著者
渡邊 淳司 七沢 智樹 信原 幸弘 村田 藍子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.331-337, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)

現代のウェルビーイング研究は,個人の主観的幸福や主観的満足度を対象としたものが多く,それに伴いウェルビーイングに関する情報技術の開発においても,前記のような主観指標の改善・最大化を目標とした「最適設計」がなされる傾向がある。しかし,このようなアプローチは,人間を制御対象として捉える人間観とも通ずる部分があり,その点においては,個人のウェルビーイングの達成と相容れないものである。そこで本稿では,ウェルビーイングの全体性・仮固定性に着目し,ソフトウェア開発の分野で取り入れられている“アジャイル(Agile)”という方法論に則ったウェルビーイングの支援技術の考え方と事例について述べる。
著者
今羽右左 デイヴィッド 甫 清水 智樹
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.225-229, 2023-06-01 (Released:2023-06-01)

研究機関が学術情報を発信する場合,研究者・科学ジャーナリスト・一般市民など,多様な受け手に合わせて,研究ストーリーの語り方と伝達手法を柔軟に選択・実践する必要がある。本稿では,その具体的なアプローチとして,プレプリントサーバーやソーシャルメディアによる情報発信,研究助成金の申請,論文のプレスリリース(国際的な科学ニュース配信サービスの活用,報道を促す文章とイラストの制作)について概説する。こうした多角的な情報発信手法を重層的に実践する,いわば「厚み」のある研究広報を実践することによって,学術情報を効果的に伝えることができるであろう。
著者
木村 幹夫
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.378-384, 2012-09-01 (Released:2017-04-18)
参考文献数
3
被引用文献数
3

東日本大震災時にメディアが果たした役割を実証的に検証した。被災3県の地上波テレビ,ラジオは,津波からの避難時には放送の停波がほとんどなく,大津波警報や余震情報をリアルタイムで放送した。震災当日から特番編成を立ち上げ,以後CMなしの24時間放送を数日間継続し,被災状況に加え,ライフライン情報,生活関連情報,安否情報,避難所情報などを放送した。また,被災地では津波からの避難時および直後の時期にラジオを筆頭にマスメディアが大きな存在感を示した。東京など周辺地域ではSNSやストリーミング・サイトなどネット系メディアの役割も注目されたが,被災3県についてはマスメディアの貢献度,評価は,ラジオを筆頭にネット系メディアのそれをはるかに上回っていたことが実証された。
著者
渡邉 幸佑
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.358-361, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)

大学の広報活動として,大学をPRするキャラクター(大学キャラクター)が創作されている。最近では,大学キャラクターがTwitterで大学に関する情報をつぶやく取り組みがある。本稿では,大学キャラクターがどのようにつぶやかれているか把握するため,Twitterのツイートを分析した。その結果,東京都立大学の大学キャラクター「ミヤコロン」は,「かわいい」や「鳥」としてイメージされていることが明らかになった。本稿で示した一連の方法は,Twitterにおける大学キャラクターのイメージ分析に有用であることが確認された。他の大学の大学キャラクターも含めて調査を行うなど,分析の発展が期待できる。
著者
林 隆之 佐々木 結 沼尻 保奈美
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.26-31, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)

ジャーナルを中心とする学術流通の仕組みは出版指標に基づく研究評価の興隆を招き,科学界が質保証の自律性を失い,評価指標に適合するように研究者が自らの研究活動を束縛するようになってきた。近年,この状況の揺り戻しを図る動きが高まっている。その旗手である「研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)」は提言から積極的なキャンペーン活動へと役割を進化させ,欧州ではオープンサイエンス推進の動きと融合し,研究評価改革の国際的な協定が多くの機関間で結ばれる段階にある。本稿では,DORAや欧州の研究評価改革の動きを紹介するとともに,日本の研究評価指標の活用状況や,日本も参加するDORAの各国プロジェクトについて説明する。
著者
野村 紀匡
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.9, pp.408-413, 2021-09-01 (Released:2021-09-01)

昨今プレプリントへの関心が高まっており,その動向が注目されている。また様々なプレプリントサービスが開設され,そのビジネスモデルも多様である。本稿では文献データベースを用いてプレプリントの動向を分析する。またプレプリントサービスの運営母体別にそのビジネスモデルを調査する。分析の結果,プレプリント投稿数は年々増加しており,特に2016年以降,急激に増えていることが分かった。またプレプリントサービスの運営には相応のコストがかかり,持続的な運営基盤の確保が課題である。今後も増え続ける新規投稿を受け付け,安定したサービスを利用者に提供するために,より安定した運営基盤が求められる。
著者
矢崎 裕一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.413-418, 2020-08-01 (Released:2020-08-01)

大量のデータは,ただデータとして存在しているだけでは有効活用できない。データ可視化の価値について考察した。価値は人が感じるものである。そこでデータ可視化を発信者と受信者によるコミュニケーションの媒介と捉え,そのあり方を考察した。代表的なワークフローを選出し,発信者主体のものと受信者主体のもので二分し,概観した上で,そこから浮かび上がるニーズとコミュニケーションのあり方を考察した。データ可視化は人間社会において,人が人に何かを伝えたり,誰かの課題を解決することをサポートしたりと,今後も重要な役割を担うことは間違いない。
著者
羽渕 達志 駒形 仁美
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.244-249, 2019-06-01 (Released:2019-06-01)

統計データの利用促進や社会の高度かつ多様な分析ニーズに対応するためには,利便性の高い提供基盤が必要とされている。統計データをオープンデータとして提供するだけではなく,課題を見つけたり,課題解決のために可視化し特徴や傾向等をとらえることが必要とされている。地図上に統計データをグラフ化する,統計データを集計すること等,地域分析ツールとして利用されている「地図で見る統計(jSTAT MAP)」について紹介する。
著者
長部 喜幸
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.7, pp.238-244, 2022-07-01 (Released:2022-07-01)

知財の世界はデジタル化や標準化が比較的早く行われたことから,DX化に伴う価値創造の事例が多い。事例の一つとして,日本特許情報機構の知財AI研究センターの研究成果である,Japio-AI翻訳及び社会課題に対する自動分類を紹介する。特に,AI翻訳については中国特許文献の機械翻訳を中心に,我々の機械翻訳の特徴や強みを解説する。自動分類については,脱炭素(カーボンニュートラル)や持続可能な開発目標(SDGs)といった社会課題と特許情報とを接続することの意義,接続手法,及び,接続による新しい価値の創造について解説する。これら特許情報サービスにより,知財分野のDX化が促進されると考えられる。
著者
藤倉 恵一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.342-347, 2012-08-01 (Released:2017-04-18)
参考文献数
18

図書館においては,個人情報保護法の施行後も個人情報の流出・漏洩や紛失に関する事件・事故は後を絶たず,相当件数が発生している。個人情報の盗難や紛失だけでなく,図書館システムの不備に起因する情報流出事故も発生した。また,名簿などの個人情報を含む資料の扱いは図書館によって大きくゆれており,事件や報道の影響を受けて提供制限や受入停止をするなど図書館の根本的役割を自ら否定するような運用も少なくない。本稿では,図書館業務実務における個人情報保護のあり方について,図書館の基本理念である「図書館の自由に関する宣言」の視点を含めて検討する。
著者
菊池 信彦
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.156-163, 2015-04-01

本稿では,西洋史学にとっての「古典籍」の一つ,ヨーロッパにおける中世写本をテーマに,その「最前線」としてのデジタル化と公開の現状を論じた。ここでは,ヨーロッパにおける資料デジタル化等の統計調査プロジェクトであるENUMERATEの成果や,Europeanaをはじめとする各種のオンラインデータベースからデジタル化写本の公開点数を確認した。さらに,デジタル化の「その先」にある,写本画像の利用実態を知るべく,「研究」「教育」「広報」の3つの観点から,様々なデジタルヒューマニティーズのプロジェクトを論じた。
著者
後藤 嘉宏
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.9, pp.364-371, 2012-09-01
参考文献数
43

東日本大震災はソーシャルメディア等新しいメディアの活躍の目立った災害であるとされる。他方,正常化の偏見仮説やオルポート&ポストマンの流言の公式等,災害情報学の従来の知見が当て嵌まる事例が多かったが,そのことへの新聞等での言及は少ない。これは新しいメディアに注目が集まったためであろう。その点から考えると,情報技術の進展が人々の意識や行動を変えるわけではないといえる。他方,インターネット革命が,相互監視的な情報環境に身を晒すことに馴れさせる等,我々の意識を根底から変える可能性そのものは否定できない。これは個人の自律性の確保の面で問題はあるが,防災の面からいうとメリットも大きい。今回の震災はソーシャルメディアと既存メディアの連携が注目された災害といわれるが,非常時と平時とをいかに分けるか,さらに連携のなかでどう棲み分けていくかという課題が前面に出た災害であるといえよう。
著者
渡邊 隆弘
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.371-377, 2010
参考文献数
19
被引用文献数
2

典拠コントロールは,図書館目録の集中機能を実現するための重要な機構である。本稿ではまず,現行の目録法における典拠コントロールの仕組みを整理し,いくつかの問題点を指摘する。続いて,目録の変革を目指す近年の動向における典拠コントロールの方向性を,書誌コントロール政策,次世代OPAC,新しい目録法(FRBR/FRAD,国際目録原則,RDA)の各観点から整理する。さらに,図書館外のコミュニティにおける「識別子」の動向,典拠データを図書館外のコミュニティに開放する取り組みについても述べる。情報環境の変化を背景とした諸動向のなかで,典拠コントロールは以前より明確に位置づけられ,その重要性は増している。
著者
日向 良和
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.8, pp.344-349, 2021-08-01 (Released:2021-08-01)

これまで図書館にとって,ゲームは読書推進と競合しており,収集,提供は進んでいなかったが,2018年以降,日本国内の公共図書館,学校図書館において,ボードゲームを遊ぶイベントや,テーブルトークロールプレイングゲームを遊ぶ事例が増えている。本稿はアメリカ,北欧,および国内の事例をもとに図書館情報資源として今後ゲームを図書館が収集,提供する意義と効果について検討をおこなった。その結果多彩な文化体験の機会を図書館が提供するならば,ゲームを図書館情報資源の1つとして導入する検討が必要であることがわかった。