著者
山下 清海 小木 裕文 張 貴民 杜 国慶
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.95-120, 2013 (Released:2018-04-05)

ハルビン市方正県は,第二次世界大戦の終戦末期,満蒙開拓団の日本人が多数亡くなったところである。と同時に,終戦後,残留孤児・残留婦人として多くの日本人が現地に残されたところでもある。1972 年の日中国交正常化後は,方正県の中国残留邦人が,家族とともに日本へ帰国し,また同郷人を日本へ呼び寄せ,方正県は数少ない「中国北方の僑郷」とよばれるようになった。本研究では,方正県における現地調査にもとづいて,方正県がいかにして在日新華僑の僑郷に発展していったのかを明らかにすることを目的とした。日中国交正常化以後,日本人による水稲作の技術指導により,方正県の水稲栽培は飛躍的に発達し,良質の方正県産米はブランド米となっている。中国残留邦人の日本への帰国に伴い,血縁・地縁関係を利用して数多くの方正県人が親族訪問,出稼ぎ,国際結婚,留学などの形で日本へ行き,日本に定住または長期滞在するようになった。日本在留の方正県出身者の人口増加に伴い,方正県在住の親族への送金などによって,日本からの資金が方正県へ流入するようになった。地元政府も,僑郷の特色を活かした発展計画を進め,方正県の中心市街地も,日本との密接な関係を示す店舗や施設が多い。
著者
駒木 伸比古
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.222-235, 2018 (Released:2018-04-13)

本稿は,韓国において現在みられるような「割引店」を主とした大型店が業態として確立した背景を把握するとともに,立地状況を明らかにすることを目的とした。その際に,韓国における政策転換に伴う小売業に関する制度の変化との関わりにも注目した。そして韓国における流通業,特に大型店に関する規制の変遷を整理するとともに,韓国における大型店が業態としてどのように成立,成長してきたのかを検討した。さらに,地図化することで,現在立地している大型店の出店時期や規模について考察した。その結果,(1)大型店に関する流通規制の方向性が2010年前後に大きく変化したこと,(2)流通規制の変化に伴い,1990 年代にソウル大都市圏や広域市などに限定されていた大型店の立地が,2000年代に入り地方の小都市にまで全国展開していったものの,2010年代になると出店数が急激に減少し,立地も大都市圏付近に回帰しつつあること,の2 点が明らかとなった。
著者
福本 拓
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.197-217, 2015 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
3

本稿の目的は,大阪市生野区の今里新地を事例に,花街として栄えた地域がエスニック空間へと変容する過程を解明し,その含意を考察することにある。分析に際しては,在日朝鮮人による土地取得とその後の韓国クラブの集中経緯に着目し,①資本の由来,②建造環境の変容,③人口移動との関係,④既存住民との接点,の4 つの観点から検討した。1960 年代以降,花街の関係者から在日朝鮮人への土地移転が進み,特にバブル期以降は賃貸マンションに加えスナックビルも建設され,「ニューカマー」の経営する韓国クラブが急増した。その背景には,花街の衰退のほか,バブル期以前に形成された在日朝鮮人の遊興空間へのニーズ,そして韓国から移入された労働者が居住しうる住宅の存在があった。また,在日朝鮮人の土地取得過程では,エスニック・ネットワークを介した土地取引があり,民族金融機関による融資も一定の役割を果たしていたことを指摘できる。
著者
鹿嶋 洋
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.239-266, 2015 (Released:2018-04-04)

本稿は,大分県の半導体産業集積地域の特質を解明するため,その形成過程と企業間連関の空間構造を分析した。当県の半導体産業は,1970年の東芝大分工場の進出を端緒とする。東芝は進出当初から人件費削減のため労働集約的な工程を担う地元企業群を育成した。その後,生産の自動化とともに製造装置関連の地元機械加工業者や後工程専門の東芝子会社が協力企業となり,1990年代中期までに東芝の影響力の強い産業集積が確立された。しかしこの時点では県内の集積は技術的多様性を欠き,専門的な部門を県外,とくに京浜地域に依存した。その後,関連企業の増加と技術的多様性の高まり,東芝の影響力低下に伴う地元企業の自立化と企業間連関の広域化,後工程企業の淘汰・再編が進行した結果,当県の半導体産業集積は,局地的生産体系から,次第に地方新興集積へと移行しつつある。以上より,産業集積の実態解明に際し空間的重層性への留意が必要であることが示唆された。
著者
益田 理広
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.79-91, 2012 (Released:2018-04-11)

本研究の目的は「シュルレアリスム文学」である安倍公房『壁』を用い,その舞台となる都市に対する著者自身の地理的イメージを明らかにすることにある。シュルレアリスム文学は作為を極限まで除去するという特質を有するために,文学作品の分析においてより純粋な地理的イメージを得ることができると期待される。『壁』の分析に際しては機械的に「都市空間要素」に該当する語句を抽出し,その種類と出現数によって,そこに見出される都市イメージを確認した。この「都市空間要素」は,大きく3 つのカテゴリーに分かれており,各々のカテゴリーへの該当数によって都市イメージ解釈を可能とする。更にこの結果を,本作の主要概念の意味と関連させて解釈した。また,都市イメージを得た後には『壁』中の主要な概念の関係図を作成した。まず語句抽出分析の結果を述べると,語句数は合計977 個で特に灯火や光に関係するカテゴリーや固有地名のカテゴリーに該当する語句が少なく,そこから抽象的・匿名的な都市イメージが存在することが予想された。これに場面ごとの分析を施し,屋内に語句が集中することや語句数の少ない場面と多い場面が交互に現れることも明らかにした。その後,頻出語句や作中における「壁」「身の回り品」といった主要概念の意味解明を行い,『壁- S・カルマ氏の犯罪』における都市イメージの中心には「人間=壁」と「都市=世界」の対立が認められること,その周縁にはそれを象徴するかのような「砂丘」での「壁」の成長や都市社会的な「身の回り品」の反抗が存在することを示した。更に,それらのイメージの核として「拘束」「遮断」が内在していることを明らかにした。
著者
淡野 寧彦
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.21-43, 2016 (Released:2018-04-04)

本稿は,近年,急速に生産が拡大した飼料用米に注目し,飼料用米を活用した養豚業を含む耕畜連携が進展した要因と地域農業への影響について,首都圏の生活協同組合が中心となって取り組まれる「日本のこめ豚」事業を事例に考察した。飼料用米を生産する岩手県軽米町においては,長らく続く主食用米の生産調整に苦心し,かつ地域の主要農産物であるたばこ生産の減衰がみられるなかで,経営規模の異なる様々な農家にとって着手しやすい飼料用米生産が有効な手段の一つとなり,その作付が増加した。さらに経営規模の大きい秋田県鹿角市の農事組合法人においても,飼料用米生産は効率的な転作作物品目として歓迎された。そして,これらによって生産された飼料用米は,環境負荷の低減や商品の流通・販売情報の入手とその活用に積極的な秋田県小坂町の養豚業者によって活用され,その豚肉を販売する生活協同組合も,詳細な情報提供や産地見学などによって組合員である消費者からの評価を高め,販売が急拡大した。本事業の進展は,耕作放棄地の発生防止や飼料原料の自給率向上などの課題への対策を,消費者に「見える」さらには「見せる」ことによって具体化し,生産者らの取り組みへの共感をもたらした。飼料用米生産の継続は補助金交付を前提としたものであることは否めないが,複数の地域や異業種間,また消費者も含めた連携や連帯感の創出が,地域農業の新たな展開や存続に好影響をもたらすものと考えられる。
著者
池田 真利子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.145-164, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
11
被引用文献数
5
著者
市川 康夫
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.185-202, 2014 (Released:2018-04-05)

本研究は,19世紀末の紀行文『旅はロバを連れて』(R. L. スティーブンソン著)に着目し,フランス中央高地におけるランドネとツーリズムの関係を文化的資源とのかかわりから論じたものである。スティーブンソンの道は,フランスランドネ連合(FFR)によるルート整備が契機となり,スティーブンソン組合の結成によって実現した。組合はEUや国,地域からの補助金によって成り立ち,さらに営利を主目的としないことでオルタナティブなツーリズムが形成された。一方,ランドネ旅行者は,文化的資源だけではなくランドネを通じて得られる自己の体験,あるいはイメージに旅の動機を向けていた。まだ見ぬ土地への何かを求める欲求,そしてテロワールを感じる場所としての山村イメージが,セヴェンヌのランドネへと旅行者を駆り立てている。スティーブンソンの道は,ランドネ旅行者と文化,自然,テロワールとの相互作用の過程にあるツーリズムということができよう。
著者
坂本 優紀 猪股 泰広 岡田 浩平 松村 健太郎 呉羽 正昭 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.97-110, 2017 (Released:2018-04-12)
被引用文献数
1

本稿は,オーストリア・チロル州において実施された筑波大学の学部生向け巡検の事例報告である。海外巡検においては,言語環境や渡航手続きなど,日本国内での巡検と比較して困難が多い。しかし,景観観察や土地利用調査などのような言語能力をそれほど要さない調査手法を用いることで,その障壁を取り払うことができる。また,渡航地の地域事情を熟知した教員による事前・事後指導を必要十分に行うことで,現地でのトラブルのリスク軽減や教育効果の向上も期待できる。今回の巡検では,学生の調査成果を,TAの準備にもとづきながらGISを用いてまとめ,考察するようなレポートを課したことで,学生にとって既習の技能の確認の機会も得られた。以上のような工夫をすることで,大学教育における海外巡検を可能にし,国内巡検では得られない地理教育的効果を学生に与えるものと考えられる。
著者
宇野 広樹
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.51-65, 2021 (Released:2021-12-31)
参考文献数
35

本研究は,全国展開をしているビジネスホテルチェーン16社を対象にして,時空間的に出店戦略をパターン化・モデル化し,それぞれの特性を明らかにすることを目的とした。まず都市階層については,全体的に都市部への出店が多いが,地方小都市への出店が多いホテルも数社見られた。次に駅との距離については,多くのホテルが駅との近さが立地への重要な要因となっているが,地方型のホテルは駅から遠い結果となった。その一方で駐車場の多さに関しては,駅との距離と対比する結果となった。さらに役場との距離については,特異なホテルが数社見られた。そして全国展開パターンについては「ドミナントエリア拡大型」「都市階層型」「その他」の三つに大別された。これらを総括すると,「大都市指向駅近接型」,「都市分散駅近接型」,「都市分散CBD近接型」,「地方指向車主体型」の四つに類型化され,ホテルの経営形態がハード・ソフトともに多様化している現状が明確になった。
著者
堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.161-170, 2021 (Released:2022-04-04)
参考文献数
6

本稿は,ABSが提供する国勢調査のカスタマイズデータ(テーブルビルダー)を用いて,人口の急増に伴うメルボルン大都市圏の変容の一端を考察することを目的とした。大都市圏内の公共交通分担率の考察では,都心に近い部分では公共交通の利便性が光る一方で,自家用車による通勤に強く依存した地域が多数存在することの矛盾を明らかにした。また,一般にエスニックエンクレーヴは,かつて主流であったエスニック集団の大多数が郊外に住居を移す過程でその求心力を失い,衰退期を迎えることは珍しくない中で,メルボルン郊外のオークレイがギリシャ人コミュニティのセンターであり続けている過程を明らかにした。
著者
由井 義通
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.193-204, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
56

日本の都市地理学において研究蓄積が少ないのは,発展途上国をフィ−ルドとした研究である。インドはリサ−チビザの取得が難しく,地域調査が難しい。本報告の目的は,インドの都市研究を展望し,インドでの数次にわたる都市調査経験から,著者自身が試行錯誤した調査手法が,次世代のインドの都市研究の参考となるように地理学による海外都市研究の意義と課題について検討することである。
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
平岡 昭利
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.53-70, 2008

行為論で人間行動を解釈する視点から,明治期,日本人の南洋進出の行為目的は,アホウドリであったと想定し,それを追った行動が「帝国」日本の領域拡大につながったことを検討した。アホウドリは小笠原諸島では早くから認識され,1885 年頃には羽毛が外国に輸出されていた。鳥島でアホウドリ撲殺事業を始めた玉置半右衛門は,巨利を得て実業家となり榎本武揚などの南進論者と深くかかわっていた。当時,無人島開拓などの新聞小説が広く読まれるなか,開拓事業に成功した玉置は数々の書物に取り上げられ,無人島探検ブームの一因となった。このブームの中,アホウドリから莫大な利益がもたらされることを認識した人々は,当時の地図に数多く描かれていた疑存島の探検に競って乗り出し,権利獲得競争の果てというべきガンジス島問題も発生した。このようにアホウドリから一攫千金を目論む山師的な人々の行動が,「帝国」日本の領域を東へ,南へと拡大したことを明らかにした。
著者
中村 容子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.221-232, 2016 (Released:2018-04-04)
被引用文献数
1

本稿は,NHK大河ドラマを活用した観光振興について,大河ドラマ「功名が辻」(2006)と「龍馬伝」(2010)で舞台となった高知市を取り上げ,行政や関連団体の取り組みの違いが観光客誘致にどのように影響したかを明らかにした。この二つの大河ドラマは,誘客数と自治体の取り組みに違いが表れた。2006年は,土佐藩主の山内一豊を活用し観光振興を行ったが,観光客の増加は一時的なもので継続性はなかった。一方,2010年の坂本龍馬を活用した観光振興では放映前年から観光客数が増加し,放映後も観光客が漸増した。歴史上の人物である坂本龍馬を継続活用した自治体による観光振興は,観光客の継続的な誘致という点では,高知市の観光客誘致に一定の効果があったといえる。
著者
青木 茂治
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.175-188, 2009

本稿では,これまで研究事例として取り上げられなかった地方都市とその周縁地域における落書きの実態と特徴について提示することを目的とし,茨城県北部のトンネル内にみられる落書きの観察と分析を試みた。それにより,落書きはその描写内容から,表現型・記念型・イタズラ型・縄張り型に分類され,これらのうち,表現型と縄張り型の落書きが最も多くみられることが明らかとなった。表現型の落書きでは,監視性が高い大都市ではあまりみることのできない形態のものがみられることがわかった。落書きの描かれる場所や位置の検討から,落書きは「暗闇の空間」に対する行為者の意識の違いによって弁別的な分布を呈することが示された。落書きの発生はトンネルの構造的要因や周囲の環境などによって左右されることについても言及した。さらに,類似性を有する落書きが広範囲にわたってみられることから,行為者の移動性の高さをうかがうことができた。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
坂本 優紀 渡辺 隼矢 山下 亜紀郎
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-57, 2020 (Released:2021-02-28)
参考文献数
20

本稿では,長野県上伊那地域でみられる筒系噴出煙火の三国を地域文化として捉え,三国の伝播と利用形態の変容を明らかにした。伊那谷における三国は江戸時代に三河地方から伝わったとされ,各地域の神社の祭りで奉納されるようになった。現代でも駒ヶ根市以南では,主に神社の秋祭りで奉納され神事としての役割を担っている。第二次世界大戦後になると三国の利用地域が拡大し,それまで三国の北限であった駒ヶ根市より北にある宮田村と箕輪町で三国が放揚され始めた。宮田村では1962年に在来の祭礼に組み込まれる形で三国が奉納されるようになった。当初は祭礼を盛り上げることが目的であったものの,現在では神事としての意義づけがされている。一方,箕輪町では2000年代に地域イベントで放揚され始め,現在も神事としての役割はない。このように三国の拡大過程においてその意義づけは対象地域ごとに異なり,各地域それぞれの選択と解釈がなされていることが明らかとなった。
著者
金 延景 中川 紗智 池田 真利子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.247-262, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本稿は,東京都新宿区大久保コリアタウンにおけるエスニック空間の夜の性質を,夜間営業施設の利用特性の分析から検討した。大久保コリアタウンの夜間営業施設からは,昼間-夜間と,夕方-深夜-早朝の時間帯において,エスニック集団の実生活に依拠した本質的なエスニシティと,ホスト社会に期待される観光資源としてのエスニシティそれぞれの様相と遷移が看取できた。また,夜の大久保コリアタウンは,昼間の領域性を薄め,歌舞伎町との連続性を強めて再構築されると考えられる。この大久保コリアタウンの領域性の再構築は,形成初期より歌舞伎町の遊興空間と深く結びつき存在してきたエスニック・テリトリ−がホスト社会の管理により縮小されながらも,韓流ブ−ムに起因する大久保側の観光地化と,第二次韓流ブ−ムによりもたらされた夜間需要の拡大といった外的要因により,そのエスニシティの境界が維持された結果と理解される。さらに,この領域性を歌舞伎町と大久保コリアタウンの境界域として捉えるならば,日本の盛り場的要素と韓国のエスニシティが交差した新たな文化的アイデンティティを有する「第3の空間」として新宿の夜の繁華街を構成し,その新たな都市文化の創造に寄与しているといえよう。
著者
池田 真利子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.67-84, 2017

東京五輪開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなか,ナイトライフ観光への注目が高まりつつある。本研究は,プレ五輪,ポスト五輪における東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,世界のナイトライフ研究・ナイトライフ観光研究の動向とその具体性に関して展望を行った。その結果,同研究は2010年代以降増加しつつあるが, アジア圏と欧米圏とでナイトライフの語義が異なり,前者はより広義であるのに対し,後者ではナイトクラブやバーといった特定の観光資源を意味する点,また飲酒やパーティ等の観光行動と結び付くため若者集団に特徴的な観光形態として広く認知されている点,観光地域により観光形態は個人・ツアー観光など多様である点等が明らかとなった。プレ五輪における風営法改正や,ポスト五輪のMICE観光振興・IR推進法成立の背景には観光を巡る都市間競争の熾烈化も窺え,東京のナイトライフ観光は今後より一層変化を遂げる可能性がある。