五母音>三母音, 奄美・沖縄方言においては五母音>三母音>五母音(新[o][e]の成立に伴う)という母音変化と密接に関わっていることを明らかにした。すなわちこれらの母音変化と連動して, 古代日本語のワ行子音も宮古・八重山では[w]>[b], 奄美・沖縄では[w]>[b][gw][g]>[w]の変化を起こしていることを, [b]の音声学的特徴や琉球方言における[b]とその変種音の分布状況及び[b]のあらわれる音環境も分析しながら明らかにした。
著者
貞苅 伊徳
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.23, 1955-12
著者
佐藤 琢三
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
no.192, pp.118-107, 1998-03
著者
間淵 洋子
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.15-30,154, 2000-06

室町期から現代に至る口語的資料を対象とした調査によって,格助詞「で」の用法とその発達について以下の3点を主張する。(1) デ格の基幹的用法は,分布状況や出現度から場所格・手段格・様態格であると考えられ,これらは「動詞が表わす事態への消極的参与」及び「状況の限定」を主に表わす「で」の基幹的意味特性による。(2) 現代語に見られる動作主格や原因格は,室町期には例が少なく,近世以降に発達した用法である。これらは通時的に見ると(1)にあげた基幹的用法から派生的に出現した用法である。このデ格の発達は,文構造における周辺的・付加的な要素から中心的・必須的な要素への参入という方向の変化であると位置付けられる。(3) (2)の変化要因は「一定条件下の文脈における基幹的意味の背景化」と捉えられ,デ格を構成する名詞のバリエーションの増加や,文脈内で注目される意味特性の変化がそれに関与すると考えられる。
著者
影山 太郎
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.44-55, 2002-01

「指揮者,作者,該当者」のような動作主名詞は,名詞でありながら動詞的な概念を内包する点で理論的に興味深い。本橋では,まずPustejovsky(1995)の英語分析を参考にして,動作主名詞を,恒常的な機能(特質構造の目的役割)によって規定されるものと行為の成立(主体役割)によって規定されるものに分類するが,この二分法では「参加者,該当者」などが扱えないことが判明する。この第三のグループは,「この件は該当者がある」のような存在文では関係節(「該当する人がある」)と並行的に出来事の発生を表し,また,「本件|該当者」のように句アクセントの複合語(語^+)にも参加する。このような統語的性質は特質構造より語彙概念構造に委ねるのが妥当である。この分析によって,1つの同じ接辞が語彙部門の様々な構造に適用されることになり,派生語全体の意味や統語的性質は適用レヴェルの特性から自動的に導き出される。
著者
玉懸 元
出版者
日本語学会
雑誌
国語学 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.30-43, 2001-06

本稿では,若年層を話者とした調査結果に基づき,仙台市方言の終助詞「ッチャ」の用法を整理して記述する。「ッチャ」の用法は,用例の観察を通して,次の(1)(2)(3)に整理される。(1)対話用法A:そもそも知っているはず・分かるはずの事柄を忘れている・気付いていない,ということが相手から看取された場合に,その事柄を取り上げて「ッチャ」を使用する。(2)対話用法B:相手のそもそも知っているはず・分かるはずの事柄を,後続させる発話内容の土台になることとして取り上げておきたい場合に,その事柄を取り上げて「ッチャ」を使用する。(3)独言用法:自分自身がある事柄を思い出した・ある事柄に気付いたといった場合に,その事柄を取り上げて独言的に「ッチャ」を使用する。(3)は(1)を自己内対話的に拡張したものとしてその関係が理解される。また「ッチャ」の本質を把握することによって,(1)と(2)との関係も理解される。なお,以上のような記述を通して,現代方言において共通語化を免れている方言形式の具体的様相とその理由に関する問いに対して,ひとつの見通しが得られることになる。