著者
久保田 貢
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.467-478, 2007-12

大学の教育学研究者が、教育基本法「改正」をはじめ新自由主義的教育改革に、加担した責任があるのではないか。「教員養成GP」などの競争的資金は新自由主義的教育改革の一環である。これを獲得することは、「全体の奉仕者性」を見失い、教育の不平等をもたらしている。教育政策への批判的研究を封じ込まれることにもなる。大学と教育委員会との連携にも問題がある。東京教師養成塾や名古屋市スクールボランティア制度のように、疑問の多い企画に対して、大学はこれを抑止するどころか学生を送り出している。自分の大学からの教員採用数を増やしたいがために、教育委員会との連携が一線を越えたものとなってしまっている。このままでは、かつて教育学者が自らの戦争責任を深く反省したのと同じように、いつか自らの責任を問い直すことになるのではないか。平和のための科学とは何か、「市民社会」に対する大学の教育・研究の責任とは何かを再考すべきである。
著者
野元 弘幸
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.436-442, 1999-12
被引用文献数
1

本論は、外国人住民が急増する日本社会における教養問題の構造を明らかにし、多文化社会における教養の再構築をめざす教育のあり方を模索するものである。その際、日本語文字(漢字、ひらがな、カタカナ)によるコミュニケーション問題に注目する。なぜなら、1980年代から急増している外国人住民(いわゆるニューカマー)の多くが、非識字の状態にあり、住民としての基本的な諸権利を行使するに不可欠な基礎教養である日本語読み書き能力を欠いているからである。そこに多文化社会における教養問題が最も鋭い形で表れていると思われる。筆者は1998年7月・8月に、愛知県豊田市の団地で日系ブラジル人80名を対象にした日本語読み書き能力に関する調査を実施した。そこで以下のことが明らかとなった。(1)漢字によるコミュニケーションは、ほとんどの人が不可能で、「禁止」「注意」「危険」「禁煙」など、自らの生命に直接関わる重要な表示・標識をまったく理解できない状態で生活している。(2)漢字の読み書きがほとんどできないのに対して、ひらがな・カタカナを読み書きできる人はある程度いる。(3)厳しい学習環境にもかかわらず、文字の読み書きへの学習意欲は低くない。こうした調査結果を踏まえて、外国人住民が急増する中で地域社会を支える基礎教養の一つである文字によるコミュニケーション力確保のために以下の3つの提案を行った。(1)役所・病院など公共の施設・スペースと職場の掲示・表示に使われる漢字のすべてにルビを振る。(2)その上で、外国人住民の基礎教養としてひらがな・カタカナの習得を促す。(3)来日初期の外国人のための基本的サービスにかかわるものは多言語表示を行う。これらの提案を実現するための課題の一つは、外国人住民のひらがな・カタカナ習得をすすめるための識字教育をどう行うかである。日本語教室等の数は急速に増えているが、外国人住民の数と比べると依然として不十分で、外国人住民の一部しか日本語教室等で学ぶ機会を得ていない。こうした厳しい状況のもとでは、外国人住民の基礎教養としてのひらがな・カタカナ習得を促すことは極めて困難である。そこで、ひらがな・カタカナの学習支援を基礎教育の一つとして制度化し、国や地方自治体の積極的関与を義務づけることが必要となる。その際に、「社会基礎教育」という新しい概念を導入することが有効かつ必要であろう。もう一つは、主に日本人住民が、地域社会を支える教養の維持という視点から、外国人住民の急増に伴うコミュニケーション手段確保のための具体的な取り組の必要を自覚し、実際生活に活かしていくための教育をどう組織していくかである。具体的な実践的課題を提示する学習プログラムを開発し、外国人住民との共生のための新しい文化的教養を創造する、質の高い学習が組織されなくてはならない。
著者
川口 俊明
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.386-397, 2011-12-29 (Released:2018-12-26)
被引用文献数
2

本稿の目的は、教育学における混合研究法の可能性について検討することである。混合研究法(Mixed Methods Research: MMR)とは、量的調査と質的調査を組みあわせる研究法のことである。日本でも混合研究法に注目する研究者は増えているが、どのように量的調査と質的調査を組みあわせるか、どのように混合研究法を使った研究を評価するか等の議論がほとんどない。本稿では、教育学における混合研究法の主要な論点・利点・今後の方向性を提示する。
著者
樋口 大夢
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.262-272, 2023 (Released:2023-09-02)
参考文献数
27

本稿では、「人間は生まれてこないほうが良い」と主張する反出生主義に関するいくつかの議論の観点から教育(学)について検討を行った。反出生主義を前提とするとき、新たに生まれてくる存在に対する教育(学)からの応答は極めて重要となる。反出生主義に応答する教育(学)は、教育(学)のすべてが肯定あるいは否定される訳ではないということに自覚的でありつつ、思考することが求められるのである。こうした教育(学)の一端は、ハンナ・アレントの論じる「準備」としての教育にみることができるかもしれない。
著者
箕浦 康子
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.213-221, 1994-09-30 (Released:2009-01-13)
参考文献数
12
被引用文献数
1
著者
杉村 美紀
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.524-536, 2019 (Released:2020-06-12)
被引用文献数
1

日本型教育の海外展開推進事業(EDU-Portニッポン)では、日本型教育モデルの輸出だけではなく、日本の教育経験の伝播と共有、そして協働というプロセスが重要である。そこでは、相手側のもつ社会的文脈やニーズ、文化の違いを、何をどう比較するか、何のために比較するかという比較教育研究の視点を持ちながら把握し、日本型教育モデルを柔軟に再構築することで、国際公益を生む国際公共財のモデルとすることが期待される。
著者
木村 優
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.33-43, 2009-03-31 (Released:2017-11-28)

本研究の目的は、日常の授業で教師が行う自己開示について検討することであった。そこで中学校教師2名を対象に授業観察と面接調査を実施し、彼らが授業中に行う発話の内容分析を行った。その結果、(1)教師の自己開示には、情報、思考、経験、願望、に渡る内容の広がりがあり、特に生徒の成長に対する願望の開示を中心に他の開示内容が連続する様式的特徴が見出された。また、経験の開示に相当する発話内容が生徒と同年代時の体験で、そこには生徒に共感を示す機能が内在していた。(2)教師が自己開示を行う場面は道徳、学活の時間が主で、さらに、教師は生徒との関係形成初期に頻繁に自己開示を行っていた。これらの現象は、授業の目的の達成と、生徒が自己を率直に表現可能な開かれた関係を教室に構築することを目指す教師の目的、専門性に起因していた。以上より、教師は自己開示を授業方略の一つとして用いていたことが明らかとなった。