著者
首藤 光大郎 横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.47-51, 2018-03-31

2017年9月に岸和田市久米田池において,大阪府新産となるリュウノヒゲモの生育を確認した.池南部を中心に調査を行った結果,本種は調査ルート沿いにおいて広く点在しており,特に南岸周辺で特に高い密度で生育していた.クローナル植物であるため正確な個体数は不明であるが,膨大な現存量をもつと考えられる.久米田池では過去に水生植物の生育が見られなかった時期があり,本種は過去の調査が行われた1989年以降に,水鳥によって散布・定着した可能性がある.
著者
奥村 潔 石田 克 樽野 博幸 河村 善也 Kiyoshi Okumura Shinogu Ishida Hiroyuki Taruno Yoshinari Kawamura 岐阜県博物館 大阪市立自然史博物館 愛知教育大学 Gifu Prefecture Museum Osaka Museum of Natural History Aichi University of Education
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.70, 2016-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つである.この洞窟の化石堆積物の発掘調査は主に1965年から1981年まで行われ,保存のよい大型シカ化石を含む多数の哺乳類化石を産出した.本報告では,大型シカ化石の詳細な記載を行うが,これによりほぼ同じ大きさのヤベオオツノジカ(Sinomegaceros yabei)とヘラジカ(Alces alces)という2種の大型シカの区別を明確にする.日本においてこの大型シカ2種はしばしば混同されてきたが,骨および歯の特徴からこの2種の識別を行う.また,主に角の形態的特徴に基づき,ヤベオオツノジカが中国産Sinomegacerosの種とは別個の日本固有の種であることを確認する.さらに,歯の萌出と咬耗の程度に基づいて2種の大型シカの年齢構成も明らかにする.
著者
樽野 博幸 石田 克 奥村 潔
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.81-151, 2018-03-31

熊石洞は日本の代表的な後期更新世の哺乳類化石産地の一つで,29種が知られている.本稿 ではこれらの中で,ヒグマ Ursus arctos,トラ Panthera tigris,ナウマンゾウ Palaeoloxodon naumanni, カズサジカCervus(Nipponicervus)kazusensis,ニホンカモシカ近似種Capricornis sp., cf. C. crispusの 記載を行った.トラとカモシカ属の化石は,熊石洞からは初めての報告である.その中で,以下の 点について議論し見解を明らかにした.1ヒグマUrsus arctosとツキノワグマU. thibetanusとの上顎 第4小臼歯における識別点,2ナウマンゾウ Palaeoloxodon naumanni の第3・第4乳臼歯と第1大臼歯の 咬板数,3中型シカ類ではカズサジカ Cervus(Nipponicervus)kazusensis のみが産出し,ニホンジカ Cervus(Sika)nipponの産出は確認できない,4ニキチンカモシカNaemorhedus nikitiniはゴーラル属 Naemorhedus ではなくカモシカ属 Capricornis に属する,5日本の更新世のカモシカ属は,現生のニ ホンカモシカより大型である.
著者
山ノ内 崇志
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.23-30, 2022-03-31

奄美大島・加計呂麻島において 2018年のセイヨウミズユキノシタの帰化状況を調査した.奄美大島の中部に16集団が認められ,そのうち 2集団は1,000個体を越える大きな集団であった.本種の生育環境は光条件,水分条件ともに非常に幅広く,緑地,グラウンド,路傍,未舗装道路,溝,水路などに陸生,抽水および沈水状態で生育していた.各地で開花・結実と実生個体が確認され,本種は種子繁殖で分布拡大していると考えられた.セイヨウミズユキノシタは生態系被害防止外来種リストの掲載種ではないが,本研究の結果から亜熱帯気候下において侵略的にふるまう可能性が示された.今後の分布拡大を警戒するとともに,奄美諸島における生態系への影響に注意する必要がある.
著者
伊藤 昇
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.1-13, 2022-03-31

台湾のツヤゴモクムシ属(Gen. Trichotichnus)のleptupus species groupのうち,Trichotichnus lulinensisおよび近似2既知種の図示とともに,次の5新種を報告する:Trichotichnus(Trichotichnus)alessmetanai N. Ito, sp. nov. from Mt. Yushan [玉山], T. (T.)fumiakii N. Ito, sp. nov. from Tayulin [大萬領],T(. T.)similaris N. Ito, sp. nov. from Tsuifen [翠峰], T(. T.)lishanensis N. Ito, sp. nov. from Mt. Lishan [梨山],T. (T.)nitidipennis N. Ito, sp. nov. from Sungkang [松崗]. T. alessmetanai は,2021年8月にご逝去された,ハネカクシ研究の世界的権威でいらっしゃったカナダの Dr. Aleš Smetana氏に因む.氏は多くの研究材料を著者の研究のために供与くださった.ご生前の多大なご功績称賛と標本ご供与への深謝の意を表して献名した.
著者
浜田 信夫 佐久間 大輔
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.161-166, 2018-03-31

大阪市立自然史博物館でカビ汚染の状況をモニタリングするため,収蔵庫や展示室などで落 下カビの調査を行い,以前行った寺社の収蔵庫での落下カビの調査の結果と比較した.大阪市立自 然史博物館の落下カビ数は,寺社の場合に比べて,非常に少ないことが明らかになった.寺社の空 調を施していない部屋に比べて1/100以下に,空調のある部屋に比しても1/30以下だった.また,収 蔵庫内部で生育したとみられるカビは見られなかった.その理由として,博物館の収蔵庫は年中温 湿度が20°C,55%に自動制御されていることが原因であると思われる.
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
no.75, pp.107-111, 2021-03-31

2020年に入ってから,全世界的に新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっている.日本国内 において,新型コロナウイルス感染症拡大防止のために,春の半自然草原の火入れを中止した地域が 多数見られた.感染症が草原の管理に影響を与えた記録は重要だと考えられるため,インターネット 上で見つけられた新型コロナウイルス感染症に関連した火入れの中止について記録した.2020年2月下 旬から5月中旬にかけて,Google や Twitter・Facebook などの SNS で,「火入れ」「野焼き」「山焼き」「ヨ シ焼き」「コロナ」「中止」などのキーワードを任意に組み合わせて検索し,新型コロナウイルス感染 症の影響で中止になった日本国内の火入れを記録した.その結果,14道府県18ヵ所の草原で火入れが 中止になっており,4県4ヵ所の草原で制限付きで火入れが実施されていた.これら,新型コロナウイ ルス感染症による半自然草原の火入れの中止は,草原の生物多様性や翌年以降の安全な火入れに影響 を及ぼす可能性がある.
著者
鳴橋 直弘
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
no.74, pp.17-21, 2020-03-31

日本産のバラ科キイチゴ属,トゲナシヒメバライチゴ,チチジマイチゴ,シモキタイチゴ,及びタイワンヤブイチゴの学名についての報告である.
著者
初宿 成彦
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.19-31, 2018-03-31

日本産トウヒ属6種の樹上には,9種のカサアブラムシにより,13種類の虫えいが形成される.トウヒ属の1樹種に対し,複数のカサアブラムシが虫えいを形成する場合でも,カサアブラムシの同一種が複数のトウヒ属樹種に虫えいを形成する場合でも,相互に虫えいに形態差が生じる.植物の種同定は従来から用いられてきた枝・葉・球果よりも,カサアブラムシ虫えい形態を用いたほうがより容易で,化石で産出した場合にトウヒ属の種同定が期待できる.第2世代成虫が羽化・脱出した後の乾燥した状態の虫えいについて,形態の記載を行い,分布地,宿主種,検索表を示した.
著者
鳴橋 直弘 久米 修
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.13-18, 2019-03-31

バラ科キイチゴ属ゴショモミジイチゴが香川県仲多度郡まんのう町で発見された.山口県,高知県に次ぐ第3番目の産地である.前2産地には両親種のモミジイチゴとゴショイチゴが生育しているが,今回の香川県にはゴショイチゴは分布していない.また,山口県の集団や高知県の集団は開花はするものの,不稔で果実は見られないが,香川県産には果実が見られた.そこで,両親種と小核について比較した.山口県の産地は2倍体であるが,香川県の産地は果実があることから,3倍体の可能性が示唆された.
著者
山本 好和 高萩 敏和 坂東 誠 河合 正人
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.107-114, 2019-03-31

近畿地方の地衣類相を明らかにする一環として,北摂山系の南山麓に位置する箕面市箕面公園を調査し,ホシゴケ綱およびチャシブゴケ綱,ホソピンゴケ綱,ユーロチウム菌綱に属する18科38属54種を確認した.ツブレプラゴケとザクロゴケの2種が近畿地方で初めて確認された.
著者
末次 健司 福永 裕一
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.19-21, 2019-03-31

大阪市立自然史博物館標本庫(OSA),首都大学東京牧野標本館(MAK)と鹿児島大学総合研究博物館植物標本室(KAG)における標本調査の結果,鹿児島県の奄美大島,中之島および黒島で採取されていたムヨウラン属の未同定標本のなかに,ムロトムヨウランを見出すことができた.これらは,黒島,中之島および奄美大島におけるムロトムヨウランの初記録となる.本種は,閉鎖花のみをつけるクロムヨウランの開花型の変種であるトサノクロムヨウランやヤクムヨウランに似るが,1)花茎がより長い,2)花序がより長い,3)萼片および花弁の幅がより狭い,4)唇弁の先端部がごくわずかに3裂する,5)蕊柱の長さの3/5–2/3程度が唇弁と癒合する,6)結実時の果実の色が茶褐色である,7)蒴果が斜上に着く,等の特徴から区別が可能である.