著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 渡辺 隼矢 松井 圭介
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.47-62, 2018

本研究は茨城県大洗町におけるコンテンツ・ツーリズムの展開に注目し,ツーリズム形態の転換に伴う観光空間への影響,及びその変容の解明を目的とした。大洗町は観光施設を数多く有する県内でも有数の海浜観光地であり,2012年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として新たな観光現象が生じている地域である。大洗町においては,当初は店舗・組織におけるアニメファンへの対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて,商工会の主導により積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れ,多くのアニメファンを来訪者として呼び込むことに成功した。宿泊業においては,アニメ放映以前までは夏季の家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は夏季以外の1人客の割合が大きく増加するなど変化が生じた。コンテンツ・ツーリズムの導入によるホスト・ゲスト間の関係性の変化は新たな観光者を呼ぶ契機となったことが明らかとなった。
著者
坂本 優紀 渡辺 隼矢 山下 亜紀郎
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-57, 2020

本稿では,長野県上伊那地域でみられる筒系噴出煙火の三国を地域文化として捉え,三国の伝播と利用形態の変容を明らかにした。伊那谷における三国は江戸時代に三河地方から伝わったとされ,各地域の神社の祭りで奉納されるようになった。現代でも駒ヶ根市以南では,主に神社の秋祭りで奉納され神事としての役割を担っている。第二次世界大戦後になると三国の利用地域が拡大し,それまで三国の北限であった駒ヶ根市より北にある宮田村と箕輪町で三国が放揚され始めた。宮田村では1962年に在来の祭礼に組み込まれる形で三国が奉納されるようになった。当初は祭礼を盛り上げることが目的であったものの,現在では神事としての意義づけがされている。一方,箕輪町では2000年代に地域イベントで放揚され始め,現在も神事としての役割はない。このように三国の拡大過程においてその意義づけは対象地域ごとに異なり,各地域それぞれの選択と解釈がなされていることが明らかとなった。
著者
益田 理広 秋山 祐樹
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-26, 2020

本研究は近年顕著に関心の高まる空き家に関する研究の動向について,特に和文文献に焦点を絞り,その展望を試みたものである。本研究では,まず空き家研究全体の盛衰を探るべく空き家に関連する論文の発表数の経年推移を追い,次いで研究対象となる地域,主として空き家を研究する学術領域,および各個の研究の使用する統計の種類についてそれぞれ分析した。更に,各個の研究の採用する調査と分析の手法について,その採用数と採用率を明らかにした上で評価を行った。その結果,2019年現在において空き家研究は質,量の両面に最盛期を迎えており,研究方法の面では計算機による特定指標の緻密な分析に重きが置かれ,建築学や都市工学の長所を有する一方で,自然環境から社会条件に及ぶ総合的分析の不足が指摘された。そこで,本研究は,地域のような総合的対象の分析に適する地理学的観点の導入によって,研究状況の学際的補完を提言するものである。
著者
鈴木 修斗 黄 璐 張 紅 佐藤 大輔 山下 亜紀郎 呉羽 正昭 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.113-128, 2020 (Released:2021-02-28)
参考文献数
6

本稿は,コロナ禍の中において実施された筑波大学大学院におけるフィールドワーク実習(上田巡検)の事例報告である。新型コロナウイルス(COVID-19)の流行下においては,聞き取り調査などの対面接触を伴う実習形式の講義(巡検)の遂行が困難である。そこで筆者らは,感染対策を伴う新たな巡検スタイルの構築を模索・実践した。コロナ禍の中で巡検を実施するにあたり,事前ミーティングや事務連絡はオンライン上で完結させることが可能である。調査時には徹底した感染対策を行うとともに,食事の分散化やゼミのオンライン化によって宿泊場所での感染拡大を防ぐことができる。また,現地調査を円滑に進めるためには,今まで以上に綿密な事前準備が重要である。以上のような対応をとることで,コロナ禍の中においても高い教育効果をもった巡検を遂行することが可能であった。こうした実践の成果は,ウィズコロナの時代におけるフィールドワーク実習の実施に際して,有益な示唆を与える。
著者
堤 純 吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃 松井 圭介
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.81-89, 2015 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
1

本稿は,多文化社会の特徴をもつオーストラリアを対象に,移民の増加プロセスおよび社会経済的な特徴を把握することを試みたものである。1970年代に白豪主義が撤廃されたことは,オーストラリアが多文化社会へと舵を切る大きな契機となった。シドニーを対象に移民の増加をみると,仕事では英語を使うものの,家庭では英語以外の言語を使う人口の増加が著しい。シドニー大都市圏では,増加の著しいアラビア語人口やヴェトナム語人口などは,ポートジャクソン湾の南側の低所得者の多い地域に集中する傾向にある。一方,標準中国語や広東語を話す人口は,大多数は低所得者の多い地域に集中するものの,同湾の北側に位置する高所得者の多い地区にも相当数が進出していることがわかる。国勢調査のカスタマイズデータを分析した結果,中国系やインド系の移民は,シドニーに多く住む他のエスニックグループに比べて,学歴や所得の面で高い傾向が確認できた。
著者
吉田 道代 葉 倩瑋 筒井 由起乃 松井 圭介 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.91-102, 2015 (Released:2018-04-04)

本稿では,人口規模が縮小し,居住地が分散しつつあるシドニーのイタリア系コミュニティが,移民集団としての民族文化を表象する場所を1世の集住地ライカートに求め,コミュニティの拠点を再構築しようとする試みに注目した。ライカートは,1950年代にイタリア系移民1世の居住・商業活動の中心であったが,1970年代以降イタリア系住民の数が減少し,そのビジネスも縮小していった。この状況下で,1999年に同地区にイタリアの景観・文化をイメージした商業・居住・文化活動の複合施設,イタリアン・フォーラムが建設された。しかしこの施設は2000年代末には商業的に行き詰まり,イタリア系コミュニティの歴史や民族文化を表象するアイデンティティの場所としても機能しなかった。それでも現在,イタリア系住民の互助組織がこの施設内のイタリアン・フォーラム文化センターを利用し,イタリア系コミュニティの拠り所となる場所づくりをめざしていることが明らかとなった。
著者
田林 明 大石 貴之
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.113-148, 2014 (Released:2018-04-05)
被引用文献数
2

この報告では,首都圏とその周辺を含む15の都県の観光と農政の担当者から,それぞれの都県における農村空間の商品化による観光活動の種類と分布状況,そして地域差について聞き取り,さらに統計や既存の研究,そして観光パンフレット等の分析を加えて,現代社会で活発に行われているか,あるいはその潜在的可能性が高い,重要とみなされる観光活動を抽出した。それらは,散策と市民農園,農産物直売所・農家レストラン,観光農園,ハイキング,農林業・農山村生活体験,避暑,スキー,登山,そしてマリンレジャーの10種類であった。これらの分布に基づいて地域区分を行った結果,基本的には東京都心部を中心とした同心円状のパターンがみられた。それは,農村空間の商品化による観光活動は,主として大都市からの近接性や交通利便性によって,さらには自然環境や農林水産業の内容,既存の観光地の存在によって規定されるからである。
著者
菊地 俊夫
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.149-158, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
7

フィ−ルドワ−クは地理学が十八番とする方法であり,地理学のフィ−ルドワ−クは諸環境を複眼視して総合的に捉えるところに特徴がある。地理学のフィ−ルドワ−クの方法や見方・考え方は時代ととともに少しずつ変化している。昭和の時代のフィ−ルドワ−クは達人と呼ばれるような研究者による職人芸的な方法を重視してきた。しかし平成の時代になると,フィ−ルドワ−クの方法はマニュアル化・標準化され,個人情報の壁に抵触しない範囲でデ−タを集めるものとなった。令和の時代においては,地域コミュニティと共に活動しながらデ−タを取得する地域協働型フィ−ルドワ−クや,地域コミュニティと共に課題解決のために調査し地域づくりを行う地域共創型フィ−ルドワ−クが地理学の研究に新たな可能性を与えるものとなっている。
著者
山下 清海
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.32-50, 2009

本研究は,インドの華人社会の地域的特色について考察するとともに,コルカタのチャイナタウンの現状を記述・分析することを目的とした。インドの華人は,イギリス植民地時代の首都であったコルカタに集中してきた。広東省籍が最も多く,特に客家人が最大多数を占め,彼らの経済活動は皮革業と靴製造業に特化してきた。1962 年に発生した中印国境紛争に伴う両国の関係悪化により,海外へ「再移民」する華人が増加し,華人社会は衰退し,今日に至っている。インドにおいてチャイナタウンが唯一存在するコルカタには2つのチャイナタウンがある。ティレッタ・バザール地区は衰退しているが,中印国境紛争までは繁栄し,その名残として,会館,廟,華文学校などの華人の伝統的な施設が集中している。一方,タングラ地区は,近年の皮革業の衰退により,皮革工場から中国料理店への転換が著しく,今日では中国料理店集中地区となっている。
著者
大塚 直樹 丸山 宗志
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.45-62, 2016 (Released:2018-04-04)

本論文では,ホーチミン市におけるバックパッカーエリアの空間的特徴として以下の3点を指摘した。第1に,かつてのサイゴン駅の沿線地域に位置するバックパッカーエリアには,部分的であれ鉄道駅に関連した業種が立地していた点を旧版地図の分析から示した。第2に,バックパッカーエリアの中核をなす4本の街路は,業種別構成を確認すると,それぞれ独自のパターンをなしている点を示した。第3 に,街路別の特徴は,バックパッカーエリアの拡張過程を反映していると推察される点を指摘した。以上から,ホーチミン市におけるバックパッカーエリアは,オルタナティブツーリズムが展開される均質的な空間ではなく,街路ごとに特徴をもった都市空間であることを明らかにした。
著者
形田 夏実
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.189-204, 2016

本研究は,石川県金沢市において伝統野菜として生産される15品目の「加賀野菜」を事例に,それらの生産および流通の動向を分析することで,農産物のブランド化が小規模な都市近郊産地の生産振興にいかなる役割を果たすのかを明らかにした。15品目の生産・流通の動向を分析した結果,15品目は三つに分類できた。一つ目はブランド化が経済的役割を有し,生産農家の基幹的収入となっている品目であった。二つ目はブランド化が経済的役割を有しているものの,農家の基幹的収入となっていない品目である。この品目は生産農家の補完的な収入手段にとどまるが,希少性などを要因として北陸以外の地域にも出荷されていた。三つ目はブランド化の経済的役割が低く,農家の基幹的収入となっていない品目である。生産量の少なさと流通範囲の狭さは,金沢市という地域を単位として認定される加賀野菜の独自性を高めていると考えられる。
著者
益田 理広
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.19-46, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
21

地理学の語源たる「地理」の語は五経の一,『易経』を典拠とする。『易経』は哲学書としての性格を有し,「地理」の語義についてもその注釈を通し精緻な議論が展開されている。本稿は,初期の「地理」注釈である唐宋の所説を網羅し,東洋古来の「地理」概念がいかなる意味を以て理解され,かつどのように変遷したのかを明らかにしたものである。 唐代における最初期の「地理」には,地形や植生間の規則的な構造とする孔穎達,及び知覚可能な物質現象たる「気」の下降運動とする李鼎祚による二説が存在する。 続く宋代には「地理」の語義も複雑に洗練され,次のような変遷を経る。即ち,「地理」を(1)位置や現象の構造とする説,(2)認識上の区分に還元する説,(3)形而上の原理の現象への表出とする説,(4)有限の絶対空間とする説の四者が相次いで生まれたのである。 これら多様な「地理」の語義は,東洋地理学および地理哲学の伝統の一端を開示する好資料といえる。
著者
山下 清海 小木 裕文 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-26, 2012

中国では,多くの海外出稼ぎ者や移住者を送出した地域を「僑郷」とよんでいる。本研究では,浙江省の主要都市である温州市に隣接し,伝統的な僑郷であった青田県が,新華僑の送出により,僑郷としての特色がいかに変容してきたかについて,現地調査に基づいて考察することを目的とした。山間に位置し貧困であった青田県では,清朝末期には,特産品である青田石の加工品を販売するため,陸路でシベリアを経てヨーロッパに出稼ぎする者も少なくなかった。光緒年間(1875 ~ 1908 年)には,ヨーロッパよりも日本へ出稼ぎに出る者が増加した。しかし,関東大震災の発生後,日本への出稼ぎの流れは途絶え,青田人の主要な出国先は,ヨーロッパになっていった。中国の改革開放政策の進展に伴い,海外渡航者が急増し,青田県では出国ブームが起こった。その主要な渡航先はスペイン,イタリアを中心とするヨーロッパであった。海外在住者からの送金・寄付・投資などにより,僑郷である青田県の経済は発展した。ヨーロッパ在住者やヨーロッパからの帰国者の影響は,僑郷の景観や住民のライフスタイルにも現れている。
著者
内山 幸久
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.83-94, 2013 (Released:2018-04-05)

本稿は日本における主要果樹生産の展開,および長野県北部の小布施町大島集落の土地利用変化について述べたものである。要約すると以下の通りである。ブドウや柑橘類,クリは江戸時代にすでに栽培されていた。明治期にリンゴや,別品種のブドウ・モモが日本に導入された。日本の果樹生産は第二次世界大戦後に拡大した。しかし1970 年代後半以降に,果樹園面積,特に温州ミカン園は減少した。主な温州ミカン生産地域は西南日本に分布している。リンゴ生産の核心地は青森県西部と長野県北部である。ブドウ生産の核心地は山梨県中央部と長野県北部および東部である。モモ生産の核心地は山梨県中部と長野県北部,福島県北部である。日本ナシ生産の核心地は千葉県北西部や鳥取県東部である。小布施町最大の農業集落における詳細な土地利用変化をみると,1969 年にはリンゴ園と田が農地の大部分を占めていて,土地利用パターンは単純であった。1969年から2005 年の間に,リンゴ園が減少した。モモ園やブドウ園,クリ園はわずかに増加した。大島集落ではリンゴやブドウ,モモは集約的に栽培されているが,一方,クリはそれほど労働力を必要としていない。1992 年から1995 年にかけて上信越自動車道が小布施町西部で建設された。大島集落における上信越自動車道の東側では小布施総合公園が建設された,これらの道路や公園は大島集落では大きな面積を占めている。
著者
山下 清海 小木 裕文 松村 公明 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-23, 2010

本研究の目的は,日本における老華僑にとっても,また新華僑にとっても代表的な僑郷である福建省の福清における現地調査に基づいて,僑郷としての福清の地域性,福清出身の新華僑の滞日生活の状況,そして新華僑の僑郷への影響について考察することである。1980 年代後半~ 1990 年代前半における福清出身の新華僑は,比較的容易に取得できた就学ビザによる集団かつ大量の出国が主体であった。来日後は,日本語学校に通いながらも,渡日費用,学費などの借金返済と生活費確保のために,しだいにアルバイト中心の生活に移行し,ビザの有効期限切れとともに不法残留,不法就労の状況に陥る例が多かった。帰国は,自ら入国管理局に出頭し,不法残留であることを告げ,帰国するのが一般的であった。1990 年代後半以降には,福建省出身者に対する日本側の審査が厳格化された結果,留学・就学ビザ取得が以前より難しくなり,福清からの新華僑の送出先としては,日本以外の欧米,オセアニアなどへも拡散している。在日の新華僑が僑郷に及ぼした影響としては,住宅の新改築,都市中心部への転居,農業労働力の流出に伴う農業の衰退と福清の外部からの労働人口の流入などが指摘できる。また,新華僑が日本で得た貯金は,彼らの子女がよりよい教育を受けるための資金や,さらには日本に限らず欧米など海外への留学資金に回される場合が多く,結果として,新華僑の再生産を促す結果となった。
著者
仁平 尊明
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.18-42, 2011

In the Brazilian Pantanal, traditionally, extensive cattle grazing has continued because ot the area of inundated land changes significantly by seasons, and of its location is remote from large cities. Meanwhile, tourism based on the eco-tours that utilize the wetland's unique fauna and flora was developed recently. Part of the wetland was listed as World Heritage in 2000, and the development of tourism was accelerated along the axes of main roads in the wetland. Estrada Parque in the south Pantanal and Transpantaneira in the north Pantanal are the main axes of development. This study examines the development of tourism in the Brazilian Pantanal by focusing on the management of accommodations such as Fazenda Pousadas (farm inns), hotels and anglers' inns that are located in the south Pantanal. To examine the accommodations, the author pays attention to five stages, i.e., circumstances of farms before the introduction of tourism, seasonal management of land and water, structure of farm facilities, types of ecotourism and their charges, and tourists and their home countries. Considering the regional differences of tourism in the south Pantanal, three types of regions are obtained as follows. (1) "Core region" is Estrada Parque in which various types of accommodations are accumulated. (2) "Peripheral region" is Nhecolândia where several farms introduced tourism after the 1990s. (3) "Outside peripheral region" is Paiaguás where ecotourism began after 2000. As the results of the examination, some characteristics that are in common with the tourist resorts including World Heritages are extracted, i.e., (i) progress in speculative management by the managers from outside of the region, (ii) difficulty in maintaining the quality of guides, and (iii) shifting to mass-tourism and changes in types of tourists. While these characteristics are applied mainly to the core region, the others are considered especially in the peripheral and the outer peripheral regions, i.e., (iv) changes in farm management from stock raising to tourism, (v) acceptance of side-job by cowboys as tour guides, and (vi) enlargement of disparity of development between the core region and the other regions. To make profitable proposals for endogenous and sustainable development of the wetland tourism, it needs to establish well-considered plans that will make the best use of the regional resources.
著者
山下 清海 小木 裕文 松村 公明 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-23, 2010

本研究の目的は,日本における老華僑にとっても,また新華僑にとっても代表的な僑郷である福建省の福清における現地調査に基づいて,僑郷としての福清の地域性,福清出身の新華僑の滞日生活の状況,そして新華僑の僑郷への影響について考察することである。 1980年代後半~1990年代前半における福清出身の新華僑は,比較的容易に取得できた就学ビザによる集団かつ大量の出国が主体であった。来日後は,日本語学校に通いながらも,渡日費用,学費などの借金返済と生活費確保のために,しだいにアルバイト中心の生活に移行し,ビザの有効期限切れとともに不法残留,不法就労の状況に陥る例が多かった。帰国は,自ら入国管理局に出頭し,不法残留であることを告げ,帰国するのが一般的であった。 1990 年代後半以降には,福建省出身者に対する日本側の審査が厳格化された結果,留学・就学ビザ取得が以前より難しくなり,福清からの新華僑の送出先としては,日本以外の欧米,オセアニアなどへも拡散している。 在日の新華僑が僑郷に及ぼした影響としては,住宅の新改築,都市中心部への転居,農業労働力の流出に伴う農業の衰退と福清の外部からの労働人口の流入などが指摘できる。また,新華僑が日本で得た貯金は,彼らの子女がよりよい教育を受けるための資金や,さらには日本に限らず欧米など海外への留学資金に回される場合が多く,結果として,新華僑の再生産を促す結果となった。
著者
山下 清海
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.32-50, 2009

本研究は,インドの華人社会の地域的特色について考察するとともに,コルカタのチャイナタウンの現状を記述・分析することを目的とした。インドの華人は,イギリス植民地時代の首都であったコルカタに集中してきた。広東省籍が最も多く,特に客家人が最大多数を占め,彼らの経済活動は皮革業と靴製造業に特化してきた。1962 年に発生した中印国境紛争に伴う両国の関係悪化により,海外へ「再移民」する華人が増加し,華人社会は衰退し,今日に至っている。インドにおいてチャイナタウンが唯一存在するコルカタには2つのチャイナタウンがある。ティレッタ・バザール地区は衰退しているが,中印国境紛争までは繁栄し,その名残として,会館,廟,華文学校などの華人の伝統的な施設が集中している。一方,タングラ地区は,近年の皮革業の衰退により,皮革工場から中国料理店への転換が著しく,今日では中国料理店集中地区となっている。