著者
谷口 尚子 クリス・ウィンクラー
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_128-1_151, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
34
被引用文献数
1

政治家や政党が提示した選挙公約を計量的に分析し、政治の対立軸を析出することがある。ただし特定の国や時期の選挙公約を分析するために最適化された手法は、他の手法との接合や長期間の時系列比較・国際比較に難がある。これを目指した選挙公約コーディング法に、Manifesto Research Group/Comparative Manifesto Projectの手法がある。本研究では、日本の1960~2014年総選挙時の主要政党の公約等を同手法でコーディングし、一次元また二次元 (政治・経済) の左右対立軸を析出した。それらの軸上における政党の位置の変化を確認したところ、日本の主要政党は全体として右に移動し、保守政党には経済自由主義化、革新政党には政治的穏健化が見られた。また、米英独の二大政党と日本の最大与野党とを合わせて左右対立軸を析出して変化を確認したところ、米英日は共通して1980年代に保守化し、2000年代に英独日の政権政党の公約が中央に収斂するなど、連動した動きも見られた。また日本の自民党はやや右傾化しているが、西側主要国の中ではなお中道右派程度の位置取りであることが示された。本コーディング法や分析手法には普遍性の面で課題があるものの、国際的・長期的に日本の政党の政策位置や変化の特徴を捉えることができた。
著者
井上 彰
出版者
JAPANESE POLITICAL SCIENCE ASSOCIATION
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.2_276-2_295, 2008 (Released:2012-12-28)
参考文献数
21

Left-libertarianism has attracted our attention as one of the powerful strands of political philosophy. Left-libertarianism endorses the thesis of self-ownership and reinterprets the Locken proviso in an egalitarian manner. It holds, roughly, that while people own their mind and body, unowned resources should be distributed equally among them.   This paper attempts to specify the merits and limits of left-libertarianism. On the one hand, left-libertarianism has two merits. First, left-libertarians demonstrate the possibility of justice as a system of perfect duties in such a way that the thesis of self-ownership is reasonably weakened. Second, the left-libertarian (re)interpretations of the Lockean proviso lead us to see the plausibility of the proviso as an egalitarian principle of justice. On the other hand, there are two problems with left-libertarianism. First, some inequalities resulting from the difference of people's native endowments are left unattended in the left-libertarian argument, mainly because left-libertarians fail to distinguish voluntariness from non-coerciveness; the thesis of self-ownership guarantees the latter, not always the former. Second, left-libertarianism is vulnerable to real-life uncertainty. Given that uncertainty is a characteristic trait of our market society, this implication seems fatal to the left-libertarian argument.
著者
中島 琢磨
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_137-1_158, 2019 (Released:2020-06-21)

日本は1952年に念願の主権回復を果たしたが、その後も政府・与党内では独立の実質化が重要な外交テーマとなった。本稿では安保改定と沖縄返還の二大交渉に着目し、これらに向けた日本政府の取り組みのなかで浮上した、核兵器の持ち込み問題に関する複数のフォーミュラの作成経緯と内容を検討する。そこから、独立の実質化をめざした戦後日本外交の取り組みの一斑を示したい。 安保改定交渉と沖縄返還交渉では、①占領に由来する米国との不平等な関係を是正する国権回復の問題と、②冷戦下の米国の軍事活動に対する日本の協力のあり方とが同時に争点化し、かつそれらが複雑に関係し合っていた。とくに②の問題に関して米国側には、日本での核兵器の貯蔵および一時持ち込み、ならびに在日米軍の外国への出撃を自由に行いたいという本音があった。日本政府はこうした米国の本音を見据えつつ、複数のフォーミュラを検討し、高度な政治判断を重ねていたのである。本稿では、新たに公開された外交文書や口述記録も踏まえながら、核のフォーミュラの経緯を検討する。そのうえで、「独立の実態化」 という問題が未完の問いとして沖縄返還後も残った可能性を指摘する。
著者
濱野 靖一郎
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.1_316-1_340, 2018

<p>科挙の無い徳川日本に於いて, 儒学は出世に必須ではなかった。幕末の能吏・川路聖謨も, 勘定所での実務能力で異例の昇進を果たした。しかし川路は数多くの儒者・蘭学者と交流し, 並の儒者では到底及ばない程の学識を持っていた。川路 (つまりは侍官僚) に於ける学問の意義が, 本稿の課題である。</p><p> 川路は徳川家康を堯舜以上の名君とし, 「武士」 の理想を追求する (「聖人」 を目指してはいない)。川路の 「実用の学」 とは, 「修己治人」 を旨とした朱子学的 「実学」 ではなく, 「武士」 が 「御役目」 を適切に遂行する知見として 「実用」 か, との意味であった。そのため川路は朱子学に止まらず, 徂徠学や頼山陽の著作も精力的に読み込んでいく。</p><p> 『寧府紀事』 に於ける御白洲と学問所の運営の記述を検討すると, 川路は朱子学関連の書を広く読み参考としながら, それとは異なる結果主義的な判断を多く下していた。更に理想的な統治者として, 法律の厳正な運用を行った子産や諸葛孔明を挙げる。川路にとって儒学も, 実務経験を基に取捨選択するものに過ぎない。それが儒者ならざる 「武士」 である川路の, 学問の活用であった。</p>
著者
木山 幸輔
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1_170-1_190, 2015 (Released:2018-06-10)
参考文献数
48

This paper analyses the influential aid approach that bases itself on social experiments in which two components are distinguished. The first component is the accumulation of empirical knowledge through social experiments. Taking up randomized controlled trials, this paper measures the limits of social experiments and insists that they should be supplemented by qualitative and social structure inquiries. The second component is the design of aid programs using the idea of libertarian paternalism. Analysing the cases that utilize the idea, this paper argues that the application of libertarian paternalism can make the unendorsed conception of good life as its premise and that it causes problems stemming from depoliticizations of political judgments. Based on these arguments, this paper elucidates the meaning of the composition of the two components, arguing that it would bring serious transformations of maintained rationality in sosummaries cieties and deprive aid-receiving people of their political autonomies. This paper concludes by offering suggestions for desirable aid approach.
著者
奥 健太郎
出版者
JAPANESE POLITICAL SCIENCE ASSOCIATION
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.226-259,267, 2006 (Released:2010-04-30)

The Green Breeze Society (Ryokuhukai), formed by the Councilors without affiliation to any particular political party, was the largest faction in the House of Councilors at the time of its establishment. However, it gradually declined to the point at which, after a second election, the majority of Councilors had affiliated with political parties. The existing literature regarding this gradual change focuses on the process of the demise of the Green Breeze Society. This paper, in contrast, pays particular attention to the Liberal Party's (Jiyuto) role in promoting affiliation by the Councilors with the Party. Specifically, this paper sheds light on a vote-gathering base and discusses why the Liberal Party won the second election in a nation-wide constituency.This paper concludes by identifying the following two reasons of the Liberal Party's advance. First, the Liberal Party was able to recruit candidates from among those who had national support bases, such as senior bureaucrats and CEOs, and to mobilize broad supporter bases. Second, the Party enabled its prefectural branches to support their local candidates and translated such local support to an election result at the national level.
著者
鷲田 任邦
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.1_81-1_104, 2021 (Released:2022-06-15)
参考文献数
35

本稿の目的は、政治的分極化 (党派的分断) がどのように民主主義を後退させるかを明らかにすることである。そのために、多国間パネルデータ (140国、1975~2019年、V-Dem/V-Party) と地域横断的なサーベイデータ (74国、2010~2020年、WVS/EVS) を用いて、マクロ・ミクロな観点から体系的分析を行う。まず、多国間データ分析を通して、エリートレベル・有権者レベルの政治的分極化が選挙の正統性を低下させ、民主的規範を軽視する非リベラル政党の政権獲得・維持に寄与すること、そうした非リベラル政権が民主主義 (特に司法・議会・メディアの自立性や法の支配) を浸食することを示す。そのうえでサーベイデータ分析を通じ、政治的分極化が選挙公平性認識の党派間のギャップ (与党支持者は選挙の公平性を高く評価し、野党支持者は選挙不正を疑う) を拡大するだけでなく、たとえクリーンな選挙を実施したとしても選挙が公平であるという認識を全体的に低下させること、そして、選挙の公平性認識の低下は、政治暴力や権威主義 (強権的リーダーや軍政) の許容につながることを示す。本稿ではさらに、政治的分極化の拡大要因 (選挙タイミングや政権汚職) や政治制度 (議院内閣制や小選挙区制のリスク) が民主主義の後退に与える影響なども検討する。
著者
秦 正樹
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1_166-1_188, 2022 (Released:2023-06-16)
参考文献数
38

本稿は、ドラマにおける架空の政治劇の偶発的な視聴が、実際の政治空間に対する不信感に対して、なぜ・どの程度投影されるのかについて、ドラマ「半沢直樹」(第2クール)をテーマとしたサーベイ実験を通じて検証した。従来、テレビが有する政治的効果に関する研究は、政治報道など「政治性がある」ことを前提としたコンテンツを中心に検討が進められてきた。しかしこのような研究では、選択的接触などの問題があって、テレビ→政治的態度の明確な因果効果の検証はなされてこなかった。そこで本稿では、極めて高い視聴率を誇る「半沢直樹」において偶然に接触した政治家像が、現実の政治的空間にも影響を与えうるとの仮説を立てて、その検証を行った。実験結果より、「半沢直樹」で描かれる「悪い政治家」への接触は、現実の政治世界における政治家への不信感をも喚起していること、ただし政治的無関心層では、逆に「半沢直樹」の視聴が政治家への信頼感を高める効果を有することが明らかになった。
著者
福原 正人
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.2_224-2_245, 2018 (Released:2021-12-26)
参考文献数
47

民主主義は, どういった決定単位を採用するべきなのか。こうした問いは, 意思決定の母体集団, つまりデモスを特定する課題として, 「民主主義の境界問題」 と呼ばれる。しかし, 同意という現実の手続きは, その個別性ゆえに, 正しいと評価しえない母体集団を特定する一方, 集団構成や行為主体性に注目する境界画定の正当性は, その一般性ゆえに, アジェンダごとの考慮事項に耐えられる母体集団を特定できない。そこで本稿では, D. エストランドが定式化する 「適格な受容可能性」 という正統性条件を参照しながら, アジェンダごとの考慮事項を織り込む仮説的な手続きが, アジェンダごとの母体集団内部における意思決定のみならず, 意思決定の母体集団それ自体を構成する作業に適用されることで, 境界画定の正当性を担保する 「理に適った境界画定」 を構成することを擁護したい。
著者
池田 峻
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.1_316-1_340, 2020 (Released:2021-06-16)
参考文献数
22

代議制民主主義において、有権者から選出されていない官僚を政治家はいかに統制しているのだろうか。本研究は、政治家が審議会への諮問の強制という手段を用いて統制を行っていると主張するものである。 審議会は行政の民主化などを目的に設置される行政機関であるが、その実態は官僚が望む政策を追認する 「隠れ蓑」 に過ぎないという見方が根強く残る。これに対し本研究は、政治家が法令に 「○○審議会に諮問しなければならない」 旨 (これを手続的指示と呼ぶ) を書き込むことによって、官僚の逸脱を防ごうとしている側面があることを示してゆく。 では、いかなる条件で手続的指示が行われるだろうか。本研究ではゲーム理論を用いて政権党・官僚制・審議会の関係を定式化し仮説を導出したあと、2002年時点に存在する全ての審議会を対象とした計量分析によってそれを検証する。 分析の結果、①政官の理想点の乖離が大きい、②審議会の権威が小さい、③審議会と政権党の理想点が近い、④政権党が現状の政策に不満を持っているという四つの場合においてより多くの手続的指示が行われることが明らかとなった。この結果から、官僚は政権党の戦略によって審議会を利用させられており、審議会が統制手段として用いられているという見落とされてきた側面が浮かび上がる。