著者
田中 政司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.296-300, 2017-06-01 (Released:2017-06-01)

日本語の電子資料の少なさについてはすでに様々な場所で議論がなされている。著者は「ジャパンナレッジ」の運営に携わって今年で18年を迎えるが,その間,海外の図書館,日本資料に関わる方々から,資料の充実について切実な要望を受けてきた。一方で,国内の出版社とのやり取りを通じ,ビジネス的な側面から電子化が思うように進まない実態も目の当たりにしてきた。ちょうど両者の間で,妥協点を見出すような仕事をしてきたのではないかと感じている。そうした立場から,海外における日本語電子資料の課題と展望を述べさせていただきたい。
著者
植村 八潮
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.2-7, 2017-01-01 (Released:2017-01-01)

電子書籍の登場と普及が,印刷技術と物流,物販を基本構造とした産業構造に変革を迫っていることは疑いもない。同時に出版物が担ってきた重要な役割である学術情報の流通や文化的蓄積にも影響を与え,ひいては図書館のあり方や制度設計も変わらざるを得ない。本稿の目的は,普及が進まないと指摘される電子書籍の現状について解説し,さらに図書館サービスに及ぼす影響や求められる対応について検討することにある。電子書籍がビジネス競争の単なる道具として利用されるのではなく,学術と文化の発展に寄与するためにどのような方策をとるべきか。現状分析により課題を明らかにし,その上で目指すべきあり方を検討する。
著者
古崎 晃司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.633-638, 2017-12-01 (Released:2017-12-01)

LOD(Linked Open Data)はWeb上のオープンデータを相互に“つなげる”仕組みとして広く普及し,多くのLODが公開されている。LODの普及には様々なコミュニティ活動が関わっており,国内ではデータを公開する研究分野ごとのコミュニティに加え,分野によらないLOD技術普及のための活動も行われている。本解説ではその一例として,筆者が携わってきたLODハッカソン関西を中心として,コミュニティ活動を通して生まれたLODの活用事例を,アイデア・データ・技術の“つながり”という観点から紹介する。
著者
大向 一輝
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.495-500, 2010
参考文献数
11
被引用文献数
1

本論文では,学術情報サービスのメタデータ活用事例として,国立情報学研究所が運営する論文情報ナビゲータCiNiiにおいて,メタデータがどのように設計・提供されているかについて述べる。CiNiiのメタデータはウェブAPIとしての側面を重視し,OpenSearchやRDFなどのウェブ標準に基づいて設計されている。また,論文情報における著者名典拠が存在しない問題については,機械処理とユーザ参加による著者IDの自動生成を行っている。これらのメタデータは外部サービスとの連携や書誌情報の再利用のために用いられており,メタデータへのアクセスはCiNiiの総アクセス数の30%〜40%を記録するに至っている。
著者
増井 ゆう子 山本 和明
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.169-175, 2015-04-01

国文学研究資料館(NIJL)では,向こう10年間にわたる大型プロジェクトが始まった。計画名称は「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」である。古典籍の画像データベース構築に加えて,それを研究資源とした国際共同研究を実施していく。今後は異分野との融合研究を視野に入れた,より意欲的な共同研究の展開に努めることになる。本稿では,国文研が継続的に実施してきた古典籍の調査収集事業を経てこのプロジェクトがあることや,これまで構築してきた古典籍の書誌データが土台となることについて述べ,かつ今後の展望を紹介したい。
著者
藤田 壮介
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.434-439, 2012
参考文献数
17

国立国会図書館憲政資科室は,「憲政資料」「日本占領関係資料」「日系移民関係資料」という三つのコレクションを有している。それらの資料の収集を始めた時期,きっかけはそれぞれ異なるが,現在まで継続的に収集・整理を進めてきている。所蔵資料の中身を一括して検索する手段は整っていないが,徐々に目録のweb公開数を増やすなど,憲政資料室外からの検索手段の充実にもつとめている。検索のための目録だけでなく,それぞれの資料群の概要もできる限り公開し,直接当室に来なくとも参考情報を得られるようにもしている。今後は,検索手段のさらなる充実と,資料のデジタル公開が課題となっている。
著者
長神 風二 池城 かおり
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.238-243, 2011-06-01
被引用文献数
2

科学研究を,その進展の過程から社会と共有することを目指すサイエンスコミュニケーションと,知の蓄積と流通を担う図書館の活動との間には,共通点も多い。本稿では,まず,図書館やサイエンスコミュニケーションについて考えてきた筆者が,2011年3月11日の東日本大震災を直接的に経験することで得た知見を体験談として記す。非常時に,生命と直結する情報をどう扱っていくかは,双方の専門家にとって重い課題である。図書館とサイエンスコミュニケーションの相互の専門性を協創的に用いることで,学術的な研究成果の発表システムの刷新など,新規の学術の可能性を拓く可能性があることを示唆する。
著者
森實 彩乃
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.223-229, 2014-06-01

近年,安価な労働力として学生を雇うアルバイトとは一線を画し,学生と職員が協働して図書館を運営する学生協働という取り組みが注目され,多くの大学図書館で実施されている。筆者も大学在学中に学生協働を経験した一人だ。その時に得た経験から大学図書館員という仕事に興味を持ち,母校の大学図書館に就職して今年で3年目になる。本稿では,学生時代の実体験を振り返りながら,学生協働の意義と課題について考察するとともに,図書館員になるための最近の勉強法や,図書館員として実際に働いてみて感じたこと,図書館員の将来について思うことを述べる。
著者
佐藤 翔 逸村 裕
出版者
情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.144-150, 2010

機関リポジトリ(IR)とオープンアクセス(OA)雑誌はBudapest Open Access Initiative(BOAI)を背景に普及してきた。本稿では両者の現状をBOAIの理念と持続可能性の観点から検討する。現在のIRとOA雑誌は, BOAIが挙げる3つの障壁のうち法の壁や技術の壁への対応に問題がある。持続可能性については継続的なコンテンツ収集のために,IRでは研究活動の中に埋め込まれること,OA雑誌では質を維持しながら多くの論文を掲載することが重要となる。また,BOAIは「研究の加速」などをOAの実現の目的としているが,IRとOA雑誌にはこれを損なう危険性もある。
著者
松崎 裕子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.10, pp.422-427, 2012
参考文献数
31

組織アーカイブズとしてのビジネス(企業)アーカイブズは「多様な価値を持つ経営資産」である。現在国内外では,組織内アーカイブズの価値を高め,それを通じた親組織の経営の質の向上に寄与するアーカイブズの活用が進められつつある。一方,記録管理(レコードマネジメント)とアーカイブズを結び付けるレコードキーピングの未確立,組織内アーカイブズへのアクセスに関する相反する考え方の存在,アーカイブズ理念とそれに連動する評価選別に関する考え方の未整理,アーカイブズ担当者(アーキビスト)が業務に精通し付加価値を生み出すための教育研修のあり方,海外現地法人のアーカイブズ管理の困難さ,といった課題が存在している。
著者
鹿島 みづき
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.307-318, 2003-06-01

2002年10月にNIIメタデータデータベース共同構築事業のスタートとともに,日本でもメタデータという言葉を耳にする機会が増えた。しかしその意味が本当に理解され,浸透するまでにはまだ時間かかかるように思える。メタデータと図書館目録が今後どのような形で共存していくのかも図書館の現場では未だ不透明な部分が多い。そのような中,米国議会図書館から新たなメタデータの開発が明らかにされた。MODS, Metadata Object Description Schemaである。本稿ではその開発の中心的な人物Rebecca S. Guenther氏によるMODSの紹介論文に焦点を当てながらMODSとはどのようなメタデータなのか,なぜ開発されたのか等を解明する。その際,日本で多くの図書館プロジェクトが採用するダブリンコアとの比較を中心にメタデータの図書館との関わりを整理したい。MODSが主張する,古くて新しい図書館の概念は今後どのように日本を含む世界の図書館コミュニティに受け止められるのか,興味深いところである。
著者
藤倉 恵一
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.342-347, 2012-08-01
参考文献数
18

図書館においては,個人情報保護法の施行後も個人情報の流出・漏洩や紛失に関する事件・事故は後を絶たず,相当件数が発生している。個人情報の盗難や紛失だけでなく,図書館システムの不備に起因する情報流出事故も発生した。また,名簿などの個人情報を含む資料の扱いは図書館によって大きくゆれており,事件や報道の影響を受けて提供制限や受入停止をするなど図書館の根本的役割を自ら否定するような運用も少なくない。本稿では,図書館業務実務における個人情報保護のあり方について,図書館の基本理念である「図書館の自由に関する宣言」の視点を含めて検討する。
著者
山名 早人
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.343-348, 2011-09-01
参考文献数
22

近年のウェブサーチエンジンは,その検索結果ページに様々な情報ソースからの検索結果を統合して表示する。統合される情報ソースは,ウェブページだけではなく,ニュース記事,ブログ記事,画像,動画,Twitterなどのリアルタイム情報などである。しかし,こうした様々な情報ソースからの検索結果は常に表示されるわけではない。ウェブサーチエンジンは,どのクエリに対して,どの情報ソースを対象に検索し,どの検索結果を統合すべきかを判断している。本稿では,こうしたウェブサーチエンジンにおける統合検索で用いられている技術とその評価手法を紹介すると共に,統合検索の今後について述べる。
著者
鈴木 正紀
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.146-153, 2011-04-01
被引用文献数
1

大学図書館員の持続的成長に必要な要件について検討を行った。以下の3点に言及した。(1)どういった知識や技能が必要か,(2)それらをどういった方法で学んでいくか,(3)成長を可能とするための基本的態度。(1)については,LIPERの大学図書館班による知見とその構造的把握に資するCILIPによるBody of Professional Knowledgeおよび国立大学図書館協会人材委員会による「コンピテンシー・モデル」をとりあげた。(2)については,(i)外部の情報を積極的に取り込むこと,(ii)仕事に関連した資格取得,(iii)大学院での研究,(iv)そして身近なところでできる日常的努力の方法等について触れた。(3)については,仕事に対するビジョンを持つことと,人とのゆるいつながりを維持することの重要性を指摘した。
著者
小島 浩之
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.42-48, 2010-02-01

資料保存を指す言葉にプリザベーション,コンサベーションがあり,これらは,戦略や戦術などと近似する意思や方向性の決定を伴う概念である。本稿では資料保存における意思決定プロセスに着目し,日本の図書館における資料保存について分析し,その留意点や問題点の整理を試みる。まず種々の保存に関する理論的枠組みのうち,主要なものをとりあげてこれらが現在の資料保存の枠組みに与えた影響の大きさを考察する。その後,実際の保存計画の立案や保存対策のおける意思決定プロセスに焦点を絞り,資料保存の理論的枠組みがどのように利用されているかを概観する。
著者
前田 朗
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.615-620, 2008-12-01

東京大学情報基盤センターが主催する「図書系職員のためのアプリケーション開発講習会」は,各受講生が企画・開発した図書館関連アプリケーションをWeb上で試行公開している。っまり,職員の学習の場に留まらず,新しい利用者向けサービスや業務効率化のツールを内製によりローコストで提供する場としても機能している。講習会成果のうち,情報のファインダビリティ向上を実現するサービスには「東大版LibX」「東京大学OPACウィジェット」「My UT Article Search」「東京大学OPAC Plus"言選Web"」などがある。大学図書館において,ローコストでも実現可能なファインダビリティ向上の機会は多く,取り組みの意義がある。
著者
木村 弘志
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.28-33, 2024-01-01 (Released:2024-01-01)

本稿では,特に研究支援の分野において,大学経営人材が担うことが期待されている業務と,そのキャリア・育成について考察した。大学経営人材が担う研究支援業務の範囲は,URAの中核業務以外にもわたり,より幅広くなっている。そのような業務を遂行するうえでは,「多様な専門性が必要となる業務を遂行する能力」「研究そのものや,研究に関連する諸活動の理解」が必要となる。そして,そのような能力を身につけるためのキャリア・育成について,事務職員出身者と教育職員出身者という出自の異なる2つのルートに分けて考察し,それぞれがキャリア内で身につけうる能力と,各種教育プログラムで補うべき能力について論じた。