著者
松澤 孝明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.481-492, 2017-10-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
12

研究倫理教育には,研究者の職制を考慮した研究倫理教育だけでなく,「場」の教育や再教育が必要である。まず,研究実施者に対する研究倫理教育(第1段階)に加え,研究指導者・管理者に対する研究倫理教育(第2段階)や,研究機関の研究倫理教育の責任を担う「研究倫理教育責任者」を継続的・組織的に育成するための教育(第3段階)が必要である。研究者のライフサイクルにはいくつかの転換点があり,各段階で必要となる教育は前もって行われる必要がある。他方,研究を実施する側だけでなく研究を取り巻く「場」の教育(第4段階)も,研究倫理教育の重要な使命である。研究倫理は公正な研究活動の奨励・推進の役割があり,公正な研究活動の保障や研究者の人権への配慮が必要である。「証拠の優越」原則や,不正行為としての「研究妨害」,「研究不正事案の取り扱い」に関するガイドライン等について正しく理解し,研究不正の申し立て等の乱用を防止し,安心して研究活動に取り組める環境を整備することも重要である。また,研究不正の程度を考慮し,研究者に再教育による復帰の機会を与えることも研究倫理教育の重要な役割である(第5段階)。研究倫理教育の機能や教育対象を整理(研究倫理教育の類型学)し,系統的・体系的な教育システムを整備することが求められている。
著者
榎並 利博
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.298-306, 2014

日本政府は2000年にIT戦略本部を設置し,国家戦略として世界一のIT国家を目指してきた。しかし,情報通信基盤は著しく進展したものの,電子政府のランキングは低迷している。その原因は国全体でITを有効に活用するための基盤となるコードの統一化・データの標準化ができていないためである。国民を識別するためのコードの統一化については,ようやくマイナンバー法が制定され,実行に移されつつある。しかし,より根本的な問題である日本語文字の統一化の問題,特に行政手続きにおける人名漢字に関する問題はいまだに残されたままである。政府の議論においては,ITで扱う漢字コードを増やすことで解決する方向性を示しているが,その方法は問題解決にならないばかりか,新たな問題を引き起こす。筆者は,漢字の問題を公共性および人間とコンピューターの関係等の視点からとらえ直し,ITで扱う漢字の文字数を法的に制限すべきことを提案する。
著者
舘田 英典
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.175-181, 2017-06-01 (Released:2017-06-01)
参考文献数
1

日本遺伝学会の学会誌Genes & Genetic Systems誌は100年近くの歴史をもち,遺伝学関連の学術論文を出版してきた。全文英文化やJ-STAGEを利用したオープンアクセス化を早くから実現していたが,2013年度より日本学術振興会科研費「国際情報発信強化」の補助を受けて,アジアにおける遺伝学分野のトップジャーナルとなることを目指し,いくつかの新たな試みを始めた。具体的には,国際情報発信強化に向けてアジア各国・地域の研究者の参加による編集体制の国際化,採択論文の英文校閲,掲載費用支払い方法の簡素化,論文の早期公開等を行ってきた。本稿ではこれらの試みについて解説した後,これまでに得られた成果と今後の課題について述べる。
著者
田上 慎 飛澤 健太
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.526-534, 2016-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
3

世の中に存在するデジタル情報は爆発的に増加し続けており,インターネット上には計り知れない量の情報が存在している。しかし,私たちが生活している現実空間のほとんどは物理的な空間であり,人間が取得できる情報量は限られている。AR(拡張現実)は,ICT技術により現実空間に付加したデジタル情報を,可視化・見える化する新しい技術として,近年注目されている。ARは高度な要素技術の集合体であり,その進化は個々の技術の進化とともにある。AR表現を支える技術と仕組みの解説を主軸とし,そこから期待される用途,課題と可能性を導く。
著者
藤田 節子
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.622-631, 2007 (Released:2007-02-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1 3

筆者は2005年本誌で科学技術分野の投稿規定の分析調査結果を発表した。今回は人文・社会科学分野167学会の学会誌172誌の投稿規定を収集して,論文の長さなど18の記載項目の内容を詳しく調べ,昨年の科学技術分野の調査結果と比較し,人文・社会科学分野の学会誌の実態や特徴を分析した。また,1997年に寺村由比子が行った投稿規定による分野別特徴の調査結果とも比較し,最近の電子化に伴う変化を探った。本稿では前稿に引き続き,参照文献の書き方など7項目を詳細に分析した。これらの結果から,10年前に比べると特に社会科学分野で整備が進んでいるが,人文・社会科学分野は科学技術分野に比べて投稿規定の標準化がなされていないことがわかった。
著者
村田 良二
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.577-586, 2016

<p>多様な資料をコレクションとして扱う博物館では,資料の情報を適切に組織化して管理することが必要である。博物館資料の情報は,対象となる分野が多岐にわたるためさまざまな資料を扱うこと,資料自体から得られる情報が少ないこと,またすべての資料がユニークであるといった特徴がある。多様な要求を満たすために,コレクション情報の整備のための標準が国際的なレベルでいくつか提案されている。実際の情報の整備には調査研究が欠かせないが,学芸員が日々の業務を遂行する中で自然に情報を蓄積していけるような環境を整えるのが効果的である。整備された情報は,博物館業務だけでなく一般の観覧者向けの情報提供にも用いられる。</p>
著者
楠 正憲
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.599-606, 2016-12-01 (Released:2016-12-01)
参考文献数
2

インターネットを通じた不正アクセスはここ数年,なぜ顕著に増加しているのか。本稿ではまず攻撃者の手法に関し,歴史をさかのぼってそのトレンド分析を行い,防御技術に課せられた課題と限界について解説する。またセキュリティー対策の今後について,「まず観察して情勢を判断し,意思決定に基づいて行動,その結果を再び観察する」OODA(Observation-Orientation-Decision-Action)サイクルにも着目する。さらには組織と人材の育成において,何が急務とされているのかについて示す。
著者
江川 剛
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.676-682, 2017-01-01 (Released:2017-01-01)

インターネットの利便性をこれまでになく享受し,ネット上に拡散する情報の力が革新的な発想を後押しすることも多い21世紀初頭は,同時に情報漏えいや権利侵害,依存といった弊害や危うさを露呈し始めた時代でもある。不可視だが確実に存在する脅威,ネットにつながっているゆえの不自由さをも見極める必要がある。現代の環境を冷静に認識し,今起きていることに対してどうふるまうべきか。現代思想・法曹・警察行政・迎撃技術・情報工学・サイバーインテリジェンス等のスペシャリストが,6回に分けて考える。第2回は,悪用された場合,ネットや情報がどのような事態を起こしうるかを,情報セキュリティーに関する最近の裁判例や報道,その背景を通して弁護士・江川剛氏が解説する。
著者
安藤 晴彦
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.750-757, 2014

「ビジネス支援図書館」は,公共図書館が,起業家や地域の中小ベンチャー企業や,ビジネスマン・失業者を支援し,地域経済に貢献する活動である。アメリカでは100年以上の歴史があり,いくつもの図書館発の新規事業の「孵化(ふか)器」となってきた。最近では,オバマ大統領が提唱する3Dプリンターを活用した新たな「ものづくり革命」の尖兵(せんぺい)となっている。本稿は,文献,聞き取りや訪問調査を踏まえ,NY科学産業ビジネス図書館,シカゴ公共図書館の「メイカー・ラボ」をはじめとする本家アメリカのビジネス支援図書館の最新動向について紹介するとともに,日本でのこれまでの発展状況と展望について論じる。
著者
田中 久徳
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.305-314, 2016-08-01 (Released:2016-08-01)
参考文献数
22

国立国会図書館は果たすべき使命と5年間にわたって取り組む6つの中期目標を2012年に公表したが,そのうちの一つとして「情報アクセス(の向上)」がある。本稿では,情報アクセスの改善に向けた国立国会図書館の最近の取り組み状況について概観し,併せて,資料デジタル化,視覚障害者へのテキストデータの提供,次世代検索手段としての統合オンラインサービス,国立国会図書館サーチと国のアーカイブ利活用促進策について,課題と方向性を説明する。