著者
岸田 和明
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.62-67, 2007-02-01
被引用文献数
2

本稿では,シソーラスや件名標目表をはじめとする統制語彙に関して,その基本的な機能や限界を整理した上で,インターネットが高度に発達し,サーチエンジンが広く普及した現在における統制語彙の意義と役割について議論する。具体的には,再現率向上および精度向上のための装置としての統制語彙の機能を確認した上で,検索実験や種々の実証研究等で明らかになっている,その限界について述べる。次に,その点を踏まえ,専門的データベースの検索におけるその意義,ウェブなどの全文検索におけるその意義,複数根拠を提供するための表現としての意義について議論する。さらに,今後の可能性として,シソーラスの自動構築や索引語の自動付与,オントロジやフォークソノミーとの関連についても触れる。
著者
上村 圭介
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.272-276, 2006-06-01

デジタル技術とデジタル・ネットワークの普及は,クリエイティブ・ユーザーと呼ばれる新しいコンテンツの作り手を生み出した。従来の著作権制度の枠では,このような作り手によるコンテンツの創作活動のニーズに十分応えることができないため,「クリエイティブ・コモンズ」と呼ばれる著作権の運用が提案されている。本稿では,クリエイティブ・コモンズの目的と考え方,コンテンツの自由な共有を事実上実現するための仕組みについて論じた上で,クリエイティブ・ユーザーの時代にふさわしい著作権制度を考える上で,クリエイティブ・コモンズの試みがもたらす意義について考察する。
著者
吉川 日出行
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.582-587, 2008-12-01

情報爆発時代に即したファインダビリティとはなにか。そもそもユーザが情報をさがす際にはどのようなシーンがありどのような行動を取っているのだろうか?本稿ではユーザの情報検索行動に注目し,検索シーンをいくつかに分類して各シーンの特徴を考察する。次に各シーンにおけるファインダビリティを向上させるための手段(ツール)について検討を行う。また,検索エンジンの利用時のプロセスとその際の支援ポイントについても分析している。ユーザの情報検索行動は常に変化するものであり,ファインダビリティ向上のためには,シーン毎の特徴やプロセス毎のニーズに合わせた支援方法を検討することが肝要である。
著者
川崎 道雄
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.281-284, 2009-06-01

本稿では,中国の雑誌流通の特徴と海外から中国発行の雑誌を入手する場合の現状を述べ,今の中国で重加速的に進んでいる雑誌の電子化の現状と今後の展望を考える。
著者
佐藤 郁哉
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.164-170, 2017-04-01 (Released:2017-04-03)

本稿では,公的研究資金の選択的配分の前提としておこなわれる研究評価事業によってもたらされる意図せざる結果について検討する。英国の研究評価事業を事例として取り上げ,同事業が研究活動テーマや方法論の均質化に結びついていく可能性について見ていく。焦点をあてて検討するのは,商学・経営学の領域における論文化の傾向である。この領域では,研究評価事業に際して提出される研究成果においてジャーナル論文の占める比率が急速に増加していった。これは,同領域が偏狭な業績主義によって席捲され,「ジャーナル駆動型リサーチ」が優勢になってしまう可能性を示唆するものである。
著者
藤井 秀道
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.65-69, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

本論文では,近年の環境保全技術に関する学術的研究動向を踏まえながら,環境保全技術の開発を評価する際に特許情報がどのように活用されているかを紹介する。特に,経済協力開発機構において用いられている環境保全技術の評価方法について取り上げるとともに,環境保全技術の開発と普及のそれぞれの段階について代表的な論文に加えて最新の研究を紹介することで,特許情報の有用性を説明する。最後に,読者が自ら手を動かして学ぶ際に有用な事例研究について,データや計算過程を詳細に記載しながら解説するとともに,得られた分析結果からどのような情報を得ることが出来るかについて紹介する。
著者
奥田 哲矢
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.290-295, 2020-06-01 (Released:2020-06-01)

Webサービスの安心・安全を支える裏方として,本稿では通信技術,特にSSL/TLSの概説を行う。SSL/TLSは,顔の見えないインターネット上で,通信相手の認証,通信の機密性と完全性を提供する。安全性の豊富な研究に基づく最新版TLS1.3の完成と,常時SSL化/完全HTTPS化の普及により,通信の安全性の観点では,これらは成熟した技術群と見える。それでは,なぜ,世の中からフィッシング被害は無くならないのだろう。実は,SSL/TLSをさらに下支えする,PKI(公開鍵基盤)という技術的,社会的な仕組みが存在し,今まさに,PKIが提供する価値に変革が求められているのである。本稿では,SSL/TLSとPKIに関する歴史と仕組みを概説し,今まさに起こりつつある変化についても紹介する。
著者
駒田 陽子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.352-357, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)

質の良い十分な睡眠を毎日規則的にとることは,ウェルビーイングにとって欠かせないが,日本人の多くが睡眠負債の状態である。さらに睡眠負債を解消するために休日に朝寝坊をすることは,社会的ジェットラグを引き起こす。COVID-19感染拡大防止のために各国で実施された社会的な行動制限によって,睡眠やウェルビーイングに変化が生じた。行動制限中,平均睡眠時間は15分増加し,社会的ジェットラグは29分減少した。全般的な幸福感は半数の人が悪化し,幸福感が悪化した群では有意に光曝露量の減少幅が大きかった。ウェルビーイングのためには,スリープマネジメントによって良い睡眠を確保することが重要である。本稿ではいくつかのポイント(生体リズムを整える,昼間の活動,眠る前のリラックスと眠りへの準備,眠りへのこだわり,眠る環境)を概説した。
著者
黒沢 俊典
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.133-140, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)

医中誌Webは,国内の医学論文を網羅的に検索することができる二次資料データベースである。国内発行の医学・歯学・薬学・看護学及び関連分野の定期刊行物約7,800誌から,約1,500万件の論文を収録しており,教育機関・病院・企業など様々な場面で幅広く利用されている。膨大なデータの中から必要とする論文を効率的に探し出すためには,医学用語シソーラスや副標目などを活用した検索が有用である。また,研究デザインタグ(メタアナリシス,ランダム化比較試験など)を使用してエビデンスレベルの高い論文に絞り込むことが可能である。本稿では,医中誌Webの概要とその検索方法や一般の方への情報提供などについて紹介する。
著者
酒井 美里
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.274-280, 2023-07-01 (Released:2023-07-01)

特許情報データベースにおいては,2000年代の概念検索ブームから沈静化の時代を経て,近年は再びAI技術応用の検討が盛んになっている。現在は特に特許分類や化合物インデックスの自動付与といった分類付与の領域で実用化が進み,各国特許庁での導入例も増えている。また,データベース検索における類似文書検索や,検索結果表示における可視化・クラスタリング等も一般的なものとなりつつある。その一方,公報査読を効率化する技術は模索されているとみられるものの,分類付与や類似文書検索と比べると,実用化は端緒についたばかり,と言えよう。本項では,特許調査業務における「調査の目的と公報の読み方の関係」や「現在表面化している公報査読上の問題点」に着目した。また,公報査読上の問題点はAI技術を応用する事で改善される可能性があるのか,といった点について考察を行った。
著者
宮入 暢子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.529-534, 2019-11-01 (Released:2019-11-01)

学術情報の電子化と標準化が進む一方,その流通量の増加とコンテンツの多様化は,データの構造化と横断的な分析をますます困難なものにしている。近年,自然言語処理や機械学習アルゴリズムの実装や,メタデータ取得の自動化によってこれらの課題を克服しようとする学術データベースが相次いでリリースされている。本稿ではそうした新世代のデータベースのいくつかを概観し,それらが成立した背景要因として,機械可読識別子の普及やオープンなコンテンツの拡大,人工知能の学術情報サービスへの応用などについて検討するとともに,それらが今後の学術情報流通に与える影響について展望する。
著者
三沢 岳志 今井 雅子 井本 美子 前田 耕一 矢部 悟
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.74-79, 2021-02-01 (Released:2021-02-01)

本研究は自転車部品業界で世界トップ企業のS社を選び,その知的財産戦略を明らかにすることを目的にした。S社は自転車部品業界で世界的に圧倒的なシェアを持つことと,自転車部品の組み合わせであるコンポーネントは独自のものを提供しながら,その外部インターフェースは公開されていることから「自転車界のインテル」と言われている。しかし調査するとビジネスモデルも知財戦略もインテル社とは異なる。また,自転車業界がEバイクに急速に移行する中,S社は後発でありながら,Eバイクのコンポーネントでも一定のシェアを確保している。そこでS社の自転車部品におけるトップシェア獲得と,Eバイク市場への参入における知財戦略の研究を行った。
著者
豊田 恭子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.104-109, 2023-03-01 (Released:2023-03-01)

1941年に開館したフランクリン・D・ルーズベルト大統領図書館以来続いてきたアメリカの大統領図書館制度が終わろうとしている。2025年に開館予定のオバマ大統領センター(OPC)では,国立公文書記録管理局(National Archives and Records Administration: NARA)が管理する大統領図書館を持たず,オバマ財団が独自に運営するミュージアムのみが置かれ,オバマ大統領のアーカイブについては,すべて電子化され,NARAのデータセンターから配信されることになっている。しかしそれは,現在NARAが抱えている問題を何ら解決することにはならず,アメリカの民主主義を支えてきた大統領図書館制度も壊すことになりかねない。
著者
山本 順一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.78-83, 2016-02-01 (Released:2016-04-01)

本稿は,OCLCの「世界図書館統計」やアメリカ連邦政府の労働統計局の統計,そして博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum and Library Services)の『アメリカの公共図書館調査 2012会計年度』とピュー調査研究センター(Pew Research Center)が2013年に公表した『デジタル時代における図書館サービス』等を用いてアメリカ公共図書館の実態を数値で明らかにしつつ,21世紀の専門職ライブラリアンに求められる知識とスキルを確認しようとし,日本の公共図書館界の現実と重ね合わせ,「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成24年12月19日文部科学省告示第172号)が提示する基本的方向性と一致することを確認しながら,日本にはアメリカのような(専門職)ライブラリアンの知識とスキルを育て,専門職を活かす社会の仕組みが十分には整っていないことを指摘し,このままでは日本の公共図書館総体の近未来が決して明るいものではないことを述べた。
著者
新 出
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.187-191, 2020-04-01 (Released:2020-04-01)

中小規模の公共図書館では,図書館業務に必要なプログラムや新たなWebサービスを開発するための予算確保が困難なことが多く,図書館員がプログラミングスキルを身につけることで業務の効率化やサービスの向上を図ることができる。一方,プログラミングスキルを持った職員の組織的育成は困難な場合も多く,作成したプログラムのメンテナンス等が属人的となりがちな限界もある。実際に作成したプログラムを解説しながら,初歩的なプログラミングの効用について説明する。
著者
林 隆之
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.158-163, 2017-04-01 (Released:2017-04-03)

研究評価は,過去には研究者個人の研究業績や研究プロジェクトをピア(同分野の専門家)が科学的知識の妥当性から評価することが中心であった。しかし,研究活動自体が多様化するとともに,機関や組織による研究マネジメントの重要性が増し,研究成果による社会・経済的効果も期待されるようになる中で,研究評価の対象は拡大し,評価指標は多様化している。本稿では,研究評価の現状を概観することを目的に,研究評価の種類,大学等の機関の研究評価が導入された政策的背景,研究評価の方法の考え方,指標の多様性の必要性,インパクト評価の導入と課題,研究マネジメントへの活用について説明する。